避妊インプラントとは(皮下インプラントの概要)
避妊インプラントは、腕の皮膚の下に挿入する、長さ約4cm、直径約2mm程度の柔らかい棒状の医療機器です。一度挿入すれば、数年間(製品によって異なりますが、一般的には3年または5年)にわたって継続的な避妊効果を発揮します。この方法は「皮下インプラント」とも呼ばれ、特に長期間の避妊を希望する方や、毎日決まった時間にピルを飲むのが難しい方にとって、非常に便利な選択肢となります。
挿入は局所麻酔下で行われ、短時間で完了します。挿入部位は通常、利き腕ではない方の上腕内側(二の腕のあたり)の皮膚の下です。外見からはほとんど目立ちませんが、触ると皮膚の下にインプラントがあるのを感じることができます。
避妊インプラントの仕組みと効果
避妊インプラントの最大の特長は、その内部に含まれる女性ホルモンを、体内でゆっくりと、一定量放出し続ける仕組みにあります。日本で承認・導入が進められている製品には、主に「エトノゲストレル」という黄体ホルモン(プロゲステロン)の一種が含まれています。
この黄体ホルモンは、主に以下の3つの作用によって妊娠を防ぎます。
- 排卵の抑制: 黄体ホルモンが脳に働きかけ、卵巣からの排卵を抑制します。排卵が起こらなければ、精子と卵子が出会うことがなくなり、受精は成立しません。これは経口避妊薬(ピル)と同様の主要な避妊メカニズムです。インプラントから放出されるホルモン量は一定しており、毎日忘れずにホルモンを摂取するのと同じ効果が得られます。
- 子宮頸管粘液の変化: 子宮の入り口にある子宮頸管の粘液を、精子が通過しにくいように粘り気のある状態に変化させます。これにより、精子が子宮内へ侵入するのを物理的に妨げます。
- 子宮内膜の変化: 受精卵が着床するために必要な子宮内膜を薄く変化させます。万が一、排卵が完全に抑制されなかった場合でも、着床しにくい状態を作ることで妊娠を防ぎます。
これらの複合的な作用により、避妊インプラントは非常に高い避妊効果を発揮します。製品にもよりますが、適切に使用された場合の避妊効果を示すパール指数(使用期間1年間に100人の女性が妊娠する割合)は、0.05~0.1程度と報告されており、これは他の避妊法と比較しても極めて低い数値です。この効果は、挿入から数年間(製品の有効期間)持続します。有効期間が終了したら、新しいインプラントへの交換や、他の避妊法への切り替えが必要になります。避妊インプラントを含むホルモン避妊法全般については、日本医師会が総合的な情報を提供しています。また、その作用機序や適応基準については、日本産科婦人科学会のガイドラインも参考にできます。
避妊インプラントのメリット・デメリット
避妊インプラントは長期避妊の有効な選択肢ですが、全ての方にとって最適とは限りません。メリットとデメリットをしっかりと理解し、自身の状況と比較検討することが大切です。
避妊インプラントのメリット
避妊インプラントには、他の避妊法にはないいくつかの大きなメリットがあります。
高い避妊効果と持続期間
前述の通り、避妊インプラントは非常に高い避妊効果を誇ります。適切に挿入されていれば、その避妊効果は数年間持続するため、その間は毎日避妊について悩んだり、タイミングを計ったりする必要がありません。これは、コンドームやピルなど、使用の度に効果が左右される避妊法と比較して、精神的な負担を大幅に軽減します。理論上の失敗率が極めて低いことは、予期せぬ妊娠を防ぎたいと強く願う方にとって、大きな安心感につながります。その効果の確実性は、長期可逆的避妊法(LARC:Long-Acting Reversible Contraception)の中でもトップクラスに位置づけられています。
服用忘れの心配がない
毎日決まった時間に薬を服用する必要がある経口避妊薬(ピル)とは異なり、避妊インプラントは一度挿入すれば、その後の管理はほぼ不要です。旅行や出張が多い方、生活リズムが不規則な方、あるいはピルの服用をうっかり忘れてしまうことが多い方にとって、服用忘れによる避妊効果の低下の心配がないというのは、非常に大きな利点です。多忙な現代社会において、日々のルーティンに左右されない避妊法は、多くの女性にとって魅力的な選択肢と言えるでしょう。挿入から有効期間の終了まで、文字通り「入れっぱなし」で避妊効果が持続します。
月経困難症や生理痛の改善効果
避妊インプラントから放出される黄体ホルモンの作用により、月経困難症(生理痛がひどい、生理中の不快な症状が強いなど)や過多月経(生理の量が多い)の症状が改善されることが期待できます。ホルモンが子宮内膜の増殖を抑制するため、生理の出血量が減ったり、生理期間が短くなったり、場合によっては生理が全く来なくなる(無月経)こともあります。これは避妊という本来の目的とは異なりますが、生理に関する悩みを抱えている方にとっては、副次的なメリットとして非常に有用です。ただし、この効果は全ての人に現れるわけではなく、個人差があります。中には、逆に不正出血に悩まされるケースもあります。
避妊インプラントのデメリット
一方で、避妊インプラントには注意すべきデメリットも存在します。これらを理解した上で検討することが不可欠です。
副作用について(不正出血、頭痛など)
避妊インプラントの最も一般的な副作用は、不正出血(生理期間以外に出血があること)です。これは挿入初期に特に起こりやすく、生理のパターンが不規則になることが多いです。出血の量や頻度は人によって異なり、少量の出血が続いたり、全く予測できないタイミングでまとまった出血があったりします。多くの場合、時間の経過とともに落ち着いてきますが、数ヶ月経っても改善しない場合や、出血量が多い場合は医師に相談が必要です。
不正出血以外にも、黄体ホルモンの影響による様々な副作用が報告されています。主なものとしては、頭痛、乳房の張りや痛み、気分の変動(イライラ、抑うつ感など)、ニキビの悪化、体重増加などが挙げられます。これらの症状も個人差が大きく、全く経験しない方もいれば、強く感じる方もいます。副作用の多くは一時的なものですが、症状が辛い場合は我慢せず医師に相談しましょう。副作用によっては、インプラントの除去を検討する必要がある場合もあります。
生理が止まる・不規則になる可能性
メリットとして月経困難症や過多月経の改善効果を挙げましたが、これは生理のパターンが大きく変化することを意味します。特に、生理が全く来なくなる「無月経」になる可能性は少なくありません。これは妊娠を希望しない方にとってはメリットになり得ますが、生理が来ないことに不安を感じたり、体のリズムが乱れたように感じたりする方もいます。また、無月経にならずとも、生理周期が予測不可能になる不規則な出血パターンになることが、最も一般的な副作用の一つです。いつ生理が来るか分からないという状況が、デメリットと感じる方もいるでしょう。生理のパターン変化は、インプラント挿入前に医師から十分に説明を受け、理解しておくべき重要な点です。
挿入・除去の手間と痕
避妊インプラントの挿入および有効期間終了後の除去は、医療機関で専門のトレーニングを受けた医師が行う必要があります。局所麻酔をかけて、小さな切開を行い、インプラントを皮膚の下に挿入または除去します。この処置自体は通常数分で完了しますが、医療機関を受診する手間がかかります。また、切開部位には小さな傷痕が残る可能性があります。多くの場合、数ミリ程度の目立たない傷痕ですが、体質によってはケロイドになりやすい方もいます。挿入・除去時の痛みや処置後の内出血、感染などのリスクもゼロではありません。特に除去の際は、組織の中に埋もれていたり、位置がずれていたりすると、除去に時間がかかったり、より大きな切開が必要なケースも稀にあります。これらの手技的な側面も、デメリットとして考慮すべき点です。
全ての人に適しているわけではない
避妊インプラントは非常に効果的な避妊法ですが、全ての方が安全に使用できるわけではありません。特定の健康状態にある方や既往歴がある方は、インプラントの使用が推奨されない、あるいは禁忌となる場合があります。例えば、血栓症(血管の中に血の塊ができる病気)の既往歴がある方や、現在血栓症のリスクが高い状態にある方、乳がんやその他のホルモン依存性腫瘍にかかったことがある方、原因不明の性器出血がある方、重度の肝機能障害がある方などは、避妊インプラントの使用が適さないと考えられています。喫煙習慣がある方も血栓症のリスクが高まるため、慎重な検討が必要です。また、避妊インプラントは性感染症(STI)を予防する効果はありません。性感染症のリスクがある場合は、コンドームなど他の避妊法と併用するか、他の予防策を講じる必要があります。インプラントの適応については、必ず医師による詳細な問診と診察を受け、ご自身の健康状態を正確に伝えることが不可欠です。
避妊インプラントの日本での現状と費用
海外では広く普及している避妊インプラントですが、日本での導入は比較的最近であり、現状や費用についても知っておく必要があります。
日本での承認状況
日本において、避妊目的で使用される皮下インプラント製剤として、2023年12月にエトノゲストレルを有効成分とする避妊用皮下インプラント製剤が我が国で初めて承認されました。これは、海外で既に広く使用されている製品と同等のものです。それ以前は、日本国内では避妊目的での皮下インプラント製剤は承認されていませんでした。この承認により、長期可逆的避妊法(LARC)の選択肢が日本国内でも拡がることになります。ただし、承認されたばかりであり、実際に多くの医療機関で導入されるまでには、医師へのトレーニングや体制整備などがさらに進む必要があります。厚生労働省は、皮下インプラントを含む次世代避妊法の普及に向けた医療従事者研修計画など、普及に向けた施策を進めています。
日本で避妊インプラントを受けるには
現在、日本で避妊インプラントの挿入・除去を受けるためには、産婦人科などの医療機関を受診する必要があります。全ての産婦人科で対応しているわけではないため、事前にクリニックに問い合わせて、避妊インプラントの相談や処置が可能かどうかを確認することが重要です。
受診時には、まず医師とのカウンセリングが行われます。この際に、避妊を希望する理由、期間、既往歴、服用中の薬、アレルギーの有無、月経の状況、将来の妊娠希望などについて詳しく伝え、インプラントの適応があるか、他に適切な避妊法がないかなどを相談します。インプラントのメリット・デメリット、副作用、費用などについても十分に説明を受け、納得した上で選択することが大切です。インプラントの挿入は予約制となることが一般的です。
避妊インプラントの費用相場
避妊インプラントは、避妊目的で使用される場合、基本的に健康保険の適用対象外となり、自由診療となります。そのため、医療機関によって費用が異なります。
挿入費用の目安
避妊インプラントの挿入にかかる費用は、使用する製品の種類(日本国内で承認されたインプランター)や医療機関によって異なりますが、一般的には数万円~10万円程度の範囲が目安となることが多いようです。これには、インプラント本体の価格、挿入手技料、局所麻酔料などが含まれます。初診料や事前の診察・検査費用が別途かかる場合もあります。
除去費用の目安
インプラントの有効期間が終了した後や、副作用などで使用を中止したい場合は、除去する必要があります。除去にも医療機関での処置が必要となり、挿入とは別に費用がかかります。除去費用の目安も医療機関によって異なりますが、挿入費用よりはやや安価な場合が多いものの、やはり数万円程度を見込んでおく必要があります。インプラントが組織内に埋もれていたり、除去が困難な場合は、費用が高くなる可能性もゼロではありません。
保険適用の有無
前述の通り、避妊目的での避妊インプラントは健康保険の適用外です。これは、他の多くの避妊法(低用量ピルや子宮内避妊具など)も、避妊目的の場合は原則として保険適用外であることと同様です。ただし、月経困難症や過多月経などの治療を目的として、他の薬剤(例えばミレーナなど、治療目的で承認されているもの)が使用される場合には、保険適用となるケースがあります。しかし、日本で避妊目的として承認された「インプランター」は、現時点では避妊目的のみでの使用が想定されており、原則として保険適用外となります。費用については、受診を検討している医療機関に事前に確認することをおすすめします。
長期的な費用で見ると、数年間の避妊効果が持続するため、毎日服用するピルや使用の都度購入するコンドームなどと比較して、総額が抑えられる場合もあります。しかし、初期費用としてまとまった金額が必要となる点は考慮が必要です。
避妊インプラントの避妊効果と妊娠率
避妊インプラントの最大の魅力の一つは、その極めて高い避妊効果です。具体的な数値や、万が一妊娠した場合の対応についても理解しておきましょう。
避妊効果の具体的な数値と持続期間
避妊インプラントの避妊効果は、他の避妊法と比較しても最高クラスです。有効成分であるエトノゲストレルをゆっくりと放出することで、主に排卵を抑制し、確実に避妊効果を発揮します。
避妊効果を示す指標として「パール指数」があります。これは、その避妊法を1年間使用した女性100人のうち、何人が意図せず妊娠したかを示す数値です。パール指数が低いほど、避妊効果が高いということになります。
避妊インプラント(エトノゲストレル放出皮下インプラント)のパール指数は、一般的に0.05~0.1程度と報告されています。これは、例えば低用量ピル(適切に使用した場合のパール指数は約0.3~1)や、コンドーム(典型的な使用でのパール指数は約15)と比較して、非常に低い数値です。つまり、避妊インプラントを適切に使用していれば、1年間に妊娠する確率は1000人に1人以下ということになります。これは、避妊手術(卵管結紮術など)に匹敵するレベルの避妊効果と言えます。
この高い避妊効果は、インプラント挿入後すぐに(通常は挿入日または生理開始後5日以内であれば追加の避妊なしで有効)、製品に定められた有効期間(多くは3年間)にわたって持続します。一度挿入すれば、その期間中は毎日避妊について意識する必要がなく、非常に確実な避妊が可能です。有効期間が終了したら、避妊効果は失われるため、新しいインプラントに交換するか、別の避妊法を開始する必要があります。
妊娠した場合の対応
避妊インプラントの避妊効果は極めて高いですが、100%ではありません。万が一、インプラント装着中に妊娠が判明する可能性も、非常に稀ですがゼロではありません。
もし避妊インプラント装着中に妊娠が判明した場合、速やかに医療機関を受診し、医師に相談する必要があります。妊娠が確認されたら、胎児への影響を考慮して、インプラントはできるだけ早く除去することが推奨されます。これまでの研究では、インプラント装着中に妊娠した場合の胎児への明らかな悪影響は確認されていないとされていますが、不要になったホルモン源は取り除くのが一般的です。
妊娠の確認は、月経の遅れや妊娠初期症状(吐き気、乳房の張りなど)に気づいたら、市販の妊娠検査薬でセルフチェックするか、医療機関を受診して行います。避妊インプラントを使用していると生理のパターンが不規則になったり、無月経になったりすることが多いため、月経の遅れだけでは妊娠の判断が難しい場合があります。異常な出血が続いたり、妊娠を疑うような症状がある場合は、自己判断せず医療機関に相談しましょう。
確率は非常に低いとはいえ、万が一の可能性についても理解し、もしもの場合にどうすれば良いかを知っておくことは、安心して避妊インプラントを使用するためにも重要です。
他の長期避妊法との比較(ミレーナなど)
避妊インプラント以外にも、長期間の避妊効果が期待できる避妊法がいくつかあります。代表的なものとして、子宮内避妊システム(IUS)や子宮内避妊具(IUD)が挙げられます。ここでは、特に日本でも広く使われているIUSである「ミレーナ」と避妊インプラントを比較してみましょう。ご自身に合った避妊法を選ぶ上で、他の方法との違いを理解することは非常に役立ちます。
避妊インプラントとミレーナの違い
避妊インプラントとミレーナは、どちらも長期可逆的避妊法(LARC)に分類され、数年間にわたって高い避妊効果が持続する点が共通しています。しかし、いくつかの重要な違いがあります。
比較項目 | 避妊インプラント(インプランター) | ミレーナ(レボノルゲストレル放出子宮内システム) |
---|---|---|
挿入部位 | 上腕の内側(二の腕)の皮膚の下 | 子宮内 |
形状 | 長さ約4cm、直径約2mmの柔らかい棒状 | T字型の器具(長さ約3cm) |
放出ホルモン | エトノゲストレル(黄体ホルモン) | レボノルゲストレル(黄体ホルモン) |
主な作用 | 排卵抑制、子宮頸管粘液変化、子宮内膜変化 | 子宮内膜変化、子宮頸管粘液変化、一部排卵抑制 |
避妊効果 | 極めて高い(パール指数 約0.05~0.1) | 極めて高い(パール指数 約0.2) |
持続期間 | 3年間 | 5年間 |
挿入・除去 | 局所麻酔下で上腕に切開(数ミリ)を加えて挿入・除去 | 膣から子宮内に挿入・除去(通常麻酔なしまたは局所麻酔) |
費用 | 避妊目的:自由診療(数万円~10万円程度/挿入、数万円程度/除去) | 避妊目的:自由診療(数万円程度/挿入・除去) 月経困難症・過多月経の治療目的:保険適用(1万円程度/挿入、数千円程度/除去) |
副作用 | 不正出血(高頻度)、頭痛、乳房痛、気分の変動、ニキビ、体重増加など。生理が止まる可能性が高い。 | 不正出血(高頻度)、下腹部痛、腰痛、頭痛、乳房痛など。生理の量・期間が減る可能性が高い(止まる人もいる)。子宮外妊娠のリスク増。 |
適応 | 多くの女性が対象。特定の疾患(血栓症、乳がんなど)や喫煙習慣がある場合は注意・禁忌。 | 子宮の形に異常がないこと、性感染症がないことなどが前提。出産経験の有無は問わないが、器具のサイズが合うか確認。 |
主な違いのまとめ:
- 挿入部位: 避妊インプラントは腕、ミレーナは子宮内です。
- 持続期間: 承認されたばかりのインプランターは3年、ミレーナは5年です。
- 作用機序: 避妊インプラントは排卵抑制が主ですが、ミレーナは子宮内膜への作用が主で、排卵抑制効果は補助的です。
- 費用・保険適用: 避妊目的ではどちらも自由診療ですが、ミレーナは月経困難症や過多月経の治療目的であれば保険適用となります。インプランターは現時点では避妊目的のみの承認です。
- 副作用の傾向: どちらも不正出血は高頻度ですが、インプラントの方が生理が止まる(無月経)確率が高い傾向があるようです。ミレーナは子宮内の処置であるため、挿入・除去時の痛みや、子宮外妊娠、骨盤内感染などのリスクが稀にあります。インプラントは上腕の処置であり、傷痕のリスクや、除去の困難性が稀にあります。
ご自身に合った避妊法の選び方
避妊インプラント、ミレーナ、低用量ピル、コンドームなど、様々な避妊法にはそれぞれメリットとデメリットがあります。どの方法が最適かは、個人のライフスタイル、体の状態、避妊への考え方、将来的な妊娠希望の有無などによって大きく異なります。
避妊インプラントが向いている可能性のある方:
- 長期間(3年間)確実に避妊したい方
- 毎日ピルを飲むのが難しい、飲み忘れが多い方
- 月経困難症や過多月経に悩んでおり、症状改善も期待したい方(ただしインプランターは避妊目的のみの承認である点に注意)
- 子宮に器具を入れることに抵抗がある方
ミレーナが向いている可能性のある方:
- 長期間(5年間)確実に避妊したい方
- 月経困難症や過多月経に悩んでおり、保険適用で治療を受けたい方
- 毎日ピルを飲むのが難しい方
- 腕に傷痕が残ることに抵抗がある方
低用量ピルが向いている可能性のある方:
- 毎日決まった時間に服用できる方
- 生理周期を規則的にしたい方
- 生理痛や過多月経の改善効果も期待したい方
- 将来的に比較的短期間で妊娠を希望する可能性がある方(服用中止後すぐに妊娠可能な状態に戻りやすい)
どの避妊法を選択するにしても、最も重要なのは産婦人科医と十分に相談することです。医師は、あなたの健康状態、既往歴、ライフスタイル、そして避妊に関する希望を丁寧に聞き取り、医学的な観点からあなたに最適な避妊法を提案してくれます。メリットだけでなく、起こりうるデメリットやリスクについても正確な情報を提供してもらい、納得した上で決定しましょう。避妊は女性の健康とライフプランに関わる重要な選択です。専門家のアドバイスを受けながら、ご自身にとってベストな方法を見つけてください。
避妊インプラントはどこでできる?
避妊インプラントは、医療機関で医師による処置が必要です。具体的にどこで、どのように受けられるのかを知っておきましょう。
クリニックの選び方
避妊インプラントの挿入・除去処置は、全ての医療機関で行われているわけではありません。主に、産婦人科クリニックや病院で対応しています。クリニックを選ぶ際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 避妊相談に詳しい医師がいるか: 避妊インプラントだけでなく、他の避妊法も含めて、それぞれのメリット・デメリットや、あなたの状況に合った選択肢について丁寧に説明・相談に乗ってくれる医師がいるかどうかが重要です。
- 避妊インプラントの挿入・除去の実績があるか: 日本で承認されたばかりの「インプランター」は、医師が適切なトレーニングを受ける必要があります。処置経験のある医師がいるクリニックを選ぶと安心できるでしょう。事前にクリニックのウェブサイトで診療内容を確認したり、電話で問い合わせたりすることをおすすめします。
- アクセスや診療時間: 定期的な受診や、万が一のトラブルがあった際に通いやすい場所にあるか、ご自身のライフスタイルに合った診療時間であるかも考慮しましょう。
- 費用: 自由診療となるため、費用はクリニックによって異なります。事前に費用について確認しておくと、予算を立てやすくなります。
クリニックを受診する際の相談の流れ
避妊インプラントの挿入・除去を検討する場合、まずは医療機関での相談が必要です。公益社団法人家族計画協会の解説ページなども参考にしながら、ご自身の状況を整理してから受診すると良いでしょう。
クリニックを受診する際の一般的な流れは以下の通りです。
- 予約: まずはクリニックに電話またはオンラインで予約を取ります。「避妊相談」または「避妊インプラントについて相談したい」旨を伝えるとスムーズです。
- 問診・カウンセリング: 受診したら、問診票に記入し、医師による問診とカウンセリングを受けます。あなたの避妊に関する希望、これまでの避妊経験、月経の状況、健康状態、既往歴、アレルギーの有無などを詳しく伝えます。医師は、避妊インプラントの仕組み、効果、メリット、デメリット、起こりうる副作用、費用などについて丁寧に説明してくれます。疑問点があれば、遠慮なく質問しましょう。
- 診察・検査: 必要に応じて、内診や超音波検査などが行われる場合があります。これは、インプラントの適応があるか、健康状態に問題がないかなどを確認するためです。
- 避妊法の決定: 医師からの説明とご自身の希望を踏まえて、避妊インプラントを選択するかどうかを決定します。他の避妊法と比較検討し、納得できる方法を選びましょう。
- インプラント挿入(選択した場合): 避妊インプラントを選択した場合、後日改めて挿入処置の予約を取るか、当日に処置が可能であればそのまま行います。処置は局所麻酔下で短時間で終了します。処置後の注意点についても説明を受けます。
- 定期健診: 避妊インプラント挿入後は、通常、定期的な健診が推奨されます。インプラントの状態や、体調の変化、副作用の有無などをチェックするためです。有効期間終了時期の確認も重要です。
避妊インプラントは医療行為であり、医師との十分なコミュニケーションが必要です。信頼できる医師と出会い、安心して避妊に取り組めるクリニックを選ぶことが大切です。
避妊インプラントは動脈硬化予防できる可能性がある?
避妊インプラントに含まれるホルモン成分であるエトノゲストレルや、その前駆体であるデソゲストレルに関する研究において、脂質代謝や血管機能への影響が一部で検討されています。低用量経口避妊薬(LEP)に含まれるホルモン成分についても、種類によってはコレステロール値やトリグリセリド値に影響を与える可能性が知られています。
しかし、現時点で避妊インプラントが「動脈硬化を予防できる」と断定的に言える科学的根拠は確立されていません。避妊インプラントの主目的はあくまでも避妊であり、その効果や安全性は避妊法としての評価が中心です。
ホルモン剤の使用と心血管疾患(血栓症や動脈硬化など)のリスクとの関連については、長年研究が続けられています。特に、エストロゲンを含むホルモン剤は血栓症のリスクをわずかに高める可能性が指摘されています。避妊インプラントに含まれるのは黄体ホルモンのみですが、それでも体内のホルモンバランスに影響を与えるため、全身の様々な機能に影響を及ぼす可能性はゼロではありません。
動脈硬化の予防や治療は、生活習慣の改善(食生活、運動、禁煙など)や、必要に応じてスタチンなどの特定の薬剤による治療が確立されています。避妊インプラントを選択する際に、動脈硬化予防を期待するべきではありません。
避妊インプラントを含むホルモン避妊法を使用する際は、血栓症などのリスク因子(喫煙、肥満、特定の遺伝的要因など)があるかどうかを医師とよく相談し、リスクとベネフィットを十分に理解することが重要です。今後の研究で避妊インプラントのホルモン成分が血管系に与える長期的な影響について新たな知見が得られる可能性はありますが、現状では避妊目的以外の効果を期待して使用することは適切ではありません。
避妊インプラントについてよくある質問
避妊インプラントに関して、多くの方が抱く疑問にお答えします。詳細については、公益社団法人家族計画協会などの情報源も参考にしてください。
挿入時の痛みはありますか?
避妊インプラントの挿入は、局所麻酔下で行われるため、処置中の痛みはほとんど感じない場合が一般的です。麻酔の注射時にチクっとした痛みを感じることはありますが、処置自体は短時間で終了します。麻酔が切れた後、数日間は挿入部位に軽い痛みや違和感、内出血、腫れなどが生じることがありますが、通常は自然に改善します。痛みが強い場合や長引く場合は、医療機関に相談しましょう。
除去時の痛みはありますか?
除去も挿入と同様に局所麻酔下で行われます。挿入部位を小さく切開し、インプラントを皮膚の下から取り出します。処置中の痛みは麻酔が効いていればほとんどありません。ただし、インプラントが組織に癒着していたり、位置がずれていたりすると、除去に時間がかかったり、痛みを伴ったりする可能性が稀にあります。除去後も挿入時と同様に、数日間は痛みや内出血などが生じることがあります。
体内でインプラントが折れたり、溶けたりしませんか?
避妊インプラントは、医療用に設計された柔軟で耐久性のある素材(通常はエチレン酢酸ビニル共重合体など)でできており、体内で折れたり溶けたりすることは通常ありません。外部からの強い衝撃によって破損する可能性もゼロではありませんが、非常に稀です。万が一、破損や位置のずれが疑われる場合は、医療機関を受診して検査を受ける必要があります。
挿入したインプラントは触って確認できますか?
はい、適切に挿入されていれば、通常は皮膚の上から触れることでインプラントの位置を確認できます。細い棒状のものが皮膚の下にあるのが触知できるはずです。定期的にご自身で触って位置を確認することも、適切に挿入されているかを知る上で役立ちます。もし触れられなくなった、位置が大きくずれたように感じる場合は、医療機関に相談しましょう。
インプラント挿入後、すぐに避妊効果はありますか?
挿入するタイミングによります。生理開始後5日以内に挿入した場合、通常は挿入後すぐに避妊効果が得られます。それ以外のタイミングで挿入した場合は、挿入後7日間は他の避妊法(コンドームなど)を併用する必要があります。挿入前に医師に確認し、適切なタイミングで挿入することが重要です。
妊娠を希望する場合、すぐに妊娠できますか?
避妊インプラントを除去すれば、体内のホルモンレベルは比較的速やかに低下し、排卵が再開することが期待できます。多くの女性は、除去後数ヶ月以内に通常の月経周期に戻り、妊娠可能な状態になります。ただし、個人差があり、中には周期回復に時間がかかる方もいます。妊娠を希望する時期になったら、有効期間終了を待たずにインプラントを除去してもらうことができます。
体質的に太りやすいのですが、インプラントでさらに太りますか?
避妊インプラントの副作用として、体重増加が報告されることがあります。黄体ホルモンの影響により、食欲が増進したり、水分を体に溜め込みやすくなったりすることが原因として考えられます。ただし、全ての人が体重増加を経験するわけではなく、増加したとしても軽度であることが多いです。大幅な体重増加が見られる場合は、他の原因も考慮し、医師に相談しましょう。バランスの取れた食事と適度な運動は、体重管理において重要です。
性交渉で痛みを感じることはありますか?
避妊インプラント自体が性交渉に直接影響を与え、痛みを引き起こすことはありません。インプラントは上腕の皮膚の下に挿入されるため、性器や骨盤内の構造とは無関係です。ただし、副作用として性欲の変化(低下や亢進)、膣の乾燥などが起こる可能性はゼロではありません。もし性交渉中に痛みや不快感を感じる場合は、婦人科医に相談し、原因を特定することが大切です。
インプラントは海外製ですか?品質は大丈夫ですか?
日本で承認された避妊インプラント「インプランター」は、海外で既に多くの使用実績がある製品です。日本の医薬品医療機器等法に基づき、有効性、安全性、品質について厳格な審査を経て承認されています。そのため、国内で流通している製品の品質については安心して良いと考えられます。ただし、個人輸入など正規ルート以外で入手した製品については、品質や安全性が保証されないため、絶対に使用しないでください。必ず医療機関で処方された製品を使用しましょう。
将来、がんのリスクが高まりますか?
避妊インプラントに含まれる黄体ホルモンとがんのリスクとの関連については、様々な研究があります。一般的に、単独の黄体ホルモン製剤は、低用量ピル(エストロゲンと黄体ホルモンの両方を含む)とは異なり、乳がんや子宮頸がんのリスクを増加させるという明確な証拠は確立されていません。むしろ、子宮体がんのリスクを低下させる可能性が示唆されています。しかし、がんのリスクは様々な要因(遺伝、生活習慣、年齢など)が複合的に関わるため、避妊インプラントの使用が直接的な原因となるとは断定できません。心配な場合は、医師に相談し、ご自身の家族歴や既往歴などを考慮した上で、リスクについて十分に説明を受けてください。
思春期の女性でも使用できますか?
避妊インプラントは、初潮を迎えた女性であれば使用可能です。年齢制限は特に設けられていません。思春期の女性においても、高い避妊効果と服用忘れの心配がない利点は同様に適用されます。ただし、思春期の女性はホルモンバランスが不安定な時期であり、副作用としての不正出血などが起こりやすい可能性もあります。使用を検討する際は、保護者の同意を得た上で、必ず専門医に相談し、適切な指導を受けることが重要です。
【まとめ】避妊インプラントを検討するなら医療機関で相談を
避妊インプラント(皮下インプラント)は、一度挿入すれば数年間にわたって極めて高い避妊効果が持続するという画期的な避妊法です。毎日決まった時間にピルを服用する必要がないため、飲み忘れの心配がなく、非常に利便性が高い点が大きなメリットです。また、月経困難症や過多月経の症状改善にも繋がる可能性があります。
一方で、不正出血をはじめとする副作用、生理のパターンが不規則になったり止まったりする可能性、挿入・除去の手間や傷痕、そして全ての人に適しているわけではないというデメリットも存在します。
日本国内でも避妊目的の皮下インプラント製剤「インプランター」が2023年12月に承認され、これから徐々に普及していくことが期待されます。
避妊インプラントは、そのメリットがライフスタイルに合う方にとっては素晴らしい選択肢となり得ます。しかし、ご自身の体の状態、将来の妊娠希望、副作用への懸念、費用などを総合的に考慮し、メリットとデメリットを十分に理解した上で選択することが極めて重要です。
ご自身にとって最適な避妊法を見つけるためには、まずは産婦人科を受診し、医師に相談することをおすすめします。日本産科婦人科学会のガイドラインなども参考に、医師はあなたの状況を詳しく把握し、避妊インプラントを含めた様々な避妊法の中から、医学的にもあなたに適した方法を提案してくれます。疑問や不安な点は全て解消し、納得した上で、ご自身の健康とライフプランにとって最善の選択をしてください。
免責事項: 本記事は避妊インプラントに関する一般的な情報提供を目的としており、医療行為や医師の診断に代わるものではありません。個々の状況における適切な診断や治療、避妊方法の選択については、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従ってください。記事中の情報によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。
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