双極性障害とは?原因やなりやすい性格、Ⅰ型Ⅱ型の違いも解説

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双極性障害とは、躁(著しく気分が高ぶっている状態)とうつ(著しく気分や意欲が低下している状態)を繰り返す精神疾患です。

気分が落ち込んだりよくなったりする感情の浮き沈みは自然なことです。通常は日常生活に大きな影響がないようコントロールでき、時間の経過とともに落ち着いていくもの。しかし、双極性障害では、気分や行動の浮き沈みを自分でコントロールするのが難しくなるのです。

この記事では、双極性障害の原因や症状、治療などについて詳しく解説しています。また、Ⅰ型・Ⅱ型の違いや発症しやすい性格についても紹介しています。双極性障害について詳しく知りたい方、自分や家族が当てはまるかもしれないとお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

双極性障害とは

双極性障害とは、イライラしたり気分が高ぶったりする「躁状態」と、著しく意欲や気持ちが低下する「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。双極性感情障害、躁うつ病などと言うこともあります。一生涯のうち、およそ100人に1〜2人が発症すると言われており、10代後半〜20代に発症しやすい傾向にあります。

躁状態の症状の程度によって、Ⅰ型とⅡ型に分けられるのが特徴です。

双極性障害において、躁状態やうつ状態が一度きりで終わることはほぼなく、一生のうちに何度も繰り返すケースがほとんどです。

また、以下の図の双極性障害の経過をみると分かるように、 I 型の人で約3分の1、 II 型の人で約半分の割合をうつ状態が占めると言われています。そのため、双極性障害の方が「うつ病」だと診断されるケースも珍しいことではありません。

ここからは、Ⅰ型とⅡ型の違いについて詳しく解説していきます。

双極Ⅰ型障害

双極Ⅰ型障害とは、うつ状態に加え、イライラや気持の高ぶりが強く出現する「躁状態」がある病態のことです。Ⅰ型の躁状態は、日常生活に大きな影響を及ぼすため、入院加療を必要とするケースが多いのが特徴です。

双極Ⅱ型障害

一方の双極Ⅱ型障害は、うつ状態と「軽躁状態」がある病態のことです。軽躁状態は自分では気付きにくく、むしろ調子がよいと勘違いすることが多いため、診断や治療に影響を及ぼすことも珍しくありません。

双極Ⅱ型障害は、双極Ⅰ型障害の軽症版と思われがちです。しかし、Ⅱ型のほうが、コントロールが難しく、再発や急性交代型に移行する可能性も高いといった特徴があります。また、Ⅱ型のほうがうつ状態の期間が長く、自殺のリスクが高いため注意が必要です。

​​双極性障害の原因と発症しやすい性格

双極性の原因は完全には解明されていませんが、遺伝的素因のある人にストレスや身体要因が引き金となって発症すると考えられています。

これまでの研究結果より、執着気質や循環気質の人が発症しやすい傾向にあることが分かっていました。しかし、最近の研究結果ではこれらの気質はあまり影響しないといった見解ももたれています。

執着気質循環気質
  • 几帳面である
  • 何事もやりだしたら、完璧でないと気が済まない
  • 責任感が強い
  • 明るく社交的である
  • 親切である
  • ユーモアがあり活発である
  • 争いごとを好まず、人との和を大切にする

適切な治療を受けられずに再発を繰り返していると、ストレスなどの引き金がなくても発症するようになるといった特徴もあります。

双極性障害の症状

双極性障害の症状は、大きく分けて以下の4つです。

  • 躁状態・軽躁状態
  • うつ状態
  • 軽躁状態
  • 混合状態

それぞれの症状を詳しくみていきましょう。

躁状態・軽躁状態

躁状態・軽躁状態の基本的な症状は、「高揚した気分」と「イライラして怒りっぽい」の2つです。症状の程度や持続期間によって、躁状態か軽躁状態かの診断がおこなわれます。そのほかにも以下の症状がみられることがあります。

具体的な事例
睡眠欲求の減少
  • 眠らなくても平気になる
自尊心の増大
  • 自分が偉くなったように感じたり妄想したりする
多弁
  • 猛烈な勢いで話し続ける
  • 自分が思っていることをすべて話さなければならないといった衝動にかられる
観念奔逸
  • 次々と考えが思い浮かんで止まらない
  • 思考が不安定になる
目標志向性の活動の増加
  • 活動レベルが上がり、行動的になる
  • 疲れを自覚できなくなる
注意散漫
  • 一つのことに集中できなくなる
  • さまざまなことに関心を示すがいずれも達成できない
困った結果になる可能性が高い快楽的活動への集中
  • お金を湯水のように浪費する
  • 薬やドラッグの乱用
  • アルコール依存
  • 犯罪傾向の増大
  • 軽率な性行動
幻覚・妄想
  • 誇大妄想

躁とうつ、いずれの状態でも幻覚や妄想がみられることがあります。うつ状態の不安におびえる微小妄想に対し、躁状態では自信にあふれ気持ちが大きくなる誇大妄想が出現するのが特徴です。同時に被害妄想もよくみられ、否定されることに敏感になり不機嫌さや易怒性を助長する原因となります。

軽躁状態は、上記表の症状が軽い、もしくは期間が短い状態ですが、だからといって放置しておくと、うつ病や急性交代型に移行する可能性があります。軽躁状態にあると調子がよいと勘違いしやすく、自分では気付きにくいため、家族や友人など普段の様子をよく知っている人からみてもらうことも大切です。

うつ状態

うつ状態の基本的な症状は、「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」です。

そのほかの症状には以下の7つがあります。

具体的な症状
食欲低下(または亢進)
  • 食事がおいしくなくなる
  • 食事の味を感じなくなる
  • 暴飲暴食を繰り返す
不眠(または過眠)
  • 夜中に何度も目が覚める
  • なかなか寝付けない
  • 1日のうちほとんどの時間を睡眠に費やしている
死についての反復思考
  • 死にたい気持ちになる
  • 自殺の計画を立てたり実行したりする
精神運動制止(または焦燥)
  • 会話や動作が遅くなる
  • じっとしていられなくなる
  • 落ち着かない
気力の減退
  • 歯磨きや入浴などがおっくうでできなくなる
無価値感、罪責感
  • 自分は価値のない人間だと思ってしまう
  • 自分を必要以上に責めてしまう
思考力・集中力の低下
  • 見聞きする内容が頭に入らない
  • 仕事が手につかない

うつ状態においても、幻覚・妄想といった精神症状を伴う場合があり、その多くは下記のような「微小妄想」です。

心気妄想重大な身体疾患はないのに、不治の病にかかっていると思ってしまう。
貧困妄想生活には困っていないのに、お金がなくて生活できないと思ってしまう。
罪業妄想罪はないのに、重大な罪を犯したので罰を受けなければいけないと思ってしまう。

また、精神症状だけではなく、頭痛や肩こり、めまいといった身体症状が現れる人もいます。

混合状態

混合状態とは、躁(軽躁)エピソードと抑うつエピソードを同時に満たす状態のことを指します。通常、躁(軽躁)うつは別々の期間に認められ、気分・思考・行動の3つの側面すべてが躁もしくはうつの状態となります。ところが、混合状態では3つの側面それぞれに躁とうつの要素がみられるようになるのです。たとえば以下のような状態に陥ります。

  • 気分は落ち込んでいるのに、頭の中では次々と考えが浮かんで止まらない
  • ひどく興奮して活発で多弁になっているのに、気分は死にたくなるほど憂うつになっている

上記のように、気分はうつ、思考や行動は躁の症状、あるいは行動は躁、思考や気分はうつになっている場合のことを混合状態と言うのです。混合状態は、躁からうつ、うつから躁へ移行するときにみられることがあります。

双極性障害の診断基準

双極性障害の診断は、身体疾患とは異なり血液検査や画像検査などで診断を確定することができません。診断には、国際的に広く使われている診断基準であるWHOのICDー10、もしくは米国精神医学会のDSMー5を用います。なお、1年間に4回以上、躁やうつのエピソードを繰り返す状態を急速交代型もしくはラピッドサイクラーと言います。

双極性障害Ⅰ型とⅡ型の診断

DSMー5における、双極性障害Ⅰ型、Ⅱ型の診断基準は以下の通りです。

双極性障害Ⅰ型双極性障害Ⅱ型
躁エピソードを1回でも確認できれば双極性障害Ⅰ型と診断。

軽躁、抑うつのエピソードは問わない。

躁エピソードが、過去に1回も存在せず、軽躁エピソードが少なくとも1回存在する。

かつ、抑うつエピソードの経験がある。

躁と軽躁の違いは、日常生活や社会生活に著しく影響を及ぼしているかどうかです。躁状態の場合、食事や睡眠をはじめ仕事や周囲との人間関係などの日常生活に大きな影響を及ぼしていることがほとんどで、入院を必要とするケースも少なくありません。

躁状態は気分の高揚だけでなく、イライラした気分が主体の場合もあるため注意が必要です。

混合状態の診断

躁エピソードと抑うつエピソードが混在する混合状態の場合、DSMー5による診断基準には以下の規定があります。

躁エピソードまたは軽躁エピソードの基準を完全に満たし、現在または直近の期間の大半において以下の症状のうち少なくとも3つ以上が存在する。
  • 顕著な不快気分または抑うつ気分
  • 興味や喜びの減退
  • 精神運動性の制止
  • 易疲労感または気力の減退
  • 無価値感または罪責感
  • 死についての反復思想

参考:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014

気分循環性障害の診断

双極性障害と似た疾患に気分循環性障害があります。気分循環性障害は、双極性障害より比較的症状が軽いのが特徴であり、診断基準は以下の通りになります。

2年以上、軽躁エピソードの基準を満たさない軽躁症状と抑うつエピソードの基準を満たさない抑うつ症状が期間の半分以上存在し、症状のない期間が2カ月以上存在しない場合。

双極性障害とうつ病の見分け方

双極性障害とうつ病を見分けるポイントは、躁状態の有無です。うつ病の場合は、うつ状態のみがみられます。一方、双極性障害ではうつ状態に加え、躁状態も出現します。

著しく気分が高揚する双極性障害Ⅰ型は、うつ病との区別が比較的容易です。一方で、軽躁状態が出現する双極性障害Ⅱ型では、最初にうつ病と診断されてしまうことも少なくありません。実際に、うつ病と診断された人の10人に1〜2人は、最終的には診断が双極性障害に変わると言われています。

双極性障害かうつ病かを見分けるためのポイントは、躁(軽躁)状態の有無です。ただ、自分では躁(軽躁)状態を調子がよいのだと思い、医師に話さないことも少なくありません。その結果、診断の遅れにつながるケースもあります。ささいなこと、自分では調子がよいと思うことでも、日頃の様子や変化は医師に話すことをおすすめします。

双極性障害の治療の3本柱

双極性障害は、躁状態とうつ状態のコントロール、再発予防のための維持療法の3つが大切です。ここでは、それぞれの治療について詳しく紹介していきます。

治療1.躁状態の治療

躁状態はうつ状態と比較して急激に悪化することが多いため、入院加療が必要となることがあります。躁状態に対する有効的な治療法は薬物療法です。

最も推奨されているのは、炭酸リチウムですが、効果が出るまで1~2週間かかるため即効性は期待できません。中等度以上の症状が認められる場合は、鎮静作用のある非定型抗精神病薬を初めから併用して早期の安定を目指します。

非定型抗精神病薬の一例
オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール

次に推奨される治療は、気分安定薬、非定型抗精神病薬、およびそれらの併用です。重度の場合は電気けいれん療法を考慮することもあります。

治療2.うつ状態の治療

双極性障害の治療ガイドラインにおいて推奨されている治療は、以下の気分安定薬、非定型抗精神病薬による薬物療法です。

  • 炭酸リチウム
  • 気分安定剤(ラモトリギン、カルバマゼピンなど)
  • 非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなど)

重度の場合は、薬物療法以外にも電気けいれん療法が推奨されています。

注意したいのが、双極性障害のうつ状態に対しては、基本的に抗うつ薬の使用は推奨されていないことです。抗うつ薬の使用によって躁に移行したり病相が頻発したりするリスクがあるためです。そのため、うつ病との区別が重要となります。

治療3.維持療法

双極性障害は、再発を繰り返すことが多いため、症状が落ち着いている安定期においても維持療法をおこない再発を予防することが重要です。

維持療法の基本は薬物療法です。長期間の治療の必要性についての理解を深めるために、心理教育も並行しておこなわれます。

維持療法で使用される薬剤は、以下の通りです。

  • 炭酸リチウム
  • 気分安定薬(ラモトリギン、カルバマゼピン、バルプロ酸など)
  • 非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピラプラゾールなど)

最も推奨される薬剤は炭酸リチウムです。次いで、気分安定薬や抗精神病薬が選択されます。

心理教育では、疾患に対する知識を深め、疾患を受け入れる態度を培っていきます。再発時の初期兆候に気付いて早めに対処できれば、再発予防や急激な悪化の防止につなげることが可能です。

そのほかにも、対人関係療法、社会リズム療法、家族療法、認知行動療法といった心理社会的治療が推奨されています。

双極性障害は治っても再発しやすい

双極性障害は、再発を繰り返すことが多い精神疾患です。そのため、躁状態やうつ状態が落ち着いている安定期においても、再発予防のための維持療法を続けることが重要な役割を担っています。特に、双極性障害Ⅱ型は軽躁状態を見落してしまうことも多いため、適切な治療が受けられないケースも珍しくありません。

無治療や治療の自己中断は、再発のリスクを高めてしまいます。再発を繰り返すと、1年に4回以上の躁やうつ状態、または混合状態がみられる急速交代型に移行することも。

受診のタイミングを自分で決めたり、自己判断で薬の量を調整することは非常に危険です。医師の指示に従って、適切な治療を適切な期間受けるようにしましょう。

双極性障害との付き合い方

双極性障害は、適切な治療を継続的に受けることが重要です。調子がよいからといって医師と相談せずに受診や服薬をやめるのは非常に危険です。

継続的に治療をうけることで、病気とうまく付き合い、症状を抑えながら日常生活を送ることもできます。双極性障害とうまく付き合っていくためには、以下のポイントを心がけることが大切です。

  • 適切な治療を継続して受けること
  • 自分の気持ちをよく知り理解すること
  • 治療の目標を明確化すること
  • 生活のリズムを整えること
  • ストレスとうまく付き合うこと
  • 治療や病気の経過を理解すること
  • リハビリをしっかりおこなうこと
  • 社会資源や制度などを活用すること

これらを心がけながら、双極性障害とうまく付き合っていきましょう。

双極性障害と診断された方のご家族や周囲の受け止め方

家族や身近な人が双極性障害と診断され、どう接したらよいのか分からないと途方に暮れている方もいるかもしれません。双極性障害の治療を進めていくにあたり、家族や周囲の方の理解やサポートは非常に重要です。

ただし、うつ状態に陥っている最中に「頑張って」といった励ましの言葉をかけることや、無理に気晴らしに誘うことは避けましょう。早くよくなって欲しい気持ちは分かりますが、かえって本人の負担となり症状が悪化してしまうことも少なくありません。

一方、躁状態の場合は本人と付き合うことに家族や周囲の方が疲弊してしまうことがあります。入院したほうがよいケースもあるため、我慢せずに早めにかかりつけの医療スタッフに相談してみることをおすすめします。

双極性障害で活用できる支援や制度

双極性障害によって、仕事や生活、金銭面での不安を抱えながら生活をしている方もいるのではないでしょうか。

双極性障害と診断を受けた場合、精神障害者福祉手帳の交付の申請が可能です。症状の程度によって1〜3級の認定を受けられ、利用できる支援や制度の幅が広がります。以下は、精神障害者福祉手帳の交付を受けた場合に利用できる制度の一例です。

  • 公共料金等の割引
  • 所得税、住民税の控除
  • 福祉手当などの支給
  • 公営住宅の優先入居

ほかにも、双極性障害によって生活や仕事が困難である場合、障害年金を受給できることもあります。ここで紹介したもの以外にも、さまざまなサポートがあります。厚生労働省が発行しているこころの健康サポートガイドには、さまざまな支援や制度などが紹介されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

双極性障害は継続的な治療が大切

この記事では、双極性障害について詳しく解説しました。双極性障害は、うつ病との見分け方が難しく、診断に時間を要してしまうことも珍しくありません。うつ病の治療ではなかなか症状が改善しなかった人が、実は双極性障害であったケースもあります。双極性障害とうつ病は、いずれも「うつ状態」が存在しますが、治療法は全く異なるため、正しい診断が必要不可欠です。

また、双極性障害は再発を繰り返すことが多いため、継続的な治療が重要となります。そのため、自己判断で治療を中断することはリスクを伴います。

症状が治まったからといって自己判断で治療をやめずに、メンタルクリニックや病院で継続的に治療を受け、双極性障害とうまく付き合っていきましょう。

参考文献・サイト
日本うつ病学会診療ガイドライン|双極性障害(双極症)2023
日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害(2020)
国立研究開発法人|国立精神・神経医療研究センター
e-ヘルスネット|厚生労働省
こころの健康サポートガイド〜困ったときに受けられる支援・サービス|厚生労働省
双極性障害(躁うつ病)と付き合うために|日本うつ病学会 双極性障害委員会
日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014

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精神科医 藤田朋大先生

当記事の監修医師
精神科医:藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医。新宿駅の心療内科・精神科「あしたのクリニック新宿院」で診療を担当

藤田 朋大先生

当記事の監修医師
藤田 朋大先生

三重大学医学部医学科卒業後に南勢病院精神科に在職。緩和ケア研修会修了。認知症サポート医

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