困難な状況や問題が発生したときなど、パニックを起こしたことがある方もいるでしょう。パニックを起こした際は、思い当たる原因があるはずです。しかしパニック発作は、特に思い当たる理由がないのに、突然激しい不安に襲われます。このとき、動悸やめまいなどの症状を伴うのが特徴です。
この記事では、パニック発作の診断基準や症状・誘因・治療について解説します。また、パニック障害との違いや、ほかの疾患との見分け方、発作時の対処法もご紹介します。パニック発作について正しく知り、発作時にも慌てずに落ち着いて対処できるようにしましょう。
パニック発作とは?
パニック発作とは、発作的に激しい不安に襲われ、体に異常な反応が起こることです。具体的には、下記のような症状が表れます。
- 突然、理由もなく激しい不安に襲われる
- 心臓がドキドキする(動悸)
- めまいがしてフラフラする
- 呼吸が苦しくなる
- 吐き気がする
- 胸が痛くなる
- 体の震え
パニック発作は強い不安とともに、身体的な症状が急激に生じるのが特徴です。場合によっては、「このまま死んでしまうのではないか」と思うほどの恐怖を覚えることもあるといわれています。
パニック発作は何の前触れもなく起こるため、発作に対する不安から日常生活に支障をきたすこともあります。さらに「また発作が起きたらどうしよう……」という恐怖心から、行動範囲が制限されることもあるのです。
パニック発作とパニック障害の違いは?
パニック障害とは、先ほど説明したパニック発作を繰り返し起こしてしまう状態です。
パニック発作とパニック障害にはそれぞれ診断基準があり、パニック発作があっても必ずしもパニック障害になるとは限りません。
パニック発作によって日常生活に支障をきたすことで、初めてパニック障害と診断されます。パニック障害は不安障害の1つで、100人に1人ほどの割合で起こるといわれています。
ここでは、パニック発作とパニック障害の診断基準をそれぞれ確認していきましょう。
パニック発作の診断基準
恐怖や不安に直面すると、誰しも脈拍が速くなったり、汗をかいたりすることはあるでしょう。しかしパニック発作では、前触れもなく突然前述のような症状が表れます。
パニック発作は、下記の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然表れ、10分以内にピークに達します。
- 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
- 発汗
- 身震いまたは震え
- 息切れ感または息苦しさ
- 窒息感
- 胸痛または胸部不快感
- 嘔気または腹部の不快感
- めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
- 冷感または熱感
- 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
- 現実感消失(現実でない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
- 抑制力を失うまたは「どうかなってしまう」ことに対する恐怖
- 死ぬことに対する恐怖
また、パニック発作の特徴は次の通りです。
- 何の前触れもなく急激に発作が始まり、繰り返す
- 強い不安とともに体に症状が表れる
- 検査をしても体に異常がない
パニック発作ではさまざまな症状が表れますが、発作を説明できるような疾患がないことが特徴だといえるでしょう。
パニック障害の診断基準
次に、パニック障害の診断基準を見ていきましょう。
- 予期しないパニック発作が繰り返し起こる
- 少なくとも以下の1つまたは両者が1カ月(またはそれ以上)続いている
- さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配
- 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化
- その障害は、物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない
- その障害は、他の精神疾患によってうまく説明されない
パニック障害は、パニック発作によって日常生活に支障をきたしている場合に診断されます。
パニック障害の症状としては、パニック発作のほかに予期不安や広場恐怖が挙げられます。症状が進行すると発作を繰り返し起こし、場合によってはある一定の状況下で発作が起こることもあるのです。
なお、パニック障害については、「パニック障害とはどんな病気?回復のためには早期治療が大切」で詳しく紹介しています。
パニック発作の特徴と症状
パニック発作が起こると、「このまま死んでしまうのではないか……」と思うほどの不安や恐怖に襲われます。それと同時に、パニック発作の症状が表れます。しかし医療機関を受診しても、身体的な異常は認められません。
パニック発作は繰り返し起こるのが特徴です。発作を繰り返していると、「また発作が起こるかもしれない」と不安感に襲われるようになってしまいます。これが「予期不安」です。
また、予期不安が「広場恐怖」につながることがあります。広場恐怖とは、パニック発作が起こった場所に対して恐怖心を抱くことです。「あの場所に行ったらまた発作が起きるのでは……」と不安になり、その場所を避けようとします。
実際に発作が起こった場所以外に、逃げることのできない場所や助けてもらえないような場所でも同様に不安を感じます。広場恐怖が起こりやすい場所は、次の通りです。
- 車
- 電車
- 飛行機
- エレベーター
- 美容院
- 歯科医院
パニック発作を繰り返していると、不安からこのような場所に行くことを避け、生活範囲が制限されてしまいます。
パニック発作とほかの疾患は見分けられる?
パニック発作で起こる動悸やめまい、息切れなどの症状は、心臓や甲状腺の疾患などでも見られます。たとえば、下記のような疾患が挙げられます。
- 狭心症
- 不整脈
- 甲状腺機能亢進症
- メニエール病
- 更年期障害
- 低血糖
このような疾患を疑い、最初は内科を受診する方もいます。しかし、パニック発作による症状の場合には、どれだけ検査をしても内科的な異常は見つかりません。一方、先ほど挙げたような疾患の多くは、血液検査や心電図など、基本的な検査によって診断できます。
身体的な異常が認められなかったときに初めてパニック発作が疑われるので、「何かおかしい」と思ったら、まずは内科を受診しましょう。内科を受診しても異常がなかったときには、精神科や心療内科を受診することをおすすめします。
パニック発作の誘因
パニック発作は、人混みや狭い空間、緊張や不安を感じやすいところ、トラウマとなる出来事があったり、睡眠不足や過労など身体的な負荷が高まったりしたときに起こりやすいといわれています。人によっては、たばこやカフェインなどの過剰摂取も発作を誘因することがあります。
以下に、パニック発作が起こりやすい場面の例を挙げます。
- 電車やバスに乗っているとき
- 車を運転しているとき
- 会議に参加しているとき
- 発作を起こしたことのある場所にいるとき
自分がこれまでどのような状況でパニック発作を起こしたのか、きちんと把握しておくことが大切です。
パニック発作が出現したら
パニック発作が起こると、パニックを落ち着かせようと慌ててしまうでしょう。しかし、診断基準にもあるように、発作のピークは10分以内とされています。発作がピークに達したあとは次第に軽減し、自然に落ち着きます。そのため、慌てずに落ち着いて対処することが重要です。
ここでは、パニック発作が起きてしまったときの対処法を2つご紹介します。
対処法1.呼吸を整える
呼吸を整えることは、「呼吸法」と呼ばれます。発作が起きたら、まずは座るか、何かにもたれかかり、次の動作をおこないましょう。
- 息を止めて5つ数える
- ゆっくりと息を吐く
- 6秒間に1回のペースで、鼻からゆっくり息を吸ったり吐いたりする(3秒で吸って3秒で吐く)
- 発作が落ち着くまで1~3を繰り返す
上記を参考に、自分にとって楽な方法で呼吸をします。秒数にはそれほどとらわれずに実践しましょう。
対処法2.頓服薬を服用する
すでに受診して薬が処方されている場合には、頓服薬を服用しましょう。ただし、医師の指示に従うことが大切です。
パニック障害の薬物療法では、主に抗うつ薬と抗不安薬が使われます。抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかるのに対し、抗不安薬はすぐに効果が出るとされています。そのため、パニック発作の頓服薬には抗不安薬が用いられるケースが多いです。
パニック発作の治療
パニック障害の治療は、パニック発作の頻度・程度を減少させることを目的としています。症状を緩和し、行動の制限など社会的な障害を改善します。
治療の方法は、主に「薬物療法」と「認知行動療法」の2つです。薬物療法と同時に認知行動療法をおこなうことで、効果が高まるとされています。そのため症状が強い場合には、薬物療法と認知行動療法を併用することも有効です。
薬物療法
パニック発作の薬物療法は、抗うつ薬と抗不安薬を用います。抗うつ薬はその名の通り、うつ病の治療で使われる薬ですが、パニック障害にも効果があるとされています。現在は、「SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)」と「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」が主流です。
抗うつ薬の特徴は、次の通りです。
- しばらく服用を続けていると徐々に効果が出る
- 効果が出るよりも先に副作用が出てしまうことがある
上記のことから、「薬を飲み始めてかえって具合が悪くなった」と感じるかもしれません。医師と相談しながら継続して服用することが大切です。
一方、抗不安薬は緊張や不安などを軽減する薬です。抗不安薬の特徴は以下の通りです。
- 効果の出現が早い
- パニック発作が出現しそうな状況で頓服薬として用いられる
代表的な抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬です。倦怠感や眠気などの副作用があり、医師の的確な処方のもとで使用することが大切だと言われています。
薬物療法で使用される代表的な薬をまとめます。
一般名 | |
SSRI | フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム |
SNRI | ミルナシプラン塩酸塩、デュロキセチン塩酸塩、ベンラファキシン塩酸塩 |
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 | ジアゼパム、クロルジアゼポキシド、メタゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、ロラゼパム、ブロマゼパム、クロバザム、アルプラゾラム、フルジアゼパム、ロフラゼプ酸エチル、エチゾラム、ほか |
認知行動療法
認知行動療法は、精神療法(心理療法)の1つです。自分の考え方や行動によって症状が続く悪循環に気づき、考え方や行動を柔軟にしていくことで解決していきます。
認知行動療法は、薬物療法との併用で治療の効果が高まるとされています。パニック発作に対する恐怖や不安から避けている状況に少しずつ挑戦してもらい、不安を克服していくのです。幅広いとらえ方を自分自身で選択できるようになることで、必要以上に不安になるといった感情を軽くします。本来持っている力を発揮することを目指した治療法です。
パニック発作は予防できる?
パニック発作の緩和には、薬物療法が効果的です。効果が早い段階で表れる抗不安薬を使いながら、発作の予防目的でSSRIを使います。
また、発作の予防にはリラクセーション法も有効です。不安を抱えているときには、体も緊張状態にあります。パニック発作の予防や発作後の対処のためにも、リラクセーション法を身につけておくと安心でしょう。
具体的には、下記のような動作をおこないます。
- 鼻から息を吸って、口からゆっくりと吐き出す(腹式呼吸)
- 椅子に座って両肩を持ち上げ、5秒数えたらすとんと肩の力を抜く
パニック発作の予防には、何より自分自身がリラックスできることが大切です。自覚しているストレスがあればそれを解消するなど、自分に合った方法でリラックスして過ごしましょう。
パニック発作を悪化させないために
パニック発作は、繰り返すことでパニック障害へとつながる可能性があります。きちんと薬物療法や認知行動療法などの治療をおこなうのは、とても大切なことです。しかし、パニック発作を悪化させないような日常生活での工夫も大切だといえます。
ここでは、パニック発作が悪化する要因と、日常生活での注意点をご紹介します。
悪化する要因
パニック発作が悪化する要因は、次の通りです。
- ストレス
- 過労
- 睡眠不足
- 風邪
- アルコールやカフェインの過剰摂取
治療をしっかりと続けていても、日々の生活によってパニック発作を悪化させてしまうこともあります。「薬を飲んでいるから大丈夫だろう」と思わず、日常生活で改善できる部分を意識していきましょう。
日常生活の注意点
パニック発作を悪化させないために日常生活で注意すべき点は、次の通りです。
- 規則正しい生活を送る
- 適度に運動をする
- 疲れやストレスをためないようにする
- アルコールやカフェインを控える
パニック発作の悪化につながる要因に注意し、上記のような日常生活を送ることで、治療効果を高められるでしょう。
パニック発作を正しく知って対処しよう
パニック発作は、強い恐怖や不安とともに体にさまざまな症状が表れます。動悸やめまい、息苦しさなどがあり、検査をしても特に異常が見つからないのが特徴です。
似たような言葉で「パニック障害」がありますが、これはパニック発作が繰り返し起こって日常生活に影響が出ている状態をいいます。パニック発作があっても、必ずしもパニック障害であるとは限りません。それぞれ診断基準があるので、自分の状態がわからず不安な場合には、精神科や心療内科を受診しましょう。
パニック発作の治療では、薬物療法と認知行動療法がおこなわれます。これらを組み合わせることで、治療効果が高まるとされています。しかし、治療だけに頼るのではなく、日常生活での工夫も大切です。パニック発作の悪化につながる要因をできるだけ取り除き、規則正しい生活を送りましょう。
パニック発作は繰り返す特徴があり、良くなったと思ってもまたぶり返すことがあります。我慢をしたり自己判断したりせず、早めに医師に相談することをおすすめします。パニック発作の治療に使われる抗うつ薬や抗不安薬は、正しく使えば決して怖いものではありません。躊躇せずに精神科や心療内科を受診しましょう。
参考サイト・文献
・厚生労働省 e-ヘルスネット「パニック症/パニック障害」
・厚生労働省「パニック障害(パニック症)の 認知行動療法マニュアル」
・日本精神神経学会「塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く」
・日本女性心身医学会「パニック症候群」
・厚生労働省「パニック障害の診断基準」
・DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル