双極性障害のうつ状態のときに、どのような過ごし方をすればよいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。うつ状態は頑張りたくても頑張れない状態なので、症状が強い時期は無理に活動せずに休養に専念することが大切です。また症状の悪化を防ぐために、生活リズムを整え、治療薬を忘れずに服用することを心がけましょう。
この記事では双極性障害のうつ状態での過ごし方のポイントや注意点などについてご紹介します。うつ状態ではどのような生活を送ったらよいかを知ることで、症状の悪化を防ぎながら治療を進められるようになるでしょう。
双極性障害のうつ状態と躁状態はどのくらい続く?
双極性障害とは、「うつ状態」と「躁状態」が繰り返し起こる状態のことです。ここではうつ状態と躁状態が、それぞれどのくらいの期間続くのかについて解説します。
うつ状態は2週間以上が目安
双極性障害の国際的な診断基準によると、うつ状態の症状が2週間以上続くことが1つの条件となっています。そのため、うつ状態の期間は2週間以上を目安としておくとよいでしょう。
うつ状態は意欲ややる気が低下している状態で、それ以外にも以下のような症状が表れるのが特徴です。
- 会話や動作が遅くなる
- 歯磨きや入浴など身の回りのことをするのもおっくう
- 仕事や家事が手につかない
- 食欲がない、食事がおいしくない
- 眠れない、途中で目が覚める
- 自分には価値がないと感じてしまう
- 死にたい気持ちになる
うつ状態では、これらの症状がほぼ毎日、1日の大半の時間に表れるとされています。
躁状態はうつ状態よりも短い傾向にある
躁状態の期間は、うつ状態よりも短い傾向にあります。診断基準によると、双極性障害は躁状態の症状が1週間以上、軽躁状態による症状が4日以上続くことが条件とされています。そのため、躁状態であれば1週間前後の期間が目安です。
躁状態は元気に満ちあふれている状態で、うつ状態とは正反対の症状が表れるのが特徴です。躁状態では、おもに以下のような症状や行動がみられます。
- 眠らなくても平気
- 活動レベルが上がり、行動的になる
- 次々と考えが思い浮かんで止まらない
- 猛烈な勢いで話し続ける
- 自分が偉くなったように感じたり妄想したりする
- イライラして怒りっぽいする
- 浪費や軽率な性行動などがある
双極性障害のうつ状態での過ごし方5選
双極性障害のうつ状態は躁状態よりも長い期間続きやすいので、どのように過ごすのかが治療するうえで重要となります。うつ状態のときにおさえておきたい過ごし方については、以下の5つです。
- 休養に専念する
- 日の光を浴びる
- 規則正しい生活を送る
- 症状が落ち着いたタイミングで少しずつ活動量を増やす
- 服薬を忘れずに続ける
ここではそれぞれについて詳しく解説します。
1. 休養に専念する
1つ目は、休養に専念することです。うつ状態は意欲ややる気が低下しており、頑張りたくても頑張れない状態です。その状態で何かしようとしてもかえって負担が強くなり、症状がさらに悪化する恐れがあります。
また、うつ状態では罪悪感や自責思考などのネガティブな考え方となっているケースがあります。ネガティブ思考によって的確な判断ができない場合があるので、仕事や家庭に関する重要な物事の決定は後回しにしておきましょう。心身を休める重要性を理解しつつ、うつ状態では無理なく過ごすように心がけてください。
2. 日の光を浴びる
2つ目は、日の光を浴びることです。朝に日の光を浴びることで体内時計がリセットされて、生活リズムが整いやすくなります。うつ状態では不眠や寝不足になることもあり、体内時計が乱れて生活リズムが崩れやすくなります。なるべく毎朝日の光を浴びて、体内時計をリセットするようにしましょう。
また、日の光を浴びることは「セロトニン」の分泌量の増加につながります。セロトニンとは脳内物質の1つで、分泌することで感情をコントロールし、精神を安定させる働きがあるとされています。逆に、日の光を浴びずにセロトニンの分泌量が少なくなると、感情が不安定となるのです。
このように、日の光を浴びることは体内時計を整えるだけでなく、精神を安定させる効果が期待できます。
3. 規則正しい生活を送る
3つ目は、規則正しい生活を送ることです。生活リズムが乱れるとうつ状態の悪化だけでなく、急に躁状態に移行して症状のコントロールがききにくくなる恐れがあります。うつ状態は日中の活動量が低下しやすいので、夜に眠れなくなり、生活リズムが乱れるという悪循環となることもあります。
規則正しい生活を送ることで、そのような悪循環が解消され、症状の悪化防止につながります。規則正しい生活を送るには、朝に日の光を浴びる以外にも、以下のような工夫もしてみましょう。
- 起床・就寝時間を一定にする
- 就寝の2〜3時間前に入浴をする
- 夜にスマホやテレビなどの光を浴びない
- 適度な運動習慣を作る
4. 症状が落ち着いたタイミングで少しずつ活動量を増やす
4つ目は、症状が落ち着いたタイミングで活動量を増やしていくことです。うつ状態のときに焦りを感じて、何かしなければと思っている方もいるのではないでしょうか。しかし、うつ状態の症状が強い時期に活動量を増やすと、かえって大きな負担となるため、おすすめはできません。
うつ状態が強い段階では無理に動こうとはせず、治療を進めて症状が軽くなった時期に、やれることを少しずつ増やしていきましょう。ただし、うつ状態も日によって波があるため、調子がよいからといって急に活動量を増やし過ぎないように注意してください。
5. 服薬を忘れずに続ける
5つ目は、服薬を忘れずに続けることです。双極性障害では、基本的に薬物療法を中心とした治療がおこなわれます。治療が進んでうつ状態の症状が落ち着きはじめると、「もう大丈夫かな」と自己判断で服薬をやめてしまう方もいます。
しかし、双極性障害は寛解に近づいたとしても、治療をやめると症状が再び悪化する恐れがあるのです。症状が安定したとしても油断せず、服薬を忘れないようにしましょう。服薬の量やペースは自身の判断では変えず、何か疑問がある場合は必ず医師に相談してください。
双極性障害のうつ状態の過ごし方で注意すべきポイント
うつ状態での過ごし方では、どのような点に注意すべきなのでしょうか。ここでは症状の悪化や周囲とのトラブルを予防するためにおさえておきたいポイントを解説します。
完璧に治そうと思わない
うつ状態では、完璧に治そうとは思わずに、焦らず治療を進めることが大切です。うつ状態になると自己嫌悪におちいるだけでなく、「早く治さないと」という焦る気持ちが生まれやすくなります。しかし、うつ状態ではそもそも気力や意欲が低下している状態なので、完璧に治そうと思うと余計に心身の負担となります。
うつ状態はすぐに治るわけではないので、その期間はゆっくりと治療を進めていきましょう。完璧を目指さず、うつ状態のときは「無理せずにやり過ごそう」と割り切ったほうが精神的な負担も軽減できます。
家族やパートナーにも双極性障害について共有しておく
双極性障害の躁状態だけでなく、うつ状態の症状について家族やパートナーに共有しておきましょう。周囲の人にとって、元気があふれている躁状態のほうがうつ状態よりも影響が大きいといえます。そのため、躁状態を警戒する一方で、うつ状態に対しては軽視しがちです。
本人がつらいと感じやすいのは躁状態よりもうつ状態なので、周囲との考えのズレがストレスにつながることもあります。うつ状態ではどのような症状が表れるのか、どのようなサポートをしてほしいのかを伝えておけば、周囲の認識も変化するでしょう。躁状態だけでなく、うつ状態に対しても理解を得られることで、安心して治療をおこないやすくなります。
体調の変化を記録して躁状態や再発の予兆に備える
今後のためにも、日々の体調の変化を記録しておくことをおすすめします。うつ状態が経過した後、どこかのタイミングで躁状態へと切り替わる場合があります。体調の変化について記録しておくことで、躁状態の移行時にはどのような特徴が表れるのかを把握可能です。
状態が切り替わる予兆がわかれば、周囲にも共有して早期からの対策ができるようになります。これは、双極性障害の再発を予防するときにも役立ちます。簡単な内容でもよいので、毎日の記録をつけておくことが大切です。
双極性障害の方が復職を目指すときのポイント
双極性障害の治療で休職した後、症状が落ち着いてきたタイミングで復職を検討する方もいるのではないでしょうか。ここでは復職を目指すときのポイントについて解説します。
復職支援サービスを活用する
復職のために「リワーク」をはじめとした支援サービスを活用してみましょう。リワークとは、職場復帰のための支援をおこなっているサービスで、うつ病や双極性障害によって休職している方が対象です。
リワークでは休職中の方達に対して以下のような取り組みを提供します。
- 体調を自己管理する方法の獲得
- 職場復帰に必要なスキルの習得
- コミュニケーショントレーニング
このような取り組みによって復職したときの負担を軽減し、再休職の防止につなげます。そのほかにも、転職する際には「ハローワーク」や「就労移行支援事業所」などのサービスの活用がおすすめです。
症状の経過や休職前の状態について振り返る
復職する前に、あらかじめ症状の経過や休職前に起きた出来事、そのときの自身の状態などについて振り返ってみましょう。これまでの症状の変化や不調になる前の予兆などを把握しておくことで、早期からの対処が可能です。体調の変化に応じた対策を持っておけば、仕事への影響も最小限にとどめられるでしょう。
また、休職前の自身の状態を振り返ることで、どのようなきっかけで双極性障害が発症したのかがわかります。そのきっかけを繰り返さないためにも、復帰後はどのような環境調整が必要なのかが明確化されます。このような分析を上司と共有・相談して、自分らしく働くための環境を整えていきましょう。
最初は短時間の勤務で身体を慣らしていく
復職後は、いきなりフルタイムで働くのではなく、短時間の勤務で身体を慣らしていきましょう。休職から一気にフルタイムで仕事を再開すると、心身への負担が大きくかかります。上司に相談して、短時間の勤務からはじめられるか検討してもらいましょう。
また、双極性障害は生活リズムが乱れると症状の悪化や再発のリスクが高まります。仕事に慣れてフルタイムに戻った後も、できるだけ定時に終わるように調整し、生活リズムを乱さないようにすることが大切です。
双極性障害のうつ状態の過ごし方では休養が重要
双極性障害では、うつ状態のほうが躁状態よりも期間が長い傾向にあります。そのため、うつ状態での過ごし方は双極性障害を治療するうえでの重要なポイントといえるでしょう。
うつ状態では休養に専念しつつ、生活リズムを乱さないように過ごすことが大切です。また、体調の変化について記録し、躁状態や症状悪化の予兆に備えましょう。それでもうつ状態での過ごし方について不安や疑問がある方は、ぜひかかりつけの医師に相談してみてください。
参考サイト・文献
・日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
・NCNP病院|双極性障害(そううつ病)
・大学病院医療情報ネットワークセンター|躁うつ病の手引き
・大学病院医療情報ネットワークセンター|うつ状態での過ごし方
・東邦大学|幸せホルモン「セロトニン」
・日本精神神経学会|加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く
・東京障害者職業センター|リワーク支援(メンタルヘルス不調により休職している方の職場復帰)