「何となく気分が落ち込む……」「うつ病の症状がみられたらどうしたらよいの?」と不安を抱いている人もいらっしゃるかもしれません。
うつ病は、早期に適切な治療を開始することが大切です。抑うつ気分や興味・喜びの喪失、不眠などの症状があらわれている状態を放っておくと、症状がさらに悪化したり、慢性化したりする恐れがあります。
本記事では、うつ病の症状や回復過程、症状を悪化させない過ごし方をご紹介。さらに、自分で症状を確認できるチェックシートを用意しました。
気になる症状が続く場合やチェックシートの項目に複数あてはまる場合、日常生活や社会活動に支障が出ている際には、早めに医療機関を受診しましょう。
うつ病とは
うつ病とは、気分の落ち込みや何事に対しても喜びを感じないなどの精神症状と、不眠や食欲不振などの身体症状がみられ、日常生活や社会活動に支障が生じる精神疾患です。
原因ははっきりと解明されていませんが、心的ストレスや身体的変化(妊娠や加齢など)による負荷がかかると発症すると考えられています。
うつ病の発症率は決して低くはなく、生涯有病率は約5~15%、男性よりも女性のほうが約2倍多い傾向にあります。15人に1人がうつ病を経験しているといわれているのです。
うつ病は、未治療の場合でも6~12カ月で6~7割の人は改善するとされていますが、薬物療法を開始すると3カ月ほどで回復に向かいます。しかし2~3割の人は、治療しても慢性的な経過をたどったり、再発したりする可能性があるといわれています。
うつ病に見られる主な症状
うつ病の基本症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」であり、どちらの症状もみられない場合は、典型的なうつ病とは診断されません。
上記の症状のほかにも、「精神的」「身体的」の両側面から症状がみられます。
この章では、国際的に用いられている診断基準(DSM-5)で定義されているうつ病の症状をご紹介します。
精神症状
うつ病では、以下の精神症状がみられます。
- 抑うつ気分
- 興味・喜びの喪失
- 気力の減退
- 無価値観・罪責感
- 思考力・集中力の低下
- 希死念慮・自殺企図 など
うつ病の人の多くは、悲しみ・楽しみ・喜びなどの感情を感じづらく、以前楽しめていたものに興味がなくなったり、生きている実感を得にくくなったりします。
上記のほかにも、幻覚・妄想などの精神病症状をともなう場合があり、微小妄想(貧困妄想・罪業妄想・心気妄想)が代表的です。
身体症状
うつ病では、以下の身体症状がみられます。
- 食欲低下(もしくは過食)
- 不眠(もしくは過眠)
- 精神運動抑制(もしくは焦燥)
- 頭痛
- 全身の倦怠感
- めまい
- 耳鳴り
- 呼吸困難感
- 体重減少(もしくは増加)
- 胃部不快感
- 生理不順 など
精神症状に加えて上記の身体症状がみられると、日常生活や社会活動に支障が出る恐れがあります。症状には個人差があり、比較的症状が軽い場合には、周囲がその変化に気がつかないことも珍しくありません。
うつ病の人がとる行動や初期に見られる症状|チェックシート
「自分はうつ病なの?」「あの人いつもと様子が違う気がする……」と悩んでいる人もいらっしゃるかもしれません。うつ病は、自分では異変に気がつきにくいこともあり、発見が遅れてしまうことも。
その場合は、これからご紹介するチェックシートで、症状や行動を確認してみましょう。
【自分で気がつくうつ病のサイン】
- 悲しい・憂うつな気分・沈んだ気分になる
- 何事にも興味・関心がわかず、楽しくない
- 疲れやすく、だるさがある
- 何をするにも億劫(気力・意欲・集中力の低下)
- 寝つきが悪く、朝早く目が覚める
- 食欲がない
- 人に会いたくない
- 夕方より朝方のほうが気分や体調が悪い
- 1日中不安や悩みが頭から離れない
- 失敗や悲しみ、失望から立ち直れない
- 自分を責め、価値がないと感じる
【周囲が気がつくうつ病の人のサイン】
- 以前と比べて表情が暗い、元気がない
- 体調不良の訴えが多くなった
- 仕事や家事の能率が悪い、ミスが増えた
- 周囲との交流を避けるようになった
- 遅刻・早退・欠勤が増えた
- 趣味や外出をしなくなった
- 飲酒量が増えた
また、上記の項目に加えて、自殺をほのめかすような言葉を口にするなど、死に対しての反復思考がみられる場合があります。そのような様子がみられた場合は、決して本人を一人にせず、医療機関を受診させましょう。
うつ病は、早期発見と早期治療が重要です。
うつ病の診断基準|症状が2週間以上続くときは受診しよう
うつ病は、生化学検査や画像検査などの検査所見に基づいて診断を確定することはできません。そのため、病歴聴取や症状の把握をおこない、診断基準をもとに評価されます。
広く使われる診断基準には、ICD-10やDSM-5などがあります。実際のDSMー5の診断基準は以下の通りです。
A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。 (1)その人自身の言葉か、他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分 (2)ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退 (3)食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加、またはほとんど毎日の食欲減退または増加 (4)ほとんど毎日の不眠または過眠 (5)ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止 (6)ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退 (7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感 (8)思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる (9)死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画 B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 C.そのエピソードは物質の生化学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。 D.抑うつエピソードは、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または他の特定および特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群によってはうまく説明されない。 E.躁病エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。 |
※出典:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
前章でのチェックシートに複数あてはまり、気になる症状が2週間以上ほとんど毎日続き、日常生活や社会活動に支障が出ている場合は、早めにメンタルクリニックなどの医療機関を受診しましょう。
うつ病は大きく5つに分類され症状が異なる
うつ病は、症状や状況に応じて以下の5つに分類されます。
- メランコリー型うつ病
- 非定型うつ病
- 季節性うつ病
- 仮面うつ病
- 産後うつ
それぞれ特徴や症状が異なります。
メランコリー型うつ病
メランコリー型うつ病は、一般的に認知されているうつ病のことを指します。
前述した基本的なうつ病の症状である、抑うつ気分や興味または喜びの喪失、睡眠障害などの精神的・身体的症状がみられます。
非定型うつ病
非定型うつ病は新型うつ病とも呼ばれ、20~30代の女性に多い傾向にあるとされています。
典型的なうつ病は1日中気分の落ち込みなどの症状がみられるのに対して、非定型うつ病は、楽しい活動のときは気分がよいことが特徴です。
非定型うつ病の特徴は、以下の診断基準(DSM-5)にて評価されます。
A.気分の反応性(すなわち、現実のまたは可能性のある楽しい出来事に反応して気分が明るくなる) B.以下のうち2つ(またはそれ以上) (1)有意の体重増加または食欲増加 (2)過眠 (3)鉛様の麻痺(すなわち、手や足の重い、鉛のような感覚) (4)長期にわたり対人関係上の拒絶に敏感(気分障害のエピソードの間だけに限定されるものではない)で、意味のある社会的または職業的障害を引き起こしている C.同一エピソードの間に、「メランコリアの特徴を伴う」または「緊張病を伴う」の基準を満たさない |
※出典:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
季節性うつ病
季節性うつ病は、特定の季節に発症するうつ病で、秋から冬にかけて発症し、春夏に回復する傾向にあります。
原因としては、秋冬の日照時間の減少によるメラトニン不足や、遺伝的な光感受性の減弱が関係していると考えられています。メラトニンは、覚醒と睡眠のリズムを整えてくれる体内物質なので、不足することで睡眠のリズムが崩れたり、精神的に不安定になったりしやすくなるのです。
過眠・過食・炭水化物への渇望などの症状がみられるのが特徴的で、結果として体重増加が起こります。
仮面うつ病
仮面うつ病は、頭痛や肩こりなどの身体症状が全面的にみられますが、気分の変調などの精神症状は隠れてしまっている状態です。身体症状にフォーカスしてしまうことで、うつ病と診断されないことも少なくありません。また、高齢者にみられやすいといわれています。
内科などの診療科を受診しても異常がないと診断された場合、仮面うつ病の可能性があるといえるでしょう。
産後うつ
産後うつは、出産後1~3カ月に多く発症するうつ病です。はっきりとした原因は明らかになっていませんが、出産によるホルモンバランスの乱れ、ストレス、睡眠不足や疲労の慢性化などが考えられています。
日本では約3%の出現率といわれており、初産婦に多い傾向にあります。育児に対する悩みや、母親としての責任感や役目を果たせていないという罪悪感などを抱きやすいことが特徴です。
家事や育児に集中できない、自分の赤ちゃんに愛情を感じられないなどの症状があらわれます。
産後うつに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
うつ病の症状に合わせて治療法が選択される
うつ病には、主に3つの治療法があります。
- 休養・環境調整
- 薬物療法
- 精神療法(心理療法)
症状や状態に合わせて、医師により適切な治療が選択されます。上記の治療法のうち一つだけをおこなうというよりは、組み合わせて実施することが多いとされています。
休養・環境調整
うつ病で大切なのは、しっかりと休養をとり、心身を休ませることです。そして、ストレスを軽減するための環境調整も重要です。
なかには、休養をとることで職場や家族などに迷惑をかけるのではないかと考えてしまう人もいるでしょう。しかし、まずはゆっくりと休み、焦らないことが大切です。
どのように過ごしたらよいのかわからない人は、メンタルクリニックなどを受診して医師に相談するとよいでしょう。
薬物療法
うつ病では、休養や精神療法などとあわせて、薬物での治療も欠かせません。
うつ病で使われる薬剤は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬が一般的です。ほかにも、個人の症状に合わせて、抗不安薬や睡眠導入剤などが選択されることもあります。
なお、薬剤には少なからず副作用が起こる可能性があるため、医師の指示に従い、用法容量を守って服用することが大切です。万が一、吐き気や便秘・下痢などの副作用が出た場合は、医師へ相談しましょう。
また、抗うつ薬に即効性はなく、効果が発現するには2週間以上かかるといわれています。なかなか効果が出ないからといって、内服を自己中断してしまうことがないように注意しましょう。
精神療法(心理療法)
うつ病での治療では、精神療法やカウンセリングもおこなわれます。
うつ病に対しての精神療法は再発防止としての意味合いが強く、思考や行動のパターンを見直して、ストレスへの耐性を強化したり適切な対処法を身につけたりすることが主な目的です。
精神療法では、「認知療法」や「対人関係療法」「森田療法」などの治療法が用いられます。
なかでも「対人関係療法」は、本人の対人関係に焦点をあて、対人関係による問題と症状の関連性を理解し、問題解決に取り組む治療法です。認知療法や薬物療法に匹敵するほどの効果が期待されており、特に重症のうつ病患者に対しては、認知療法より効果的とされています。
うつ病の症状の出現から回復までの段階
うつ病の治療の期間は、「急性期」「回復期」「再発予防期」の3つに大きく分けられ、それぞれの時期に応じて、適切な治療法が異なります。
急性期(1~3カ月):休養および薬物療法
回復期・再発予防期(4~6カ月):薬物療法および精神療法
上記の期間は個人差があるため、症状や状況に応じて変化する可能性があります。比較的症状が軽く、早期に治療を開始した場合は、より早く回復期や再発予防期に移行できるでしょう。
回復期に入って症状がよくなっても、自己判断で治療をやめないことが大切です。主治医の指示に従い、正しく治療を進める必要があります。
うつ病の回復期に関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
うつ病の症状が改善しやすくなる過ごし方
うつ病を発症したら、日々の過ごし方にも注意が必要です。過ごし方によっては、症状がよくならないだけでなく、悪化させてしまう恐れがあります。
この章では、うつ病の症状が改善しやすくなる過ごし方をご紹介します。
ゆっくりと休養をとる
うつ病の治療での基本は、ゆっくりと休養をとることです。治療に専念するためにも、学校や仕事を休むことも選択肢の一つとして検討しましょう。
周囲への迷惑を考えて無理をすることは、症状悪化や慢性化につながる恐れがあるため注意が必要です。
休職をお考えの方は、ぜひこちらの記事も参考にしてください。
気になる症状がある場合は医療機関を受診する
「気になる症状が続いている」「チェックシートの項目に複数あてはまる」「日常生活や社会活動に支障が出ている」などの場合は、早めにメンタルクリニックなどの医療機関を受診しましょう。
うつ病は早期発見・早期治療が大切です。どのように過ごせばよいのかわからない人は、医師やカウンセラーへ相談してみましょう。
規則正しい生活を心がける
うつ病の症状で、不眠や食欲不振などがみられている場合は、生活リズムを整えることが有効です。
適度な運動や睡眠環境の調整、バランスのよい食事など規則正しい生活を心がけると症状が落ち着きやすくなります。
ただし、症状がつらい状況のときには、休養を最優先しましょう。
一人で抱え込まない
悩みやストレスに対して一人で考え込むことは、症状が悪化する原因になりかねません。
医師やカウンセラー、または家族や友人などの話しやすい人でもよいので、誰かに話をすることも有効です。話をすることで気持ちが軽くなり、頭のなかでの考えが整理されるきっかけとなるでしょう。
うつ病に関するよくある質問
ここでは、以下のうつ病に関してよくある質問をご紹介します。
- うつ病は再発するの?
- 抗うつ薬で人格が変わるって本当?
- うつ病の症状に波はありますか?
ひとつずつ解説します。
うつ病は再発するの?
うつ病の再発率は高く、初発のうつ病患者の50~60%が再発するといわれています。
特に、症状改善後の半年間は再発率が高いとされているため、注意が必要です。
また、再発回数が増えると、より再発しやすくなる傾向にあります。
抗うつ薬で人格が変わるって本当?
結論からお伝えすると、抗うつ薬で人格や性格が変わることはないとされています。
抗うつ薬は、もともと自分が持っているセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が、有効に機能するようサポートするのが役割です。
脳内神経伝達物質のバランスを整える作用しかないため、抗うつ薬を内服したからといって人格や性格が変わるということはありません。
うつ病の症状に波はありますか?
うつ病では、1日のなかで落ち込みなどの気分に波があるのはよくみられることで、これを日内変動と呼びます。朝に憂うつな気分が強く、夕方になると徐々に症状が和らぐのが特徴です。
なお、躁状態(高揚した気分やイライラして怒りっぽい)がみられる場合は、双極性障害の可能性があります。
双極性障害については、こちらの記事で詳しく解説しています。
うつ病の症状がみられるときは早めに受診しよう
うつ病には、抑うつ気分や興味・喜びの喪失などの精神症状と、不眠や食欲不振などの身体症状があります。ストレスをはじめ、さまざまな原因によって心身への負荷が大きくなると発症するといわれており、早期発見・早期治療が重要です。
気になる症状が続いている、症状がつらく、日常生活や社会活動に支障が出ている場合には、早めにメンタルクリニックなどの医療機関を受診しましょう。
うつ病を発症したら、まずは休養を取ることが大切です。医師と相談しながら必要に応じて学校や仕事を休み、治療に専念できる環境を整えましょう。
参考サイト・文献
・うつ病を知っていますか? |厚生労働省
・今日のうつ病事情|国立病院機構 金沢医療センター
・うつ病とは|厚生労働省 こころの耳
・業務要因よりも季節性の要因により再燃するうつ病の事例|厚生労働省 こころの耳
・うつ病の治療と予後|厚生労働省 こころの耳