不眠症とは、睡眠障害の1つです。睡眠に問題があることで、日中の倦怠感や意欲・集中力の低下などが見られ、日常生活に支障をきたしてしまう状態を指します。
「眠れないだけだから…」と受診することをためらってしまいがちですが、不眠症は原因に応じて適切に対処する必要があります。不眠症とはどのようなものかや、どのような場合に受診すればよいのか目安を知り、自分の睡眠の問題点を明らかにすることで、改善につなげていきましょう。
不眠症とは?睡眠不足とは何が違う?
「眠りたいのに眠れない」という経験は、誰しもあるのではないでしょうか。厚生労働省の「令和4年度 健康実態調査結果の報告」によると、睡眠に関して特に問題がないと感じているのは全体の17%ほどに留まっています。多くの人が、何かしらの睡眠問題を抱えていることがわかるでしょう。
しかし、眠れないからといって、すべてが不眠症に当てはまるわけではありません。不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒などの睡眠問題があるために、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現している状態です。ただの睡眠不足とは違います。
不眠がなかなか改善しないまま長期間続くと、不眠症と診断されます。不眠症の診断基準は下記の通りです。
- 夜間の不眠が続く
- 日中に精神や体の不調を自覚して生活の質が低下する
不眠が続くことで生活に支障をきたしているかどうかが、不眠症と見分けるポイントだといえるでしょう。
不眠症の4つのタイプ
不眠症は、主に下記の4つのタイプに分類されます。
- 入眠障害
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 熟眠障害
これらは必ずしも1つではなく、2つ以上現れるケースも。いずれかの症状が長期間あり、さらに日中に現れる不調が週に3回以上ある場合には、不眠症の可能性があります。
まずは自分がどのタイプか知ることで、不眠の原因を探るときのヒントにもなるでしょう。ここでは、不眠症の4つのタイプについて詳しく見ていきます。
1.入眠障害
入眠障害とは、寝つきが悪く、眠るまでに時間がかかってしまう状態です。強い不安や緊張があるときに起こりやすい傾向にあります。
一般的に健康な人が消灯してから実際に眠りにつくまでの時間は、30分以内といわれています。布団に入ってもなかなか眠れず、眠りにつくまでに30分から1時間以上かかる日が続く場合には、入眠障害が疑われるでしょう。
2.中途覚醒
中途覚醒とは、眠りが浅く、翌朝起きるまでの間に途中で何度も目が覚めてしまう状態です。一度目が覚めるとなかなか眠れず、再び寝つくのに苦労してしまいます。
一般的には、年齢が上がるほど眠りが浅くなりやすいといわれており、中高年や高齢者に多くみられる症状です。眠気が残りやすく、日中の活動に影響を及ぼす恐れがあります。
3.早朝覚醒
早朝覚醒とは、朝早く、または予定している時間よりも早くに目が覚めてしまうことです。時間の目安としては、起きる予定の2時間以上前とされています。目が覚めてしまった後にもう一度眠ろうと思っても、再び眠ることが難しいか、眠れたとしても熟睡できません。
中途覚醒と同様に高齢者に多く見られますが、うつ病の典型的な症状ともいわれています。
4.熟眠障害
熟眠障害とは、睡眠時間は足りているはずなのに、ぐっすりと眠れていない状態を指します。眠りが浅かったり、睡眠が中断されてしまったりする場合に起こりやすいです。
睡眠への満足感が得られず、「眠った気がしない」「寝ているのにまったく疲れが取れない」などと感じてしまいます。
睡眠時無呼吸症候群など別の疾患が関係しているケースもあり、そういった場合には専門的な治療が必要です。
不眠症の主な原因
不眠症を引き起こす原因は様々ですが、大きく分けると下記のいずれかに当てはまります。
- 身体的な原因
- 心理的な原因
- 生理的な原因
- 精神医学的な原因
- 薬理学的な原因
それぞれの原因によって対処法も異なってくるので、不眠症の改善のためには原因を知ることが重要です。ただし、原因がはっきりしなかったり、様々な原因が複合的に絡んでいたりすることもあります。ここでは、不眠症の主な原因について見ていきます。
身体的な原因
身体的な原因としては、痛み・かゆみ・咳・息苦しさ・頻尿などが挙げられます。疾患による身体症状が現れることで不眠を生じているので、この場合は疾患の治療が最優先です。原因となっている症状が改善すると、不眠も改善します。
心理的な原因
不安や心配事があったり、イベントや旅行などの前で気分が高ぶったりしている場合に、不眠になることがあります。また、ストレスや緊張状態も安眠を妨げる要因の1つです。「眠らなければいけない」と思えば思うほど眠れなくなってしまうのも、心理的な原因の一つだといえるでしょう。
生理的な原因
生理的な原因とは、生活習慣や睡眠環境に問題があるケースです。夜勤のある仕事をしているなど、日常的に生活リズムが乱れている場合は、睡眠のトラブルにつながることがあります。また、睡眠時の環境が原因となることも。たとえば、寝室の騒音や照明、温度や湿度などです。これらに問題があると、安眠できない可能性があるでしょう。
精神医学的な原因
精神的な疾患に伴い、不眠を生じることがあります。「なかなか眠れないと思っていたら、実はうつ病だった」というケースも少なくありません。不眠以外にも、気分が落ち込んだり、意欲がなくなったりといった症状が見られる場合には、心療内科や精神科などの専門医を受診しましょう。
薬理学的な原因
食べ物や飲み物、薬の副作用なども不眠の原因として挙げられます。コーヒーなどに含まれるカフェイン、たばこに含まれるニコチンには覚醒作用があるとされています。また、アルコールも安眠を妨げることがあるので、いわゆる「寝酒」はおすすめできません。ほかには、降圧薬やステロイド薬など、治療のために服用している薬も不眠を引き起こすことがあります。
眠れないときの対処法は?
「眠れない」といっても、その状況は人それぞれです。原因によっては、自ら改善できるケースもあるでしょう。ここでは、眠れないときに手軽に試せる対処法をご紹介します。まずは自分の睡眠の問題点について考え、改善できる部分はしていきましょう。
適度な運動をする
日中に適度に体を動かすと、心地よい疲労感から安眠につながることがあります。太陽の光は、昼と夜のメリハリをつけるのにも効果的です。ただし、激しい運動は交感神経の興奮を促し、寝つきを悪くすることがあるので注意が必要です。軽く汗をかく程度の運動にとどめるのがよいでしょう。
もし運動するのが難しい場合には、起床時にまずカーテンを開けて日光を浴びるようにします。体内時計がリセットされ、日中の眠気の解消にも役立つでしょう。
睡眠環境を見直す
眠りやすい空間をつくることも、すぐに実践できる対処法の1つです。睡眠は体や心の状態が大きく影響しますが、眠るときの環境も原因となり得ます。寝具(布団・マットレス・枕など)によって体への負担が変わってくるので、できるだけ自分に合ったものを選びましょう。
また、寝室の照明や温度・湿度なども、快眠のためには重要なポイントです。特に真夏や冬場などは、寝室の温度や湿度に気をつけましょう。
体が温まるものを飲む
温かい飲み物というとコーヒーやお茶が思い浮かぶかもしれませんが、これらにはカフェインが含まれるため、寝る前に飲むのは控えた方がよいでしょう。カフェインの覚醒作用によって、入眠を妨げたり、眠りが浅くなったりする可能性があるためです。また、カフェインには利尿作用もあり、夜間にトイレに行きたくなって目が覚めてしまうことも考えられます。目安としては、就寝する3〜4時間前からカフェインの摂取を避けるのが望ましいとされています。
眠れないときにおすすめなのは、白湯やハーブティー、しょうが湯などの体が温まる飲みものです。これらは簡単に取り入れられるので、就寝前の習慣にしてもよいでしょう。
眠れなくても焦らない
不眠が続いていると、「また眠れないのではないか」と布団に入る前から不安になることもあるでしょう。「7時間以上寝なくては」などと思い込み、なかなか寝つけずに焦ってしまうこともあるかもしれません。
睡眠に対して不安や心配があると、さらに不眠症を悪化させてしまうことがあります。このようなときは焦らずに「眠くなったら寝よう」と考えると、気持ちが楽になるでしょう。必要以上に心配したり考えすぎたりしないことも、不眠対策では大切です。
受診した方がよいのはどんなとき?
不眠症で病院を受診するのに、ベストなタイミングはあるのでしょうか。世界保健機関(WHO)が中心となってつくった睡眠評価法として、「アテネ不眠尺度」があります。これは睡眠に関する8つの項目に対し、「過去1ヶ月間に、少なくとも週3回以上経験したものを選んでください」と書かれています。
つまり、不眠症状が1カ月続いているようであれば、受診を検討すべきだといえます。かかりつけの病院があれば、まずは相談してみるとよいでしょう。不眠について相談するだけでも、症状が和らぐ場合があります。
1人で抱え込んで不安を募らせると、さらなる不眠症状の悪化を招いてしまいます。眠れないことで心身に何かしらの症状が出ていたら、躊躇せずに病院に相談しましょう。
不眠症の治療法は?
病院を受診して不眠症と診断されたら、主に睡眠薬を用いた薬物療法がおこなわれます。また、薬物療法と同時に、認知行動療法を活用することも推奨されています(※ただし、不眠症に対する認知行動療法は保険診療外となっております)。認知行動療法とは、睡眠に対する思い込みを正して、自分に合った睡眠習慣を見つける方法です。具体的には、先に述べたような自分でできる不眠症対策をおこないます。
薬物治療では、不眠症のパターンに応じて薬が処方されます。効果の持続時間による分類と、主な薬剤名は下記の通りです。
分類 | 持続時間(半減期) | 主な薬剤(商品名)の一例 |
超短時間型 | 6時間 | マイスリー、アモバン |
短時間型 | 6~12時間 | デパス、レンドルミン |
中間型 | 12~24時間 | サイレース、ユーロジン |
長時間型 | 24時間以上 | ダルメート、ソメリン |
睡眠薬に対して、「怖いもの」「一度飲んだら手放せなくなる」といったイメージがある人もいるでしょう。しかし、睡眠薬は正しく服用すれば、大きな害をおよぼすものではありません。医師の指示のもとで適切に使用しましょう。
睡眠薬によって不眠症状が改善すると、「眠れるようになった」と勘違いし、服用をやめたいと考える人もいます。ただし、服用を中止した途端にまた眠れなくなってしまうケースもあるので、自己判断で減量・中断はしないようにしましょう。
不眠症は早めの対策が重要
不眠症のタイプや原因、眠れないときの対処法、そして受診の目安について解説しました。誰しも「なかなか眠れない」という経験をしたことがあると思いますが、不眠症かどうかは心身の不調の有無がポイントです。
睡眠時間には個人差があり、7時間以上必要な人もいれば、4時間ほどで十分な人もいます。日常生活に支障をきたしていなければ、不眠症とは診断されません。特に睡眠時間には個人差があるので、周りと比べないことも大切です。
眠れないときには、まずは自分でできる対策を試してみるとよいでしょう。それでも改善が難しく、不眠が1カ月以上続いて何かしらの影響が出ているときは、医師に相談します。かかりつけ医に相談してもよいですが、改善しない場合には早めに専門医を受診することをおすすめします。
参考サイト・文献
・e-ヘルスネット(厚生労働省)|不眠症
・令和4年度 健康実態調査結果の報告|厚生労働省
・日本臨床内科医会|不眠症
・睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン
・NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター|不眠で困ったときは
・全国健康保険協会|不眠症