「自分の顔がいつもと違うように感じる……」と自分で気がついたり、「最近顔が疲れているように見えるけれど、大丈夫?」といった指摘を周りにされたりした人は、心が健康な状態ではないかもしれません。
適応障害では、ストレスによって心身の健康のバランスが崩れ、抑うつや不安、不眠などの様々な症状が表れます。
このような症状が続くと、顔つきなどの表情や見た目に影響を与えることがあるでしょう。しかし、表情や見た目の変化は自分で気がつきにくいことも多く、周囲に指摘されることも珍しくありません。
本記事では、適応障害の特徴や症状、どのような表情の変化が見られるのかなどを解説します。さらにセルフチェックシートも用意していますので、適応障害かも?と感じている人は確認してみましょう。
また、適応障害の人への接し方についても記載しています。「いつもと様子が異なる人がいるけれど、もしかしたら適応障害なのでは」という疑いをお持ちの人は、ぜひ参考にしてください。
適応障害とは?
適応障害とは、ストレスが原因となり心身の健康のバランスが崩れ、日常生活や社会活動に支障をきたす精神疾患です。抑うつや不安、不眠など、精神的・身体的苦痛が生じます。
適応障害は、近年増加傾向にある精神疾患のひとつで、2008年と比較すると、2017年の適応障害の総患者数は約2.5倍におよぶとのデータがあります。
ストレスへの対処がうまくできず、心身の負担が大きくなると発症し、原因がはっきりとしていることが特徴です。原因となるストレスが発生してから、だいたい3カ月以内に症状が表れるとされており、ストレスから離れることで回復に向かいます。多くの場合、6カ月以上続くことはないといわれ、適切な治療が開始されれば良好な経過をたどるでしょう。
しかし、ストレスにうまく対処できない状態が続くと、症状が悪化したり、うつ病などほかの精神疾患に移行したりする恐れがあるため注意が必要です。
適応障害で顔つきは変わるの?
適応障害などの精神疾患では、抑うつや不安、無気力などの症状が表れることから、感情の表出が乏しくなり、無表情やぼんやりした顔つきが見られることがあります。このように、顔つきや表情、様子などの見た目は、心身の状態によって変化しやすくなるでしょう。
ほかにも、不眠などの症状のために十分な睡眠が取れず、目の下にクマができたり顔色がすぐれなかったりすることもあるといえます。
適応障害の顔つきに影響しうる具体的な症状
適応障害は様々な症状が表れ、その症状に応じて、顔つきや表情などの変化が見られます。
ここでは、適応障害に見られる症状と、その症状による表情の変化について解説します。
精神(情緒的)症状
適応障害では、以下の精神的(情緒的)症状が見られます。
- 不安
- 抑うつ
- 無気力
- 思考力や集中力の低下
- 悲壮感
- イライラ
- 不安や焦り
- 緊張
- 混乱
精神的(情緒的)な症状があるときは、顔つきや表情に変化が見られやすくなります。
たとえば、抑うつや無気力などの症状があるときは、感情の表出が乏しくなり、無表情やぼんやりとした顔つきが見られます。ほかにも、不安や緊張、イライラなどの症状では、暗い表情や気を張ってソワソワしている様子などが見られ、時には、焦りや苛立ちが全面的に表出されることもあるでしょう。
身体的症状
精神的(情緒的)症状のほかには、以下の身体的症状も表れることがあります。
- 全身のだるさ
- 不眠
- 勝手に涙が出る
- 食欲不振
- 動悸
- 過呼吸
- 頭痛
- 肩こり
- 腹痛
- 発汗
- めまい
- 手の震え
身体的症状が続くことで、顔つきや表情だけでなく、見た目に大きく影響します。
たとえば、不眠で十分な睡眠が取れていないことで、目の下のクマや、疲れた様子や顔色がすぐれないなどの変化が見られます。また、食欲不振で思うように食事が取れていない場合には、体重が減り突然やせた印象を抱くこともあるでしょう。
普段と異なる行動
精神的(情緒的)症状と身体的症状が続くことにより、以下のような普段と異なる行動が見られることもあります。
- 無断欠勤
- 遅刻
- 早退
- 不登校
- 仕事でのミス
- 過剰飲酒
- 暴食
- 危険な運転
- ギャンブル中毒
- 喧嘩や器物損壊
- ひきこもり
上記の行動が続くと、人間関係でのトラブルが起きるなど、社会生活を送るうえで支障をきたす恐れがあります。集団生活がうまくいかず、周囲に迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。
適応障害セルフチェック|いつもと顔つきが違うと感じたら確認してみよう
「自分は適応障害かもしれない」と不安に感じている人もいるかもしれません。そのような人は、以下のチェックシートで今の状態や症状を確認してみましょう。
上記の項目に複数あてはまる場合や、症状が何日も続いている場合は、メンタルクリニックなどの医療機関で医師の診断を受けましょう。適応障害は、早期発見・早期治療が大切です。
適応障害の診断基準|顔つきが違うと指摘されたら受診しよう
適応障害では不調に気がつかず、受診のタイミングが遅れてしまうことも少なくありません。また、症状に気がついていても、いつ受診したらよいか迷う人もいるでしょう。
受診の目安としては、以下を参考にしてください。
- 前章のセルフチェックシートで、複数の項目にあてはまる
- 気になる症状がある、もしくは周囲の人に指摘された
- 気になる症状が続く
- 症状による苦痛が大きい
- 生活や社会活動に支障を生じている
医師の診断では、ほかの精神疾患(うつ病や急性ストレス障害など)との判別が重要です。
また、DSM-5の診断基準が用いられることもあります。
DSM-5の内容は、以下の通りです。
1.はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因のはじまりから3カ月以内に情緒面あるいは行動面の症状が出現。 2.これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある ア)症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度を持つ著しい苦痛。 イ)社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害 3.そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪化ではない。 4.その症状は正常の死別反応を示すものではない。 5.そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、その症状がその後さらに6カ月以上持続することはない。 |
出典:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
周りの人に心配されたり、自分で気になる症状があったりする場合は、メンタルクリニックなどの医療機関を受診しましょう。
適応障害で顔つきが変わる前に適切な対策をしよう
適応障害は、原因となるストレスから離れることで回復に向かいます。そのため、早期に適切な治療を開始することが大切です。
適応障害の治療法は、主に3つあります。
- 環境調整
- 精神療法(心理療法)
- 薬物療法
上記の治療法を、ひとつずつ解説していきます。
治療法1.環境調整
原因となるストレスから離れるためには、今の環境を整える必要があります。たとえば、部署異動や転職をするほか、人間関係が原因の場合は特定の人との関わりを絶つことが効果的です。
そして、ストレスから離れたあとは、ゆっくりと休養を取りましょう。特に症状が強く、苦痛が大きい場合には、学校や仕事を休み、治療に専念することが重要です。
しかし、家族間での問題など環境を変えることが難しい場合は、ほかの治療法を実践しながら経過をみることもあります。
治療法2.精神療法(心理療法)
適応障害では、医療従事者による面談やカウンセリングなどの心理療法も有効です。心理療法では、本人がストレスの原因を理解し、医療従事者と一緒に解決方法を探します。ストレスへの対処法が習得できるだけでなく、症状の悪化や再発防止にも効果が期待できるでしょう。
心理療法では、主に「認知行動療法」や「問題解決療法」などが用いられます。
認知行動療法とは、考え方や行動のクセを意識的に変え、柔軟にストレスに対処できるようになることを目指す心理療法です。生活リズムを整えるなどの「行動面へのアプローチ」と、ストレスに対する考え方を見直す「認知面へのアプローチ」を組み合わせて介入していきます。
対して問題解決療法は、現在抱えている悩み・問題と症状にフォーカスして、本人と医療従事者が協同的に具体的な解決方法を見つける治療法です。
心理療法で大切なのは、本人が前向きに問題解決に取り組む姿勢といえます。医療従事者と本人が協同しながら進めていく必要があるでしょう。
治療法3.薬物療法
出現している症状に対して、薬を使用する場合もあります。たとえば、不安に対して抗不安薬を内服するというものです。
ただし、適応障害での薬物療法は、出現している症状を緩和して、苦痛の軽減を図るものです。対症療法にあたるため、適応障害の根本的な治療にはなりません。
薬物療法を取り入れる場合は、環境調整や心理療法を同時におこなう必要があります。
いつもと顔つきが違う?と感じたときや適応障害の人への接し方
心の不調は自分では気がつきにくく、受診や治療の導入が遅れてしまうことも少なくありません。なかには自分で異変に気がついていても、「家族や職場に迷惑をかけたくない」と一人で抱え込んでしまうケースもあるでしょう。
もしも、周囲の人の顔つきや様子、行動などがいつもと違うと感じた場合は、その人に対して何らかのサポートが必要かもしれません。
ここでは、適応障害の人への接し方をご紹介します。
話を聞く
適応障害の人のなかには、一人で悩みを抱えているケースも珍しくありません。自分から相談できない人には、周りからアプローチして話を聞いてあげるのが効果的です。
ただし、こちらから色々と話を聞くのではなく、本人のペースに合わせてゆっくりと耳を傾けることがポイントです。もしも声をかけてみて、本人が話したくない様子であれば、「いつでも話を聞くよ」と伝えて相談しやすい環境を整えてあげましょう。
受診を勧める
いつもと違う様子が何日も続いている、とても辛そうに見えるなどの場合は、一度医療機関への受診を勧めましょう。このような場合は、本人が自分で異変に気がついていない可能性もあります。
受診を勧める際は、「適応障害なのでは?」と声をかけるのではなく、「疲れているように見えるため心配」などと、心配している気持ちを伝えることがポイントです。
また、初めての受診で本人の不安が強いようであれば、一緒に病院に行ってあげるのが望ましいでしょう。
環境作りをサポートする
適応障害は、原因となるストレスから離れることが一番の治療法とされています。そのため、周囲が本人の環境作りをサポートしてあげることも効果的です。
たとえば職場では、休職を勧めて休養を促したり、部署の異動を検討したりできるかもしれません。家族に適応障害の人がいる場合は、ゆっくりと休養でき、安心して過ごせる環境作りがポイントとなるでしょう。
決して無理強いはせず、できる範囲でサポートすることが大切です。
適応障害での顔つきの変化は周りが気づくこともある
適応障害では、顔つきや表情、様子などに変化が表れることがあります。心の不調は自分では気がつきにくいため、見た目の変化から周囲が異変に気がつくことも珍しくありません。
適応障害は、早期に適切な治療法を開始することで、次第に回復に向かいます。原因となるストレスから離れ、十分な休養を取りながら、治療に専念することが大切です。
「最近、疲れている?」などと声をかけられたり、適応障害の症状が何日も続いて日常生活や社会活動に支障が生じたりしている場合は、メンタルクリニックなどの医療機関を受診しましょう。
参考サイト・文献
新宿の心療内科クリニックおすすめ一覧
・厚生労働省/e-ヘルスネット
・国立研究開発法人/科学技術振興機構
・NCNP病院
・国立精神/神経医療研究センター
・厚生労働省/こころの耳
・日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
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