双極性障害は精神疾患のひとつであり、活動的な「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。
華やかな芸能界で活躍する有名人でも、「心の病」に悩まされている人は少なくありません。活動休止を発表している方もいれば、双極性障害を抱えながら無理のない範囲で活動している方もいます。
本記事では、双極性障害を公表している有名人をご紹介します。さらに双極性障害の症状や診断基準、治療法についてもまとめました。
「双極性障害の有名人はだれ?」「双極性障害はどのような病気?」などの疑問がある方は、ぜひ最後までお読みください。
【日本編】双極性障害を公表している有名人
まずは、双極性障害を公表している日本の有名人をご紹介します。
- Little Glee Monster 芹奈さん
- てんちむさん(YouTuber)
- 泰葉さん
双極性障害だけでなく、ほかの精神疾患を抱えている方もいます。
【海外編】双極性障害を公表している有名人
次は、双極性障害を公表している海外の有名人をご紹介します。
- セレーナ・ゴメスさん
- マライア・キャリーさん
- ホールジーさん
- パティ・デュークさん
- キャリー・フィッシャーさん
- リチャード・ドレイファスさん
日本の有名人に比べて、公表している方が多い印象です。双極性障害での経験を活かして、メンタルヘルスに関する啓蒙活動をおこなっている方もいます。
ほかにも精神疾患を公表している有名人
双極性障害であると公表している有名人のほかにも、さまざまな精神疾患を抱えている有名人もいます。
- 米津玄師さん:自閉スペクトラム症(ASD)
- SEKAI NO OWARI 深瀬慧さん:注意欠如多動性障害(ADHD)
- トム・クルーズさん:学習障害(LD)
- ウィル・スミスさん:注意欠如多動性障害(ADHD)・学習障害(LD)
- ミッツ・マングローブさん:学習障害(LD)
- 長嶋一茂さん:パニック障害
上記の方々は、公表が確認できる一部の有名人です。治療を経て病気を克服したのち、芸能界で活躍している方が多く見られます。
そもそも双極性障害とは?
双極性障害とは、気持ちが高揚して活動的になる「躁状態」と、気分が落ち込み無気力となる「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。躁状態の症状が激しく表れる「1型」と、比較的躁状態が軽い(軽躁状態)「2型」に分けられます。
有病率は1%ほどで、原因ははっきりと解明されていません。これまでの研究結果により、遺伝性のほかにもストレスや身体的変化(加齢や妊娠など)などが加わり発症するのではないかと考えられています。
双極性障害は症状を自覚しにくく(特に軽躁状態のとき)、発症後5年以内に約8割の方が再発する可能性があるといわれています。本人の気づきだけでなく、家族や周囲の人が普段と異なる様子に気づくことも大切です。
これって双極性障害あるある?症状や診断基準を解説
双極性障害の特徴は、気分が高揚して活動的な行動が見られる「躁状態」と、気分の落ち込みが見られる「うつ状態」が繰り返されることです。
この章では、各状態で見られる症状と診断基準を解説します。「自分は双極性障害なの?」「最近家族の様子がいつもと異なる」と感じる方は、チェックしてみましょう。
双極性障害の症状|Ⅰ型とⅡ型の違いとは
双極性障害の症状は以下の通りです。
【躁状態】
- 高揚気分(ハイテンション)
- イライラしやすく怒りっぽい
- 自尊心の肥大
- 睡眠欲求の減少
- 多弁
- 観念奔逸
- 注意散漫
- 活動量の増加
- 快楽活動への熱中(衝動買いや危険な運転など)
- 幻覚や妄想(誇大妄想や被害妄想)
上記の症状の程度や継続時間の違いによって「躁状態」または「軽躁状態」と診断されます。高揚気分で活動的になる一方で、イライラしやすく易怒性(怒りの感情)が強いため、周囲とのトラブルを起こしやすくなります。
【うつ状態】
- 抑うつ気分
- 興味・喜びの喪失
- 食欲の低下
- 不眠
- 精神運動制止(または焦燥)
- 全身の疲労感
- 無価値観・罪責感
- 思考力や集中力の低下
- 希死念慮・自殺企図
うつ状態は、活動的な「躁状態」に対して、活動量が低下して気分の落ち込みが見られる状態のことです。うつ状態が続くことで「うつ病」と間違われることもあります。しかし、双極性障害では気持ちが落ち込んでいるにもかかわらずイライラして身の置き所がないなど、気分と行動がうまく釣り合わないのが特徴です。躁状態が表れること、躁状態とうつ状態が混合した様子(躁うつ混合状態)が見られることなどが、うつ病と双極性障害の違いといえるでしょう。
また双極性障害には、躁状態の症状の程度によって「Ⅰ型」と「Ⅱ型」に分けられます。うつ状態は両者ともにあまり変わりありませんが、躁状態に違いがあります。2つの違いは以下の通りです。
- Ⅰ型:躁状態がはっきりと表れて症状が重い
- Ⅱ型:比較的躁状態での症状が軽い
Ⅱ型は、生活上に支障をきたさない程度の躁状態(軽躁状態)であるため、本人や周囲からは気づきにくく、治療が遅れてしまうこともあります。
双極性障害の症状を詳しくチェックしたい方は、こちらの記事もご覧ください。
双極性障害の診断基準
双極性障害は、採血検査や画像検査などでは診断を確定することはできません。そのため、世界保健機関(WHO)のICD-10や、米国精神医学会のDSM-5などが診断基準として用いられます。
DSM-5による双極性障害の診断基準は、躁病エピソード・軽躁病エピソード・抑うつエピソードに分けられています。それぞれの診断基準は、以下の通りです。
【軽躁病エピソードのDSM-5診断基準(概要)】
- 気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。
- 気分が障害され、かつ活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(睡眠時間が短くても平気である)
(3)普段よりも多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5)注意散漫
(6)目標志向の活動の増加、または精神運動性の焦燥
(7)困った結果になる可能性が高い快楽的活動への熱中(高価な買い物、性的無分別など)
※引用:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
なお、「軽躁病エピソード」の診断基準に記載されている症状が7日以上ほぼ毎日、1日の大半において持続し、症状の程度において、家庭・学業・仕事などに明らかな支障をきたした場合は躁病エピソード(躁状態)診断されます。
【抑うつエピソードのDSM-5診断基準】
- 以下の症状のうち、少なくとも1つがある
(1)抑うつ気分
(2)興味または喜びの喪失
- さらに、以下の症状を併せて、合計で5つ以上が認められる
(3)食欲の低下(あるいは亢進)
(4)不眠(あるいは仮眠)
(5)精神運動制止(あるいは焦燥)
(6)易疲労感(気力の減退)
(7)無価値観・罪責感
(8)思考力・集中力の低下
(9)死についての反復思考
上記の症状がほぼ1日中、ほとんど毎日、2週間以上続き、病前の機能から低下がある。
※引用:日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
ご紹介した診断基準に当てはまる症状がある場合や、日常生活や社会活動に支障をきたしている人は、早めに精神科や心療内科などの医療機関を受診しましょう。
こちらの記事では、双極性障害になりやすい人についてまとめています。
双極性障害は一生治らない?3つの治療法を解説
双極性障害は再発する可能性が高いとされており、状態によっては治療期間が長くなることもあります。しかし、適切な治療を開始することで回復に向かうため、治らない病気ではありません。
症状を緩和したり病気に対する考えをコントロールしたりする治療に加えて、再発のリスクを低くする予防治療が重要です。
本章では、双極性障害に対して選択される3つの治療法をご紹介します。
治療法1.薬物療法
双極性障害に対しての薬物療法では、躁状態の治療、うつ状態の治療、予防療法の3つに分けられます。目的によって適切な薬が変わるため、状態に合わせて医師と相談して決めます。
一般的には「抗精神病薬」「気分安定薬」などが選択されますが、症状に応じて「抗うつ薬」や「睡眠薬」を組み合わせて使用する場合も少なくありません。「抗精神病薬」「気分安定薬」は、躁状態とうつ状態での気分の波を落ち着かせ、気持ちを安定させる役割の薬です。再発予防にも効果が期待できます。
薬物療法は継続して内服することが大切です。なかには、気分が安定してくると自己判断で中断してしまう方も少なくありません。医師の指示に基づき、用法容量を守って服薬を続けるようにしましょう。
双極性障害の薬物療法については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
治療法2.精神療法(心理療法)
双極性障害治療では本人が、疾患や治療(薬物療法の必要性など)について理解を深めることが大切です。特に躁状態のときは症状を自覚しにくいため、治療を拒否する行動が見られることも珍しくありません。
適切な治療が継続できるよう指導・教育することが、再発予防につながるでしょう。
双極性障害の精神療法(心理療法)では、集団や個人教育など、個別性に合わせた方法が選択され、ほかにも症状や状況に応じて以下の治療法が検討されます。
- 対人関係療法
- 認知行動療法
- 社会リズム療法
- 家族療法
精神療法(心理療法)は、疾患に対しての理解を深め治療を受け入れる目的があるほか、自分の行動や状況を客観的に捉え、修正していくことで再発予防の効果も期待できます。さらに、生活リズムを整えることも大切な治療のひとつです。
治療法3.電気けいれん療法(ECT)
双極性障害では「電気けいれん療法(ECT)」も有効とされています。
電気けいれん療法とは、頭部に短時間通電することで全身けいれんを起こし、精神疾患の症状を緩和させる治療法です。ほかの治療法で効果が見られないときに検討されます。
しかし電気けいれん療法は、不整脈や一時的な記憶喪失などの副作用を引き起こす恐れもゼロではありません。そのため、医師によって治療の必要性が検討されたうえで、患者本人・家族に十分な説明がおこなわれます。
双極性障害を抱えながら活躍している有名人も|気になる症状がある人は受診しよう
双極性障害は決して珍しい病気ではなく、有名人でも治療を続けながら活躍している方もいます。
適切な治療が開始されることで、気分の波が落ち着き症状緩和に効果が期待できます。双極性障害は再発するリスクが高いとされているため、治療を継続して再発予防に努めることも大切です。
しかし双極性障害は症状を自覚しにくく、発見が遅れてしまうことも少なくありません。躁状態とうつ状態を繰り返すことで、周囲が普段と異なる様子に気づくことも。気になる症状があるときは早めに精神科や心療内科などの医療機関を受診しましょう。
参考サイト・文献
・双極性障害の第一人者に聞く「躁・うつと上手くつきあう方法」とは?|順天堂大学
・双極性障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
・双極性障害|国立精神・神経医療研究センター NCNP病院
・双極性障害(躁うつ病)の治療|近畿大学病院
・加藤忠史先生に「双極性障害」を訊く|公益社団法人 日本精神神経学会
・電気けいれん療法の適応を再考する|医学界新聞
・睡眠導入剤は市販でも購入できる?処方の睡眠薬との違いについても解説!