「家族が急に活動的になった」「最近の自分は怒りっぽい気がする……」などと悩んでいる方もいるかもしれません。今までの様子と極端に異なる言動が見られる場合は、双極性障害の可能性があります。
双極性障害は、気分が高揚し活動的になる「躁状態」と、気分が落ち込み意欲が低下する「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。躁状態の場合、攻撃的な話し方が目立つようになるなど、別人に感じるほどの変化が見られることも珍しくありません。
本記事では、双極性障害におけるそれぞれの状態の特徴や症状について解説します。さらに、双極性障害の方との関わり方のポイントもご紹介します。
双極性障害は「話し方」に特徴が見られるケースも
双極性障害とは、気分が高揚して行動的になる「躁状態」と、気分が落ち込み無気力になる「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。躁状態とうつ状態はそれぞれ特徴や症状だけでなく、話し方や行動にも違いが見られます。
有病率は1%ほどであり、原因ははっきりとわかっていません。遺伝性やストレス、身体的変化(加齢や妊娠など)が発症のきっかけとして考えられています。
双極性障害では、躁状態よりもうつ状態の期間のほうが長いケースが多く、うつ病と間違われることも少なくありません。以下の双極性障害の方に見られやすい特徴をもとに、慎重に診断されます。
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さらに双極性障害は、躁状態の症状が激しく表れる「Ⅰ型」と、比較的躁状態が軽い(軽躁状態)「Ⅱ型」に分けられます。
双極性障害は躁・うつ状態で「話し方」や「症状」が異なる
双極性障害では以下の3つの状態が見られます。
- 躁状態
- うつ状態
- 混合状態(躁状態とうつ状態の症状を同時にきたす状態)
「躁状態」と「うつ状態」に加えて、2つの状態が同時に表れる「混合状態」が見られる場合もあります。
躁状態は急に発症する傾向があるとされ、治療を受けないと2~3カ月ほど続くといいます。一方、軽躁状態やうつ状態は治療をせずに過ごすと、6カ月以上続くことも。また、年に4回以上も躁状態とうつ状態を繰り返すこともあるほど、症状が悪化する恐れがあります。
上記の3つの状態以外にも、病状が一時的に安定した状態である「寛解期」という時期もあります。寛解期は、病状が安定しているため、話し方は普段と変わらないことが多いでしょう。
この章では、それぞれの状態に分けて症状や特徴、どのような「話し方」が見られるかを解説します。
躁状態
躁状態は、気分が高揚し活動的な様子などが見られる状態です。そのため、饒舌になったり話し方が攻撃的になったりすることがあります。
躁状態の特徴や症状は、以下の通りです。
- 高揚気分(ハイテンション)
- イライラしやすく怒りっぽい
- 自尊心の肥大
- 睡眠欲求の減少
- 多弁
- 観念奔逸
- 注意散漫
- 活動量の増加
- 快楽活動への熱中(衝動買いや危険な運転など)
- 幻覚や妄想(誇大妄想や被害妄想)
上記の症状の程度や継続時間の違いによって「躁状態」もしくは「軽躁状態」と診断されます。
「躁状態」は高揚気分で活動的になる一方で、イライラしやすく易怒性(怒りっぽい性質)が強くなるため、周囲とのトラブルを起こしやすくなります。躁状態のときは、周囲が普段と異なる様子に気づくことが多いですが、本人は病識が薄く、治療を拒否するケースも少なくありません。
対して「軽躁状態」は、躁状態よりも症状が軽く、日常生活や社会活動に大きな影響を与えないほどの状態を指します。睡眠を必要としなくても活気があり、自信に満ち溢れていることから社会のなかで自分の役割を全うすることも可能です。しかし心身ともに健康なときと比較すると、注意が散漫になり、怒りやすいといった様子が見られることもあります。
気分の高揚から、饒舌になる傾向があります。気が大きくなり、大言壮語が見られることがあるかもしれません。また、イライラしたような言動が目立ち、ときには暴言をはいてしまうこともあります。
うつ状態
うつ状態は気持ちが落ち込み憂うつな気分が続き、意欲の低下などにより行動が制限される状態です。言動も悲観的になる傾向があります。
躁状態と比べてうつ状態の期間は長く、双極性障害の30~50%はうつ状態で過ごすことが多いとされています。
うつ状態の特徴と症状は、以下の通りです。
- 抑うつ気分
- 興味・喜びの喪失
- 食欲の低下
- 不眠
- 精神運動制止(または焦燥)
- 全身の疲労感
- 無価値観・罪責感
- 思考力や集中力の低下
- 希死念慮・自殺企図
うつ状態では、上記の症状が2週間以上続くのが特徴です。
好きだったものに興味がなくなり、何事に対しても意欲が湧かなくなります。躁状態のときに熱中していたものにも興味がなくなることもあります。躁状態のときの自分を責めたり、悲観的な考えばかり浮かんだりして、人によっては死についての思いが芽生えてしまう恐れもあるので注意が必要です。
思考力が低下することから、受け答えがぼんやりとすることがあります。また、後ろ向きな発言が見られるようになることもあります。
混合状態
混合状態は「躁状態」と「うつ状態」の症状を同時にきたす状態です。両者の状態が切り替わるときに出現する可能性が高いといわれています。
気分は高揚しているのに涙が出てきたり、抑うつ気分で意欲は低下しているのに次々と考えが頭に思い浮かんだりと、躁とうつの症状が組み合わさって表れるのが特徴です。気分はうつ状態で落ち込んでいるのに、思考と行動は躁状態のため嫌な考えが止まらず多弁になるといった様子が見られることもあります。
混合状態について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
普段と「話し方」が違うなら双極性障害かも?診断基準とは?
双極性障害は、血液検査や画像検査などで診断を確定することはできず、ICD-10やDSM-5などの診断基準が用いられます。双極性障害は以下の2つに分類され、それぞれ診断基準をもとに慎重に判断されます。
分類 | 双極Ⅰ型障害 | 双極Ⅱ型障害 |
特徴 |
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躁状態と軽躁状態の大きな違いは、症状によって日常生活や社会生活に影響が出ているかどうかです。軽躁は躁よりも症状が軽いのが特徴で、いつもよりも調子がよいと見過ごされてしまうケースが多くあります。一方の、躁状態は入院を要するほど症状が表れます。
DSM-5の診断基準では、軽躁、抑うつエピソードの有無は問わず躁エピソードが1回でも確認できれば双極Ⅰ型障害と診断されます。また、双極Ⅱ型障害は、躁エピソードが過去に1回もなく、軽躁エピソードが少なくとも1回存在し、かつ抑うつエピソードの経験がある場合に診断されます。
双極性障害では攻撃的な話し方になることも|関わり方の4つのポイント
躁状態や軽躁状態のときは本人が問題を抱えていることを自覚しにくく、なかには攻撃的な話し方や行動が見られることも少なくありません。そのため、周囲への迷惑やトラブルが起きやすいといわれています。周囲が双極性障害に対して正しい知識を持ち、理解することが大切です。
この章では双極性障害の方への関わり方を、以下の4つのポイントに分けて解説します。
- 精神疾患であることを理解して共通認識を持つ
- 症状の傾向を知る
- 普段と異なる様子が見られたら受診を勧める
- 本人の気持ちを尊重して受け止める
身近な人が双極性障害を抱えており、関わり方に悩んでいる人はぜひ参考にしてください。
1.精神疾患であることを理解して共通認識を持つ
まずは双極性障害について理解して、罹患者との間で共通認識を持ちましょう。
双極性障害による躁状態のときは気持ちが高揚して、家族や周囲の人に対して、尊大な態度や高圧的な態度を取ることがあります。攻撃的な姿を見たり激しく罵倒されたりすることで、悲しい気持ちや怒りの感情を抱くこともあるかもしれません。
しかし、躁状態のときはその人の人格そのものではないことを理解してあげましょう。不快になる言葉を投げ掛けられたとしても、本意ではないと受け流すくらいでよいかもしれません。双極性障害について深く理解して「精神疾患がそうさせている」との認識を持つことが何よりも大切です。
治療を進めるうえで周囲との間に認識の違いがあると、よい影響は与えず、再発のリスクが高まるとされています。躁状態の症状に振り回されないようにしましょう。
2.症状の傾向を知る
双極性障害は、躁状態とうつ状態が繰り返されることが特徴です。したがって、状態が変わる際の兆候を知っておくことで、適切に対応できるようになります。
罹患者の症状の傾向(躁状態・うつ状態で見られる症状はどのようなものがあるか、どのような様子になるのかなど)を事前に把握しておくことで、変化に早く気づけます。
話し方も、一つのサインになるでしょう。たとえば、躁状態のときには普段よりも饒舌になったり、誰かを責めるような言葉が増えたりすることがあります。一方、うつ状態のときには返答が曖昧になったり、悲観的な発言が目立つことがあります。あるいは、それぞれの状態で口癖になるような言葉があるかもしれません。
傾向を知ったなら対策をするために、どうすれば落ち着けるのかなどを症状が落ち着いているタイミングで話し合っておくことも大切です。それぞれの状態に合う接し方で関わるのが、うまく対応するポイントといえるでしょう。
症状や経過を記録しておくのも、症状と上手に付き合っていくのに効果的とされています。罹患者自身がどのような状況にあるのか、どのような傾向があるのかを、意識し理解しやすくなるからです。情報を共有しておけば、周囲もスムーズに応じることができるようになります。お互いに認識し合えるように記録を残すことを、罹患者が落ち着いているときに勧めてみましょう。
3.普段と異なる様子が見られたら受診を勧める
いつもと違う様子に気づいたら、早めに精神科や心療内科での受診を勧めましょう。それには、躁状態・うつ状態それぞれの状態での特徴や症状を理解しておくことが大切です。行動や様子などに加え、普段よりも熱心に話しかけることが増える、反対に口数が少なくなる、口調や声量、主張が変わるなどの変化にも気をつけてみましょう。
早めに対応することで、症状の悪化や再発予防の効果が期待できます。
しかし「躁状態」のときは、病気である認識が薄いため治療を拒否するケースも珍しくありません。その場合は、症状が落ち着いたタイミングを見計らって病院へ行くように促すとよいでしょう。
また、うつ状態が続くことで「死にたい」などの希死念慮や自殺企図が見られることもあります。そのような様子が見られた場合は、早急に医師へ相談しましょう。状況によっては入院して経過をみることも必要です。
4.本人の気持ちを尊重して受け止める
治療を進めるうえで大切なのは、罹患者の意思や気持ちを尊重して、受け止める姿勢で関わることです。
症状が著しいときは、仕事や日常生活が思うようにこなせない場合もあるでしょう。そのときには、家族や周囲のサポートが必要です。状況によっては休養を取れる環境を整え、心身の負担の軽減に努めることが望ましいケースもあります。
励ましや気晴らしに誘うことは、罹患者にとって負担に感じることもあるため、熟慮しましょう。「自分たちがそばにいる」「いつでもサポートできる」ことを伝えて、安心させることが大切です。
罹患者が気持ちを訴えてきたら、否定したり無理に励ましたりせず、まずは聞き手役に回り気持ちを受け止めてあげましょう。症状によっては、きつい口調であったり要領を得ない表現であったりすることもあるかもしれませんが、何を伝えたいのかに耳を傾けてみてください。
双極性障害は状態によって話し方が異なるケースも
双極性障害は、気分が高揚し活動的になる「躁状態」と、気分が落ち込み意欲低下が見られる「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。人によっては、2つの状態を同時にきたす「混合状態」が表れることもあります。
各状態によって症状や特徴が異なり、「躁状態」のときには、攻撃的な話し方や行動が見られることもあります。「うつ状態」では、ぼそぼそと話したり反応が鈍くなることも予想されます。人格が変わってしまったように感じることもあるかもしれませんが、精神疾患がそうさせていると理解することが大切です。
家族や周囲の人は、双極性障害について正しい知識を持ち、それぞれの状態に合わせた関わり方を考えることが必要です。普段と異なる状態が続く場合や、日常生活や社会活動に支障をきたしている場合には、早めに精神科や心療内科などがある医療機関で受診しましょう。
参考・出典
・双極性障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
・家族や身近な皆さまに知っておいていただきたいこと|大塚製薬株式会社
・双極性障害(躁うつ病)とつきあうために|日本うつ病学会 双極性障害委員会
・双極性障害(そううつ病)|国立精神・神経医療研究センター
・双極性障害|東和薬品株式会社