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コラム全般

PMDD(月経前不快気分障害)とは?症状や治療法、PMSとの違いも解説

精神科医 藤田朋大先生

当記事の監修医師
精神科医:藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医。新宿駅の心療内科・精神科「あしたのクリニック新宿院」で診療を担当



「生理の前はなんだか調子が悪い」「体の症状だけじゃなく、精神的にも症状があるけど大丈夫なのかな……」
このような不安を抱えていませんか?

月経にまつわる悩みやトラブルは、経験したことのある方も多いでしょう。しかし、中には症状が重く、日常生活に支障をきたしてしまうケースもあるのです。月経前に見られる不調のことを、PMS(月経前症候群)といいます。そして、その中でも特に精神的な症状が強く表れている状態を、PMDD(月経前不快気分障害)といいます。

この記事では、PMDD(月経前不快気分障害)の診断基準や症状、原因、治療について解説しています。また、PMS(月経前症候群)やうつ病との違い、よくある質問も紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。

PMDD(月経前不快気分障害)とは

PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder)とは、「月経前不快気分障害」のことです。

月経前に起こる不調はPMS(月経前症候群)と呼ばれ、身体的なものや精神的なもの、またその重症度も人それぞれです。

この症状のうち、精神的な症状を著しく伴うものがPMDD(月経前不快気分障害)に該当するとされています。PMDD(月経前不快気分障害)は、1994年に診断名が定められ、2013年には抑うつ障害群のカテゴリーに分類されました。

PMS(月経前症候群)の中でも、特に精神的な不調が著しい場合に、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されるのです。

PMSとの違いは?

PMS(Premenstrual Syndrome)とは「月経前症候群」のことで、月経前3~10日の間に見られる身体的・精神的症状です。月経開始とともに軽快または消失するのが特徴とされています。

PMS(月経前症候群)ではさまざまな症状が表れますが、精神症状が強く見られる場合にはPMDD(月経前不快気分障害)と診断されます。つまり、PMS(月経前症候群)の中でも精神的な不調が強く、日常生活に支障をきたしてしまう状態がPMDD(月経前不快気分障害)です。

そもそも月経とは?

ここで、月経について改めて確認しておきましょう。個人差はありますが、初めての月経である初潮の平均年齢は12歳、そして閉経するのは50歳だといわれています。

排卵が起こることによって子宮内膜が厚くなりますが、受精に至らなかった場合にはこれが剥がれ、体外に排出されます。この仕組みが月経です。

正常な月経は、下記の表の通りです。

周期25~38日
期間3~7日
経血量20~140ml

月経周期が不規則な場合を「月経不順」、月経の時期以外の出血を「不正出血」といいます。厚生労働省の調査によると、月経が不規則であると回答したのは21.8%で、そのうち医療機関を受診した経験があるのは43.9%でした。月経不順を自覚していながらも、半数以上は受診していないことがわかります。

PMDD(月経前不快気分障害)の診断基準

PMDD(月経前不快気分障害)について、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)を紹介します。

A.ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。

B.以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。

  (1)著しい感情の不安定性(例:気分変動:突然悲しくなる,または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)

  (2)著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加

  (3)著しい抑うつ気分、絶望感、自己批判的思考

  (4)著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚

C.さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。

  (1)通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退

  (2)集中困難の自覚

  (3)倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如

  (4)食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望

  (5)過眠または不眠

  (6)圧倒される、または制御不能という感じ

  (7)他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または腫脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加

D.症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。

E.この障害は、ほかの障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。

F.基準Aは、2 回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)。

注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。

出典:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014

PMDD(月経前不快気分障害)が疑われる場合には、医師が診察して状態を把握し、診断されます。

この診断基準をもとに、PMDD(月経前不快気分障害)はどのような症状が表れるとされているのかを見ていきましょう。

PMDD(月経前不快気分障害)の症状

先に述べたDSM-5の診断基準によると、PMDD(月経前不快気分障害)では、下記の症状のうち1つ以上が存在するとされています(基準B)。

  • 著しい感情の不安定性
  • 著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
  • 著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
  • 著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚

さらに、下記の症状のうち1つ以上が存在し(基準C)、先ほどの基準Bと合わせて5つ以上の症状になるとされています。

  • 通常の活動における興味の減退
  • 集中困難の自覚
  • 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
  • 食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
  • 過眠または不眠
  • 圧倒される、または制御不能という感じ
  • 他の身体症状

PMDD(月経前不快気分障害)では情緒不安定、怒り、不安、抑うつ気分などの症状が表れ、日常生活に支障をきたしてしまうことがわかるでしょう。

PMDD(月経前不快気分障害)のセルフチェック

月経前の心身の不調によって、「PMDD(月経前不快気分障害)かもしれない……」と不安になることもあるでしょう。

ここでは、PMS(月経前症候群)/PMDD(月経前不快気分障害)のセルフチェックを紹介します。月経開始1週間前頃から表れ、日常生活や仕事などに実際に支障が出ているものを選択するようにしてください。

感情が不安定になる
  • はい
いらだち、怒りの感情があり、対人関係でいさかいが増える
  • はい
うつっぽさ、絶望感を感じ、自分に批判的になる
  • はい
不安、緊張、高ぶっているという感覚がある
  • はい
仕事・学校・友人関係・趣味に対しての興味が減る
  • はい
集中力が低下する
  • はい
疲れやすく、気力がわかない
  • はい
食欲が増したり、特定の食べ物を食べたくなる
  • はい
過眠または不眠になる
  • はい
圧倒される、または自分をコントロールできない感覚がある
  • はい
乳房の痛みや張り、関節痛や筋肉痛、頭痛、むくみ、体重増加などの身体症状がある
  • はい

出典:月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)チェック|ヘルスケアラボ(厚生労働省研究班)

「はい」と答えた数と内容によって、PMS(月経前症候群)またはPMDD(月経前不快気分障害)の可能性があるかがわかります。なお、セルフチェックの診断結果はこちらを参照してください。

ただし、これはあくまでセルフチェックなので、気になる症状がある場合には医療機関で相談することをおすすめします。

PMDD(月経前不快気分障害)の原因

PMDD(月経前不快気分障害)の原因やメカニズムは正確にはわかっていませんが、黄体ホルモンの変動が関係していると考えられています。PMDD(月経前不快気分障害)の症状が表れるのは、黄体期のエストロゲンが減少する時期と一致しているといえるからです。

また、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの増加を促す薬が有効であることから、神経伝達物質も関与しているのではないかと考えられています。

加えて、PMDD(月経前不快気分障害)がある場合、うつ病の並存率が高い傾向にあります。うつ病は、セロトニンやノルアドレナリンなど神経伝達物質の減少が原因であるとされています。PMDD(月経前不快気分障害)と神経伝達物質の関係性を裏づける一例といえるでしょう。

PMDD(月経前不快気分障害)の治療

PMDD(月経前不快気分障害)の治療は、主に非薬物療法と薬物療法の2つです。まずは薬を使用せず生活習慣を見直すことで、症状が軽い場合には改善が見られるケースもあります。

しかし、PMDD(月経前不快気分障害)は、PMS(月経前症候群)の中でも精神的な症状を伴うものとされています。つまり、薬物療法が適している場合もあるのです。症状が気になる場合には無理をせず、できるだけ速やかに受診して適切な治療をおこなえるようにしましょう。

生活習慣の見直し

PMDD(月経前不快気分障害)は、食事療法や生活の改善、運動などによって症状の緩和が期待できるとされています。規則的な生活、適度な運動、ストレス対策を心がけましょう。

食事療法は具体的に、下記のようなことが挙げられます。

  • 低脂肪食、ビタミンB6、ミネラルの豊富な食事を摂る
  • 糖分や塩分、カフェインの摂取を控える

これらを、薬物療法をおこなう前に試したり、薬物療法と並行しておこなったりすることで、症状の改善が期待できるでしょう。

薬物療法

PMDD(月経前不快気分障害)の薬物療法では、主に抗うつ薬や抗不安薬などを使います。中でも抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、第一選択薬とされています。

特に抑うつやイライラといった症状が強い場合には、SSRIの効果が期待されます。これらの症状は、セロトニンの低下と関係していると考えられているためです。SSRIは連日服用するほか、黄体期(月経前の約2週間)のみ服用する方法もあり、症状の程度などによって使い分けられています。

PMDD(月経前不快気分障害)のよくある質問

ここでは、PMDD(月経前不快気分障害)に関するよくある5つの質問について見ていきましょう。

  • PMDDで受診する目安は?
  • PMDDは婦人科と精神科のどっちに行けばいいの?
  • PMDDになりやすい人は?
  • PMDDとうつ病の違いは?
  • 自分でできるPMDD対策はある?

それぞれ詳しく解説していきます。

PMDDで受診する目安は?

月経の前には、何らかの症状を経験したことのある方も少なくないでしょう。PMDD(月経前不快気分障害)は、PMS(月経前症候群)の中でも精神的な症状が顕著に表れている状態です。

厚生労働省の調査によると、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)があるときに「我慢している」と答えたのは38.5%でした。このことから、症状があってもなかなか受診には至っていない現状がわかるでしょう。しかし、日常生活に支障をきたすほどの症状が繰り返し起こる場合には、一度医師に相談することをおすすめします。

PMDDは婦人科と精神科のどっちに行けばいいの?

PMDD(月経前不快気分障害)の症状がある場合、婦人科と精神科のどちらを受診しても問題ありません。しかし、月経周期が不安定だったり、出血量が多かったり少なかったりする場合には、婦人科で相談してみるとよいでしょう。婦人科でPMDD(月経前不快気分障害)と診断されれば、状況に応じて精神科や心療内科に行くことも可能です。

また、「PMDD(月経前不快気分障害)の治療」の章でも述べたように、PMDD(月経前不快気分障害)の薬物療法の第一選択薬はSSRIという抗うつ薬です。そのため、精神的な症状が強い場合には、精神科や心療内科で相談するとよいでしょう。

PMDDになりやすい人は?

一般的に、PMDD(月経前不快気分障害)はストレスによって症状が悪化するといわれています。中でも、家庭や仕事におけるストレスが増加しやすい30代では、症状が悪化しやすいとされています。

PMDD(月経前不快気分障害)のリスク因子として、下記のようなことが考えられています。

  • ストレス
  • 季節の変化
  • マタニティブルー、産褥期うつ病

また、生活習慣の改善によって症状の緩和が期待できる点から、不規則な生活をしている場合にもリスクが高まるといえるでしょう。

PMDDとうつ病の違いは?

PMDD(月経前不快気分障害)とうつ病の違いは、月経が関係しているかどうかです。PMDD(月経前不快気分障害)は月経周期に伴って起こる規則性がありますが、うつ病は月経周期に関係なく症状が表れます。この点が、PMDD(月経前不快気分障害)とうつ病の異なる点だといえるでしょう。

また、DSM-5によると、PMDD(月経前不快気分障害)はうつ病やパニック障害などが増悪したものではないとされています。近しい症状が見られ、ときには並存することもありますが、別個の疾患として位置づけられています。

自分でできるPMDD対策はある?

PMDD(月経前不快気分障害)では、食事や生活習慣の見直しによって症状が改善するケースがあるとされています。食事では、特に動物性タンパク質を摂るとよいでしょう。動物性タンパク質には、鉄や亜鉛、ビタミンB6など、症状緩和の一助となる成分が多く含まれています。また、カフェインの摂りすぎには注意しましょう。

そのほか、ストレスをためないことや適度な運動、規則正しい生活も効果的だといわれています。十分な睡眠やリラックスする時間の確保も、PMDD(月経前不快気分障害)の症状緩和に有効でしょう。

PMDD(月経前不快気分障害)かもしれないと思ったら医師に相談しよう

月経の前には、精神的にも身体的にもあらゆる不調が起こることがあります。この不調はPMS(月経前症候群)と呼ばれ、月経の3~10日前に見られます。PMS(月経前症候群)の中でも精神的な症状が顕著に表れている状態が、PMDD(月経前不快気分障害)です。主な症状は、情緒不安定や怒り、抑うつ気分、不安などで、加えて身体的な症状が表れることもあります。これらによって日常生活に支障をきたしている場合に、PMDD(月経前不快気分障害)が疑われます。

PMDD(月経前不快気分障害)の原因ははっきりと解明されていませんが、黄体ホルモンが関係していると考えられています。治療は、まず生活習慣の見直しをおこない、改善が見られなければ薬物療法をおこないます。薬物療法の第一選択薬は、SSRIと呼ばれる抗うつ薬です。

PMDD(月経前不快気分障害)とうつ病は似ている点もありますが、月経周期に関係しているかどうかが異なります。月経開始とともに症状が軽快・消失することから、我慢してしまう方も少なくないでしょう。しかし、適切な治療によって対処できることもあるのです。気になる症状がある場合には、まずは受診してみることが大切です。ぜひ、お気軽にご相談ください。

参考サイト・文献
PMS、PMDDの診断と治療|白土なほ子|J-STAGE
精神科からみた PMS/PMDD の病態と治療|大坪天平|J-STAGE
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|日本産科婦人科学会
産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020|日本産科婦人科学会
月経について|働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省委託事業
「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす 影響に関する調査」単純集計結果(2022年3月28日)|厚生労働省
月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)チェック|ヘルスケアラボ(厚生労働省研究班監修
月経前症候群(PMS)|日本女性心身医学会



藤田 朋大先生

当記事の監修医師
藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医

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