うつ病は、回復したと思っても再発することがあります。うつ病の治療は長期的になりやすい傾向にあり、再発はできれば避けたいところです。
この記事では、うつ病が再発するきっかけや兆候、再発予防の重要性について解説します。治療や復職に関すること、仕事ができないときの保障制度なども紹介しているので、参考にしてみてください。
うつ病の定義を再確認
うつ病は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが減ってしまう状態だと考えられています。これらは精神を安定させる働きがあるので、減ってしまうことで無気力な状態を引き起こすのです。気分が落ち込む、意欲が低下するといった精神的な症状のほか、眠れない、食欲がないなどの身体的な症状も表れます。
うつ病には、メランコリー型・非定型・季節型・産後など、病型による特徴的な分類があります。
分類 | 特徴 |
メランコリー型 | ・典型的なうつ病といわれるタイプ ・良いことがあっても気分が晴れない ・明らかな食欲不振や体重減少が見られる ・早朝に目が覚める |
非定型 | ・良いことに対しては気分が良くなる ・過食傾向で体重増加が見られる ・過眠が見られる ・ひどい倦怠感がある |
季節型 | ・反復性の一種 ・特定の季節に発症し季節の移り変わりとともに回復する ・どの季節でも起こりうるが冬季うつ病がよく知られている ・日照時間との関係が指摘されている |
産後 | ・産後4週以内に発症するもの ・さまざまな要因(ホルモンの変化、分娩の疲労、子育てに対する不安など)が重なることが影響している |
うつ病の特徴や症状について、改めて確認しておきましょう。
うつ病は再発する?きっかけやサインは?
うつ病は一度改善しても、約60%の人が再発するといわれています。さらにうつ病に2回かかった人は約70%、3回かかった人は約90%との報告もあり、繰り返すほど再発率も高くなるのが特徴です。このことから、うつ病もほかのあらゆる疾患と同様に、再発させないことが重要であるといえるでしょう。
ここでは、具体的にどのようなきっかけでうつ病が再発するのか、また再発のサインはあるのかなどを解説していきます。
再発のきっかけ
うつ病は、多くのケースで「寛解」の状態を迎えられるといわれています。寛解とは、以前の元気な状態に回復していることです。
うつ病もさまざまな身体疾患と同じで、ある程度の期間をかけて治癒に向かっていきます。治療を始めればすぐに治癒するわけではありません。症状が改善してくると、自己判断で服薬を中断する人もいます。しかし、服薬の中断は、症状の悪化を招いたり、再発を引き起こしたりするため注意が必要です。
うつ病を発症するきっかけは、下記の通りです。
- 環境要因:人間関係のトラブル、仕事のストレス、環境の変化など
- 性格傾向:責任感が強い、完璧主義、几帳面など
- 慢性的な身体疾患:がんや糖尿病など
- 内分泌の変化:妊娠・出産、更年期障害など
再発のきっかけも上記と同様で、さまざまな要因が考えられます。いくつかの要因が重なっているケースも珍しくありません。また、一度目にうつ病になったときとは、原因が異なることもあるでしょう。
再発の兆候
うつ病の再発を疑うときには、うつ病の症状の出現に注意しましょう。そのためには、改めてうつ病の主な症状を知っておく必要があります。
うつ病の主な自覚症状は、下記の通りです。
- 憂うつな気分、沈んだ気分が見られる
- 何事にも興味がわかず、楽しさを感じない
- 良いことがあっても気分が晴れない
- 意欲・気力・集中力が低下する
- 疲れやすい、だるい
- 寝つきが悪い、朝早くに目が覚める
- 食欲がなくなる
うつ病は精神面と身体面の両方に症状が表れますが、これらの症状はなかなか自覚しにくい部分もあるでしょう。自覚しやすい症状としては、食事や睡眠の変化が挙げられます。特に、不眠はうつ病再発の重要な危険因子であるといわれています。寝つきが悪い、途中で目が覚める、いつもより早く目が覚める、熟眠感が得られないといった場合には注意しましょう。
周りの人が気づくサイン
うつ病は、自覚症状だけでなく、周りの人が見てわかる変化もあります。周りの人が「いつもと違う」と感じ、変化に気づくことも大切だといえるでしょう。
周りの人が気づくうつ病のサインは、下記の通りです。
- 表情が暗い、元気がない
- 外出や人と会うことを避ける
- 趣味などに興味を示さない
- 落ち着きがない
- 飲酒量が増える
- 遅刻・早退・欠勤が増える
- 仕事のミスが増える
上記の症状が2週間以上続く場合には、注意が必要です。もし自覚していなくても、家族や会社の人など身近な人から変化を指摘された場合には、今一度うつ病の症状がないか確認しましょう。
うつ病を再発しやすい人とは
うつ病は、年齢などに関係なく誰でもかかるといわれています。日本人のおよそ15人に1人が経験するとされており、決して珍しいものではありません。
うつ病になりやすい人の特徴は、次の通りです。
- 几帳面
- 完璧主義
- 責任感や正義感が強い
いわゆる「真面目な人」に多いとされています。しかし、必ずしも心の弱さや性格などが関係していたり、遺伝だったりするわけではありません。
また、身体疾患によってもうつ病を誘発することがあるといわれています。脳卒中や認知症などの脳自体の疾患ではなく、がんや慢性疲労症候群などでもうつ病を併発することがあるのです。
うつ病は再発予防が重要
うつ病の治療には、「急性期」「回復期」「再発予防期」の3つの期間があると考えられています。この3つの期間がそれぞれどのくらいの時間を要するのかは、状況によって大きく異なりますが、目安は下記の通りです。
- 急性期:1~3カ月
- 回復期:4~6カ月
- 再発予防期:1年~
上記は、典型的なうつ病の大まかな目安とされています。早期に治療を始めれば、より早く再発予防期を迎えることも可能です。そのためには、早期に対処することが重要だといえるでしょう。
再発予防期とは、うつ病の再発を防ぐことを目的とする期間です。途中で無理をしたり、自己判断で服薬をやめてしまったりした場合には、再発を引き起こしてしまいます。再発予防期は、根気強く過ごすことが大切です。
うつ病を再発させないために
うつ病を再発させないためには、ストレス対策がポイントです。ストレスがかかっている状況では、身体面にも精神面にもさまざまな変化が表れます。先ほど述べたように、再発のサインには、自分で自覚する症状と周りの人が気づきやすい変化があります。それらをできるだけ早い段階で察知することは、うつ病の再発予防の面でとても重要です。
また、日常で感じるストレスは、仕事が大きく関わっているケースも多くあります。仕事に関するストレスは、自分自身で軽減できるものと、できないものがあります。自分だけではどうにもならないことは、上司や同僚などに相談すると良いでしょう。
うつ病が再発したかも?と思ったら
人間であれば誰しも、イライラしたり落ち込んだりすることはあるでしょう。食欲がない、眠れないといった症状が見られても、必ずしもうつ病であるとは言い切れません。しかし、心や体の不調が続くときには、主治医に相談することをおすすめします。
また、場合によってはセカンドオピニオンを検討したり、相談機関や支援機関などを活用したりすることも大切です。1人で抱え込まないようにしましょう。
うつ病は内服治療が必須
うつ病の治療では、薬物療法(内服薬による治療)が欠かせません。主に治療に用いられるのは、抗うつ薬です。抗うつ薬は服用してもすぐには効果が表れず、徐々に効果が表れる特徴があります。そのため、継続して服用することが大切です。
抗うつ薬にはさまざまな種類があり、以前は「三環系」「四環系」と呼ばれるものが主流でした。しかし近年では、「SSRI」「SNRI」といった副作用の少ないものが主に使われています。
種類 | 主な薬剤名(一般名) |
三環系抗うつ薬 | イミプラミン、アミトリプチリン |
四環系抗うつ薬 | ミアンセリン、セチプチリン |
SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 | フルボキサミン、パロキセチン |
SNRI:選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 | ミルナシプラン |
また、抗うつ薬のほか、身体症状に対する薬を併用する場合もあります。
生活で工夫できること
うつ病の薬物療法では、効果が表れるまで服薬を続ける必要があります。きちんと服薬することは重要ですが、主治医にすべて任せるのではなく、自分自身で工夫して生活することも大切です。
日常生活での工夫の一例を下記に記載します。
- 睡眠のリズムを整える(睡眠薬は医師に相談の上で使用する)
- できるだけ同じ時間に起床する
- 朝は気分が優れないことが多いので、午後に活動を取り入れる
- 調子が良ければ散歩する
ただし、これらは状況に応じた工夫が必要です。うつ病の期間によっても異なるので、心配であれば主治医に相談しましょう。
早急に受診が必要な場合
次の9つの項目のうち5つ以上(1か2を含む)が2週間以上続く場合には、専門家への相談が推奨されます。
- 悲しく憂うつな気分が一日中続く
- これまで好きだったことに興味がわかない、何をしても楽しくない
- 食欲が減る、あるいは増す
- 眠れない、あるいは寝すぎる
- イライラする、怒りっぽくなる
- 疲れやすく、何もやる気になれない
- 自分に価値がないように思える
- 集中力がなくなる、物事が決断できない
- 死にたい、消えてしまいたい、いなければよかったと思う
また、焦燥感が強いとき、休息が必要なとき、長い期間治療をしても症状が改善しないときには、入院治療が必要となる場合もあります。
復職後にうつ病が再発したら
うつ病の状態によっては、仕事を続けながらの通院治療が難しいケースもあるでしょう。その場合には、休職が必要となることがあります。症状が改善し、ようやく復職したのに「再発したかもしれない……」と思うと、焦りや不安につながってしまうかもしれません。しかし、復職後に再度休む人は多い傾向にあります。
厚生労働省の「主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究」によると、復職後2年間は再発のリスクが高い時期であることがわかっています。復職後も引き続き、働く上でのケアやフォローが必要であるといえるでしょう。
職場でのストレス
職場でのストレスには、大きく次の4つがあります。
- 人間関係のトラブル:セクハラ、パワハラ
- 仕事の質や量の変化:長時間労働、配置転換
- 役割や地位の変化:昇進・降格
- 重い責任の発生:仕事上のトラブルや失敗
これらがきっかけとなってうつ病が再発することがありますが、必ずしも前回と同じ理由がきっかけになるとは限りません。
また、うつ病の症状が悪化すると、業務の遂行力が低下し、仕事に影響を及ぼす可能性もあります。復職後すぐだと言い出しづらいかもしれませんが、できるだけ早期に上司などに相談することが望ましいでしょう。
自分でできるストレスチェック
仕事に関するストレスを感じたら、自分でできるストレスチェックや疲労蓄積度チェックをおこなってみましょう。ここでは、厚生労働省が提供しているセルフチェックを2つご紹介します。
- 5分でできる職場のストレスセルフチェック(全57問、所要時間約5分)
https://kokoro.mhlw.go.jp/check/
- 働く人の疲労蓄積度セルフチェック
https://kokoro.mhlw.go.jp/fatigue-check/worker.html
仕事ができないときの保障制度を紹介
うつ病の再発によって休職しなければならない場合、さまざまな不安や心配があるでしょう。どのような保障制度があるのかを知っておくことも大切です。ここでは、うつ病で仕事ができないときに活用できる制度をご紹介します。
制度 | 概要 |
傷病手当 | 仕事を休まなければならなくなった場合、健康保険から最長1年6カ月にわたって給与の一部の金額を支給 |
職場復帰支援 (リワーク支援) | うつ病などで休職期間が長期化している人、休職と復職を繰り返している人を対象に、無理なく復職できるようなプログラムを提供 |
自立支援医療 (精神通院医療費の公費負担) | 何らかの精神疾患(統合失調症、うつ病など)によって通院治療を続ける必要がある場合に、医療費の自己負担分を一部軽減 |
都道府県の心身障害者医療費助成制度 | 心身に重度の障害がある人に医療費の助成 (対象は自治体により異なる) |
再発予防には、職場復帰を焦らないことも大切です。「もう復職できるのではないか」と思っても、主治医の判断を仰ぐようにしましょう。
うつ病の再発を疑ったら速やかに受診を
うつ病の再発について解説しました。再発のきっかけやサインは、前回の発症時と異なるケースもあります。「一度目のときと違うから、今回は違うはず」などと思い込まず、心や体に何らかの症状が表れたら、速やかに受診しましょう。
また、自分自身では気づかないうちに、再発の兆候が表れている場合もあります。家族や友人、会社の同僚など、周りの人の声にも耳を傾けましょう。うつ病は、日本人の約15人に1人の割合で発症し、また再発率は約60%とされています。決して珍しい疾患ではなく、誰しも起こりうるものです。再発しても悲観せず、自分を責めないようにしましょう。
治療は抗うつ薬の服用が主になりますが、「薬に頼りたくない」と思う人は少なくありません。特に症状が落ち着いてくると、通院や服薬を面倒に感じてしまうこともあると思います。しかし、再発の予防には継続的なサポートが必要です。このことを念頭に置いて、焦らず治療していきましょう。
参考サイト・文献
・こころもメンテしよう|厚生労働省
・こころの耳|厚生労働省
・こころの情報サイト|国立・精神医療研究センター
・e-ヘルスネット|厚生労働省
・地域におけるうつ対策検討会報告書|厚生労働省
・うつ病を知っていますか?国民向けパンフレット|厚生労働省
・うつ病の認知療法・認知行動療法(患者のための資料)|厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」
・こころの健康サポートガイド〜困ったときに受けられる支援・サービス|厚生労働省
・主治医と産業医の連携に関する有効な手法の提案に関する研究|厚生労働省
・医療系職員のためのメンタルヘルスガイド|独立行政法人労働者健康安全機構 関西労災病院 治療就労両立支援センター