「適応障害で休職したいと上司に伝えたら元気そうに見えると言われた」
「元気に見えるけど本当に病気なの?」
「周囲に適応障害のことを理解してもらうにはどうしたらいい?」
適応障害をはじめとした精神疾患は、目に見えない心の症状が主となることが多いため、周囲に理解されずに悩まれている方もいることでしょう。
なかには、適応障害と診断を受けているのにもかかわらず、周りから「意外に元気そうだね」と言われて傷ついた経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、適応障害の人が元気に見える、明るく振る舞う理由について紹介しています。適応障害なのに周りから元気そうに見えると言われて悩んでいる、周りに適応障害の人がいるけど本当なのかと疑問に思われている方は、参考にしてみてください。
適応障害とは
適応障害とは、ストレスが原因で心身のバランスが崩れ、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態のことを指します。原因がはっきりしており、ストレス因が生じてから3カ月以内に症状が出現するのが特徴です。
適応障害を発症すると、不安や焦燥感、抑うつなどといった症状が表れます。
適応障害だけど元気に見える2つの理由
適応障害と診断を受けているのにもかかわらず、周りから元気そうに見えると言われ悩んでいる方もいるのではないでしょうか。また、周りから見てあの人は本当に適応障害なのかと疑問に思われている方もいるかもしれません。
適応障害と診断を受けていても元気に見える理由には、以下の2つがあると考えられます。
- 心身の状態はそのときどきで変化するから
- 躁的防衛が働くことがあるから
適応障害を患っている本人にしか分からない苦痛があることを十分に理解する必要があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
理由1.心の状態はそのときどきで変化するから
精神疾患を患っている人もそうでない人も、嬉しかったり悲しかったりなどそのときどきで心の状態が変化するのは自然なことです。しかし、適応障害などで心身の不調が続いている場合、ささいなことで心のバランスが崩れたり大きく反応してしまったりするなど敏感な状態になっています。
ただ、精神疾患があるからといって常に不安やつらい気持ちが続いているわけではありません。ストレスから離れているときや心から楽しいと思えることに取り組んでいるときには、一時的に元気に見えることもあります。しかしながら、心は常に不安定な状態に置かれていることを理解する必要があります。
理由2.躁的防衛が働くことがあるから
躁的防衛とは、精神的苦痛から逃れるために、本人も気づかないうちに明るいキャラクターを演じたり、つらい気持ちに蓋をしたりしている状態のことを指します。精神分析家のM.クラインによって提唱された防衛機制の一つです。
躁的防衛は、短い期間のストレスに対しては有効だとされていますが、長期的なスパンでみると、逆に症状を悪化させてしまうことにもなりかねません。
こういった躁的防衛により明るく振る舞うことで、周囲からは「元気に見える」と勘違いされることがあるのです。しかしながら、元気な振る舞いの背景には何らかの苦痛があるかもしれないという視点で見守ることが重要です。
適応障害だけど元気に見えると周りに理解してもらえない理由
適応障害をはじめとした精神疾患は、糖尿病や高血圧症のように誰もがかかる可能性があります。しかしながら、国民の多くが他人事として考えているといった現状があります。
心の病気は目に見えない症状が多いため、「怠け」や「甘え」として認識されてしまうことも少なくありません。また、適応障害は常に調子が悪いのではなく、ストレスが軽くなった際など調子がよくなるときももちろんあります。
こうした背景から、適応障害をはじめとした精神疾患が周りに理解されにくいといったことが考えられます。しかし、適応障害をはじめとした精神疾患は、決して「怠け」や「甘え」ではないことを理解しておいてください。
適応障害に伴う不安や焦燥感、気分の落ち込みや、症状により普段通りの生活が送れないといった苦痛を理解しようとすることが回復への手助けにもなります。
適応障害なのに「元気に見える」と言う相手にはどう対応すればよい?
適応障害と診断を受けているのにもかかわらず、周囲から「元気に見える」と言われてショックを受けている方もいるのではないでしょうか。
ここでは、適応障害のことをどう周囲に理解してもらえばよいのかについて紹介していきます。
無理に理解してもらおうと思わない
他人の考えを変えることは容易ではないため、無理に理解してもらおうと思わないことが大切です。周囲に理解してもらおうと努力することが、気づかぬうちに自分自身の負担になったり、回復の妨げになったりします。
周りに迷惑をかけているという申し訳ない気持ちや、自分の気持ちや症状を分かってもらえないつらさもあると思います。特に調子がよくないときは、症状の悪化につながる可能性もありますので、無理に理解してもらおうとはせずに、相手と距離をとるとよいでしょう。
医師から説明してもらう
ご家族などの身近な人に理解してもらえない場合は、一緒に受診して医師から直接説明してもらうといった方法もあります。生きてきた時代や生活背景などが異なると、適応障害を「怠け」や「甘え」と解釈してしまう人も少なからずいます。
専門家である医師から病気の説明をしてもらうことでご家族など周囲の人に理解してもらいやすくなるでしょう。
日本における適応障害の現状
適応障害の患者は年々増加傾向にありますが、その理由ははっきりとしていません。ある調査結果では、仕事内容や職場での人間関係に困っている人の割合が増加し、気分の落ち込みなどメンタル面との相関関係が高まっていると報告されています。職場での人間関係が重要視されているメンバーシップ型雇用である日本の職場で、年々労働者を取り巻く環境が変化していることによって「適応障害」を引き起こしやすくなっているのでは、と考えられています。
令和2年度に実施された地方公務員一般職約76万人を対象とした調査では、「精神及び行動の障害」による長期病休者数(10万人率)は10年間で約1.5倍、15年間で約2.1倍に増加していることが分かっています。
画像出典:地方公務員健康状況等の現況の概要
主な精神疾患の総患者数(千人)
2008年 | 2011年 | 2014年 | 2017年 | |
気分障害 | 974 | 960 | 1,116 | 1,276 |
統合失調症 | 794 | 713 | 773 | 792 |
適応障害 | 41 | 52 | 67 | 101 |
表を見て分かるように適応障害の患者は、2008年から2017年で2倍以上に増えています。こういった背景も影響し、労働者のメンタルヘルスの維持向上は、国全体で積極的に取り組むべき日本の重要な課題の1つとなっているのです。
適応障害になりやすい人の特徴
適応障害になりやすい人には以下の特徴があると言われています。
- 完璧主義でミスが許せない
- 真面目で几帳面
- 周りの目を気にしてしまう
- 責任感が強い
- 他人からの頼み事を断れない
- 変化に敏感で繊細
- 心配性で何度も確認してしまう
- ストレスへの耐性が低い
- ストレスへの対処方法が少ない
ただし、これらに当てはまるからといって必ず適応障害になるわけではありません。同じようなストレスを感じていても、適応障害を発症する人とそうでない人がいます。もともとメンタルが強いと思っている人でも、ストレスの程度や置かれている環境によっては容易に適応障害を発症することもあります。
適応障害を予防するためには、ストレスをため込み過ぎないようにし、ストレスに対する対処能力を向上させることが大切です。
適応障害の人の顔つき
適応障害になると、抑うつ症状が出現するため、感情表出が乏しくなったりぼーっとしたりといった表情が見られやすくなります。一方で、焦りや苛立ちといった感情が表情や顔つきに影響することもあります。そのため、「本当に適応障害なの?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。
ただ、前述したように、適応障害を抱えていても、躁的防衛が働き元気そうに装ったり明るく振る舞ったりということがあります。また、心の状態はそのときどきで変化するためストレスから離れているときは元気がでることも珍しくありません。
適応障害の顔つきについては、「顔つきが変わったといわれたら適応障害かも|セルフチェックしよう」でも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
適応障害で悩んでいる人にはどう接するべき?
自分は適応障害ではなくても、適応障害で悩んでいる人に対してどう接したらよいのか分からないとお悩みの方もいるのではないでしょうか。適応障害の患者は年々増加傾向にあるため、家族や友人、職場の同僚などが適応障害と診断されたことのある人もいるはず。ここでは、適応障害に悩んでいる人に対する接し方について紹介します。
話を聞く
本人の気持ちに寄り添い、話を聞くようにしましょう。適応障害にははっきりとしたストレスの原因があるのが特徴です。そのため、話を聞くことでつらさが和らぐことがあります。ただ、ストレスや症状に関して根掘り葉掘り聞いたり、よかれと思って助言したりするようなことは、本人の気持ちを傷づけてしまうこともあるため注意してください。
また、早くよくなって欲しい気持ちもあるかもしれませんが、「頑張って」などの励ましの言葉は、かえって本人の負担となることもあるため避けるようにしましょう。
自然体で接する
適応障害を発症している方は心が非常に敏感になっています。どんな病気にも言えることですが、腫れ物に触るような接し方は、本人の心を傷つけてしまう可能性があるため避けるようにしましょう。
無理に話を聞こうとするのではなく、本人が話したいタイミングを見計らったり、話しやすい環境を整えたりすることが大切です。
適応障害なのに元気に見えると言われても気にしないことが大切
この記事では、適応障害の人が元気に見えたり明るく振る舞ったりする理由について紹介しました。適応障害をはじめとした精神疾患は、周囲に理解されずに悩む方も珍しくありません。「意外に元気そうに見えるね」と言われて、ショックを受けている方もいることでしょう。
周囲に無理に理解してもらおうとすることで、かえって病状を悪化させたり回復の妨げになったりすることがあるため注意が必要です。
また、周りに適応障害の方がいて元気そうに見える場合でも、心の奥底では不安などのつらい悩みを抱えています。そのため、安易に「元気そうだね」といった声かけをしないようにしましょう。
適応障害の診断を受けていない方のなかにも、心身の不調を感じていながら元気に振る舞っている方もいるかもしれません。何らかの不調を感じている場合には、1人で抱え込まずにメンタルクリニックを受診することをおすすめします。症状にあった治療を受けることで心身の不調が改善され、あなたらしい日常を送ることができるようになるでしょう。
参考文献・サイト
・eーヘルスネット|厚生労働省
・日本における「適応障害」患者数の増加―メンバーシップ型雇用からの考察―|JSTAGE
・地方公務員健康状況等の現況の概要
コメント