心身の不調が続いて「もしかしてうつ病かも……」と感じたとき、どのような基準で診断されるのか気になる人もいるのではないでしょうか。うつ病には定められている診断基準があり、簡易テストによってセルフチェックする方法もあります。しかし、うつ病の症状は人によって異なるので、明確な診断を受けるにはメンタルクリニックへの受診が必要です。
この記事では、うつ病の特徴や診断基準、治療内容についてご紹介します。うつ病がどのような状態なのかを知ることで、早期からの発症・症状悪化の予防につながるでしょう。
うつ病の診断基準
まず始めにうつ病の診断基準についてみていきましょう。「DSM-5」と呼ばれる、国際的に定められているうつ病の診断基準は以下の通りです。
【うつ病の診断基準】
(1)以下の項目のうち、「1・2」を含めたうえで5つ以上が2週間以上続いており、日常生活や仕事への支障をきたしている。
(2)当てはまった項目は、ほかの病気や薬、アルコールなどの影響によるものではない (3)当てはまった項目は統合失調症、妄想性障害などによる影響ではない (4)落ち込んだり気分が高まったりを繰り返す躁うつ病ではない |
これらの条件が当てはまった場合、うつ病の可能性があります。
うつ病とは
うつ病とは、身体的・精神的ストレスなどによって脳がうまく働きにくくなり、さまざまな症状が現れる状態のことです。うつ病は日本で100人に6人が発症するともいわれているため、決して珍しい病気ではありません。ここではうつ病の症状や原因などについて解説します。
うつ病の症状
うつ病を発症すると身体的なものから精神的なものまで、さまざまな症状が現れます。身体・精神症状として代表的なものは以下の通りです。
【身体症状】
- 食欲不振
- 不眠・過眠(寝過ぎ)
- 倦怠感
- 身体の重だるさ
- 頭痛・肩こり
- 動悸 など
【精神症状】
- 抑うつ気分
- 自責思考
- 焦燥感
- 不安感
- 反応の遅延
- 意欲の低下 など
症状の種類や重症度は人によって異なるだけでなく、日によって、または時間帯によって調子の波が出てくる場合もあるでしょう。軽症ならある程度普段通りの生活を送れるものの、重症となると身の回りのことが難しくなり、仕事や人間関係にも支障をきたすことがあります。うつ病の症状について詳しく知りたい方は「うつ病の主な症状や分類、回復過程について解説|早期治療がポイント」もあわせて参考にしてみてください。
うつ病を引き起こす原因
うつ病を引き起こすきっかけは1つとは限らず、さまざまな原因が重なって起こるとされています。日々の身体的・精神的ストレスが少しずつ積み重なり、徐々に発症することもあります。大切な人との離別や人間関係のトラブルなど、大きなストレスも1つの要因です。
うつ病の前兆として、先ほど紹介した症状が現れることもあります。そのため、うつ病を発症していないか不安な人は、心身の状態に変化がないかよくチェックすることが大切です。
うつ病になりやすい人の特徴
うつ病になりやすい人の特徴としては、以下があげられます。
- 真面目
- 責任感が強い
- 几帳面
- 仕事熱心
- 完璧主義
このような特徴の人は、頑張りすぎたりほかの人の分まで負担を背負ったりしやすいため、ストレスを溜め込みやすい傾向にあります。そのため、やがてストレスが容量オーバーとなり、結果としてうつ病となってしまうのです。仕事熱心な人や真面目な人は他人からの信頼を得やすく、頼りにされる反面、無理のしすぎには十分に注意する必要があります。
うつ病の簡易診断テストでセルフチェックしてみよう
ここでは国際的に用いられているDSM-5をもとに作成した、うつ病のセルフチェックに沿って確認してみましょう。
ただし、このテストはうつ病を明確に診断するものではないため、あくまでも参考程度にしておきましょう。うつ病かどうかの診断をしてもらいたい人は、メンタルクリニックを受診してください。
うつ病と診断された場合の治療について
うつ病と診断された場合、どのような治療をおこなうのでしょうか。ここでは代表的な治療法についてご紹介します。
1.十分な休養
うつ病の治療の基本として、まずは心身の十分な休養があげられます。ストレスによって疲れてしまった心身を休めて、状態の回復に努めます。
十分に休養するためには、ストレスから離れられるような環境を作ることが大切です。たとえば、仕事場面では残業をやめたり勤務形態を変えたりして、ストレスを必要以上に溜めないようにします。場合によっては有給休暇や休職など職場の制度を活用して、長期的に休む必要もあるでしょう。
心身を休められる環境を作る際は、家族や友人、職場の上司などに相談して協力を得ることをおすすめします。
2.薬物療法
薬の活用によって症状を軽減させて、うつ病の回復のサポートを図る方法が薬物療法です。うつ病に使用される薬で代表的なものが「抗うつ薬」です。抗うつ薬は「セロトニン」や「ノルアドレナリン」など、精神の安定化に関与する脳内物質をサポートする効果が期待されています。
抗うつ薬は即効性のある薬ではないため、効果がすぐに出なくても焦らず服用を継続することが大切です。そのほかにも「抗不安薬」や「睡眠導入薬」など、症状にあわせて別の薬を併用することもあるでしょう。
3.精神療法(心理療法)
対話やワークなどによって、症状の改善を図る方法が精神療法(心理療法)です。精神療法(心理療法)にはいくつかの種類があり、うつ病の人におこなうものとしては「認知行動療法」や「対人関係療法」などがあげられます。
認知行動療法とは、出来事に対しての自身のとらえ方に着目した治療法です。ネガティブな考えだけでなく、ポジティブなとらえ方をする練習をおこなうことで、ストレスの軽減につなげます。
対人関係療法とは、人間関係のなかで生じる感情の変化やストレスに着目した治療法です。人とのコミュニケーションでストレスが現れないような対処法を考えて、症状の軽減を目指します。
うつ病の診断書のもらい方
医療機関でうつ病と診断された場合、休職を検討する人もいると思います。その場合、うつ病の診断書をもらっておくと休職の手続きがスムーズとなるでしょう。
医療機関でうつ病の診断書をもらうには、担当の医師に「休職を考えているので診断書をもらいたい」という旨を伝えてください。診断書には休職期間が記載されている場合もあるので、どの程度休養が必要なのかを医師と相談しましょう。診断書は即日交付してもらえる医療機関もあれば、数週間かかる場合もあります。急いで診断書をもらいたい人は、事前にいつ交付してもらえるのかを聞いておきましょう。
うつ病を予防するためのポイント
うつ病の発症、または悪化を予防するために、日常生活でおさえておきたいポイントがいくつかあります。ここではそのポイントについてご紹介します。
ストレスを察知できるようになる
ストレスをすぐに察知できるようになると、その後の対処がしやすくなります。ストレスを察知するための指標の1つとしては、うつ病でよくみられる症状が現れているかをチェックすることです。
ストレスが溜まっている状態が続くと、不安感や食欲不振、不眠などの症状が現れることがあります。それらの症状に気づくことができれば、「ストレスが溜まっているかも……」と自覚しやすくなります。普段とは違う変化に気づき、ストレスを早めに察知できるように意識してみましょう。
ストレスを溜めない方法を身につける
ストレスを溜め込まないための方法を身につけておきましょう。たとえば、仕事を抱え込んでいるときは誰かに助けを求めたり、依頼を断ったりすることでストレスの軽減につながります。
また、すでに溜まっているストレスの解消法を持っておくのも大切です。友人と話す、運動で汗をかくなど、自分にとって気分転換となることをすれば、ストレスを溜め込まずに済むでしょう。このように、ストレスの軽減や発散ができる方法を身につけておくと、うつ病の予防が期待できます。
1人で抱え込まずに誰かに相談をする
ストレスを感じてつらいと感じたら、1人で抱え込まずに誰かに相談してみましょう。無理して1人で解決しようと思っても、よい方法を見つけられないこともあるでしょう。そのままうつ病が発症・悪化してしまうと、さらに治療に時間がかかる恐れもあります。
まずは家族や友人、職場の上司など、身近な人に相談してみましょう。自分の状況を周囲に伝えることで、仕事や生活面でのサポートを受けやすくなります。それでもつらい気持ちが続くようであれば、メンタルクリニックを受診して医師に相談しましょう。早期に相談をすることで、うつ病の発症や悪化の予防につながります。
うつ病かも?と不安な方は医療機関で診断を聞いてみよう
うつ病を発症するとさまざまな症状が現れ、状態が悪化すると生活や仕事にも支障をきたす恐れがあります。うつ病を予防するには、普段からストレスが溜まっていないか意識し、周囲に相談するなどの対策を取ることが重要です。
また、うつ病の症状は人によって異なるので、今回紹介した診断基準やセルフチェックだけで自己判断しないように気をつけてください。うつ病かもしれないと不安な人は、1人で悩まずメンタルクリニックを受診してみましょう。現在の状態にあわせた治療やアドバイスを受けることで、以前のような日常生活を再び送れるようになる可能性が高くなります。
参考サイト・文献
・こころの耳|厚生労働省
・厚生労働省 こころの耳|ご存知ですか?うつ病
・日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
・簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)|厚生労働省
・認知行動療法 – e-ヘルスネット| 厚生労働省
・身体症状症の対人関係療法における心理教育