便失禁(便漏れ)の原因と対策|若い人から高齢者まで徹底解説

便失禁(便漏れ)は、自分の意思とは関係なく、気づかないうちに、あるいは我慢できずに便が漏れてしまう状態です。年齢に関わらず誰にでも起こりうる可能性があり、人知れず悩んでいる方も少なくありません。「若いから大丈夫」「これは年のせいだから仕方ない」と諦める必要はありません。
便失禁にはさまざまな原因があり、適切な対応や治療によって改善が見込めます。このガイドでは、便失禁の原因や症状、具体的な対策、そして医療機関に相談する際のヒントについて詳しく解説します。
一人で抱え込まず、正しい知識を持って前向きに対処するための一歩を踏み出しましょう。

便失禁とは

便失禁の定義と種類

便失禁は医学的には「糞便の随意排出を制御する能力の障害」と定義され、自分の意思とは関係なく便が漏れてしまう状態全般を指します。これは、便意を感じてからトイレに到達するまでの間、または便意を感じることなく便が漏れてしまう状態を含みます。
便失禁は、そのメカニンの違いによっていくつかの種類に分けられます。

最も一般的なのは切迫性便失禁です。これは強い便意を感じた後、我慢しようとしても間に合わず、トイレにたどり着く前に便が漏れてしまうタイプです。便意を感じることはできるものの、それをコントロールする能力が低下している場合に起こりやすくなります。

次に、漏出性便失禁(溢流性便失禁)があります。これは、重度の便秘によって直腸に硬い便が大量に溜まり、その周りを水っぽい便が通り抜けて漏れ出てしまうタイプです。便意をほとんど感じないまま、少量の便が常に下着に付着する「便漏れ」として現れることが多いのが特徴です。

また、受動性便失禁は、便意をほとんど感じることなく、無意識のうちに便が漏れてしまうタイプです。肛門括約筋の機能が低下している場合や、直腸の感覚が鈍くなっている場合に起こりやすいとされています。

さらに、咳やくしゃみ、重い物を持つなどの腹圧がかかった時に便が漏れる場合は、腹圧性便失禁と呼ばれることもありますが、これは尿失禁に比べて稀です。
多くの場合、複数の種類の便失禁が複合的に現れることもあります。

便失禁は、社会生活や心理面に大きな影響を与える可能性があり、日常生活の質(QOL)を著しく低下させる深刻な問題となり得ます。
しかし、適切に診断し、原因に応じた治療や対策を行うことで、多くのケースで症状の改善が期待できます。

便漏れは便失禁のサインかもしれません

「便失禁」と聞くと、「大量の便を漏らしてしまう重篤な状態」だとイメージされる方もいるかもしれません。しかし、実際には少量であっても、気づかないうちに下着に便が付着している、おならと同時に便が漏れる、といった軽度の「便漏れ」も、便失禁の初期症状やサインである可能性があります。

特に、以下のような経験がある場合は注意が必要です。

  • 運動中や力んだ時に、少量の便が漏れることがある。
  • ガス(おなら)だと思って力を抜いたら、一緒に便が出てしまった。
  • 便をした後、拭き残しではないのに、しばらくしてから下着が汚れていることがある。
  • 便意を感じても、急に我慢できなくなり、トイレまであと一歩のところで漏らしてしまうことがある。
  • 慢性的に便秘や下痢を繰り返しており、その際に便漏れを経験することがある。

これらの「便漏れ」は、肛門括約筋のわずかな機能低下、直腸の感覚異常、便の状態(硬すぎる、柔らかすぎる)、あるいは神経系の軽い問題などによって引き起こされている可能性があります。放置しておくと、症状が進行し、より頻繁にあるいは多量に便が漏れるようになることもあります。

「たったこれくらい」と思わず、繰り返される便漏れは体のサインとして捉え、原因を把握し適切な対策を講じることが重要です。
特に、症状が続く場合や、日常生活に支障をきたしている場合は、恥ずかしがらずに医療機関に相談することをお勧めします。早期発見と適切なケアが、症状の改善とQOLの維持につながります。

便失禁の主な原因

便失禁は単一の原因で起こることは少なく、複数の要因が複合的に関与している場合が多く見られます。
主な原因としては、肛門括約筋の機能低下、神経系の障害、便の状態、加齢、特定の病気や過去の医療処置などが挙げられます。

括約筋の機能低下(損傷や弛緩)

肛門括約筋は、便意を感じた際に意図的に肛門を閉めて便の排出を我慢したり、便が漏れるのを防いだりする役割を担っています。この括約筋の機能が低下すると、便を完全にコントロールすることが難しくなり、便失禁を引き起こします。

括約筋の機能低下の主な原因は以下の通りです。

  • 出産: 特に難産や吸引分娩、鉗子分娩、会陰切開・裂傷などは、肛門括約筋に損傷を与えるリスクがあります。出産後に便失禁を経験する女性は少なくありませんが、多くは時間とともに改善します。しかし、損傷が重度であったり、適切に修復されなかったりした場合、長期的な便失禁の原因となることがあります。
  • 肛門周囲の手術: 痔の手術(痔核、痔瘻など)や直腸がんの手術など、肛門や直腸周囲の手術を受けた際に、括約筋が損傷したり、機能が低下したりすることがあります。
  • 外傷: 肛門周囲への直接的な外傷(転倒や事故など)によって括約筋が損傷を受ける場合があります。
  • 加齢: 年齢を重ねると、筋肉量が減少し、括約筋の筋力も自然と低下します。これにより、便をしっかりと保持する力が弱まり、便失禁のリスクが高まります。
  • 神経系の障害: 括約筋をコントロールする神経に障害があると、括約筋が適切に機能しなくなります。これは次のセクションで詳しく説明します。

括約筋の機能低下が原因である場合、特に便が硬い時よりも、柔らかい便や水様便、ガスの方が漏れやすくなる傾向があります。これは、柔らかい便ほど括約筋でせき止めるのが難しいためです。

神経系の障害

便失禁は、肛門括約筋そのものの問題だけでなく、排便に関わる神経系の問題によっても引き起こされます。便意を感じる、肛門括約筋を締めたり緩めたりする、といった排便の一連の動作は、脳、脊髄、骨盤内の末梢神経が連携して行われています。これらの神経のどこかに障害が生じると、便失禁の原因となります。

神経系の障害の主な例は以下の通りです。

  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血): 脳の排便をコントロールする領域が損傷を受けると、便意を感じにくくなったり、便を我慢する指令がうまく伝わらなくなったりします。
  • 脊髄損傷: 脊髄が損傷すると、脳と直腸・肛門間の神経伝達が遮断され、便意の喪失や括約筋の制御不能が生じます。
  • 多発性硬化症、パーキンソン病などの神経疾患: これらの病気は神経系が進行性に障害されるため、排便機能を含む様々な身体機能に影響を及ぼし、便失禁を引き起こすことがあります。
  • 糖尿病性神経障害: 糖尿病が長期間続くと、末梢神経が障害されることがあります。これにより、直腸の感覚が鈍くなったり、括約筋を支配する神経の働きが悪くなったりして、便失禁につながることがあります。
  • 骨盤内手術による神経損傷: 子宮や前立腺などの骨盤内の臓器の手術の際に、排便に関わる神経が意図せず損傷を受ける可能性があります。
  • 馬尾神経症候群: 脊髄の末端部分(馬尾神経)が圧迫されるなどして損傷すると、下肢の麻痺とともに、膀胱や直腸の機能障害、便失禁や尿失禁を引き起こすことがあります。

神経系の障害による便失禁では、便意を全く感じないまま便が漏れたり(受動性便失禁)、便意は感じるものの、神経伝達の遅れや括約筋への指令の異常によって、間に合わずに漏らしてしまったり(切迫性便失禁)することがあります。
神経系の原因が疑われる場合は、神経内科医との連携が必要となることもあります。

便の状態(便秘や下痢)が関係する場合

便失禁は、便を保持する肛門括約筋や神経の機能だけでなく、排出される便の状態にも大きく影響されます。特に、慢性的な便秘や下痢は、便失禁の直接的または間接的な原因となることがあります。

便秘が原因の場合:

慢性的な便秘によって、硬く乾燥した便が直腸に長期間溜まり続けると、以下の問題が生じます。

  • 直腸の伸展と感覚鈍麻: 直腸が常に便でパンパンになっている状態が続くと、直腸の壁が伸びきってしまい、便が溜まっているという感覚が鈍くなります。これにより、便意を感じにくくなり、排便のタイミングを逃しやすくなります。
  • 溢流性便失禁(漏出性便失禁): 直腸に溜まった硬い便塊(宿便)の周囲を、新しく運ばれてきた液状または半固形の便が通り抜けて漏れ出てしまう状態です。これは「漏糞」とも呼ばれ、少量の便が気づかないうちに下着に付着することが特徴です。これは、便秘が解消されない限り続く可能性があります。
  • 括約筋への過負荷: 長期間の便秘は、排便時に強い力みが必要となり、これが肛門括約筋に負担をかけ、将来的な機能低下につながる可能性も指摘されています。

下痢が原因の場合:

液状または非常に柔らかい便(水様便)は、肛門括約筋でせき止めるのが非常に困難です。正常な括約筋機能を持つ人でも、急激な下痢の場合には便失禁を起こしやすくなります。

慢性的な下痢の場合、以下のような問題が生じます。

  • 括約筋の疲弊: 頻繁に便を我慢しようと括約筋を締め続けることで、括約筋が疲れてしまい、保持力が低下することがあります。
  • 切迫性便失禁のリスク増加: 液状の便は直腸に溜まるスピードが速く、便意が急に強く現れるため、トイレに間に合わない切迫性便失禁を起こしやすくなります。
  • 直腸の貯留能力低下: 慢性的な下痢は、直腸が便を溜めておく能力を低下させる可能性も指摘されています。

このように、便の状態異常は便失禁の重要な原因の一つです。特に、過敏性腸症候群による慢性的な下痢や便秘、あるいは腸の炎症性疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などが背景にある場合もあります。便の状態を改善することは、便失禁の治療において非常に重要なアプローチとなります。

加齢による体の変化

加齢は、便失禁のリスクを高める要因の一つです。これは単に年齢を重ねること自体が原因なのではなく、加齢に伴って体内で起こる様々な生理的な変化が複合的に影響するためです。

加齢によって起こる便失禁に関連する主な変化は以下の通りです。

  • 肛門括約筋の筋力低下と萎縮: 年齢とともに全身の筋肉量は自然と減少します。肛門括約筋も例外ではなく、筋力が低下したり、筋肉自体が痩せたり(萎縮)します。これにより、便をしっかりと保持する力が弱まり、特に水様便やガスを我慢することが難しくなります。
  • 直腸の感覚の変化: 便が直腸に溜まったという感覚や、便意を感じる感覚が鈍くなることがあります。また、直腸が便を溜めておける容量が減少したり、直腸壁の弾力性が低下したりすることもあります。これにより、便意を感じるのが遅れたり、急に強い便意を感じて間に合わなくなったりすることがあります。
  • 神経伝達の遅延: 加齢に伴い、神経の伝達速度がわずかに遅くなることがあります。脳からの「括約筋を締めなさい」という指令や、直腸からの「便が溜まりました」という信号の伝達が遅れることで、排便のコントロールに影響が出ることがあります。
  • 基礎疾患の合併: 高齢者は、脳卒中、糖尿病、パーキンソン病などの便失禁を引き起こす可能性のある基礎疾患を合併していることが多い傾向にあります。これらの病気が便失禁の直接的な原因となったり、加齢による変化を助長したりすることがあります。
  • 薬剤の影響: 高齢者は複数の薬を服用していることが多く、中には便失禁を悪化させる可能性のある薬剤(下剤の乱用や、神経系に作用する薬など)も存在します。
  • 運動量の低下: 加齢に伴い活動量が減少すると、腸の動きが鈍くなったり、全身の筋力が低下したりすることがあります。これも便秘や便失禁につながる可能性があります。

これらの加齢による変化は徐々に進行するため、本人や周囲が気づきにくい場合もあります。しかし、加齢が便失禁の「仕方ない原因」として片付けられるべきではありません。加齢による変化があっても、適切なケアやリハビリテーション、生活習慣の改善などによって、症状を軽減し、より良い生活を送ることが可能です。

病気やその他の影響(出産、手術など)

便失禁は、特定の病気や過去の医療処置が原因で引き起こされることもあります。前述した括約筋の損傷や神経系の障害は、これらの影響によって生じることが多いです。

便失禁を引き起こす可能性のある病気や状態:

  • 出産: 特に経膣分娩、難産、吸引分娩、鉗子分娩は、肛門括約筋や骨盤底筋の損傷リスクを高めます。分娩時の会陰切開や裂傷が適切に修復されなかった場合も、長期的な影響が出ることがあります。
  • 糖尿病: 長期の高血糖は神経障害を引き起こし、直腸や肛門括約筋を支配する神経の働きを悪くすることがあります。
  • 脳卒中、多発性硬化症、パーキンソン病、脊髄損傷などの神経疾患: これらの病気は、排便をコントロールする脳や脊髄、末梢神経に直接的な影響を与えます。
  • 大腸や直腸の病気: 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、直腸脱、直腸癌、大腸癌など、大腸や直腸自体の病気が原因で便失禁や排便の異常が起こることがあります。特に、直腸癌の手術で括約筋が温存できなかった場合や、直腸の機能が変化した場合に便失禁が生じることがあります。
  • 痔: 重度の痔(特に痔瘻や外痔核)が、括約筋の炎症や線維化を引き起こし、機能低下につながることがあります。また、痔の手術が括約筋の損傷を引き起こすリスクもゼロではありません。
  • 骨盤底筋の機能障害: 出産や加齢、慢性の便秘・下痢、過体重などによって骨盤底筋が弱まると、骨盤臓器脱(直腸瘤、膀胱瘤など)が生じ、これが直腸の形態や機能に影響を与え、便失禁や排便困難を引き起こすことがあります。
  • 認知症: 認知機能が低下すると、便意を感じてからトイレに行くという一連の動作が難しくなったり、トイレの場所を認識できなくなったりして、便失禁につながることがあります。
  • 精神疾患や薬剤: うつ病などの精神疾患や、一部の向精神薬、鎮痛薬、下剤の乱用などが、腸の動きや神経系に影響を与え、便失禁を誘発または悪化させることがあります。

これらの病気や状態が背景にある場合、便失禁の治療は、原因となっている病気の治療と並行して行われることが重要です。既往歴や現在罹患している病気、服用中の薬剤なども、診察時に医師に正確に伝えることが大切です。

若い世代に便失禁が起こる原因

便失禁は高齢者に多いイメージがありますが、若い世代でも起こる可能性があります。若い世代の便失禁の原因は、高齢者とは異なる特徴を持つ場合があります。

若い世代の便失禁の主な原因は以下の通りです。

  • 過敏性腸症候群(IBS): 特に下痢型IBSの場合、急激な腹痛とともに強い便意を感じ、トイレに間に合わない切迫性便失禁を起こしやすいです。ストレスや不安などの心理的な要因が症状を悪化させることがよくあります。
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病): 10代後半から30代にかけて発症することが比較的多い病気です。腸の炎症により、頻繁な下痢や血便が生じ、これが便失禁の原因となります。
  • 慢性的な下痢: 食中毒後の遷延性下痢、特定の食品に対する不耐症(乳糖不耐症など)、薬剤の副作用などが原因で慢性的な下痢が続くと、括約筋が疲弊したり、便意切迫感が生じたりして便失禁につながることがあります。
  • 便秘による溢流性便失禁: 若い世代でも、偏った食事や不規則な生活習慣、無理なダイエットなどが原因で重度の便秘になり、溢流性便失禁を起こすことがあります。
  • 摂食障害: 過度の食事制限や排出行為(下剤の乱用など)は、腸の機能や電解質バランスを崩し、便失禁を含む様々な消化器症状を引き起こす可能性があります。
  • 生まれつきの異常: 稀ではありますが、先天的な肛門や直腸の形態異常、脊髄の発達障害などが原因で、幼少期から便失禁が見られる場合があります。
  • 出産: 若年出産も、前述したように括約筋の損傷リスクを伴います。
  • スポーツやトレーニングによる影響: 激しいトレーニングや特定のスポーツ(例: 重量挙げなど腹圧のかかるもの)が骨盤底筋に負担をかけ、機能低下につながる可能性も指摘されています。
  • 心理的な要因: 強度のストレス、不安、パニック障害などが、腸の動きを異常に活発にさせたり、排便のコントロールに影響を与えたりすることがあります。

若い世代の便失禁は、友人関係、学業、仕事、恋愛など、様々な社会生活に影響を与え、大きな精神的苦痛を伴うことがあります。しかし、若い方の場合、体の回復力が高く、原因に応じた適切な治療や対策によって症状が大きく改善する可能性も十分にあります。恥ずかしがらずに、まずは医療機関に相談することが大切です。

高齢者の便失禁の原因と特徴

高齢者の便失禁は非常に一般的な問題であり、特別養護老人ホームなどの施設に入所されている方では、約半数の方が便失禁を経験しているという報告もあります。高齢者の便失禁は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じることが特徴です。

高齢者の便失禁の主な原因と特徴は以下の通りです。

  • 加齢による生理的変化: 前述の通り、肛門括約筋の筋力低下や直腸の感覚鈍麻、神経伝達の遅延など、加齢に伴う自然な変化が便失禁の基礎となります。
  • 基礎疾患の合併: 高齢者は、脳卒中、パーキンソン病、糖尿病性神経障害、認知症など、便失禁を引き起こしやすい病気を複数抱えていることが多いです。これらの病気は、排便のコントロールだけでなく、移動能力や認知機能にも影響を与え、トイレへのアクセスや排便のタイミングの認識を困難にします。
  • 薬剤の影響: 複数の薬剤を服用していることが多く、便失禁を悪化させる可能性のある薬剤(下剤の乱用、精神安定剤、睡眠薬など)の影響が無視できません。特に下剤の使いすぎは、腸の動きを異常にし、便失禁を誘発・悪化させる典型的な例です。
  • 運動不足と活動量の低下: 身体活動が減ると、腸の蠕動運動が鈍くなり、便秘になりやすくなります。重度の便秘は、溢流性便失禁の原因となります。また、運動不足は全身の筋力低下を招き、排便に必要な腹筋や骨盤底筋の力も弱まります。
  • 栄養状態や水分摂取量の不足: 食事量が減ったり、水分を十分に摂らなかったりすると、便が硬くなり、便秘になりやすくなります。また、栄養不足は全身の筋力低下を招きます。
  • トイレ環境や介護体制の問題: 高齢者の場合、自宅や施設でのトイレまでの距離、トイレの構造(段差や手すりの有無)、介助者のサポート体制などが、便失禁の発生や悪化に影響を与えることがあります。トイレに間に合わない物理的な問題が、切迫性便失禁のように見えることもあります。
  • 認知機能の低下: 認知症の進行に伴い、便意を正確に認識したり、トイレに行くという行動を結びつけたりすることが難しくなり、失禁につながります。

高齢者の便失禁は、転倒リスクの増加、皮膚トラブル(おむつかぶれなど)、尿路感染症のリスク上昇など、他の健康問題にもつながることがあります。また、羞恥心から外出を控えがちになり、社会的な孤立を深める原因にもなります。高齢者の便失禁に対しては、単に失禁パッドやおむつを使用するだけでなく、原因を特定し、可能な範囲での改善を目指すアプローチが重要です。多職種(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、介護士など)による連携ケアが効果的な場合が多くあります。

便失禁で現れる症状

便失禁の症状は、その原因や種類によって様々ですが、主な症状は「便意を我慢できない」「意識しないうちに便が漏れる」といった、排便のコントロールができなくなる状態です。

便意が我慢できない(便意切迫感)

便意切迫感は、便意を感じてから短時間のうちに非常に強い便意となり、我慢することが困難になる症状です。この強い便意のため、トイレに間に合わずに便が漏れてしまう状態が切迫性便失禁です。

症状の特徴:

  • 突然、強い便意を感じる。
  • 便意を感じてから数分以内、あるいは数秒のうちに我慢の限界が来る。
  • トイレが近くにあっても、駆け込む時間がない。
  • 硬い便よりも、柔らかい便や水様便、ガスの場合に起こりやすい。
  • ストレスや不安、特定の飲食物(コーヒー、アルコール、辛い物など)の摂取が引き金となることがある。
  • 過敏性腸症候群(下痢型)や炎症性腸疾患、神経系の障害、直腸の感覚過敏などが原因となることが多い。

便意切迫感は、外出先や職場など、すぐにトイレに行けない状況では特に不安が大きく、社会生活に支障をきたしやすい症状です。常にトイレの場所を気にするようになったり、外出を避けたりすることにもつながります。

意識しないうちに便が漏れる(便漏れ)

「便漏れ」は、必ずしも強い便意を伴わず、気づかないうちに、あるいは些細な動作や力みの際に便が漏れてしまう状態を指します。これは漏出性便失禁(溢流性便失禁)受動性便失禁、あるいは軽度の括約筋機能低下による症状として現れることが多いです。

症状の特徴:

  • 便意をほとんど感じないまま、下着に少量の便(泥状、半固形、液状など)が付着していることに気づく。
  • おならだと思って力を抜いたら、一緒に便が漏れてしまった。
  • 咳やくしゃみ、重い物を持つなど、お腹に力が入った時に便が漏れる(腹圧性)。
  • 排便後、完全に便が出きったと思っても、しばらくしてから少量漏れる(残便感や不完全な排便に関連)。
  • 重度の便秘があり、硬い便塊(宿便)の周囲を水っぽい便が流れ出る(溢流性)。
  • 括約筋の損傷や神経系の障害、直腸の感覚鈍麻などが原因となることが多い。

このタイプの便失禁は、本人も気づきにくいため、下着の汚れで初めて便漏れに気づくこともあります。特に高齢者や寝たきりの方、認知症の方などでは、便意を正確に伝えられなかったり、排泄のコントロールが難しくなったりするため、意識しないうちに便が漏れるという症状が顕著に見られることがあります。少量の便漏れであっても、繰り返される場合は便失禁のサインとして医療機関への相談を検討すべきです。

その他の関連する排便の悩み(大小便失調など)

便失禁は、単独で起こるだけでなく、他の排便や排尿に関する悩みと併発することが少なくありません。これらの関連症状がある場合、便失禁の原因を特定する上で重要な手がかりとなります。

便失禁と関連して現れる可能性のある排便・排尿の悩み:

  • 尿失禁: 便失禁と同じ骨盤底筋や神経系の問題によって引き起こされることが多いため、尿失禁(特に切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁)を合併する方が多く見られます。特に女性では、出産や加齢に伴う骨盤底筋の弱化が、大小便両方の失禁につながることがあります。
  • 便秘: 特に慢性の便秘は、溢流性便失禁の直接的な原因となるだけでなく、直腸の感覚鈍麻や括約筋への過負荷につながり、他の種類の便失禁のリスクも高めます。便が出し切れずに直腸に便が溜まっている状態(直腸性便秘)は、便失禁と密接に関連します。
  • 下痢: 慢性の下痢は、切迫性便失禁の主要な原因の一つです。過敏性腸症候群や炎症性腸疾患などが背景にあることが多いです。
  • 排便困難: 便意はあるのにうまく便を出し切れない、強くいきまないと便が出ない、直腸に便が残っている感じがする(残便感)といった症状も、便失禁と同時に見られることがあります。これは、骨盤底筋の協調運動障害(排便時に肛門括約筋がうまく弛緩しない)や直腸瘤(直腸が膣側に飛び出す)、直腸重積(直腸の一部が別の部分に重なる)など、骨盤底の機能障害が原因である場合があります。これらの問題があると、便が直腸に滞留しやすくなり、結果的に便失禁につながることもあります。
  • 便意の異常: 便意を感じる回数が異常に多かったり(頻便)、逆に便意をほとんど感じなかったり(便意鈍麻)といった症状も、便失禁と関連することがあります。

これらの排便・排尿に関する悩みは、相互に影響し合っている場合が多く、包括的な評価と治療が必要です。医療機関に相談する際は、便失禁の症状だけでなく、これらの関連症状についても詳しく伝えることが、正確な診断と適切な治療法の選択につながります。

便失禁の検査と診断

便失禁の診断は、まず詳細な問診から始まり、症状や生活習慣、既往歴などを丁寧に聞き取ります。その後、原因を特定するために様々な検査が行われます。

医療機関で行われる主な検査

便失禁の原因を特定し、適切な治療法を選択するために、以下のような検査が組み合わせて行われます。全ての検査が必要なわけではなく、患者さんの状態や症状に応じて医師が必要と判断した検査が実施されます。

検査の種類 目的・内容
問診 いつから、どのくらいの頻度、どのような状況で失禁するか、便の状態(硬さ、頻度)、既往歴(出産、手術、病気)、服用中の薬、生活習慣などを詳しく聞き取ります。便失禁のタイプを特定する上で最も重要です。
排便日誌 患者さん自身に数日間、排便や失禁の状況、食事内容などを記録してもらいます。症状のパターンや、原因のヒントを客観的に把握できます。
視診・触診(直腸診) 肛門周囲の皮膚の状態(かぶれ、ただれなど)、括約筋の収縮力や弛緩を指で確認します。括約筋の損傷や直腸瘤、直腸癌などの異常がないかを調べます。
肛門内圧検査 細いチューブを肛門に挿入し、安静時の肛門括約筋の圧(安静時圧)や、排便を我慢する時の随意的な収縮圧(最大随意収縮圧)を測定します。括約筋の機能低下の程度を評価できます。
直腸バルーン検査 バルーン(風船)付きのチューブを直腸に挿入し、徐々にバルーンを膨らませていきます。便意を感じ始める量、強い便意を感じる量、直腸が耐えられる最大容量、便を溜めておける時間などを測定し、直腸の感覚や容量、括約筋の反射を評価します。
直腸肛門反射検査 直腸を刺激した際に、肛門括約筋が反射的に収縮するかどうかなどを調べます。神経系の障害を評価するのに役立ちます。
肛門括約筋超音波検査(経肛門超音波検査) 超音波プローブを肛門内に挿入し、肛門括約筋(特に内肛門括約筋と外肛門括約筋)の形態を詳細に画像化します。括約筋の損傷や断裂の有無、程度を直接確認できます。出産や手術による損傷の評価に有用です。
MRI(骨盤部MRI) 骨盤底の構造や括約筋、周囲の組織、神経などを詳細に画像化します。複雑な損傷や、他の臓器(直腸、膀胱、膣など)との関連(直腸瘤など)を評価するのに用いられます。神経の圧迫なども診断できる場合があります。
筋電図検査 肛門括約筋や骨盤底筋に針電極を刺し、筋肉の電気的な活動を測定します。神経から筋肉への信号伝達に異常がないか、筋肉そのものの状態などを評価します。
神経伝導速度検査 括約筋を支配する神経(陰部神経など)に電気刺激を与え、筋肉が反応するまでの時間を測定します。神経の損傷や機能低下の有無、程度を評価できます。
大腸内視鏡検査 下痢や血便を伴う場合、炎症性腸疾患や大腸癌、直腸癌などの病気が隠れていないかを確認するために行われます。
排泄造影(デフェコグラフィー) 造影剤を混ぜた便を直腸に入れ、レントゲン透視下で排便時の直腸や肛門の動きを観察します。直腸瘤、直腸重積、骨盤底筋の協調運動障害など、形態的・機能的な問題を評価できます。

これらの検査の結果を総合的に判断し、便失禁の原因を特定します。原因が特定できれば、それに応じた適切な治療法が選択されます。患者さんの状態によっては、これらの検査に加えて、尿失禁の評価や神経内科的な検査、精神的な評価などが必要となる場合もあります。

便失禁の治療法

便失禁の治療法は、原因、重症度、患者さんの年齢や全身状態などによって異なります。多くの場合、複数の治療法を組み合わせて行われます。治療の目標は、便失禁の症状を軽減し、日常生活の質(QOL)を改善することです。

治療法は大きく分けて、保存療法(薬物療法、リハビリテーション、生活習慣の改善)、手術療法があります。まずは保存療法から開始し、効果が不十分な場合に手術療法が検討されるのが一般的です。

薬物療法について

薬物療法は、便失禁の原因となっている病気や、便の状態を改善することを目的として行われます。失禁そのものを直接止める特効薬というよりは、失禁を間接的に軽減する薬が用いられます。

主な薬物療法:

薬の種類 作用・目的 適用される便失禁のタイプ・状況
止痢薬 腸の動きを抑えたり、腸からの水分吸収を促進したりすることで、便の回数を減らし、便を硬くします。 慢性の下痢や切迫性便失禁の原因が下痢にある場合に使用されます。過敏性腸症候群や炎症性腸疾患に伴う下痢にも。
緩下剤(便軟化剤、膨張性下剤、浸透圧性下剤など) 便に水分を含ませて柔らかくしたり、便のカサを増やしたりすることで、排便をスムーズにします。硬い便による便秘や溢流性便失禁の改善に用いられます。便意切迫感を軽減することもあります。 便秘による溢流性便失禁、硬い便による便意切迫感がある場合。下剤の選択は便の状態や原因に応じて慎重に行われます。
腸管機能調整薬 腸の異常な収縮を抑えたり、腸の水分分泌や吸収を調整したりすることで、下痢や便秘、腹痛などの過敏性腸症候群の症状を改善します。 過敏性腸症候群に伴う便失禁や便意切迫感に対して。
消化管運動改善薬 腸の動きを活発にしたり、逆に遅くしたりすることで、便の通過時間を調整します。便秘や下痢、胃のむかつきなどに応じて使い分けられます。 便秘や下痢が原因となっている便失禁に対して。
抗うつ薬、抗不安薬 精神的な要因(ストレス、不安)が便失禁の症状を悪化させている場合や、過敏性腸症候群に合併している場合に使用されることがあります。腸の動きを調整する作用を持つものもあります。 精神的な要因が強く関与している場合、過敏性腸症候群に合併する場合。
抗コリン薬 膀胱の収縮を抑える薬ですが、腸の動きを抑える作用もあるため、切迫性便失禁に用いられることがあります。副作用として便秘になる可能性もあります。 切迫性便失禁に対して、他の治療で効果が不十分な場合に検討されることがあります。

薬物療法を選択する際は、便失禁の原因を正確に診断することが重要です。また、複数の薬を服用している高齢者の場合は、薬の飲み合わせや副作用に注意が必要です。自己判断で市販薬の下痢止めや下剤を長期間使用すると、かえって症状を悪化させることもあるため、必ず医師の指導のもとで行うようにしましょう。

手術による治療法

手術は、保存療法(薬物療法やリハビリテーションなど)で効果が得られない場合や、括約筋の重度の損傷など、特定の原因がある場合に検討されます。便失禁に対する手術はいくつか種類があり、原因や括約筋の状態に応じて選択されます。

主な手術療法:

  • 括約筋修復術(スフィンクター形成術): 出産や外傷などによって肛門括約筋が断裂している場合に、断裂した筋肉を縫い合わせて修復する手術です。機能している筋肉が残っていることが前提となります。この手術によって括約筋の力が回復し、便の保持能力が改善する可能性があります。
  • 仙骨神経刺激療法(SNM: Sacral Nerve Stimulation): 便意や括約筋のコントロールに関わる仙骨神経に弱い電気刺激を与え、神経の働きを調整することで、便失禁の症状を軽減する治療法です。皮膚の下に小型の刺激装置を植え込み、仙骨神経につながる電極を通して持続的に電気刺激を与えます。主に切迫性便失禁や、括約筋の軽度から中等度の機能低下がある場合に有効性が報告されています。まずは一時的に体外式の刺激装置で効果を確認するテスト期間を経てから、植え込み術が検討されます。
  • 人工括約筋植え込み術: 括約筋の機能が著しく低下しており、修復も困難な場合に検討される手術です。肛門周囲に人工の括約筋装置(カフとポンプ)を植え込み、必要に応じてポンプを操作してカフを膨らませたり縮めたりすることで、排便をコントロールできるようにします。比較的大がかりな手術であり、感染などの合併症リスクもあるため、他の治療法が全て無効であった場合に慎重に検討されます。
  • 括約筋増強術(バルク剤注入術): 肛門括約筋の筋肉内にコラーゲンやシリコンなどのバルク剤を注入し、括約筋の厚みを増すことで、便漏れを防ぐ効果を期待する治療法です。軽度の括約筋機能低下による便失禁に有効な場合があります。比較的簡便な処置ですが、効果は一時的であることもあります。
  • 人工肛門造設術: 重度の便失禁で、他のあらゆる治療法でも改善が得られず、日常生活に著しい支障をきたしている場合に、最終手段として検討されることがあります。お腹に人工的な便の出口(ストーマ)を造設し、便をパウチに溜めるようにすることで、肛門からの便失禁を根本的に回避します。QOLの改善につながる場合もありますが、身体的・精神的な負担も大きいため、患者さんや家族と十分に話し合った上で決定されます。

手術療法は、保存療法に比べて侵襲性が高いため、適応を慎重に判断する必要があります。また、手術によって必ずしも症状が完全に消失するとは限らず、術後もリハビリテーションや生活習慣の改善を継続することが重要です。

リハビリテーション(骨盤底筋トレーニングなど)

リハビリテーションは、便失禁の治療において非常に重要な柱の一つです。特に、骨盤底筋の機能低下や、排便時の筋肉の協調運動障害が原因である場合に有効です。薬物療法や生活習慣の改善と組み合わせて行われることが多く、安全で比較的負担の少ない治療法です。

主なリハビリテーション:

  • 骨盤底筋トレーニング: 骨盤底筋は、膀胱や直腸、子宮(女性の場合)を下から支え、尿や便、ガスの排出をコントロールする重要な筋肉群です。骨盤底筋が弱まると、便を我慢する力が低下し、便失禁につながります。骨盤底筋トレーニングは、意識的に骨盤底筋を締めたり緩めたりする運動を繰り返し行うことで、筋力を強化し、機能を改善することを目的とします。
    • 具体的な方法: 座ったり、立ったり、寝たりした姿勢で、お尻の穴をきゅっと締め上げるように、お腹やお尻の筋肉に力を入れずに骨盤底筋だけを意識して収縮させます。数秒キープしてゆっくり緩める、といった動作を繰り返します。どの筋肉を締めれば良いか分かりにくい場合は、排便中に途中で便を止める時の感覚を思い出したり、鏡を見ながら肛門の動きを確認したりすると良いでしょう。
    • ポイント: 正しい筋肉を意識すること、毎日継続することが重要です。自己流で行うのが難しい場合は、専門家の指導を受けることをお勧めします。
  • バイオフィードバック療法: これは、医療機関で行われるリハビリテーションです。肛門括約筋や骨盤底筋にセンサー(表面電極や肛門内圧プローブ)を取り付け、筋肉の収縮の度合いや肛門内圧の変化を、画面上のグラフや音で患者さん自身がリアルタイムに確認できるようにします。患者さんは、画面を見ながら正しい筋肉を意識して収縮させる練習を行います。これにより、自分で骨盤底筋を意識的に動かす感覚を掴みやすくなり、トレーニングの効果を高めることができます。特に、正しい骨盤底筋の動かし方が分からない方や、神経系の問題で感覚が鈍くなっている方に有効です。
  • 排便習慣のトレーニング: 便意を感じたら我慢せずにトイレに行く、毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつける、といった排便のタイミングやリズムを整えるトレーニングです。特に便意切迫感がある場合や、便秘による溢流性便失禁がある場合に有効です。食事内容や水分摂取量も調整しながら行います。
  • 直腸感覚トレーニング: 直腸バルーン検査などで直腸の感覚が鈍くなっていることが分かった場合に行われることがあります。直腸にバルーンを挿入し、便意を感じる最小の量でバルーンを膨らませ、その感覚を意識する練習を繰り返すことで、直腸の感覚を取り戻すことを目指します。

リハビリテーションは、症状の改善に時間がかかることもありますが、継続することで徐々に効果が現れることが多いです。専門のリハビリテーションスタッフ(理学療法士など)や、骨盤底の専門知識を持つ看護師などの指導のもとで行うと、より効果的で安全です。

生活習慣の改善によるアプローチ

便失禁の症状を軽減し、再発を予防するためには、日々の生活習慣の見直しと改善が非常に重要です。特に、便の状態を整え、排便のコントロールをサポートするような習慣を身につけることが有効です。

生活習慣の改善による具体的なアプローチ:

  • 食事内容の見直し:
    • 食物繊維を十分に摂取する: 食物繊維は便のカサを増やし、適度な硬さと量を保つのに役立ちます。野菜、果物、全粒穀物、豆類などを積極的に摂りましょう。ただし、過剰な食物繊維はガスの発生を増やしたり、腸の動きを活発にしすぎたりする場合もあるため、徐々に増やし、自分に合った量を見つけることが大切です。
    • 水分を十分に摂取する: 特に食物繊維を多く摂る際は、十分な水分摂取が不可欠です。水分不足は便を硬くし、便秘や溢流性便失禁の原因となります。1日に1.5~2リットルを目安に、こまめに水分を摂りましょう。
    • 便失禁を誘発しやすい食品を控える: 個人差がありますが、コーヒー、アルコール、炭酸飲料、辛い物、油っこい物、人工甘味料などは、腸の動きを活発にしたり、便を緩くしたりして、便意切迫感や下痢、便失禁を誘発する可能性があります。症状が出やすい食品があれば、摂取を控えるか量を減らしてみましょう。
    • 規則正しい食事: 毎日決まった時間に食事をすることで、腸の動きのリズムが整いやすくなります。
  • 排便習慣の確立:
    • 決まった時間にトイレに行く習慣をつける: 朝食後など、胃に物が入って腸の動きが活発になる時間帯にトイレに行く習慣をつけると、スムーズな排便につながりやすいです。便意がなくても、決まった時間にトイレに行くことで、排便反射を促すことができます。
    • 便意を我慢しすぎない: 便意を感じたら、できるだけ早くトイレに行くようにしましょう。我慢しすぎると便が硬くなり、便秘や溢流性便失禁の原因となります。
    • トイレでリラックスする: トイレでいきみすぎず、リラックスして排便することが大切です。理想的な姿勢(前かがみになり、膝をお腹より少し高くする)も効果的です。
  • 適度な運動:
    • 全身運動: ウォーキングや軽いジョギングなど、適度な全身運動は腸の動きを活発にし、便秘の予防・改善に役立ちます。
    • 骨盤底筋トレーニング: 日常的に骨盤底筋トレーニングを取り入れることで、括約筋の機能を維持・向上させることができます。
  • 体重管理: 過体重は骨盤底筋に負担をかけ、便失禁のリスクを高める可能性があります。適正体重を維持するよう心がけましょう。
  • 清潔の保持と皮膚の保護: 便漏れがあった場合は、速やかに清潔にし、皮膚を保護することが重要です。刺激の少ない石鹸で優しく洗い、十分に乾燥させ、必要に応じて皮膚保護クリームなどを塗布しましょう。
  • 便漏れ対策グッズの活用: 軽度の便漏れや、外出時の不安がある場合には、吸水性のある下着やパッド、肛門プラグなどの対策グッズを活用することも有効です。ただし、これらは症状を根本的に解決するものではなく、あくまで補助的なものです。
  • ストレス管理: ストレスは腸の動きに大きく影響します。自分に合ったストレス解消法を見つけ、心身のリラックスを心がけることも大切です。
  • 禁煙: 喫煙は血行を悪くし、全身の健康に悪影響を及ぼします。間接的に腸の健康にも影響を与える可能性があり、咳による腹圧の上昇も便漏れの原因となり得ます。
  • 自己判断での下剤・止痢剤の乱用を避ける: 必要に応じて医師の指導のもとで薬を使用することは有効ですが、自己判断で漫然と使用し続けると、かえって腸の機能が損なわれたり、症状が悪化したりすることがあります。

これらの対策は、便失禁の予防だけでなく、健康的な消化器系の維持にもつながります。日々の小さな心がけが、将来の便失禁リスクを減らすことにつながります。

便失禁に関するよくある質問

「漏糞」とは具体的にどのような状態ですか?

「漏糞(ろうふん)」とは、医学的な用語としても用いられますが、一般的には「気づかないうちに少量ずつ便が漏れる状態」を指すことが多いです。特に、重度の便秘によって直腸に便塊が溜まり、その周囲を通過する液状の便が漏れ出てしまう「溢流性便失禁(漏出性便失禁)」の症状としてよく見られます。

具体的には、

  • 便意をほとんど感じないまま、下着に少量の便が付着している。
  • 泥状や水っぽい便が、意識しない間に少しずつ漏れる。
  • おならと同時に便が漏れることがある。
  • 拭いても拭いても、しばらくするとまた下着が汚れている。

といった状態が含まれます。「漏糞」は、便失禁の一つの形態であり、特に慢性的な便秘が背景にある場合に注意が必要です。単なる「下着の汚れ」として見過ごさず、便失禁のサインとして捉え、原因の特定と治療を行うことが重要です。

高齢者が便をコントロールできないのはなぜですか?

高齢者が便をコントロールできなくなる(便失禁を起こしやすくなる)のは、単一の原因ではなく、加齢に伴う複数の身体的変化が複合的に影響するためです。主な理由は以下の通りです。

  • 肛門括約筋の筋力低下: 加齢により、便を保持する筋肉である肛門括約筋の力が弱まります。
  • 直腸の感覚の変化: 便が直腸に溜まったという感覚が鈍くなったり、直腸の便を溜めておける容量が減ったりします。
  • 神経伝達の遅延: 便意を感じてから脳に信号が伝わり、括約筋に「締めなさい」という指令が届くまでの時間が遅くなることがあります。
  • 基礎疾患の合併: 脳卒中、パーキンソン病、認知症、糖尿病などの病気は、排便をコントロールする神経や筋肉の働きを障害したり、トイレへの移動や排便の認識を困難にしたりします。
  • 薬剤の影響: 服用している薬が、腸の動きや意識レベルに影響を与えることがあります。
  • 便秘: 高齢者は便秘になりやすく、便秘による溢流性便失禁を起こしやすいです。
  • 運動不足や活動量の低下: 腸の動きが鈍くなり、便秘につながります。

これらの要因が重なり合うことで、便意を正確に認識できなかったり、便意を感じても間に合わなかったり、無意識のうちに便が漏れてしまったりといった便失禁の症状が現れます。高齢者の便失禁は、加齢の自然な結果として諦められがちですが、原因に応じた適切なケアや治療を行うことで、症状の軽減やQOLの改善が期待できます。

水っぽい便が漏れる原因は何ですか?

水っぽい便が漏れる場合、いくつかの原因が考えられます。

  1. 下痢: 急性または慢性の下痢がある場合、便が液状または非常に柔らかいため、正常な括約筋でも完全にせき止めるのが難しくなります。特に、強い便意を伴う下痢では、トイレに間に合わずに漏れてしまう切迫性便失禁を起こしやすいです。原因としては、感染性胃腸炎、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、特定の食品への不耐症、薬剤の副作用などが考えられます。
  2. 便秘による溢流性便失禁(漏糞): 直腸に硬く乾燥した便塊が長期間溜まっている場合、新しく作られた液状または半固形の便は、この硬い便塊の周りを通り抜けて漏れ出てしまいます。この場合、大量の便が溜まっているにも関わらず、漏れてくるのは水っぽい便だけという状況が起こります。
  3. 直腸の貯留能力の低下: 直腸が便を溜めておく容量が少なくなっている場合、少量の便でも直腸が満杯になり、便意を強く感じたり、便が漏れやすくなったりします。慢性的な下痢や直腸の手術などが原因となることがあります。
  4. 括約筋の機能低下: 肛門括約筋の力が弱まっている場合、硬い便はまだ我慢できても、水っぽい便やガスは保持するのが非常に難しくなります。

水っぽい便が漏れる場合は、まず下痢があるのか、それとも便秘が背景にある溢流性便失禁なのかを区別することが重要です。排便日誌をつけるなどして、便の状態や頻度を把握し、医療機関に相談する際に詳しく伝えましょう。

括約筋の損傷や弛緩はどうなりますか?

肛門括約筋が損傷したり弛緩したりすると、便を意図的に保持する機能が低下します。肛門括約筋は内肛門括約筋(不随意筋、常に閉まっている)と外肛門括約筋(随意筋、意識的に締められる)の二層構造になっており、これらのどちらか、あるいは両方が機能しなくなると便失禁の原因となります。

損傷や弛緩の結果:

  • 便を我慢する力が弱まる: 特に便意を感じた際に、便を排出するのを我慢する随意的なコントロールが難しくなります。
  • 無意識の便漏れが起こりやすくなる: 通常、内肛門括約筋によって便が常に漏れないように閉まっていますが、この機能が弱まると、特にガスや液状の便が意識しないうちに漏れやすくなります。
  • 便の種類によって漏れやすさが変わる: 一般的に、硬い便よりも、柔らかい便や水様便、ガスの方が、括約筋の力が弱いと漏れやすくなります。
  • 腹圧がかかった時に漏れることがある: 咳やくしゃみ、重い物を持つなど、お腹に力が入った際に、弱くなった括約筋では便をせき止めきれずに漏れてしまうことがあります(腹圧性)。

括約筋の損傷や弛緩の原因としては、出産時の会陰裂傷や手術による損傷、加齢による筋力低下、神経系の障害などが挙げられます。括約筋の損傷が疑われる場合は、肛門括約筋超音波検査などで詳細な評価を行い、必要に応じて括約筋修復術やリハビリテーションなどが検討されます。括約筋の弛緩(筋力低下)に対しては、骨盤底筋トレーニングが基本的なアプローチとなります。

便失禁かもと思ったら:医療機関への相談

便失禁は、非常にデリケートな悩みであり、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまう方が多いです。しかし、便失禁は適切な診断と治療によって改善が見込める病態です。恥ずかしがらずに、勇気を出して医療機関に相談することが、問題解決への第一歩となります。

何科を受診すれば良いですか?

便失禁の原因は多岐にわたるため、どの科を受診すれば良いか迷うことがあるかもしれません。以下に、考えられる受診科をご案内します。

  • 消化器内科: 便秘や下痢、炎症性腸疾患など、消化器系の病気が原因である場合に適切です。腸の動きや便の状態に関する専門的な診療が受けられます。
  • 肛門外科: 肛門括約筋の損傷や、痔、直腸脱など、肛門周囲の形態的な問題や病気が原因である場合に適しています。肛門専門医による詳細な診察や検査が受けられます。
  • 泌尿器科・婦人科: 女性の場合、出産や加齢に伴う骨盤底筋の弱化が便失禁と尿失禁の両方に関わっていることがあります。尿失禁も合併している場合や、婦人科系の既往がある場合は、これらの科で相談するのも良いでしょう。特に、骨盤底機能障害を専門とする医師がいる施設では、包括的な診断と治療が期待できます。
  • 神経内科: 脳卒中やパーキンソン病、多発性硬化症など、神経系の病気が原因である場合に連携が必要となります。排便をコントロールする神経に問題がないかを評価できます。
  • リハビリテーション科: 骨盤底筋トレーニングやバイオフィードバック療法など、リハビリテーションによるアプローチが必要な場合に専門的な指導が受けられます。
  • 総合診療科: 原因がはっきりしない場合や、複数の疾患を抱えている場合など、どこに相談すれば良いか分からない場合にまずは総合診療科を受診するのも良い方法です。初期的な評価を行い、適切な専門医へ紹介してくれます。

まずはかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。かかりつけ医は患者さんの全身状態や既往歴を把握しているため、適切な専門医への紹介がスムーズに行われることがあります。

受診をためらっている間に症状が悪化したり、精神的な負担が増したりすることもあります。「これくらいで相談しても良いのだろうか」「恥ずかしい」と感じる必要はありません。便失禁は多くの人が抱える一般的な悩みであり、医療機関では日常的に扱われています。専門家は守秘義務を厳守し、患者さんの立場に立って最善の解決策を共に探してくれます。

受診する際は、いつからどのような症状があるか、どのような状況で便が漏れるか、便の状態(硬さ、頻度)、便秘や下痢の既往、出産歴(女性)、手術歴、現在服用中の薬、これまでに試した対策などを整理しておくと、スムーズな診察につながります。排便日誌をつけて持参することも非常に有効です。

便失禁は、適切な診断と治療によって、多くのケースで症状の改善やコントロールが可能になります。一人で悩まず、まずは専門家へ相談の一歩を踏み出しましょう。

まとめ

便失禁(便漏れ)は、年齢や性別に関わらず誰にでも起こりうる可能性のある、デリケートな悩みです。少量の下着の汚れから、便意が我慢できずに漏れてしまう状態まで、その症状は様々です。原因も、肛門括約筋の機能低下、神経系の障害、便の状態異常(便秘や下痢)、加齢、出産や手術、特定の病気など、多岐にわたります。若い方から高齢者まで、それぞれの世代に特有の原因があることもあります。

便失禁は、日常生活の質(QOL)を著しく低下させる深刻な問題となり得ますが、「年のせい」「仕方ない」と諦める必要はありません。原因を正確に診断し、一人ひとりの状態に合わせた適切な治療や対策を行うことで、多くのケースで症状の改善が期待できます。

治療法としては、便の状態を整える薬物療法、骨盤底筋トレーニングやバイオフィードバック療法などのリハビリテーション、食事や排便習慣の見直しといった生活習慣の改善、そして重症度や原因に応じた手術療法などがあります。これらの治療法は組み合わせて行われることが一般的です。

便失禁は、勇気を出して医療機関に相談することから始まります。消化器内科、肛門外科、泌尿器科、婦人科、総合診療科など、症状に応じて適切な科を受診しましょう。専門家はあなたの悩みに真摯に向き合い、適切な診断と治療法を提案してくれます。

便失禁は決して特別なことではなく、多くの人が抱える悩みです。一人で抱え込まず、まずは専門家へ相談し、適切なケアにつなげることが、より快適な生活を取り戻すための大切な一歩です。

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