「アスペルガー症候群」という言葉は知っていても、その症状や特性を正しく説明できる人は少ないのではないでしょうか。アスペルガー症候群は社会性やコミュニケーションの難しさ、興味・関心の偏りを特性とする、発達障害(神経発達症群※)の1つです。
発達障害であるとは気づかれにくく、「変わった人」と周囲に思われてしまうこともあります。また、本人も家族もアスペルガー症候群であると気づかず、大人になってから判明するケースもあります。
この記事では、アスペルガー症候群の特性や診断基準、原因や治療、注意欠如・多動症(ADHD)との違いを解説します。また、周囲が支援する際のポイントを子どもと大人の場合に分けて紹介します。
アスペルガー症候群の特性を理解することで、悩みや困りごとに対処しやすくなる可能性があるので、ぜひ参考にしてください。
※現在は発達障害のことを「神経発達症群」「神経発達症」などとも呼びますが、発達障害という用語が広く知られている状況を踏まえ、この記事では発達障害と表記しています。
アスペルガー症候群とは
アスペルガー症候群は発達障害の1つです。アメリカ精神医学会が発行する診断基準、DSMでは広汎性発達障害の1つに分類され、自閉症と呼ばれることもありました。
しかし、最新版のDSM-5(2013年発表)ではアスペルガー症候群や自閉症といった診断名はなくなり、「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」に統合されています。
ただし医療従事者でない場合は「アスペルガー症候群」の方が聞きなじみがあるという方もまだ多いでしょう。そのためこの記事では平易さを優先し、引き続き「アスペルガー症候群」と表記しています(一部を除く)。
アスペルガー症候群はおよそ100人に1人に見つかると言われ、女性より男性に多いとされています。
生まれつきの脳の機能障害であり、遺伝的な要因なども関係していると考えられています。また注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)などが併存症としてよく見られる疾患です。
アスペルガー症候群の特性と症状
アスペルガー症候群の特性として、精神科医ローナ・ウィングの提唱した「ウィングの3つ組」が挙げられます。
- 社会性の難しさ
- コミュニケーションの難しさ
- 興味・関心の狭さ、偏り
具体的にどのようなことか、下記に表で示します。
特性 | 具体例 |
社会性の難しさ | 人との社会的な相互関係を築くことが苦手 |
コミュニケーションの難しさ | 他者とのことば等のやり取り(理解 と 表出) の難しさ |
興味・関心の狭さ、偏り | 興味の幅が狭さ、こだわりの強さ |
出典:発達障害の理解|厚生労働省 令和元年度就労準備支援事業従事者養成研修
これらの特性から、アスペルガー症候群の人は対人関係で困りごとを抱えやすい傾向があります。相手の気持ちを読み取ったり、想像したりするのが難しいためです。
またこの3つ組のほか、感覚の偏り、睡眠の異常、過集中などを併せ持つことが多いとされています。
アスペルガー症候群の診断基準
DSM-5における自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群)の診断基準は下記の通りです。
- 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなど)
- 発達早期から1、2の症状が存在していること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
出典:e-ヘルスネット|ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について
上記の1と2の症状の程度はさまざまであり、専門医による医学的な評価が重要であると言われています。
さらに子どもと大人に分けて、アスペルガー症候群の症状を詳しく見ていきましょう。
子どものアスペルガー症候群を早期発見するポイント
子どもの場合、下記のような様子が症状に気づくポイントです。
- 目と目が合わない
- 笑いかけても返さない
- 指さしが少ない
- 感覚の過敏さがある
- 同世代の集団の中に入れない
1歳6カ月児健診や3歳児健診で指摘されることがあり、一般的には3歳までに診断がつきます。
アスペルガー症候群を早期に発見するには、保育園や幼稚園での様子もポイントです。1人で遊ぶことが多い、集団行動ができない、強いこだわりがあるといった様子がないか観察してみるといいでしょう。
大人になってから診断されることもある
アスペルガー症候群の人は「ウィングの3つ組」の特性を持っていますが、それぞれがどの程度強く症状として表れるかには個人差があります。たとえば言葉の発達が良好なケースでは、子どもの頃には気づかず、大人になって社会生活での困難さを感じたことがきっかけで診断されるケースもあるのです。
就職もアスペルガー症候群の特性によって困りごとが顕在化するタイミングの1つです。複雑な作業をおこなう場面が増えたり、学生の頃に比べて人間関係が複雑になったりするためです。
大人になってからアスペルガー症候群と診断されるケースでは、下記のような人間関係での困りごとを抱えたことがきっかけになりやすいようです。
- 人と深く付き合うのが苦手
- 人に共感できない
- 冗談が通じない
- 融通がきかない
しかし、これらはアスペルガー症候群の人でなくても感じることのある悩みでしょう。自分自身で判断するのは難しいため、上記のような困りごとがあるときには専門の医療機関を受診することをおすすめします。
アスペルガー症候群とADHDの違いは?
混同されやすい発達障害として、注意欠如・多動症(ADHD)があります。併存していることも多い障害なので、両者の違いがよくわからないという方もいるのではないでしょうか。
アスペルガー症候群とADHDの特徴は、下記の通りです。
アスペルガー症候群 | ・コミュニケーションの障害がある ・対人関係や社会性の障害がある ・パターン化した行動、興味や関心の偏りがある |
ADHD(注意欠如・多動症) | ・集中できない(不注意) ・じっとしていられない(多動性) ・考えるよりも先に動いてしまう(衝動性) |
社会性やコミュニケーションで困難を感じるのがアスペルガー症候群の特性であり、ADHDは不注意や多動性が特性です。しかしADHDの特性を原因とした行動はコミュニケーションの問題として捉えられるケースもあり、それがアスペルガー症候群との違いをわかりづらくしてしまうこともあるでしょう。両者の判別は難しく、実際に併存していることもあるので、専門の医療機関に相談するのが大切です。
またDSM-5におけるADHDの診断基準は下記の通りです。
- 不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
- 症状のいくつかが12歳以前より認められること
- 2つ以上の状況において(家庭、学校、職場、その他の活動中など)障害となっていること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- その症状が、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中に起こるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されないこと
出典:e-ヘルスネット|ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療
大人になってから診断がつくこともありますが、12歳以前より症状があることが基準に含まれているのはアスペルガー症候群との違いの1つです。
アスペルガー症候群の原因
アスペルガー症候群の原因は特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に絡んでいると考えられています。妊娠中や出産時の何らかのトラブルが関係している可能性もあるとされています。
子どもにアスペルガー症候群の兆候が見られると、親は「育て方に問題があったのかもしれない……」と自分を責めてしまうことがあります。しかし、育て方やしつけなどは、アスペルガー症候群の発症と関係ありません。
アスペルガー症候群の治療
現時点では、アスペルガー症候群に根本的な治療法はありません。個人個人の発達のペースに合わせた療育や教育的な支援などが必要です。
下記に、幼少期と思春期以降における支援のポイントをそれぞれ記載します。
幼少期 | ・個別や小さな集団での療育を受ける ・基本的な生活スキルとともに、対人スキルの発達を促す ・視覚的な手がかりや、先の見通しを持ちやすいように提示する |
思春期以降 | ・進路や人間関係、就労や家庭生活、余暇活動、自己実現などもテーマになる ・自分らしく歩めるように支援する ・成人を対象とした、対人機能訓練やデイケアなどを活用する |
このほかにストレスになり得る要素がないか確認し、環境を調整することも大切です。かんしゃくやこだわりなどの症状が顕著な場合は、薬の服用によって軽減できることもあります。
アスペルガー症候群の人の支援では、大人でも子どもでも、個々のニーズに合わせて適切に支援することが大切だと言えるでしょう。
アスペルガー症候群かもしれないと思ったら
もし、「わたしってアスペルガー症候群?」「子どもがアスペルガー症候群かもしれない……」と思ったら、どうしたらいいのでしょうか。
いずれの場合も、早めに専門の医療機関で相談することが大切です。アスペルガー症候群であることがわかれば、適切に対処できます。困りごとがある場合には、現在大きな問題に発展していなくても支援先を見つけておくと安心です。
もし受診することに対して抵抗があるときは、都道府県などが設置している発達障害者支援センターに相談するのも1つの方法です。しかし、あくまで診断するのは、精神科や心療内科などの医療機関なので、その点は頭に入れておきましょう。
アスペルガー症候群は周囲の理解も大切
アスペルガー症候群をはじめとした発達障害は、同じ診断名でもその症状に個人差があります。性格によるものと思われてしまうことで、周りから理解されにくいこともあるでしょう。
しかし、できるだけ早い時期から周囲の理解を得ることが大切です。
そして適切な支援を受けることで、安定した生活を送れるようになります。大人の場合でも、特性を理解すれば仕事で長所として活かすこともできるでしょう。
アスペルガー症候群の特性を知って早めに対応しよう
アスペルガー症候群は発達障害の1つで、現在は自閉スペクトラム症(ASD)に統合されています。
アスペルガー症候群の原因ははっきりとはわかっていませんが、先天的な要因があると考えられています。親の育て方やしつけは関係ないので、もし子どもにアスペルガー症候群の兆候があっても自分を責めたりしないようにしましょう。
アスペルガー症候群の明確な治療法はなく、それぞれの発達のペースに合わせた対応が必要となります。補助的に薬物療法をおこなうこともありますが、環境の調整も大切です。
アスペルガー症候群の特性は、なかなか周囲に理解されにくいケースもあります。大切なのは、その人に合わせて適切に支援することです。この記事で紹介した困りごとや症状がある場合には、早めに精神科や心療内科などの医療機関で受診しましょう。
参考サイト・文献
・ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|e-ヘルスネット
・発達障害の理解|厚生労働省
・自閉スペクトラム症(ASD)|国立精神・神経医療研究センター・発達障害児の早期発見のポイントはありますか?|日本小児神経学会
・職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害|こころの耳(厚生労働省)
・発達障害(神経発達症)|こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター)
・大人になって気づく発達障害ひとりで悩まず専門相談窓口に相談を!|政府広報オンライン
・「発達障害の理解のために」パンフレット|国立障害者リハビリテーションセンター