心身のストレスで気分が落ち込む日が続いているとき、今の状態が適応障害なのかうつ病なのかよくわからないこともあるでしょう。適応障害とうつ病は、どちらも精神・身体的な症状が現れる点は共通していますが、発症の原因やストレスから離れた後の経過が異なります。
この記事では適応障害とうつ病の違いや診断基準、治療方法などについてご紹介します。それぞれの特徴を知っておくことで、診断後にどのようなケアをすればよいかが明確となるでしょう。
適応障害とは?
適応障害とは、家庭や仕事、学校などの環境に適応しようとするときのストレスによって発症する精神疾患です。生活するうえで大なり小なりストレスはあり、人はそれぞれ自分なりの対処法を持っています。ですが、対処しきれないほどに大きなストレスがかかると、心身のバランスが乱れてしまうことがあるのです。
適応障害の症状はおもに以下の3種類に分けられます。
- 精神症状
- 身体症状
- 普段と違う行動
精神症状では抑うつ気分や、不安感、焦燥感などが現れます。身体症状として現れるものは、不眠や倦怠感、食欲不振などです。また、仕事や学校に行けなくなったり、ときには暴力的になったりといった、普段と違う行動が出現するケースもあります。
これらの症状が続くことで、日常生活だけでなく仕事や学校など社会的な活動にも大きな支障をきたしてしまいます。
うつ病とは?
うつ病は精神的、身体的ストレスが慢性的に積み重なり、脳のエネルギーが不足することで発症する精神疾患です。大切な人との別れや事故・災害に遭うなど、大きなストレスがきっかけで発症する場合もありますが、これといった原因がなく自分でも気づかないうちに発症している場合もあります。うつ病は「気分障害」の1つとされており、以下のような精神・身体症状が現れます。
- 楽しみや喜びを感じにくい
- 気分が晴れない
- 意欲の低下
- 倦怠感を覚える
- 寝つきが悪い
- 食欲がない
うつ病の原因は1つではなく、いくつかの要因が重なることで発症するといわれています。そのため、症状の現れ方や重症度も人によってさまざまです。
また、うつ病は生涯で約15人に1人がかかるといわれており、珍しい病気ではありません。誰でも発症する可能性がありますが、本人も周囲の人もうつ病だと気づかずに過ごしていることもあります。
適応障害とうつ病の違い
適応障害とうつ病は一見似通っていると思いがちですが、以下の点には明確な違いがあります。
- 発症する原因
- 原因から離れたときの変化
ここでは、この2つの点を中心に、それぞれの違いについて解説します。
1.発症の原因による違い
1つ目は発症の原因による違いです。適応障害には発症のきっかけとなるストレスがあるのが特徴です。そのため、ストレスの原因がはっきりしていることが診断のポイントになるとされています。
一方で、うつ病は明確な原因が特定できない場合もあり、遺伝や性格などの要因や、さまざまな慢性的・急性的なストレスが絡み合って引き起こされる病気です。適応障害とうつ病は、発症の原因が明確かそうでないかが異なります。
2.ストレスから離れたときの症状の変化
2つ目はストレスから離れたときの変化です。適応障害は原因となっているストレスから離れた場合、症状が次第に改善していきます。
一方で、うつ病はストレスから離れたとしても、すぐに症状が改善するとは限りません。身体・精神的なストレスが軽くなったとしても、しばらくはさまざまな症状が続きます。
まとめると、適応障害とうつ病の違いは以下の表の通りです。
発症の原因 | ストレスから離れたときの変化 | |
適応障害 | 特定のストレスが原因 | 次第に症状が改善する |
うつ病 | ストレス源が明確ではない場合がある | 症状はすぐには改善しない |
適応障害とうつ病の診断基準をチェックしよう
適応障害とうつ病のそれぞれの診断基準についてみていきましょう。
適応障害の診断基準
適応障害の診断基準は以下の通りです。
A | はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因のはじまりから3カ月以内に精神、身体症状が出現する。 |
B | 以下のいずれかの1つ以上当てはまっている。 ア)大きな苦痛となるほど症状が重い イ)日常生活に支障が出るほどの障害が現れている |
C | ほかの精神疾患の基準を満たしていない、すでに存在している精神疾患の単なる悪化ではない。 |
D | その症状は正常の死別反応を示すものではない。 |
E | 原因となるストレスがなくなれば、6か月以内に症状が改善する |
※参考:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
上記のA〜Eのすべてに当てはまっていると適応障害と診断されます。
うつ病の診断基準
うつ病の診断基準は以下の通りです。
1 | ほとんど1日中、ほとんど毎日の続く抑うつ気分 |
2 | ほとんど1日中、ほとんど毎日続く興味や喜びの喪失 |
3 | 体重あるいは食欲が減少または増加、またはほとんど毎日の食欲減退または増加 |
4 | ほとんど毎日の不眠または過眠 |
5 | ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止 |
6 | ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退 |
7 | ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感 |
8 | 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる |
9 | 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図 |
上記の項目が5つ以上(1か2は必須)当てはまり、2週間以上毎日続いていること、それにより大きな苦痛を感じ日常生活に支障をきたしていること、他の疾患や薬・アルコールなどの影響ではないこと、躁または軽躁エピソードが存在したことがないことがうつ病の診断基準となります。
※参考:日本精神神経学会日本語版用語監、高橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
適応障害またはうつ病、それぞれの診断基準に当てはまると思う場合は、メンタルクリニックを受診してみましょう。
適応障害からうつ病へ移行するケースも
適応障害の症状が慢性的に続いた場合、そのままうつ病へ移行するケースもあります。適応障害とうつ病はそれぞれ異なる病気ですが、お互い密接な関係性にあるといえるでしょう。
そのため、適応障害をはじめとした精神疾患からうつ病になることは珍しくありません。ただ、「適応障害を放置した結果うつ病になった」のか、「実は最初からうつ病だったがストレス源がはっきりしているように思えたので適応障害という診断がついた」のか、簡単に診断できないこともあります。
いずれにせよ、うつ病に移行すると治療に時間がかかってしまうので、心身の不調を感じたら早期に対処することが大切です。
適応障害とうつ病の治療法
適応障害とうつ病に対しておこなわれる治療法としては、おもに以下が挙げられます。
- 環境調整・休養
- 薬物療法
- 精神療法(心理療法)
ここではそれぞれの治療法について解説します。
1.環境調整・休養
1つ目は本人を取り巻く環境の調整です。適応障害の場合、発症の原因となっているストレス源から離れられるような環境の調整が大切です。たとえば、仕事によるストレスが原因だとしたら休職や勤務形態を変えるなどの対応を検討するのもよいでしょう。
うつ病も同じように、ストレスから離れて心身を休められる環境を整えてみましょう。うつ病の場合は明確なストレス源が特定できないケースもあるため、とにかく身体・精神的に負担だと感じるものから対処していきます。場合によっては、療養の目的で入院することも1つの手段です。
なお、環境調整には周囲の協力が不可欠です。症状でつらい時期に1人で対処するのは難しい場合もあるでしょう。信頼できる上司や家族、友人の協力を得たり、主治医と相談したりしながら進めましょう。
2.薬物療法
2つ目の薬物療法は、基本的にうつ病に対しての治療法としておこなわれます。おもに使用されるのは、精神を安定させる働きのある「抗うつ薬」です。不眠・不安感の症状が強いときは、「睡眠導入剤」や「抗不安薬」などの治療薬を併用することもあります。
適応障害でも抑うつ気分や不安感が強く、日常生活に支障をきたしてしまうケースもあるでしょう。その場合は、環境調整と並行して薬物療法で症状をコントロールしていきます。いずれにせよ、症状にあわせて適切な治療薬を服用することで心身の休養を促し、バランスを整えることが大切です。
3.精神療法(心理療法)
3つ目の精神療法(心理療法)では、認知行動療法や問題解決療法などがおこなわれます。
認知行動療法とは、面談やワークを通じてストレスを感じたときのとらえ方を変えていく治療法です。医師が精神療法としておこなう場合や、カウンセリングの一環として取り入れられる場合があります。出来事に対してネガティブな面だけをとらえてしまうと、ストレスを感じやすくなります。そこで、出来事をポジティブな視点でとらえなおす練習をするのです。
その結果、物事に対して広い視野でとらえられるようになり、ストレスや不安の軽減が期待できます。認知行動療法はうつ病を抱えている方に対しておこなわれることが多く、薬物療法と同等かそれ以上の効果が期待されているといわれています。
適応障害やうつ病を悪化させないための生活の工夫
適応障害やうつ病を悪化させないためには、日常生活でストレスを溜めないように工夫する必要があります。ここではその工夫について詳しく解説します。
1.頑張り過ぎない
頑張り過ぎは、適応障害やうつ病の症状を悪化させる原因となります。特に真面目な方は仕事や勉強、家事などの場面で頑張り過ぎるあまり、タスクを増やしがちです。タスクをこなせないことに罪悪感をおぼえたり、心身のストレスや疲労を感じながらも無理を続けたりします。その状態が続くと抱えきれないほどストレスが積み重なり、やがて症状が悪化してしまうでしょう。
適応障害やうつ病の方、またはその疑いがある方は、肩の力を抜いて、頑張り過ぎていないか自分を振り返り、無理をしないように行動してみてください。
2.薬の服用を中止しない
適応障害やうつ病で治療薬を服用している方は、自分の判断で服用を中止しないように気をつけましょう。よく使用される抗うつ薬は即効性があるものではなく、服用を続けることで効果が現れるようになります。最初は「薬を飲んでも効果が出ない」と思うかもしれませんが、決して途中で辞めずに、医師の指示に従って服用を続けてください。
また、治療薬による副作用が気になるときは医師に相談してみましょう。
3.職場で配慮を受けられる環境を作る
仕事によるストレスを軽減するために、職場で配慮を受けられるような環境を作ることが大切です。まずは職場の上司に現在の状況を伝えたうえで、勤務形態や作業内容を調整できないか相談してみましょう。
場合によっては、有給休暇や休職などで長期的に休めるようにサポートしてくれるケースもあります。適応障害やうつ病を悪化させないためにも、1人で抱え込むのではなく、周囲から協力を得られないか相談してみましょう。自分からは相談しづらいと感じるようであれば、親しい同僚や家族に協力を求めるのも1つの方法です。
適応障害やうつ病かな?と思ったら迷わず医師へ相談しよう
適応障害とうつ病は症状が似通っているものの、発症の原因(ストレス源)が明確であるかどうかという違いがあります。疾患としての性質が異なるため、それぞれにあわせた治療が必要です。1人でなんとかしようと抱え込んでしまうと症状の悪化や長期化につながる恐れもあるので、早期の対応が重要です。
現在の状態が適応障害かうつ病かもしれないと思ったら、1人で抱え込まず、まずはメンタルクリニックを受診してみましょう。症状にあわせた治療を受けることで、心身の苦痛が和らぎ、自分らしい日常生活を送れるようになります。
参考サイト・文献
・厚生労働省 こころの耳|ご存知ですか?うつ病
・国立精神・神経医療研究センター|うつ病
・うつ病を知っていますか? (国民向けパンフレット 案)
・適応障害の診断と治療
・うつ病の新しい考え方
・日本における心理士によるうつ病に対する認知行動療法の系統的レビュー
・e-ヘルスネット|厚生労働省
・環境省|気分が落ち込んだり、不安を感じたら
・日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
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