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双極性障害

双極性障害は一生治らない?治療の目標や心がまえをご紹介

精神科医 藤田朋大先生

当記事の監修医師
精神科医:藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医。新宿駅の心療内科・精神科「あしたのクリニック新宿院」で診療を担当



双極性障害と診断されたときに、「一生治らないのでは……?」と不安に思う方もいるのではないでしょうか。双極性障害は治療を継続すれば症状の改善が見込まれるので、決して治らないものではありません。双極性障害の症状の改善を目指すためには、今の状態を受け入れて治療を継続することが重要です。

この記事では、双極性障害の特徴や治療するうえで心がけたいポイントについてご紹介します。双極性障害に対する心がまえを知ることで、治療に前向きに取り組めるようになり、症状の改善につながるでしょう。

双極性障害は一生治らない?

結論からいうと、双極性障害は治療を継続することで症状の改善が期待できるので、一生治らないものではありません。ただ双極性障害は、寛解(症状が安定すること)した後でも再発する恐れがあります。再発と寛解を何度も繰り返す方も珍しくないため、「双極性障害=一生治らないもの」というイメージをいだいてしまう方もいるでしょう。

しかし、その方の症状にあわせた治療を継続すれば、再発の防止が可能です。「もう一生治らないんだ……」と落ち込まずに、双極性障害の症状の改善に向けて治療に取り組むことが大切です。

双極性障害の特徴

双極性障害とはどのような症状が表れる疾患なのか、あらためて確認してみましょう。この章では、双極性障害の症状や種類などについて解説します。

躁状態とうつ状態を繰り返す

双極性障害になると「躁状態」と「うつ状態」の2つの状態が交互に繰り返されます。躁状態とは、気分が高揚して活動的な状態のことです。一方でうつ状態は気分が落ち込み、何をしても楽しめない状態です。

それぞれの状態では、以下のような特徴や症状が表れます。

【躁状態】

  • 眠らなくても平気
  • 自分が偉くなったように感じる
  • おしゃべりになる
  • 次々と考えが思い浮かぶ
  • 疲れを感じなくなる
  • 湯水のようにお金を使う
  • 軽率な性行動にはしる
  • ささいな事でイライラする、怒りっぽい
  • さまざまなことに興味がわく

【うつ状態】

  • 食欲がなくなるもしくは食欲が増す
  • 不眠または過眠
  • 死にたい気持ちがある
  • 気持ちが落ち着かない
  • 何事も億劫に感じる
  • 今まで楽しめていたことが楽しめない
  • 自分には価値がないと感じてしまう
  • 集中がなくなる

このような状態が交互に表れるのが双極性障害の大きな特徴です。

双極性障害は2種類に分かれる

双極性障害は躁状態の程度によって「双極Ⅰ型障害」と「双極Ⅱ型障害」の2種類に分かれます。

双極Ⅰ型障害では、生活に支障をきたすほどの躁状態が表れるのが特徴です。躁状態による問題行動でさまざまなトラブルを引き起こす可能性があるので、場合によっては入院が必要となります。

双極Ⅱ型障害では、軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態を繰り返します。双極Ⅰ型障害とは異なり、生活に支障をきたすほどの躁状態ではないため、問題行動によるトラブルはあまりみられません。そのため、本人や周囲も双極性障害が発症しているとは気づかないケースもあります。

双極性障害とうつ病の違い

双極性障害とうつ病との大きな違いは「躁状態の有無」です。うつ病とは、身体的・精神的なストレスによって脳のエネルギーが足りなくなる状態のことです。双極性障害のうつ状態と同じように、気分の落ち込みや意欲の低下などの症状が表れます。このとき、過去に躁状態のエピソードがあれば双極性障害、なければうつ病と診断されます。

症状は似ていますが、双極性障害のうつ状態の方がうつ病治療で用いられる抗うつ薬を使用しても十分な効果が得られないとされています。むしろ躁状態への移行を引き起こす恐れもあるため、注意が必要です。 

自身の疾患を正しく把握するためにも、受診の際は躁状態の経験がないかどうかも医師に伝えるようにしましょう。

双極性障害の治療の目標

双極性障害の治療の目標は、症状をコントロールして生活への悪影響を最小限にとどめることです。躁状態・うつ状態の症状は日常生活・社会生活に悪影響をおよぼす恐れがあります。そのため、治療によって躁状態の早期のコントロールや、うつ状態による自殺予防を目指します。

また、双極性障害は治療しないと再発する可能性が高くなります。再発を繰り返して症状が悪化する悪循環を生まないようにするためにも、継続した治療が大切です。

双極性障害の具体的な治療内容

双極性障害では、どのような治療をするのでしょうか。ここでは具体的な治療内容について、以下の3種類を解説します。

  1. 薬物療法
  2. 精神療法(心理療法)
  3. 電気けいれん療法

薬物療法

薬で躁状態とうつ状態の症状をコントロールし、安定した生活を送れるようにサポートする方法が薬物療法です。双極性障害では、「気分安定薬」や「抗精神病薬」と呼ばれる薬が用いられます。

気分安定薬には以下のような種類があり、躁状態とうつ状態の改善・発症の予防効果が期待されています。

  • リチウム
  • ラモトリギン
  • バルプロ酸

抗精神病薬にも躁状態、うつ状態の治療や再発予防の効果があるとされており、おもな種類は以下の通りです。

  • オランザピン
  • アリピプラゾール
  • クエチアピン

それぞれの薬に特徴や副作用があります。医師とよく相談しながら、自身の症状にあった薬で治療を進めていきます。

精神療法(心理療法)

対話によって双極性障害がどのような状態なのかを知り、症状や治療の大切さを理解する手助けをするのが精神療法です。精神療法によって自身の状態を知ることは、双極性障害を受け入れて治療を進めていくための重要な要素といえます。

薬物療法と併用することで自身の変化に気づきやすくなります。そのため、治療を順調に進められるだけでなく、再発のサインに気づいていち早い対処が可能となるのです。

電気けいれん療法(ECT)

電気けいれん療法(以下:ECT)とは、脳に電気刺激を与えてけいれん発作を誘発することで、精神的な障害の改善を図る治療法です。従来の電気けいれん療法(ECT)よりも安全性が高く、身体への負担が少ない「修正型電気けいれん療法(mECT)」もあります。

薬物療法よりも早い治療効果が期待されていることから、ECTを取り扱っている医療機関もあります。

一方で、ECTには記憶障害や頭痛、血圧の上昇などの副作用が表れる場合もあります。ECTの治療を検討する際は、医師と慎重に相談して決めることをおすすめします。

双極性障害が寛解したと判断される目安

双極性障害は人によって症状や状態が異なるため、完治したかどうかを判断する明確な基準はありません。ただし、「完全寛解」と「部分寛解」の基準はあります。

完全寛解状態と判断される基準は、躁状態・うつ状態による症状が表れていない状態が2カ月続くことです。

部分寛解と判断される基準は、一部の症状は残っているものの、目立った症状が表れていない状態が2カ月未満の状態です。これらの状態であれば、双極性障害の治療が順調に進んでいるといえるでしょう。

一方で、「寛解=完治」ではないため、再発して症状が再び悪化する恐れもある点に注意しましょう。症状が落ち着いているからといって油断せず、自己判断で治療を中止しないことが大切です。

双極性障害を治療するときに心がけること

双極性障害を治療するときの心がけることとして、以下の4つのポイントが挙げられます。

  1. 双極性障害を受け入れて治療に集中する
  2. 発症の原因を振り返ってみる
  3. 家族やパートナーに症状を説明しておく
  4. 再発のサインを把握しておく

ここではそれぞれのポイントについて詳しく解説します。

1.双極性障害を受け入れて治療に集中する

1つ目は、双極性障害の症状を受け入れて治療に集中することです。双極性障害の診断を受けたとき、驚いたりショックを受けたりして、素直に受け入れるのが難しい方も多いでしょう。なかには、「すぐに治るだろう」「治療をするほどではない」などと考える方もいるのではないでしょうか。

しかし、そのような考えで治療をおろそかにすると、再発を繰り返してしまう可能性が高まります。双極性障害を受け入れ、早期から治療に取り組みはじめることが、普段の生活に戻るきっかけとなるのです。最初から双極性障害を受け入れるのは難しいかもしれませんが、少しずつ治療の重要性を理解し、真剣に向き合うようにしましょう。

 

2.発症の原因を振り返ってみる

2つ目は、双極性障害を発症した原因を振り返ってみることです。双極性障害を発症する明確な原因はわかっていませんが、これまでの生活で起きたストレスがきっかけの可能性もあります。たとえば、「仕事が忙しく長時間の残業が続いた」「家庭内でトラブルがあった」などの出来事はなかったでしょうか。

双極性障害のきっかけと思われる原因がわかれば、そのストレスの対策が取れるようになり、再発の予防につながります。どのタイミングで双極性障害の症状が表れたのか、その時期にどのような出来事があったのかを振り返ってみましょう。

3.家族やパートナーに症状を説明しておく

3つ目は、家族やパートナーに双極性障害の症状を説明しておくことです。双極性障害で引き起こされる症状は、周囲にも迷惑をかけてしまう場合があります。

特に躁状態では、周囲に対してひどい言葉を放つ、聞く耳を持たなくなるなどの行動をとる可能性があります。このような状態となることを周囲に説明しておかないと、人間関係のトラブルに発展する恐れがあるでしょう。

あらかじめ双極性障害について伝えておき、普段とは違う行動は症状によるものだという理解を得ることが大切です。お互いの双極性障害のとらえ方にズレがないようにしつつ、家族やパートナーと協力しながら治療を進めていきましょう。

4.再発のサインを把握しておく

4つ目は、再発のサインを把握しておくことです。双極性障害は寛解しても再発の可能性があり、どのような症状が表れるのかは人によって異なります。再発のサインを把握するために、身体の変化について注意しておきましょう。

普段から自身の変化について記録しておくのもおすすめです。再発時にどのような症状が表れるのかを把握しておけば、早期に対処できます。家族やパートナーにも再発のサインを共有しておけば、さらに状態の変化に気づきやすくなるでしょう。

双極性障害の治療中の過ごし方について

双極性障害を改善するには、普段の過ごし方も重要なポイントです。ここでは、双極性障害の治療中における過ごし方について解説します。

規則正しい生活を送る

規則正しい生活リズムで1日を過ごしましょう。徹夜したりして寝不足になると、うつ状態から躁状態へ急に切り替わる可能性があります。

また、うつ状態で寝不足になると日中の活動量が余計に落ちて、さらに夜に眠れなくなるという悪循環にもなります。以下のような工夫で規則正しい生活を送り、双極性障害の症状悪化を防ぎましょう。

  • 起床・就寝時間を一定にする
  • 朝に日光を浴びる
  • 軽い散歩で身体を動かす

うつ状態のときは休養に専念する

うつ状態のときは無理に活動しようとはせず、休養に専念しましょう。うつ状態は躁状態とは異なり、頑張りたくても頑張れない状態なので、できる限りストレスを避けながら過ごすのがポイントです。

「早く回復しないと」と焦るのではなく、調子が悪いときは休養をとってやり過ごすことを心がけてください。うつ状態はすぐに治るわけではないため、少しでも気持ちが楽になることを目指しましょう。

双極性障害に関するQ&A

ここでは、双極性障害に関するよくある質問についてみていきましょう。

双極性障害になりやすい性格はある?

双極性障害は、「循環気質」「執着性格」「メランコリー型」と呼ばれる性格になりやすいといわれています。しかし、最近ではあまり関係がないと報告している研究もあります。

それぞれの性格の方には、以下の特徴があります。

  • 循環気質:社交的で活発的である、ユーモアがある
  • 執着性格:仕事熱心で凝り性、正義感と責任感が強い
  • メランコリー型:予定通りに仕事しないと気が済まない、頼まれると断れない

双極性障害になりやすい性格に関しては、あくまでも参考程度に留めておいたほうがよいでしょう。

双極性障害だと記憶が飛ぶことがある?

双極性障害になると、記憶が飛ぶ可能性があります。双極性障害が引き起こす「認知機能の低下」によるものとされています。

認知機能とは、「記憶・注意・判断力」などの人間の脳が持っている高度な機能のことです。この認知機能が低下すると、昨日の出来事を忘れる、物事に集中できなくなるなどの症状が表れます。

双極性障害による認知機能の低下に対する治療法は、はっきりと確立されているわけではありません。睡眠時間を確保する、アルコールの過剰摂取を避けるなどの認知機能を低下させない生活を送ることを心がけましょう。

復職する場合はどんなことに気をつけるべき?

双極性障害の症状が落ち着き、復職を検討している方は、定時で帰れるような環境で仕事をするのが理想的です。生活リズムが乱れると双極性障害の再発のリスクが高まりやすくなるので、夜勤があるような勤務時間の不規則な仕事は避けると良いでしょう。

また、職場でのストレスがきっかけで双極性障害を発症した方もいるでしょう。その場合はストレスの原因となったものを避けられるよう、異動や配置の変更などを上司に相談してみましょう。最初はリハビリ期間として、短時間の勤務を続けて身体を慣らすのもおすすめです。

双極性障害は一生治らないものではない

双極性障害は継続的な治療を進めていけば改善が期待できるため、一生治らないものではありません。ただし双極性障害は再発のリスクが高いといわれているので、油断せずに治療を続けることが大切です。双極性障害を受け入れて治療に専念することはもちろん、再発のサインも把握しておくと症状が出たとき早期に対応できます。普段の過ごし方にも気をつけつつ、医師と相談しながら双極性障害の治療を進めていきましょう。

参考サイト・文献
NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター|双極性障害(そううつ病)
国立国際医療研究センター病院|双極性障害とは?-躁状態とうつ状態を繰り返す病気-
近畿大学病院|双極性障害(躁うつ病)の治療
躁うつ病の手引き
日本うつ病学会|双極性障害(躁うつ病)とつきあうために
日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
日本精神神経学会|加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く
精神医学 第5版 大月 三郎、黒田 重利、青木 省三 文光堂 2003
「6.双極性障害の認知研究―成人と児童」久保田 泰考 日本生物学的精神医学会誌 21巻3号
「耳鼻咽喉科としての認知症への対応 睡眠からアプローチする認知症予防」宮崎 総一郎、北村 拓朗、野田 明子 第120回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム
厚生労働省|アルコールと認知症 – e-ヘルスネット



藤田 朋大先生

当記事の監修医師
藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医

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