生理前になると心身の不調を感じ、悩んでいる方もいるのではないでしょうか?生理前に表れる不調は「PMS(月経前症候群)」の可能性があります。
PMSの症状や程度には個人差があり、人によっては日常生活に影響を与えるケースも少なくありません。しかし、自分の症状やパターンを把握して事前に対策することで、PMSの苦痛を緩和することが可能です。
本記事ではPMSの原因や症状、受診の目安などを解説します。さらに、PMSの症状を緩和する過ごし方も紹介します。また、症状のセルフチェックシートも用意していますので、「自分はPMSなの?」と不安な方はぜひ確認してみてください。
PMS(月経前症候群)とは?
PMS(月経前症候群)とは、生理前の3〜10日間に精神的・身体的な不調が表れる状態です。症状や程度には個人差があり、多くの場合、生理が始まると症状が軽快もしくは消失するとされています。日本では、生理がある女性の70〜80%ほどが生理前に何らかの症状が見られるといわれており、決して珍しい疾患ではありません。
PMSの原因ははっきりと解明されていませんが、女性ホルモンの変動によるものと考えられています。排卵してから生理が来るまでの間(黄体期)には、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌されます。しかし黄体期の後半になると、分泌量は急激に減少します。つまりこの時期は女性ホルモンの分泌が大きく増減するため、バランスが乱れやすくなるのです。こうしたホルモンバランスの乱れが、不調の原因のひとつとして考えられています。ほかにもストレスや生活習慣も、症状の表れ方や程度に影響するとされています。
PMSは、周囲に理解されにくく学校や仕事を休みにくいことから、症状を我慢して生活している方も多いようです。
PMSの症状|生理前にチェックしてみよう
PMSでは、不安やイライラなどの精神的症状と、頭痛や腹痛などの身体的症状が表れます。症状の程度は人によって異なり、症状が重い方は、日常生活や社会活動に支障をきたす場合もあります。
PMSの症状の例としては以下の通りです。
気になる症状があるか、ぜひチェックしてみてください。
- 感情が不安定になる
- イライラする・怒りっぽくなる
- 気分が落ち込む
- 不安が大きくなる
- 日中に眠くなる、もしくは夜に熟睡できない
- 物事に集中できない
- 意欲が湧かない
- 涙もろくなる
- のぼせやすい
- 食欲が出ない、もしくは食べ過ぎてしまう
- めまいがある
- だるさがあり、疲れやすい
- 腹痛、頭痛、腰痛などがある
- 便秘や下痢になる
- 吐き気がある
- むくみやすくなる
- お腹や乳房の張りを感じる
- 肌が荒れやすい
- おりものの量が増える
上記の症状が重いと、学校や仕事に行けなくなったり、人間関係でのトラブルを引き起こしたりする恐れがあります。
生理前にこれらの症状が気になる場合には、まずは婦人科を受診しましょう。それでも精神的症状が強い場合には、精神科や心療内科を受診して医師に相談するのがおすすめです。
PMSは年齢によっても症状や影響が異なる
PMSは年齢によっても、表れる症状や影響が異なるとされています。
10〜20代は、にきびによる肌荒れや眠気などが見られやすい傾向にあります。
一方30〜40代は、仕事だけでなく家事・育児による負担も大きく、疲労感や頭痛などの身体的症状に加えて、イライラや焦燥感などの精神的不調が表れやすいといえるでしょう。
もちろん生活する環境や人によって症状は変わりますが、仕事や家事が手につかず周囲に迷惑をかけてしまったり、人間関係でのトラブルに発展したりするケースも少なくありません。
PMSの受診の目安|婦人科で診断してもらおう
生理前に同じ症状が繰り返し表れてつらい、日常生活や社会活動に支障をきたしているといった場合は、一度婦人科を受診しましょう。
今表れている症状がPMSかどうかを見分けるには、以下のポイントに注意して観察する必要があります。
- 同じ症状が周期的に見られるか
- 症状が表れる時期が排卵後から生理が始まるまでの間か
- 日常生活にどれほどの影響を与えているか
PMSは生理前に症状が表れ、生理開始とともに軽快するのが特徴です。抑うつ気分やイライラなどの精神的症状は、精神疾患の症状とも似ています。正しい診断を受けることが大切です。精神疾患を抱えている、もしくは既往がある場合は、まずは精神科や心療内科のかかりつけ医に相談するとよいでしょう。
PMSの診断は、症状の内容や症状が出るタイミングなどから判断されます。そのため、症状の記録があると診断の際に役立つでしょう。
PMSとPMDD(月経前不快気分障害)の違い
PMSと似た疾患に、精神的不調が顕著に表れる「PMDD(月経前不快気分障害)」という状態があります。
PMSとPMDDの違いは、精神的不調が強く表れているかどうかです。DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、「著しい感情の不安定性」「著しいいらだたしさ」「著しい抑うつ気分」「著しい不安」のうち、1つ以上が存在することが「PMDD」の診断基準の1つとなっています。
PMDDについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
PMSの治療にはピルが効果的
PMSの治療には「低用量ピル」が有効とされています。低用量ピルは経口避妊薬としても使用される薬で、排卵を抑制して女性ホルモンのバランスを整える作用が期待できます。
「ピル」と聞くと、副作用の出現や、妊娠への影響を心配する方もいるかもしれませんが、医師の指示のもと内服する分には安全性は高いといえるでしょう。内服中は一時的に排卵を抑制するため生理は来ませんが、服用をやめると排卵が再開され、生理が来る仕組みとなっています。なお、その後の妊娠には影響を与えないとされています。
低用量ピルのほかにも、「当帰芍薬散」や「桂枝茯苓丸」などの漢方薬や、症状を緩和させるための対症療法(鎮痛薬や利尿剤など)が検討されることもあるようです。
PMSの症状を緩和する4つの方法
PMSの症状は、薬以外でも過ごし方や生活習慣によって緩和させることが可能です。具体的には、以下の点を意識すると効果が期待できます。
- 生活習慣を見直す
- 軽い運動やリラクゼーションを取り入れる
- 休息を取る
- 基礎体温を記録する
気になる症状がある場合は、記録をつけることから始めましょう。症状が表れるタイミングや程度を把握することで対処しやすくなるだけでなく、事前に症状が緩和される過ごし方を意識できるようになります。
1.生活習慣を見直す
PMSの症状は、生活習慣が大きく影響している可能性もあります。症状を悪化させる行動は、意識的に避けることが大切です。注意したい生活習慣の具体例としては、以下の通りです。
- カフェインの多いもの(チョコレートを含む)やアルコールの摂取を控える
- 禁煙する
- ストレスをためない
- 栄養バランスのよい食事を摂取する
タンパク質やビタミン、カルシウムを多く含む食材を摂取すると、イライラや不安を落ち着かせて、精神状態の安定をもたらす効果が期待できるとされています。しかしサプリメントなどを摂取する場合は、低用量ピルとの飲み合わせに影響する恐れがありますので、服用前に主治医に問題がないか確認すると安心です。
2.軽い運動やリラクゼーションを取り入れる
ストレスによってPMSの症状が強く表れることもあるため、軽い運動やリラクゼーションを生活に取り入れるのも効果的です。
気分転換やリラックスすることで、ストレスを軽減できます。自分の好きなことに熱中したり、趣味を楽しんだりするのも有効です。
3.休息を取る
PMSの症状が表れているときは、十分な休息を取りましょう。早めの就寝を意識して、規則正しい生活を心がけることが大切です。
症状が強いときには無理をせず、状況によっては学校や仕事を休むことも検討しましょう。
4.基礎体温を記録する
PMSは生理が始まる3〜10日前の黄体期に表れるため、ある程度症状が出るタイミングを予測できます。そこでおすすめなのが、基礎体温を測ることです。
基礎体温は、安静時に測ることが大切なので、朝目覚めて起き上がる前がよいとされています。基礎体温が測定できる専用の体温計を使用すると、より正確に体温を確認できるでしょう。普段よりも約0.3度以上高い時期を高温相と呼び、黄体期はこの期間にあたります。
タイミングを把握することで、無理のないスケジュール管理ができ、規則正しい生活を送ることへの意識づけにつながります。
PMSに関するよくある質問
ここでは、PMSに関するよくある質問を3つ紹介します。気になる質問がある方は、確認してみてください。
PMSの症状は生理中も続くの?
一般的にPMSは、生理が始まると症状が落ち着くとされています。なかには生理中にも症状が続く方もいるようですが、症状が強くなることはありません。
生理中に症状が強く出る場合は、月経困難症などほかの疾患の可能性があるため、婦人科を受診するのがよいでしょう。「PMSが長引いている」と自分で判断するのは危険です。
PMSについて彼氏や夫に説明したほうがよいの?
PMSではイライラして攻撃的になったり、気持ちが落ち込んだりといった精神的症状が見られることがあります。このような症状が原因で、彼氏や夫などとうまくコミュニケーションが取れずにいると、お互いの関係性に影響を与える恐れもあるでしょう。
事前にPMSについて説明して、理解や協力を得ると安心です。パートナーの理解や協力が得られることで、不安やストレスが軽減され、症状の緩和にもつながります。
しかし人によっては「うまく説明できない」「話してもなかなか理解してもらえない」といったこともあるでしょう。その場合には、一緒に婦人科を受診して専門家の話を聞くのも有効です。
PMSで診断書はもらえるの?
婦人科を受診してPMSと診断されれば、医師に診断書を作成してもらうことも可能です。
PMSに悩まされている方のなかには、症状が重く、日常生活や社会活動に大きな支障をきたしている方もいるでしょう。状況によっては、仕事を休むよう医師に勧められることも少なくありません。その場合、医師に診断書をもらい会社に提出することで、休職できるケースもあります。
PMS(月経前症候群)の症状がある場合は医療機関で受診しよう
PMSの症状や程度は、人や生活環境によって異なります。生活習慣を変えることで、症状が緩和されることもあるでしょう。
しかし、症状が重く日常生活や社会活動に支障をきたしている場合には、各症状を和らげる薬に加え、根本的な治療として低用量ピルや漢方薬が必要なケースもあります。まずは婦人科などの医療機関で受診しましょう。
PMSによる精神的なつらい症状は、「あしたのクリニック」でも診察可能です。気になる症状がある方は、ぜひ当院へお越しください。
参考・出典
・月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会(JSOG)
・PMS(月経前症候群)とは|一般社団法人 日本家族計画協会(JFPA)
・PMS,PMDDの診断と治療|白土なほ子|昭和大学学士会 昭和学士会誌第77巻第4号
・月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)|社会福祉法人 恩賜財団 京都済生会病院
・精神科からみた PMS/PMDD の病態と治療