うつ病の治療しながら働いている人のなかには、仕事量や職場内のストレスなど、さまざまな原因でうつ病が悪化し、退職を考え始めている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
「退職したいときは誰に相談したらいいの?」
「うつ病で退職手続きはどうしたらいいのか」
「うつ病で退職しても問題ないのだろうか」
などの疑問を持たれている人もいることでしょう。そこでこの記事では、うつ病で退職するときの流れや退職前後におこなうべき各種手続きについて解説いたします。
うつ病が原因で退職しても問題ない?
結論から申し上げますと、うつ病を理由にしての退職に大きな問題はありません。
うつ病の状態が重く仕事が困難になった、もしくは職場の環境がうつ病の原因の1つと考えられるなどの場合は、無理して仕事を続けるのは、病気をさらに悪化させることになります。
厚生労働省の2021年「労働安全衛生調査(実態調査)」でも、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業したまたは退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%(2020年9.2%)となっています。また、退職した労働者の割合は4.1%(2020年3.7%)でした。
この結果から見ても、うつ病が原因で退職する人は少なくないと考えられます。病気治療に専念するためにも、退職は選択肢の1つとして考えて差し支えありません。
うつ病で退職する際にやるべきこと
うつ病で退職する際にやるべきことはいろいろとあります。ここでは、退職前と退職時、退職後の3つに分けてご紹介します。
1.退職前
退職前にやることとしては以下の3つが挙げられます。
- 医師の診断を受ける
- 家族に相談する
- 労災申請を検討する
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 医師の診断を受ける
最近は、うつ病かどうか自己診断できるサイトやアプリなどがあります。しかし、退職を考えている場合は、心療内科やメンタルクリニックなどの専門医療機関からの診断書が必要になることがあるため受診をしてください。
医師に現状を伝え、退職した方がよい状況なのかアドバイスを受けましょう。また診断書は、退職後失業保険や傷病手当金の手続きをする場合も、必要になるからです。
2. 家族に相談する
退職が望ましいという診断が出た場合、退職後の生活設計について、家族と話し合いましょう。しばらく療養に専念するか、すぐに転職活動を始めるかなど、生活設計の方法はさまざまです。
可能であれば、前項で紹介した「医師の診断を受ける」際に家族も同席するほうが望ましいでしょう。うつ病の状況によっては、本人だけで診察を受けるよりも、家族同席のほうが状況を正確に伝えられるうえ、家族も医師から本人の病状を聴けます。
3. 労災申請を検討する
うつ病の原因が長時間残業や上司からのハラスメントなど職場環境によるものであれば、労災申請を検討します。うつ病が労災と認定されるためには、労働基準監督署による調査や審査が必要になります。
精神障害の労働災害認定要件は、以下の3つです。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
しかし、この3つが認められるためにはさまざまな調査を経なくてはいけません。このため、一般的に精神障害が労災として認められるケースは少ないといわれます。ですが、申請自体は可能ですので、申請時にはお近くの労働基準監督署にご相談ください。
当院であれば、当日の診断書発行も対応をしております。不安な人に寄り添っての治療を心がけておりますので、自分の症状を知りたい人はいつでもご相談ください。
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2.退職時
退職時におこなうことは、以下の3つです。
- 職場に退職の意思を伝える
- 引き継ぎ後、有給休暇を消化する
- 退職手続きをおこなう
一つずつ詳しく解説していきます。
1.職場に退職の意思を伝える
職場によって異なりますが、一般的に、退職の申し出は2~3カ月前におこなうことが望ましいといわれています。しかし、うつ病が悪化しており、早急に退職するほうがよい場合もあるでしょう。
法律上では、2週間前に申し出ることで退職が認められます。
民法第627条第1項では、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定められています。
直属の上司に退職の意思を伝え、承認されたら、退職届を提出します。退職届提出時にうつ病の診断書提出を求められたら、指示に従いましょう。
職場によっては、退職届を提出する前に退職願を提出する場合もあります。退職の申し出が受理された時点で、上司もしくは人事担当者に確認してください。
2.引き継ぎ後、有給休暇を消化する
後任者に業務を引き継ぎ後、可能であれば退職前の有休消化期間に入ります。
職場によっては退職前の有給休暇取得を拒否されることもあるかもしれませんが、法的には問題ありません。
労働基準法第39条では、有給休暇に関して以下のように定めています。
- 雇い入れの日から起算して6カ月間継続して勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤していること
上記2つの条件を満たしていれば、一般的に最低でも10日の有給休暇が付与されます。上記条件を満たしている場合には有給取得は可能ですので、職場と話し合ったうえで消化をおこなっていきましょう。
また、引き継ぎに関しては、後任者が内容を正確に把握できるように、余裕があれば、引き継ぎ書を作成して渡すとよいでしょう。
3.退職手続きをおこなう
離職票の受け取り、貸与品の返却など、職場の規定に沿って退職のための諸手続きをおこないます。手続きは、直属の上司や人事担当者の指示に従うことが一般的です。
特に離職票は、失業保険申請に欠かせないものですので、必ず受け取りましょう。
その他の手続きに関しては、職場によって異なることもあるため必ず担当者に確認を取るようにしてください。
3.退職後
退職後に必要となる手続きは以下の3つです。
- 年金と保険の切り替え手続き
- 失業保険の手続き
- 傷病手当金の手続き
この中には、期限が決められているものもあるので、できるだけ早めにおこなってください。
1.年金と保険の切り替え手続き
年金の切り替え
会社員の場合、厚生年金と国民年金両方に加入しており、給与天引きで年金保険料が納付されています。しかし退職後は、国民年金に切り替え、自分で国民年金保険料を納める必要があります。
国民年金への切り替えについては、退職から14日以内に、お住まいの市区町村役場で手続きをおこなってください。
なお、退職後すぐに再就職する場合や、厚生年金を受給している配偶者の被扶養者になる場合は、手続きが若干異なります。
詳しくは日本年金機構の、国民年金に加入するための手続き及び、会社を退職した時の国民年金の手続きをご覧ください。
健康保険の切り替え
退職すると、今まで加入していた健康保険(保険証)は使えなくなります。退職後の健康保険加入の選択肢は以下の3つです。
- 国民健康保険への加入
- 今まで加入していた保険の任意継続
- 家族の保険の扶養に入る
国民健康保険加入の場合は退職後14日以内、任意継続の場合は退職翌日から20日以内に手続きをする必要があります。扶養に入る場合は、家族の勤務先に相談の上、手続きを進めてください。
2.失業保険の手続き
退職後すぐに働く意思があるにもかかわらず、再就職が困難な場合は、失業保険(雇用保険の失業手当)を申請することが可能です。居住地を管轄するハローワークに行き、手続きをおこなってください。
手続きに関しては、ハローワークインターネットサービス – 雇用保険手続きのご案内に詳しく書かれてあります。
3.傷病手当金の手続き
傷病手当金は、けがや病気で一定期間仕事を休んだときに受給されるものです。健康保険に加入していて、下記の1から4の条件を全て満たした人が対象になります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
また、退職日まで1年以上健康保険被保険者であり、退職時に傷病手当金を受けていた、もしくは上記の受給条件の1から3を満たしていた場合は、退職後も受給されます。
ただし、傷病手当金と失業保険との同時受給はできませんので注意が必要です。
うつ病で退職後、再就職する際に活用できる就労サービス
うつ病で退職後すぐに再就職するか、しばらく療養に専念するかは、個人の状況によって異なるでしょう。
ここでは、再就職を考えた際に活用できる、主な就労サービス機関を5つ紹介します。
- ハローワーク
- 転職エージェント
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
- 地域障害者職業センター
ご自身に合ったところを選んで活用してみるとよいでしょう。
1.ハローワーク
ハローワークは、失業保険の手続きのほか、就職相談や職業訓練、求人情報の提供など、就職に関するさまざまな支援をおこなう機関です。
障害者専門の相談窓口もあり、障害について専門的な知識を持つ担当者と、福祉・教育などの関係機関が連携した「チーム支援」をおこなっています。
- 再就職への不安がある
- 自分に向いている仕事が分からない
- 面接で自分の病気や体調のことをうまく説明する自信がない
- 再就職しても長続きするかが心配である
などの不安があれば、相談してみてください。
2.転職エージェント
転職エージェントでは、
- 求人紹介
- キャリアカウンセリング
- 応募書類作成サポート
- 模擬面接
- 面接日程の調整
- 給与などの条件交渉
などのサービスを、無料で受けられます。
転職エージェントを利用する際は、担当のエージェントに、うつ病で退職したことや、現在も治療中であること、転職に関する希望などを最初にきちんと伝えましょう。
病気のことを隠して転職しても、その後労働条件や職場の雰囲気、仕事内容などでミスマッチがおきて、うつ病が悪化・再退職に至る可能性もあるからです。
病気や障害を抱える人の支援を専門とする転職エージェントも複数ありますので、選択肢の1つとして考えてみてはいかがでしょうか。
3.障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、就職を希望している人の課題に応じて、仕事面及び生活面での支援をおこなう機関です。
就職に向けた相談支援、就職活動の支援、職場定着への支援や、生活習慣、健康管理、金銭管理といったことへの相談助言をおこないます。
ハローワークや事業主、福祉事務所、保健所、医療機関など他職種の連携による支援です。
2023年4月1日時点で、全国に337ヶ所のセンターが設置されています。
4.就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は、障害者総合支援法に基づいた通所型の福祉サービスです。
障害者雇用を含む一般企業への就職を目指す人を対象に、知識や技能などの職業訓練をおこないます。
また、仕事の適性や課題を見極めるためのプログラムや、一般企業での職場実習などもおこないます。
就職後も、相談対応や企業への環境調整依頼など、職場定着のための支援を一定期間受けられます。
標準利用期限は2年で、利用料金が発生する場合もあります。
利用できるのは、以下の条件を全て満たしている人です。
- 18歳以上65歳未満である
- 離職中である
- 一般企業への就職を目指している
- 精神障害・発達障害・知的障害・身体障害・難病(障害者総合支援法の対象疾病)がある
利用を希望される人は、市区町村役場の障害福祉部署にお問い合わせください。
5.地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害がある人に対して、専門的な職業リハビリテーションをおこなう機関です。
また、職業能力評価や職業準備支援、職場適応援助者(ジョブコーチ)事業、精神障害者総合雇用支援なども実施しています。
求職者だけではなく、障害者を雇用している事業主や企業の人事対象者への相談支援もおこなっています。
障害者雇用促進法22条に基づき、各都道府県に最低1か所以上設置されている機関です。
うつ病で退職する際に気をつけたい2つのデメリット
うつ病による退職は、病気療養の点では問題ありません。しかし実際には、いくつかのデメリットもあることを知っておくとよいでしょう。
ここでは、2つのデメリットをご紹介します。
1.経済的デメリット
一番のデメリットは、退職により無収入になることです。後述する失業保険や傷病手当金などの制度を利用する方法もありますが、給与収入よりは少額であるのが現状です。
すぐに転職活動をおこない再就職できればよいのですが、うつ病の状態によっては難しい場合もあるでしょう。
うつ病が治るまで療養に専念するのも1つの方法ですが、無収入期間が長くなることになります。
うつ病の治療をしながら再就職しても、その後状況が悪化し、休職または退職する可能性もゼロではありません。そうなると、ふたたび経済的な問題が生じるのです。
そのため、退職前には経済的な問題にどのように対処するか考える必要があります。
2.心理的デメリット
「仕事を退職したい」と家族に話した場合、すんなり受け入れられるとは限りません。状況によっては、反対される可能性もあります。
家族が賛成した場合でも、上司に退職を申し出たときに引き止められることもあるでしょう。
自分は退職したいと思っているにもかかわらず、周囲からの反対や引き止めにあうと、大きなストレスにつながることがあります。このストレスが、うつ病を悪化させる可能性もあります。
このような状況になった場合は、家族や上司と話し合い、休職や異動という退職以外の選択肢を検討するのも1つの方法です。
ただし、職場環境がうつ病の原因の1つと考えられる場合はこの限りではありません。
うつ病での退職に関するよくある質問
ここではうつ病での退職に関するよくある質問を3つ紹介します。
- うつ病で退職後働けない場合はどうしたらよいですか?
- うつ病で退職することはずるいことですか?
- うつ病で退職したら失業保険はすぐにもらえますか?
それぞれ詳しく回答していきます。
1.うつ病で退職後働けない場合はどうしたらよいですか?
うつ病で退職後、働けず無収入になった場合は、失業保険や障害者年金などの制度を利用することになります。
障害年金は、 病気やけがで一定程度の障害が残り、働けなくなった場合の生活を保障する制度です。年金事務所や、市町村の年金担当課にお問い合わせください。
精神疾患の場合、自立支援医療精神通院医療費の公費負担という医療費の助成制度があります。うつ病を含め、全ての精神疾患が対象です。
こちらの問い合わせ先は、市町村の担当課や、精神保健福祉センターになります。
また、生計を一にする家族の医療費が、1月から12月までの1年間で10万円を超える場合は、医療費控除の対象となり、所定の手続きをすることで所得税の控除が受けられます。
2.うつ病で退職することはずるいことですか?
うつ病で退職することは、ずるいことではありません。
しかし、うつ病に関する理解が不十分であったり、人員不足の職場環境だったりすると、「うつ病くらいで休むのはずるい」「あの人のせいで、自分の負担が増えた」というように、マイナスイメージを持たれる可能性があります。
周りの目を気にして退職を思いとどまる必要はありませんが、業務内容の引き継ぎをきちんとおこない、周囲の負担を軽くするなどの配慮が求められている現状もあるのです。
3.うつ病で退職したら失業保険はすぐにもらえますか?
失業保険が支給されるには、2~3カ月かかります。
まず、必要書類の提出や、雇用保険説明会への参加など、受給のための手続きをおこなわなくてはなりません。
受給資格があると決定されても、7日間の待機期間があります。待機期間満了後、2カ月から3カ月の給付制限期間を経て、ようやく受給できるのです。
うつ病で退職することは決して逃げではない
この記事では、うつ病での退職に関する情報をご紹介しました。
うつ病で退職することは何ら問題ありません。主治医や家族と相談のうえ、退職を決めたら必要な手続きをおこない、退職に向けて動きましょう。
退職後は、主治医のアドバイスを受けつつ、しっかり休養することが大切です。経済面の不安などから焦って再就職をしてしまうと、うつ病が悪化する可能性もあります。
失業保険や傷病手当金などの制度を利用しつつ、焦らず治療に専念することをおすすめします。
また、病気が回復し再就職を考える時期に入ったら、今回ご紹介した5つの就労サービスを利用するのも1つの方法です。専門家のサポートを受けることで、再就職した職場に定着しやすく、うつ病の悪化を防ぎながら働き続けられるでしょう。
うつ病が回復したあとでも油断は禁物です。治ったと思い、治療を中断すると再び悪化する可能性があります。再就職後も主治医の指示に従い、治療を続けていきましょう。
参考サイト・文献
・厚生労働省|令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
・厚生労働省|精神障害の労災認定
・e-Gov法令検索|民法
・日本年金機構|会社を退職した時の国民年金の手続き
・日本年金機構|国民年金に加入するための手続き
・全国健康保険協会(協会けんぽ)|会社を退職するとき
・全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
・厚生労働省|こころの健康サポートガイド
・厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク|障害のある求職者のみなさまへ
・厚生労働省|障害者就業・生活支援センターの概要
・厚生労働省|就労移行支援事業
・厚生労働省|地域障害者職業センターの概要
・厚生労働省|Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~
・自立支援医療(精神通院医療)について