双極性障害を抱えている方のなかには「仕事がつらい」「仕事が思うようにできない」と感じて悩んでいる方もいるでしょう。双極性障害の症状によっては、日常生活や仕事に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。
双極性障害と診断された場合、治療をしながら仕事を続けることは可能ですが、状態によっては働き方や環境を変える必要があります。
本記事では、双極性障害で仕事ができないと感じたときの対処法をご紹介します。さらに、双極性障害でも仕事を続ける方法や、仕事の探し方もまとめました。仕事に対しての悩みをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
双極性障害でも仕事はできるの?
双極性障害を抱えながら仕事ができるのか不安な方もいるかもしれませんが、治療をしながら働くことは可能です。しかし症状によっては、仕事や人間関係に影響を与えてしまうことも少なくありません。
双極性障害の方が仕事を続けるには、職場や家族など周囲の理解を得て、主治医と相談しながら適切な治療を進めていくことが大切です。双極性障害と診断された場合は、まず主治医に仕事を続けたい意思を伝え、継続可能かを確認しましょう。自己判断で無理して仕事を続けることは、症状が悪化する恐れがあるため注意が必要です。
主治医から仕事をしてもよいと判断されたら、職場へその旨を伝えたほうが安心して働けます。症状や状態によっては、仕事を休んだり周囲とのトラブルを引き起こしやすくなったりすることがあるためです。事前に上記の可能性について話しておくことで、万が一のときに対応してもらいやすくなります。
双極性障害の症状|仕事ができないと感じる原因とは?
双極性障害とは、気分が高揚して活動的な姿がみられる「躁状態(もしくは軽躁状態)」と、気持ちが落ち込み抑うつ気分がみられる「うつ状態」が交互に表れる精神疾患です。
それぞれの状態によって、特徴や症状が異なります。双極性障害の症状によっては「仕事がうまくこなせない」「仕事を続けられない」と感じてしまうこともあるでしょう。しかし、治療を受けて症状を緩和しながら仕事をしている方もいます。
この章では、状態別に症状をご紹介します。普段と違う様子や気になる症状がある場合には、早めに精神科や心療内科などの医療機関で受診しましょう。
躁状態/軽躁状態
躁状態/軽躁状態とは、気分が高揚し活動的な姿がみられる状態です。なかには、イライラしやすくなり怒りっぽくなる場合もあるため、感情的になり人間関係のトラブルに発展してしまうことも珍しくありません。
躁状態/軽躁状態の症状は以下の通りです。
- 高揚気分(ハイテンション)
- イライラしやすく怒りっぽい
- 自尊心が肥大する(自分が偉くなったように感じる)
- 睡眠時間が減少する
- おしゃべりになり、誰かに話したい気持ちに駆られる
- 次々と考えが浮かんで止まらない
- 1つのことに集中できない
- 目標に向かって活動量が増える
- 結果的に困るとわかっているのに快楽活動へ熱中してしまう(衝動買いや危険な運転など)
- 幻覚や妄想(誇大妄想や被害妄想)
上記の症状の程度や継続時間、日常生活に支障をきたしているかなどを総合的に判断して「躁状態」もしくは「軽躁状態」と診断されます。
「軽躁状態」は数日続き、症状が比較的軽く日常生活への支障はない状態を指します。自分では「調子がよい」と感じ、精神疾患であることが見逃されてしまうことも少なくありません。対して「躁状態」とは、上記の症状が1週間以上続き、日常生活や仕事などに影響を与えている状態です。
うつ状態
うつ状態は抑うつ気分や意欲の低下などがみられ、行動が制限されてしまう状態です。躁状態と比べてうつ状態の期間は長く、双極性障害の30〜50%はうつ状態で過ごすことが多いとされています。うつ状態では「何もしたくない」「仕事に行けない」などの症状が表れるため、仕事を続けることが困難なケースも珍しくありません。
うつ状態の症状は以下の通りです。
- 抑うつ気分(気分の落ち込み)
- 興味・喜びを感じなくなる
- 食欲が低下する
- 寝つけなくなったり、早くに目が覚めたりする
- 動きがゆっくりになる(または落ち着きがなくなる)
- 全身の疲労感
- 自分には価値がないと感じ、何でも自分のせいにする
- 思考力や集中力が低下する
- 「死にたい」など死について考える
うつ状態では、上記の症状が2週間以上続きます。今まで好きだったものや、躁状態のときに夢中になっていたことなどに興味がなくなり、何事に対しても意欲が湧かなくなります。なかには、躁状態のときの自分を責めたり、悲観的な考えばかり浮かんだりして、人によっては「死にたい」との思いが芽生えてしまうこともあるため軽視できません。このような様子が見られた場合には仕事を休職して、十分な休養を取ることが大切です。
混合状態
双極性障害では、躁状態とうつ状態が切り替わるタイミングなどに「混合状態」がみられることがあります。混合状態は「躁状態」と「うつ状態」の症状が同時に表れる状態です。気分が高揚しているのに涙が出てくるなど、自分の考えと行動が結びつかないのが特徴です。
混合状態については、こちらの記事で詳しく解説しています。
双極性障害が仕事に与える4つの影響
双極性障害を治療しながら仕事を続けることは可能ですが、症状や状態によっては大きな影響を与えてしまうこともあります。
この章では、双極性障害が仕事に与える4つの影響をご紹介します。
- ミスが増え仕事の効率が悪くなる
- 対人関係でのトラブルが増える
- 無断欠勤や遅刻が見られる
- 身体的不調がみられ仕事ができなくなる
上記の様子は、本人よりも周囲が先に気づくケースも少なくありません。普段と異なる様子に気づいた場合は、早めに受診を勧めましょう。それぞれ詳しく解説します。
1.ミスが増え仕事の効率が悪くなる
双極性障害では認知機能が低下するとのデータがあり、それによってミスが増え、仕事の効率が悪くなるなどの影響を与えます。ここでの認知機能とは、以下のものを指します。
- 注意力
- 学習能力
- 記憶力
- 計画力
- 意思決定力
うつ状態では集中力や思考力などの低下がみられ、1つのことに集中して取り組んだり、計画を立てて行動したりすることが難しくなります。躁状態でも、注意散漫や衝動を抑えられないなどの症状がみられ、仕事に集中できずミスが増えたり、仕事が思うようにこなせず効率が悪くなったりする恐れがあります。
2.対人関係でのトラブルが増える
躁状態では、イライラしてちょっとしたことで怒りやすくなり、攻撃的な言動が見られたりすることもあります。そのため職場でも、怒鳴ったり感情的になったりなどの行動を引き起こし、対人関係に影響を与えかねません。
ほかにも、できもしない約束をしたり、1人で勝手に物事を進めて周囲に迷惑をかけたりといった突拍子もない行動がみられることもあります。結果として周囲からの信用を失い、仕事を辞めざるを得ない事態に陥ってしまうことも。
一方うつ状態では、人と関わることを避ける傾向にあるため、コミュニケーションがうまく取れず仕事に行きにくくなるなどのケースも見られます。
3.無断欠勤や遅刻が見られる
うつ状態のときは意欲が湧かず、仕事のみならず外出すらもおっくうに感じることも珍しくありません。自宅に引きこもりがちになり、無断欠勤や遅刻が増えるようになります。
今まで無断欠勤や遅刻がなかった方にこのような行動が目立つようになったら、精神疾患を発症しているサインかもしれません。本人の状態や思いを確認して、必要があれば受診を勧めることが大切です。
4.身体的不調がみられ仕事ができなくなる
うつ状態では不眠や食欲低下などにより、身体的不調を訴える場合があります。症状としては頭痛やめまい、全身のだるさなどさまざまです。躁状態でも、睡眠時間を取らずに活動してしまう傾向から、身体的不調につながる恐れがあります。
仕事には行けるけれど、体調が優れず仕事が手につかないなどの様子が見られた場合は、休息を促しましょう。顔色が悪い、活気がないなどの変化にも注意が必要です。
双極性障害で仕事を辞めたいと感じたときの対処法
双極性障害による症状が原因で「仕事を辞めたい」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、以下の3つの対処法を検討しましょう。
- 仕事をしながら治療を進める
- 一度休職してから復職する
- 退職する
双極性障害の症状にはムラがあり、人によって程度に差があります。職場が疾患について理解して、真摯に向き合ってくれる環境であれば同じ職場で続けるのもよいですが、そうでない場合は転職や退職も視野に入れましょう。
仕事をしながら治療を進める
症状が落ち着いているタイミングであれば、医師の診察を受け仕事が続けられる状態と判断された場合のみ、治療しながら仕事を続けることは可能です。しかし、自己判断で無理して仕事を続けるのはよくありません。必ず受診して医師に相談しましょう。
治療しながら仕事を続ける場合には、職場や家族など周囲のサポートや、生活環境の調整が必要です。協力が得られるようであれば、無理をしない範囲で仕事の継続は可能でしょう。
状態の変化によって急に仕事に行けなくなることがあるなど、考えられる状況について周囲と話し合っておくと安心です。
一度休職してから復職する
症状がつらく仕事が続けられない場合は、優先して休養を取りましょう。一度休職をして治療に専念し、症状が落ち着くのを待ちます。症状が回復したあと、今の職場で働き続けたい場合に有効な方法です。会社によっては休職制度が活用できることもありますので、まずは会社に休む必要性を伝え、利用できる制度を確認しましょう。
また、傷病手当金制度を利用することで休職中でも収入を得ることができ、安心して休養できます。休養することで治療に専念できるため、早い回復が見込めます。
退職する
休職制度が会社にない場合や今の会社を辞めたい場合には、退職するのがよいでしょう。一度休養し治療に専念して、回復後働ける状況であれば新しい職場に就職することになります。
仕事環境がストレスであったり、人間関係のトラブルがあったりした場合には、職場を変えることも選択肢のひとつです。しかし、退職してしまうと収入がなくなってしまうため、経済的リスクが懸念されます。その際は、家族のサポートが必要になる可能性もありますので、協力が得られるか確認してから退職するかどうかを決めるのがよいでしょう。
双極性障害の方に向いてる仕事
双極性障害を抱えている方は、不規則な仕事や業務量が安定しない仕事は向いていません。残業が多い、夜勤があるなどの環境で仕事を続けると、症状悪化につながる恐れがあるため、職種選びにも注意が必要です。
勤務時間が安定しており(残業が少ない)、規則正しい勤務時間で働ける仕事がおすすめです。また、躁状態の場合には周囲とのトラブルが発生する可能性があるため、人との対話や話し合いが少ない仕事も適しているといえるでしょう。
具体的には、以下の仕事が向いています。
- 一般事務
- 工場や倉庫などでの軽作業
- 清掃員
- 在宅ワーク(デザイナーやライター)
- データ入力や書類整理などの事務作業
複数の業務を同時にこなすなどのマルチタスク能力が必要なく、業務内容がルーチンで決められている仕事がよいでしょう。一番は職場の理解があることが望ましいため、上記の仕事でも疾患に対する理解や協力が得られない場合は、自分のペースでできる仕事を探してみましょう。
双極性障害の方におすすめの仕事の探し方
双極性障害の方で、「転職したい」「新しく仕事を探したい」とお考えの方もいるでしょう。この章では、双極性障害の方におすすめの仕事の探し方をご紹介します。
もちろん一般求人でも仕事を見つけることは可能ですが、ここでは精神疾患を抱えた方が利用しやすいサービスをまとめました。これから仕事探しをスタートする方は、ぜひ参考にしてください。
ハローワーク
ハローワークでは、求人枠を選べるため「障害者枠」での仕事を探せます。障害者専門の相談窓口があり、仕事の紹介のみならず、就職活動の方法や履歴書の書き方などの支援も受けられるのが特徴です。
仕事の登録にはハローワークに行く必要がありますが、求人はインターネットで調べられます。気になる求人をピックアップしてから、ハローワークで相談してみましょう。
なお、障害者雇用を利用する場合は、医師の診断書や障害者手帳が必要なケースもあるため、事前に確認しておくと安心です。
障害者向け就労支援サービス
障害のある方向けの転職エージェントや求人サイトを活用することで、自分に合った仕事が探しやすくなります。障害者雇用に関する知識を持ったアドバイザーが対応してくれるだけでなく、サイトによっては面接や入社後のサポートまで一貫して受けられる場合があります。
サービスによって得意な分野が変わってくるので、仕事のジャンルを絞って探すと効率よく仕事を見つけられるでしょう。
就労移行支援
就労移行支援とは国が実施している就労支援のひとつで、一般就労などの移行に向けて知識や技術を習得できます。仕事を続けるうえでの基礎体力の向上や、マナーや挨拶方法の習得まで幅広い支援を受けられるのが特徴です。
求職活動のほかにも職場見学や実習もでき、働く前にイメージを膨らませられます。「働きたい」との意思はあるが、働くことに悩みや不安を抱えている方におすすめです。
地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター
各都道府県に設置されている、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターを利用するのもよいでしょう。
社会復帰や職業生活での自立を目的として、就職面だけでなく生活面でのサポートも受けられるのが特徴で、就業および生活に関するアドバイスや指導が受けられます。ほかの関係機関と連携しているため、スムーズな求職活動が可能です。
双極性障害でも仕事は続けられる|普段と異なる様子に気づいたら受診しよう
双極性障害の方でも医師が仕事をしても問題ないと判断した場合であれば、治療しながらでも仕事を続けられます。しかし無理は禁物ですので、症状による苦痛を感じている場合や医師が休養を必要と判断した場合には、一度お休みをして治療に専念することが大切です。
双極性障害に対する治療を進めながら仕事を続けるには、家族や職場の理解と協力が必要不可欠です。躁状態とうつ状態では仕事に与える影響が異なるため、症状に合わせて柔軟に対応してもらえる環境であれば、安心して仕事ができるでしょう。
双極性障害では、本人の病識が薄いケースも少なくありません。周囲の方が普段と異なる様子に気づいた場合は、早めに精神科や心療内科などの医療機関の受診を勧めましょう。
参考・出典
・双極性障害の方の仕事探し・就職サポート|就労支援カレッジ
・双極性障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
・双極性障害(そううつ病)|国立精神・神経医療研究センターNCNP病院
・双極性障害(躁うつ病)とつきあうために|日本うつ病学会 双極性障害委員会
・双極性障害の認知研究―成人と児童|日本生物学的精神医学会誌
・住吉太幹, 長谷川由美, 末吉一貴:双極性障害における認知機能 -当事者のための
小冊子; 国際双極性障害学会編, 2020