「学校に行かないといけないのに、朝方にならないと眠れない」
「先生や友人から、だらしないと言われてつらい」
「日中は眠たくて、とてもじゃないけど仕事ができない」
このような悩みがある方は、もしかすると概日リズム睡眠障害の可能性があるかもしれません。
概日リズム睡眠障害は、何らかの原因で体内時計をうまく調節できないため、眠りたい時間に眠れない疾患です。
概日リズム睡眠障害には3つの治療方法があり、基本的には心療内科や精神科などの医療機関で医師による診察や治療を受ける必要があります。
本記事を読むと、
- 概日リズム睡眠障害の概要
- 概日リズム睡眠障害の治療方法
- 概日リズム睡眠障害との向き合い方
などがわかります。
セルフチェック表も用意していますので、気になる方は参考にしてください。不眠症全般について詳しく知りたい方は「不眠症とは?4つのタイプと眠れない原因、受診の目安を解説」もあわせて参考にしてみてください。
概日リズム睡眠障害とは
わたしたちの体には、生理機能や日常行動などの1日のリズムを調節する「体内時計」があります。そして1日の周期リズムを「概日リズム」と呼びます。
1日は24時間ですが、実は体内時計の周期は約25時間です。1時間のズレを修正するのが体内時計の役割ですが、生活習慣や環境の変化によりズレを修正できない状態がつづくと、睡眠のリズムが崩れてしまいます。
このように、体内時計の周期を外界の24時間周期に同調させられないために起こる睡眠の障害を「概日リズム睡眠障害」といいます。
概日リズム睡眠障害になると、社会的な生活の流れに合わせた睡眠と覚醒のパターンを維持するのが困難です。日中の眠気や体調不良を引き起こし、日常生活に支障をきたす場合があるため適切な治療が必要です。
概日リズム睡眠障害のセルフチェックをしてみよう
概日リズム睡眠障害は、睡眠をとるべき時間帯にまとまった睡眠がとれないため、日常生活のさまざまな場面に支障が出ます。
自分自身が概日リズム睡眠障害に当てはまるかどうか、セルフチェックをしてみましょう。
当てはまる項目が多いほど、概日リズム睡眠障害の可能性があります。
当てはまる項目が多かったり、不安になったりした方は、早めにメンタルクリニックで専門の医師の診察を受けることをおすすめします。
概日リズム睡眠障害の3つの治療方法
概日リズム睡眠障害の治療方法は主に3種類あります。
- 生活習慣の改善(行動修正)
- 薬物療法
- 高照度光照射療法
それぞれ順番に解説します。
1.生活習慣の改善(行動修正)
概日リズム睡眠障害を改善するには、生活習慣から見直す必要があります。具体的な行動としては、以下の14項目です。
1.規則的な睡眠の リズムを心がける | 体内時計のリズムを一定化させるために、毎日できるだけ同じ時間帯に就寝し、同じ時間帯に起床するようにしましょう。 |
2.寝る前の日課を作る | 寝る前の日課を作ると意識が睡眠へと向かい、寝つきやすくなります。歯磨きや洗顔、ストレッチなど、就寝前のルーティンを作ってみましょう。 |
3.眠りやすい環境を整える | 寝室が明るかったり騒音で騒がしかったりすると、睡眠の妨げになる可能性があります。できるだけ暗く静かな環境にし、必要であればアイマスクや耳栓を使用しましょう。また、夏や冬は空調を使用し、室内を適温に保つのも効果的です。 |
4.枕を調整する | 良質な睡眠を得るためには、枕の高さや硬さにも配慮が必要です。横向きになって寝ることが多い方は、枕の高さを肩幅に合わせるなどの工夫が必要でしょう。 |
5.寝室は眠るときだけ使用する | 食事やテレビ鑑賞など、目がさえる行動を避けるために、寝室は眠るときだけ使用するようにしましょう。 |
6.無理に眠ろうとしない | ベッドに入って20分経っても寝つけないときは、無理に寝ようとせず一旦起きてもかまいません。別の部屋で読書や勉強などをして過ごし、眠たくなってからベッドに戻ると寝つきやすくなります。 |
7.運動を習慣化する | 運動による、ほどよい疲労感は良質な睡眠に効果的です。就寝する直前の運動は逆に目がさえてしまう可能性があるため、5時間前までにおこなうとよいでしょう。 |
8.何も考えずにリラックスする | 日常生活のストレスや不安は睡眠を妨げます。就寝時間になっても眠たくならない場合は、本を読んだりお風呂に入ったりするなど、自分なりのリラックス方法でくつろぎましょう。 |
9.寝る前はテレビやスマホを見ない | テレビ鑑賞やゲーム、スマホでのネットサーフィンは脳への刺激が強いため、寝つきがわるくなる可能性があります。就寝1時間前にはテレビやスマホを見るのは控えましょう。 |
10.アルコールなどの 刺激物は控える | アルコールを摂取すると眠りが浅くなる傾向にあります。ほかにも、コーヒーや紅茶などのカフェインを含む飲み物は覚醒効果や利尿作用があるため睡眠を妨げます。 |
11.寝る前に 温かいものを口にする | 空腹や身体の冷えは寝つきをわるくします。どうしてもお腹が空いて眠れないときや、身体が冷えて寝つけないときは、あたたかいスープやノンカフェインの飲み物などを飲むのも効果的です。 |
12.時間を気にしすぎない | 時間を気にしすぎると不安が増して寝つきがわるくなる場合があります。時計の向きを変えるなどして、できるだけ時間を気にしない工夫をしましょう。 |
13.日中に太陽の光を浴びる | 太陽などの光を浴びるのは、睡眠のリズムを整えるのに効果的です。起床後すぐカーテンを開ける、日中に散歩するなどして意識的に太陽の光を浴びるようにしましょう。 |
14できるだけ昼寝は控える | 無計画に昼寝をすると、夜間眠れなくなる可能性があります。昼寝をする場合は、毎日同じ時間帯で30分以内にするなど、計画的におこないましょう。 |
2.薬物療法
概日リズム睡眠障害の薬物治療では、メラトニン受容体作動薬の服用が効果的です。
メラトニンは、脳の松果体という場所で作られる催眠作用のあるホルモンで、睡眠・覚醒を調整する役割を担っています。そのため、メラトニン分泌量のコントロールが概日リズム睡眠障害を治療するカギとなります。
メラトニン受容体作動薬を服用する時間は、睡眠と覚醒のリズムによって異なります。入眠と起床の時間帯によって、夕方に服用するか、朝方に服用するかなどが判断されるのです。
また、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系の薬も補助的に使われますが、これらはあくまで入眠を助けるものであり、起床困難などの副作用があるため、積極的には使用しません。
3.高照度光療法
高照度光療法は、体内時計を整えるためにおこなう、光を利用した治療方法です。治療には2,500ルクス以上(コンビニやパチンコ店は約1,000ルクス)の明るさを必要とするため、専用の装置が必要です。
太陽などの強い光は、催眠作用をもつメラトニンというホルモンの分泌を抑制します。分泌を抑制されたメラトニンは、約14〜16時間後に再分泌されるようになり、睡眠を促します。高照度光照射療法は、このような特性を利用して体内リズムの調整を図る治療方法です。
ただし、下記のような副作用があるため注意が必要です。
- 頭痛
- 眼精疲労
- 倦怠感
- イライラ感
- 口の渇き
- 発汗
- 顔面のほてり
- 軽度の動悸
- めまい
- 不眠
専門医による診察を受け、症状に合わせた方法で治療を受けるのが望ましいでしょう。
概日リズム睡眠障害のタイプは6つ
概日リズム睡眠障害には以下の6つのタイプがあります。
- 睡眠・覚醒相後退障害
- 睡眠・覚醒相前進障害
- 不規則睡眠・覚醒リズム障害
- 非24時間睡眠・覚醒リズム障害
- 交代勤務睡眠障害
- 時差障害
それぞれ順番に解説します。
1.睡眠・覚醒相後退障害
睡眠・覚醒相後退障害は、通常より2時間以上遅い睡眠・覚醒サイクルが特徴です。たとえば「夜型」と言われるように、朝方に眠りにつき、お昼前に起床するといった睡眠と覚醒のリズムです。
特に若者に多いとされており、学校や仕事に遅れないように無理やり起床時間を合わせようとするため、睡眠時間が短くなる傾向にあります。
2.睡眠・覚醒相前進障害
睡眠・覚醒相前進障害は、睡眠と覚醒のリズムが早くなるタイプで、夕方に眠り、早朝に目が覚めます。周囲の生活時間とズレが生じ、家族や友人とすれ違いになってしまうことも。高齢者に多くみられるのも特徴です。
3.不規則睡眠・覚醒リズム障害
不規則睡眠・覚醒リズム障害の典型例は、4時間以上続けて眠れなくなり、1日に数回の仮眠を取るような不規則なリズムが特徴的です。認知症や発達障害、頭部外傷歴のある方に多く見られます。
まとまった睡眠時間がとれないため、認知症の方では夕方に不安や混乱などの不穏症状を引き起こす可能性があります。
4.非24時間睡眠・覚醒リズム障害
非24時間睡眠・覚醒リズム障害は「体内時計」の同調機能が何かしらの原因で働かなくなり、毎日1~2時間程度、睡眠と覚醒のリズムが遅れていきます。
睡眠時間が学校や仕事の時間と合っている時は問題視されません。しかし、リズムが遅れるにつれて日常生活に影響を及ぼしていくのが特徴です。
5.交代勤務睡眠障害
交代勤務睡眠障害は、夜勤や早朝勤務などの影響により睡眠と覚醒のリズムが崩れ、不眠や過度な眠気が生じるタイプです。仕事や出勤中の事故リスクを増加させ、ストレスによる胃潰瘍やアルコール・薬物依存を招く可能性もあります。
6.時差障害
時差のある海外への渡航により、体内時計リズムが乱れた際に生じるタイプです。全身の疲れや不眠、過度の眠気などが主な症状です。
概日リズム睡眠障害は心療内科または精神科へ
概日リズム睡眠障害が疑われる場合は、心療内科や精神科などの医療機関の受診を検討しましょう。
しかし、睡眠時無呼吸症候群や心臓病など、ほかの疾患が睡眠リズムを乱している可能性がある場合は、それぞれの疾患に適した診療科にかかる必要があります。概日リズム睡眠障害だと決めつけてそのほかの疾患を見落としてしまうリスクに注意しましょう。
睡眠障害を専門とした睡眠外来が近くにある場合は、総合的な支援をしてもらえるため、睡眠外来の受診も選択肢となります。
概日リズム睡眠障害とのつき合い方
睡眠のリズムが学校や仕事の時間と一致しない場合、日常生活に大きな影響が出るため深刻な問題になりかねません。しかし、焦ったり不安になったりすると、症状が悪化する可能性があります。ここでは概日リズム睡眠障害とのつき合い方について解説します。
学生の方に向けて
- 学校に行きたい気持ちはあるのに、朝起きられない
- 行けたとしても、授業中に寝てしまい先生に叱られる
このような状況は、精神的にも身体的にもつらく感じるかもしれません。場合によっては学校に通いづらくなる場面もあるでしょう。
このような場合は、学校の先生や友人に概日リズム睡眠障害のことを打ち明けてもよいかもしれません。自分ひとりだけで抱え込まずに、周囲からのサポートを得ることができれば、気持ちが楽になり治療に専念できるからです。
まずは親御さんや信頼のできる知人に相談し、専門の医師のサポートも受けられると安心です。
社会人の方に向けて
概日リズム睡眠障害の症状である、日中の眠気やだるさ、気分の落ち込みは仕事の質に大きな影響を与える可能性があります。また、通勤や仕事中の重大事故にもつながりかねません。
そういった事故を防ぐためにも、周囲の理解とサポートを得るのが大切です。職場への理解を求める際には、医師の診断書が必要な場合があるため、心療内科や精神科などの医療機関で医師の診察を受けるとよいでしょう。
日常生活や仕事への影響が著しい場合には、休職の検討も必要かもしれません。いずれにしても、生活と治療とのバランスが大切なため、医師や職場の上司に相談し、総合的に判断して決めるようにしましょう。
概日リズム睡眠障害を理解して正しく治療しよう
概日リズム睡眠障害は、学校や仕事など社会生活に大きな影響を及ぼします。セルフチェックをおこない、あてはまる項目が多かった方は、まずは自身でできる生活習慣の改善から取り組んでみましょう。
それでも改善が見られなかった場合には、薬物治療など専門的なサポートを受ける必要があります。治療を受けることで症状が改善し、心身ともに負担が軽くなるため、心療内科や精神科などの医療機関への受診を検討しましょう。
参考サイト
・厚生労働省|e-ヘルスネット|概日リズム睡眠障害
・Cleveland Clinic|概日リズム睡眠障害
・日本神経治療学会|標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害
・厚生労働省|e-ヘルスネット|メラトニン
・J-STAGE|概日リズム睡眠障害と光
・日本を元気にする光療法の総合サイト|高照度光療法とは
・大阪市立科学館|照度と明るさの目安
・SLEEP FOUNDATION|概日リズム睡眠障害
・NPO法人日本ナルコレプシー協会|過眠症で悩む中学生高校生の皆さんへ
・厚生労働省|こころの耳|ご家族にできること
・健康づくりのための睡眠指針 2014|厚生労働省健康局