うつ病による治療をしているなかで、どのようなきっかけで治るのか気になる方もいるのではないでしょうか。うつ病は何かをきっかけにすぐ回復に向かうものというより、波がありつつも少しずつ改善していく傾向にあります。
この記事では、うつ病の回復の経過や改善のためのポイントなどをご紹介します。うつ病がどのような流れで回復していくのかを知れば、時期にあわせて適切に治療ができるでしょう。
うつ病とは
うつ病は気分障害の1つで、身体的・精神的なストレスなどによって脳のエネルギーが不足して、さまざまな症状が表れます。
事故や大切な方との別れなどの大きなストレスがきっかけの場合もありますが、明確な原因がなく、自覚がないうちに発症するケースもあります。うつ病の症状や特徴は人それぞれで、生活に少し支障が出るような軽度の状態もあれば、周囲の方でも気づくほどの重度のものもあるでしょう。
また、うつ病は以下のようなタイプに分けられることもあります。
メランコリー型 | ・ストレスの積み重ねによって発症する ・体重減少や罪悪感、食欲不振などの症状がある |
非定型 | ・楽しいことには気分がよくなる ・食欲があり、体重増加や過眠、倦怠感などの症状がある ・他人からの批判に敏感 |
季節型 | 季節の移り変わりによってうつ病が発症したり改善したりする |
産後 | ホルモンバランスの変化や子育てに対する不安などによって、産後4週以内に発症する |
うつ病の特徴によって対処法も異なるので、当てはまりそうなタイプがあれば医師に相談してみましょう。
うつ病が治るきっかけは?
うつ病は、何かをきっかけにすぐに治るものとは限りません。骨折やケガの治療と同じように、うつ病も改善にはある程度の期間が必要とされています。その治療の過程でも、よくなったり悪くなったりなどの波があるでしょう。
しかし、焦らずに少しずつ改善に向かうことで、症状が安定して以前のような状態に戻る「寛解」につながります。うつ病はネガティブな気持ちが強くなりやすいので、回復の途中で症状が悪化してしまう可能性はゼロではありません。
症状が安定したら小さなものでもよいので、ポジティブな達成感を積み重ねて「自分でも役に立っている」という意識を持つことが大切です。
うつ病の回復の経過|治るきっかけは病気の理解から始まる
うつ病の回復の経過では、大きく以下の3段階に分かれます。
- 急性期
- 回復期
- 安定期(再発予防期)
それぞれの時期によって特徴や症状が異なるので、段階にあわせた治療が重要です。
ここでは3つの時期について詳しく解説します。
1.急性期
1つ目の急性期は、うつ病と診断されてから1〜3カ月ほどの期間のことです。急性期は気分の落ち込みや不眠、食欲不振などの身体的・精神的な症状が強く出る傾向にあるのが特徴です。
症状が強く、活動するためのエネルギーが不足している状態なので、ストレスからなるべく離れて十分に心身の休養に努めることが大切です。薬物療法による治療もおこないつつ、焦らずにじっくりと回復を待ちましょう。
このように、症状が強く現れている急性期は、ストレスにさらされにくい環境作りが重要です。
2.回復期
次の回復期は、症状が落ち着いて元気や意欲が少しずつ戻ってくる時期です。うつ病と診断されてから、4カ月〜半年ほどの期間が回復期の目安です。
この時期は症状がよくなって調子が戻りやすいので、通常通りの生活を送りたいと感じる方もいるでしょう。しかし、まだ調子には波があるので、やる気が高いと感じた翌日に症状が悪化してしまった、というケースも珍しくありません。
回復期は症状悪化のリスクもあるため、調子がよくなりはじめても焦らず、少しずつできる範囲を広げることが大切です。
3.安定期(再発予防期)
安定期(再発予防期)では、回復期を過ぎて症状がさらに安定してくるようになる時期です。安定期を迎える時期は、うつ病と診断されてから1年以降が目安です。
この時期では症状が比較的落ち着いているため、社会復帰をしたり、普段の生活を送ったりする方も多いでしょう。しかし、うつ病は状態が安定していても症状がぶり返して再発する恐れがあるので、まだ油断はできません。再発のリスクを予防するために、引き続き治療を継続する必要があります。
また、不調のサインに気づけるように、家族や周囲の方にも症状を説明して、協力体制を得られるとよいでしょう。
うつ病が治るきっかけは適切な治療を受けることから
うつ病が治るきっかけとして重要になるのが適切な治療です。うつ病の代表的な治療としては、以下の3つです。
- 休養(環境調整)
- 薬物療法
- 精神療法・カウンセリング
ここではそれぞれの治療について詳しく解説します。
1.休養(環境調整)
1つ目は、休養によって心身をしっかりと休ませる方法です。うつ病は活動するエネルギーが切れている状態といえるので、まずはストレスから離れて疲れた心身を癒すことが大切です。特に症状が強くなりやすい急性期では、休養の重要度が高いといえるでしょう。
どの程度休養を取るのかは、症状によって変わります。仕事場面では作業量を減らす、残業をしないなどの対応はもちろん、休職して長期間休むことを検討する必要もあります。
休養のための環境調整を1人でおこなうのが困難な場合は、家族や職場の上司などと協力しながら進めていきましょう。
2.薬物療法
2つ目は、治療薬によって症状を軽減し、心身の回復をサポートする薬物療法です。薬物療法は、休養や精神療法などのほかの治療と一緒に併用するケースも多くみられます。
うつ病の方によく使用される治療薬は「抗うつ薬」です。抗うつ薬には脳の神経伝達物質を活性化させて、精神を安定させる効果が期待されています。抗うつ薬は即効性のある治療薬ではなく、効果が現れるまでには2週間ほどかかるといわれています。そのため、焦らずに効果が現れるまで服用を続けることが大切です。
治療薬による副作用もあるので、服薬後に違和感があったり症状がつらかったりするときは医師に相談してみましょう。また、不安やイライラを軽減させる抗不安薬、不眠の方のための睡眠薬など、ほかの治療薬を併用する場合もあります。
3.精神療法(心理療法)・カウンセリング
3つ目は、治療者との対話によって心身のストレスの軽減を図る精神療法(心理療法)やカウンセリングです。精神療法やカウンセリングにはさまざまな種類があり、うつ病の方には「認知行動療法」や「対人関係療法」などをおこなうことがあります。ここではそれぞれの種類の内容について解説します。
3-1.認知行動療法
認知行動療法とは、身体的・精神的なストレスを感じたときのとらえ方を変えて、心身の負担軽減につなげる治療法です。
ある出来事に対してネガティブに考えるのではなく、ポジティブな面を含めた広い視野でとらえる練習をします。たとえば、仕事のミスに対してネガティブな方向で考えてしまうと、余計にストレスが溜まる原因となります。しかし、とらえ方を変えて「このミスを次に活かそう」とポジティブに変換できれば、落ち込みや不安の軽減が期待できるでしょう。
認知行動療法はうつ病だけでなく、さまざまな心身の不調のある方の治療法としても用いられています。また、認知行動療法によってうつ病の改善がみられた方は、薬物療法で治療した場合と比較して再発率が少ないとされています。
3-2.対人関係療法
対人関係療法とは、対人関係のなかで生まれる感情の変化に注目した治療法です。うつ病を引き起こすきっかけにはさまざまな原因がありますが、そのなかの1つには対人関係があります。また、うつ病の症状によって対人関係に支障をきたす恐れもあるでしょう。
コミュニケーションで生まれる感情の変化を自覚し、対処する方法を身につけることで症状の改善を目指します。対人関係療法は、うつ病以外にも心的外傷後ストレス障害(PTSD)や摂食障害、そのほかの対人関係の悩みを持つケースでも用いられています。
うつ病が治りにくい方はほかの原因が隠れていることも
うつ病の回復の経過について説明しましたが、場合によっては改善が遅いケースもあるでしょう。その場合は、うつ病以外のほかの原因が隠れている可能性もあります。ここでは、うつ病の改善が遅れる原因として考えられる状態についてご紹介します。
治療抵抗性うつ病
治療抵抗性うつ病にはさまざまな定義があり、おもに以下のようなケースを指す状態です。
- 十分な抗うつ薬を長期間服用したとしても、思うような効果が得られない
- さまざまな治療法を併用しても改善に至らない重度のうつ病のこと
また、治療抵抗性うつ病の状態に類似した「難治性うつ病」という言葉もあります。
このようなうつ病の場合は、普段とは別の治療方法の実施を検討します。抗うつ薬以外の治療薬を併用する、脳に直接作用させる「電気刺激療法」を実施するなどがおもな例です。
うつ病の治療をしても一向に改善がみられず、不安に感じる場合は医師に相談してみましょう。
双極性障害への移行
うつ病から「双極性障害」に移行している可能性もあります。双極性障害は「躁うつ病」とも呼び、気分が高まる「躁状態」と、落ち込んでいる「うつ状態」が定期的に繰り返される状態です。
うつ病の方が双極性障害と診断される割合は10人に1〜2人、再発を繰り返しているうつ病の方の場合は10人に3〜4人になるとされています。双極性障害とうつ病ではそれぞれ特徴が異なるので、別の方法に切り替えて治療を進める場合もあります。
うつ症状だけでなく、エネルギーに満ち溢れている躁状態を感じるときがある方は、一度医師に相談してみましょう。
併存症による問題
うつ病の方のなかには、「不安障害」や「パーソナリティ障害」などを併発している可能性もあります。
不安障害とは、人が本来備わっている「不安」の感情が限度を超えて、身体的・精神的な症状や行動の変化を引き起こしてしまう状態です。不安障害は、さらに以下のような種類に分類されており、それぞれ症状や特徴が異なります。
- パニック障害
- 社会不安障害
- 強迫性障害
- 全般性不安障害
一方で、パーソナリティ障害とは、ほかの方とは違う反応や行動をとることで、周囲だけでなく本人も悩んでしまう状態です。これは物事のとらえ方や考え方など、その方の個性から生じるものと考えられます。パーソナリティにも情緒的で不安定となりやすい性質や、不安感や恐怖感が強い性質など、さまざまなタイプがあります。
これらの併存症があると、うつ病の改善が長引きやすくなる恐れがあるでしょう。
うつ病が治るきっかけを作りやすい行動
うつ病が治るきっかけ作りのためには、どのような行動がよいのでしょうか。ここでは、治療の過程で意識したい行動についてご紹介します。
焦らず回復するのを待つ
うつ病の治療には時間がかかるので、焦らず自身のペースで回復を待つことが大切です。うつ病で休んでいるなかで、「自分だけ休んでいて罪悪感がある」「早く仕事に戻らないと」などと焦ってしまう方もいると思います。
しかし、そこで無理をしたり仕事復帰を早めたりすると、症状が悪化するリスクが高まる恐れがあります。うつ病の方にとっては、何もせずに休むことも大切な治療の1つといえるでしょう。その点をおさえたうえで、焦らずゆっくりと心身を休めてください。
治療を途中で中断しない
症状が落ち着いたとしても、自己判断で治療を中断しないようにしましょう。うつ病が改善して普段の調子が戻ってくると、「もう大丈夫かな」と考えて治療薬の服用や通院を中断する方は珍しくありません。
しかし、途中で治療を中断した結果、症状が悪化してしまった、というケースもあります。医師の指示通りに治療を進めて、途中で中断しないように注意しましょう。治療薬の服用や通院の頻度を減らしたい場合は、医師と相談しながら決めることが大切です。
日の光を浴びる
うつ病によって生活リズムが乱れないように、朝起きたら日の光を浴びましょう。日光を浴びると、「セロトニン」という脳内物質の分泌が促されます。このセロトニンには、体内時計をリセットしたり、精神を落ち着かせたりする効果があるとされています。
一方で、セロトニンの分泌が低下すると体内時計が乱れるだけでなく、精神が不安定となってうつ病が悪化する恐れがあるのです。生活リズムを整えてうつ病の改善につなげるためにも、日の光を浴びる習慣を作ることをおすすめします。
生活習慣を整える
食事や睡眠、適度な運動などを意識して生活習慣を整えましょう。生活習慣の乱れによって発症する糖尿病や肥満などの生活習慣病は、うつ病の悪化につながるとされています。
生活習慣を整える具体的な方法としては、以下の通りです。
- 適度な運動をする
- 食事の栄養バランスを整える
- 禁煙する
- アルコールやカフェインを摂取しすぎない
- 就寝・睡眠時間を一定にする
- 睡眠の質を高めるために、寝る前はパソコンやスマホを見ない
生活習慣病はうつ病だけでなく、脳卒中や心臓病など、健康に大きな悪影響を及ぼす病気を発症するきっかけにもなります。生活習慣を整えて、心身の健康を維持しましょう。
うつ病が治るきっかけに関するよくある質問
ここでは、うつ病に関してよくみられる質問について解説します。
うつ病が治らない原因には性格が影響している?
うつ病になりやすい、あるいは治らない原因は、性格にも関係があるとされています。特に以下のような性格の方は注意をする必要があるでしょう。
- 几帳面で真面目
- 責任感が強い
- 仕事熱心
- 勤勉
- 完璧主義
- 他人に気を遣いやすい
- 他人の評価を気にしやすい
このような性格は長所でもある反面、物事への柔軟な対応が難しく、1人でストレスを抱え込みやすい傾向にあります。そのため、適度な休養にも罪悪感を覚えたり、過度に自分を責めたりしてうつ病の回復を遅らせてしまう可能性があります。
うつ病になったら一生付き合わなければいけない?
「うつ病は一生付き合わなければいけない」という不安を持っている方もいるかもしれませんが、適切な治療をおこなえば回復が期待できます。うつ病を抱える方の多くは、以前の状態である「寛解状態」を迎えられるとされています。
しかし、誰もがすぐに寛解できるとは限りません。回復過程でも波があったり、回復後も再発のリスクがあったりするケースも珍しくないので、根気よく治療を継続することが大切です。改善具合も人それぞれなので、焦らずに自分のペースで治療を進めていきましょう。
うつ病が治るきっかけは焦らず治療を進めること
うつ病は何かのきっかけですぐに改善するものではなく、長期的な視点で焦らずに治療に取り組むことで寛解が期待できます。症状が安定していても油断はせず、再発予防のために自己判断で治療を中止しないように注意しましょう。
また、うつ病が長引く場合はほかの原因が隠れている可能性も考えられるので、あらためて受診するのも1つの手段です。うつ病の治療で不安に感じている方は、1人で抱え込まずにメンタルクリニックに相談してみましょう。
参考サイト・文献
・厚生労働省 こころの耳|ご存知ですか?うつ病
・厚生労働省|気分障害:ヘルプノート:こころもメンテしよう
・厚生労働省 こころの耳|精神療法:用語解説
・認知行動療法 – e-ヘルスネット – 厚生労働省
・身体症状症の対人関係療法における心理教育|JSTAGE
・働く女性への対人関係療法|JSTAGE
・治療抵抗性うつ病に奏効する薬剤の創薬を目指してー電気けいれん療法の有用性と脳由来神経栄養因子(BDNF)の関与ー|JSTAGE
・厚生労働省 こころの耳|難治性うつ病:用語解説
・近畿大学|双極性障害(躁うつ病)の治療
・なかなか治らないうつに対し、どの様に捉え、どの様に対処すべきだろうか
・不安症 / 不安障害 – e-ヘルスネット – 厚生労働省
・セロトニン – e-ヘルスネット – 厚生労働省
・肥満や高脂血症、食生活・運動習慣がうつ病と関連~11,876 人を対象とした大規模ウエッブ調査で明らかに~|国立精神・神経医療研究センター
・厚生労働省|生活習慣病を知ろう! | 健康イベント&コンテンツ
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