再就職手当はもらわない方がいい?理由とメリット・デメリットを解説

再就職手当は「もらわない方がいい」?損するケースと注意点

「再就職手当はもらった方がいいと聞くけれど、本当にもらって損はないの?」
再就職手当の受給を検討している方の中には、このような疑問や不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。早く再就職できたからといって、必ずしも再就職手当をもらうのが最善の選択とは限りません。状況によっては、もらわない方が経済的、あるいはキャリア形成において有利になるケースも存在します。
この記事では、再就職手当の制度概要から、具体的な計算方法、さらには「もらわない方がいい」とされるケース、そして2025年4月1日から施行される制度改正による変更点まで、詳しく解説します。再就職手当の「落とし穴」や、見落としがちなデメリットもしっかりと把握し、ご自身の状況に合わせた賢い判断をするための情報として、ぜひお役立てください。

目次

再就職手当の制度概要と本来の目的

再就職手当とは、失業手当(基本手当)の受給資格がある方が、所定給付日数を残して安定した職業に就職した場合に支給される手当のことです。この制度は、単に失業者の生活を保障するだけでなく、一日も早い再就職を促進し、日本の労働市場を活性化させることを目的としています。
早期に安定した職に就くことで、失業給付を最後まで受け取るよりも経済的な自立を早め、社会全体としての生産性向上にも寄与する仕組みと言えるでしょう。しかし、その目的と裏腹に、個人の状況によっては受給を慎重に検討すべきケースも存在します。

再就職手当の計算方法

再就職手当の支給額は、以下の計算式で算出されます。

再就職手当支給額 = 基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率

それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。

  • 基本手当日額:
    離職前の賃金に基づいて計算される1日あたりの失業手当の金額です。上限額が設定されており、年齢によって異なります(例:30歳未満は6,120円、30歳以上45歳未満は6,805円、60歳以上65歳未満は5,595円など)。この基本手当日額が高いほど、再就職手当も高くなります。
  • 支給残日数:
    所定給付日数から、すでに失業手当を受給した日数を差し引いた残りの日数です。つまり、再就職した時点での失業手当の残り日数が多いほど、再就職手当も高額になります。
  • 給付率:
    支給残日数に応じて適用される割合です。
    • 所定給付日数の3分の2以上を残して再就職した場合: 基本手当日額の70%
    • 所定給付日数の3分の1以上を残して再就職した場合: 基本手当日額の60%

この給付率が、再就職手当の支給額を大きく左右するポイントとなります。例えば、所定給付日数が90日の場合、60日以上残っていれば70%、30日以上残っていれば60%の給付率が適用されます。

具体的な計算例を見てみましょう。

【計算例】
基本手当日額:5,000円
所定給付日数:120日
再就職までの受給日数:20日

この場合、支給残日数は120日 – 20日 = 100日です。
100日は所定給付日数120日の3分の2(80日)以上にあたるため、給付率は70%が適用されます。

再就職手当支給額 = 5,000円 × 100日 × 70% = 350,000円

もし支給残日数が50日(120日の3分の1以上)だった場合、給付率は60%となり、
再就職手当支給額 = 5,000円 × 50日 × 60% = 150,000円
となります。

このように、支給残日数が多ければ多いほど、支給額が大きくなることがわかります。しかし、同時に「支給残日数を全て失業手当として受け取った場合の総額」と「再就職手当の支給額」を比較検討することが重要となります。後述する「もらわない方がいいケース」で詳しく解説します。

再就職手当がもらえないケース

再就職手当は、誰もが再就職すればもらえるものではありません。特定の条件を満たさない場合は、支給対象外となります。主な「もらえないケース」は以下の通りです。

  1. 待期期間(7日間)が終了していない場合:
    失業の申し込み後、失業認定を受けるまでの7日間は「待期期間」と呼ばれ、この期間中に再就職が決まっても手当は支給されません。
  2. 失業の認定を受けていない場合:
    ハローワークで「失業状態であること」の認定を受ける前に再就職が決まった場合も、支給対象外です。
  3. 再就職先の条件を満たさない場合:
    • 1年以上の雇用見込みがない職業に就いた場合
    • 雇用保険の被保険者とならない職業に就いた場合(例:短期アルバイト、日雇いなど)
    • 離職前の事業主(関連会社含む)に再雇用された場合
    • 雇用保険の被保険者となることが確実でない場合
  4. 給付制限期間中に再就職が決まった場合:
    自己都合退職などにより給付制限期間(通常2~3ヶ月)が設定されている場合、その期間中に再就職が決まったとしても、給付制限期間が終了していないと再就職手当は支給されません。ただし、給付制限期間満了後に安定した職業に就いた場合は支給対象となります。
  5. 過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当を受給している場合:
    これらの手当は、原則として3年間に1回しか支給されません。
  6. 求職の申し込み前から採用が内定していた場合:
    ハローワークに求職の申し込みをするよりも前に、すでに再就職先が決まっていた場合は支給対象外です。あくまでも、失業状態の中で積極的に再就職活動を行い、職を得た場合に支給される手当です。

これらの条件は非常に重要であり、再就職手当を検討する際は、自身の状況と照らし合わせてしっかりと確認する必要があります。不明な点があれば、ハローワークに直接問い合わせるのが最も確実です。

再就職手当をもらわない方がいいケース

再就職手当は早期の再就職を奨励する制度ですが、場合によっては「もらわない方が結果的に得だった」「もらわなければよかった」と感じるケースも存在します。ここでは、そのような具体的なケースとその理由を解説します。

満額の失業手当より支給額が減る可能性

再就職手当の最大の特徴は、支給残日数に対して給付率が適用されるという点です。これはつまり、所定給付日数を全て失業手当として受け取った場合の総額よりも、再就職手当として受け取る金額の方が少なくなる可能性があることを意味します。

特に、以下の条件に当てはまる方は、再就職手当をもらうことで、結果的に受け取れる総額が減ってしまう可能性があります。

  • 基本手当日額が高額である方:
    離職前の賃金が高く、基本手当日額の上限に近い金額を受け取れる方は、失業手当を満額受給した場合の総額が非常に大きくなります。この場合、再就職手当の給付率(60%または70%)が適用されることで、差額が大きくなりやすいです。
  • 所定給付日数が多く、支給残日数が非常に多い方:
    例えば、所定給付日数が330日や360日といった長い期間設定されている方が、早い段階(例えば残日数が300日以上)で再就職を決めた場合、再就職手当の金額は大きくなります。しかし、本来受け取れるはずだった失業手当の満額との差も大きくなります。

具体的なシミュレーションで考えてみましょう。

【比較シミュレーション】
基本手当日額:8,000円(上限額に近い高額設定)
所定給付日数:180日

ケース1:再就職手当を受給した場合
早期に再就職し、支給残日数150日で再就職手当を申請(給付率70%適用)
再就職手当額 = 8,000円 × 150日 × 70% = 840,000円

ケース2:失業手当を満額受給した場合
180日分の失業手当を全て受給
失業手当総額 = 8,000円 × 180日 = 1,440,000円

このシミュレーションでは、再就職手当を受給した場合の84万円に対し、失業手当を満額受給した場合は144万円と、60万円もの差が生じています。もちろん、早期に再就職することでその分の給与収入は得られますが、その給与収入と、再就職手当による減少額を比較検討することが非常に重要です。

特に、次のような状況下では、焦って再就職手当を受け取るよりも、じっくりと失業手当を受給しながら希望の職種や企業を探す方が、経済的にも精神的にも得策である可能性があります。

  • 貯蓄に余裕があり、すぐに収入を得る必要がない
  • 希望する職種や業界への転職が難しく、じっくりと準備期間を設けたい
  • 失業手当を受け取りながら、資格取得やスキルアップに時間を費やしたい

再就職手当のメリットは「早期の再就職による精神的な安定」と「まとまった一時金の支給」ですが、その裏で失うものがないかを冷静に判断する必要があります。

職場環境への早期適応のプレッシャー

再就職手当を受給するために、焦って条件を妥協して再就職先を決めてしまうケースは少なくありません。しかし、このような再就職は、新しい職場での早期適応に大きなプレッシャーをもたらす可能性があります。

  • ミスマッチのリスク:
    手当の受給を優先するあまり、自身のスキルや経験、キャリアプラン、あるいは価値観と合わない職場を選んでしまうことがあります。これにより、入社後に「こんなはずではなかった」と感じ、モチベーションの低下や業務への不満を抱えやすくなります。
  • 早期離職の可能性:
    職場とのミスマッチや、過度なプレッシャーから精神的な負担が増大し、結果として短期間での離職に至ってしまうリスクが高まります。再就職手当を受給したにもかかわらず早期離職してしまうと、以下のようなデメリットが生じます。
    • 金銭的な損: 再就職手当は一度きりの支給。再度失業手当を受給するためには、新たな被保険者期間を満たす必要があります。
    • キャリアへの傷: 短期間での離職は、履歴書に「職歴に傷がつく」と見なされ、今後の転職活動において不利に働く可能性があります。
    • 精神的な負担: 再就職の失敗は、自己肯定感の低下や、転職活動への意欲喪失につながることもあります。

再就職手当の受給は、「安定した職業」への再就職が前提です。ここでいう「安定」とは、単に雇用期間の見込みだけでなく、長期的に働き続けられる職場環境や仕事内容であることも含まれるべきでしょう。目先の給付金に捉われず、自身のキャリアにとって真にプラスとなる選択をすることが、長期的な視点で見れば「もらわない方がいい」という判断につながる場合もあるのです。

再離職時の給付金受給への影響

再就職手当を受給するということは、それまで受給資格があった失業手当(基本手当)の給付が終了することを意味します。つまり、雇用保険の受給資格が一旦リセットされるということです。

もし再就職手当を受け取った後、短期間(例えば1年未満)で再離職してしまった場合、以下の点でデメリットが生じます。

  • 新たな受給資格の取得が必要:
    次の失業手当を受給するためには、再度雇用保険の被保険者期間を一定期間(通常、離職日以前2年間に12ヶ月以上)満たす必要があります。短期間で離職した場合、この期間を満たせず、次の失業手当が受け取れない可能性があります。
  • 給付日数が短くなる可能性:
    新たに受給資格を得られたとしても、前の会社での被保険者期間がリセットされるため、再就職先での短い被保険者期間しかもたない場合、次の失業手当の所定給付日数が短くなってしまうことがあります。
  • 就職困難者としての優遇が受けられない:
    特定の条件を満たす「就職困難者」は、所定給付日数が長く設定される場合がありますが、再就職手当受給後に再離職した場合は、これらの優遇措置が適用されにくくなることも考えられます。

例えば、自己都合退職で給付制限期間が明けてすぐに再就職手当を受給したが、わずか半年で再度離職してしまったケースを考えてみましょう。前の会社での被保険者期間は再就職手当で消化されているため、新しい会社での半年間しか被保険者期間がありません。これでは、次の失業手当の受給資格を満たせず、何の給付金も受け取れないまま生活を立て直す必要が出てくるかもしれません。

このように、再就職手当はあくまで「安定した職業への再就職」を奨励する制度であり、短期間での離職を繰り返すような場合には、むしろ将来のセーフティネットを狭めてしまう可能性があります。長期的な視点でのキャリアプランと、不測の事態に備える視点から、再就職手当の受給を慎重に判断することが求められます。

長期的なキャリアプランを見失うリスク

再就職手当は、早期再就職を後押しする制度である反面、目先の金銭的なメリットに囚われ、自身の長期的なキャリアプランを見失ってしまうリスクも伴います。

  • 理想のキャリアパスとの乖離:
    本来であれば、じっくりと自己分析や市場調査を行い、将来の目標に合致する職種や業界、企業を選ぶべき期間を、手当欲しさに早期の再就職にシフトしてしまうことがあります。これにより、望まない仕事に就いたり、スキルアップの機会を逃したりして、結果的に理想のキャリアパスから遠ざかってしまう可能性があります。
  • スキルミスマッチの放置:
    例えば、現時点では希望の職種に就くためのスキルが不足していると感じていたにもかかわらず、手当を受け取るために、そのスキルを習得する時間を犠牲にして再就職してしまうケースです。短期的な収入は得られても、長期的に見れば自身の市場価値を高める機会を逸し、将来的なキャリアアップや賃金上昇の可能性を閉ざしてしまうことになりかねません。
  • 「とりあえず就職」の連鎖:
    一度「とりあえず就職」をしてしまうと、そこでの不満やミスマッチが解消されないまま働き続けるか、再び転職活動を行うことになります。その際も、短期離職の履歴や、軸の定まらない転職活動を繰り返すことで、負の連鎖に陥ってしまうリスクがあります。

キャリア形成は、人生をかけた長期的なプロジェクトです。再就職手当は、そのプロジェクトの一部をサポートする制度に過ぎません。手当の有無だけでなく、以下の点を総合的に考慮し、ご自身のキャリアにとって本当に最善の選択は何かを考えることが重要です。

  • 将来なりたい自分像: どんな働き方をしたいか、どんなスキルを身につけたいか
  • 希望する職種・業界: どんな仕事に情熱を傾けられるか、どんな分野で専門性を高めたいか
  • 必要なスキルや資格: 理想のキャリアに到達するために、今身につけるべきものは何か
  • 市場価値と自身の強み: 自身の強みを活かせる場所はどこか、どのような貢献ができるか

これらの問いと向き合い、時には失業手当を受け取りながら、自己投資や綿密な転職活動を行うことが、結果として「再就職手当をもらわない方がいい」という判断につながる場合があることを理解しておきましょう。

【2025年4月1日改正】再就職手当の変更点

雇用保険制度は社会情勢の変化に対応するため、定期的に改正が行われます。再就職手当に関連する制度も例外ではありません。2025年4月1日からは、再就職を促進する手当の一部が変更されます。特に影響が大きいのは「就業促進定着手当の支給上限額引き下げ」と「就業手当の廃止」です。これらの変更点が、今後の再就職手当の判断にどのように影響するかを見ていきましょう。

就業促進定着手当の支給上限額引き下げ

就業促進定着手当とは、再就職手当を受給して再就職した方が、再就職先で6ヶ月以上勤務し、かつ再就職先の賃金が離職前の賃金よりも低い場合に、その差額の一部を補填する目的で支給される手当です。これは、早期再就職によって賃金が下がったとしても、安心して働き続けられるように支援するための制度でした。

しかし、2025年4月1日以降は、この就業促進定着手当の支給上限額が引き下げられます。現行制度では「基本手当日額の支給残日数の40%」が上限とされていましたが、改正後はこの上限額が減少する見込みです。具体的な引き下げ幅は今後の発表を待つ必要がありますが、これにより、再就職後に賃金が下がった場合の補填額が少なくなることが予想されます。

この改正は、特に早期再就職によって賃金ダウンを受け入れざるを得ない方にとって、経済的な影響が大きいと考えられます。これまで就業促進定着手当をあてにしていた方にとっては、再就職手当を受け取るかどうかの判断をより慎重に行う必要が出てくるでしょう。

【就業促進定着手当の変更点(予定)】

項目 現行制度(~2025年3月31日) 2025年4月1日以降(予定)
支給目的 再就職後の賃金低下補填、定着促進 再就職後の賃金低下補填、定着促進
支給条件 再就職後6ヶ月以上勤務、再就職先の賃金が前職より低い 再就職後6ヶ月以上勤務、再就職先の賃金が前職より低い
支給上限額(目安) 基本手当日額×支給残日数×40% 引き下げ
影響 再就職後の賃金低下に対する経済的支援が手厚い 支援が手薄になる可能性

(※具体的な引き下げ額や計算方法は、今後の詳細な法改正情報をご確認ください。)

この変更により、再就職手当のメリットの一部が薄れると感じる方もいるかもしれません。再就職手当は一時金としてまとまった金額を受け取れますが、再就職後の賃金水準も考慮に入れ、トータルでの経済状況をシミュレーションすることが、これまで以上に重要になります。

就業手当の廃止

就業手当は、失業手当の受給資格者が、短時間のアルバイトなど「雇用保険の被保険者とならない働き方」で収入を得た場合に、その就職活動を奨励するために支給されていた手当です。これにより、本採用に向けたスキルアップや、つなぎとしての収入確保を支援する役割がありました。

しかし、2025年4月1日からは、この就業手当が廃止されることになります。

就業手当の廃止は、失業期間中の柔軟な働き方や、本採用前の試用期間的な働き方をする際の支援がなくなることを意味します。これまで、再就職手当の受給条件を満たさない短期間の就職やアルバイトでも、就業手当を通じて一定の金銭的支援を受けることができました。この制度がなくなることで、再就職手当の受給条件を満たす「安定した職業」に就職するインセンティブがより強まる一方で、以下のような影響が考えられます。

  • 失業期間中の選択肢の減少:
    雇用保険の被保険者とならない範囲での短期的な働き方を検討していた方にとっては、選択肢が狭まります。
  • 再就職活動のプレッシャー増大:
    「安定した職業」への早期就職が、金銭的支援を受ける唯一の道となり、就職活動に対するプレッシャーが増す可能性があります。
  • 再就職手当の重要性の増大:
    他の支援策がなくなることで、再就職手当の相対的な重要性が高まりますが、同時にその受給判断の慎重さも増します。

この就業手当の廃止と就業促進定着手当の支給上限額引き下げという一連の改正は、雇用保険制度全体として、より「安定した職業への早期再就職」へと誘導する方向性を示していると言えるでしょう。そのため、再就職手当のメリット・デメリットをより深く理解し、ご自身の状況に照らして「もらわない方がいい」という判断も視野に入れる必要性が高まると考えられます。

再就職手当の「落とし穴」と受給デメリット

再就職手当は一見すると早期再就職の強い味方のように見えますが、その制度には見落としがちな「落とし穴」や、潜在的なデメリットも存在します。これらを理解しておくことで、後悔のない選択ができるようになります。

再就職手当の支給額は満額ではない

最も重要な落とし穴の一つは、再就職手当が「失業手当の満額」ではないという点です。前述したように、再就職手当の支給額は基本手当日額に支給残日数を掛けた後、さらに60%または70%という給付率が適用されて算出されます。これはつまり、支給残日数分の失業手当を満額で受け取った場合と比較すると、必ず少なくなってしまうことを意味します。

【再就職手当の支給イメージ】

項目 失業手当(満額受給時) 再就職手当(早期再就職時)
支給対象期間 所定給付日数全て 支給残日数
支給率 100%(基本手当日額そのまま) 60%または70%
総支給額 (基本手当日額 × 所定給付日数) (基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率)
メリット 経済的安定、時間をかけた転職活動 まとまった一時金、精神的安定
デメリット 収入がない期間が長くなる 総支給額が減る可能性がある

この「総支給額が減る可能性」は、特に基本手当日額が高額な方や、所定給付日数が多く、支給残日数がかなり残っている方にとって、大きなデメリットとなり得ます。再就職手当のメリットは「早期の再就職」による金銭的な安定と精神的な安心感ですが、純粋な「手当の総額」だけを比較すると、失業手当を満額受給する方が高くなることが多いのです。

再就職手当の申請は「まとまったお金がもらえる」という魅力に惹かれがちですが、その裏で本来得られたはずの金額が目減りしていることを理解しておく必要があります。この差額を、早期再就職によって得られる給与収入で補えるのか、精神的なメリットと天秤にかけて慎重に判断することが求められます。

短期間での転職によるリスク

再就職手当は、早期再就職を促す制度であるため、中には「手当をもらうためにとりあえず就職しよう」と考える方もいるかもしれません。しかし、このような短期間での転職は、キャリアにおいて大きなリスクを伴う可能性があります。

  1. キャリアの信頼性への影響:
    短期間での離職(例えば半年~1年未満)が繰り返されると、採用担当者からは「定着性がない」「忍耐力に欠ける」「ミスマッチが多い」といったネガティブな印象を持たれやすくなります。これは、今後の転職活動において非常に不利に働く可能性があります。
  2. スキルアップの機会損失:
    短期間で職場を転々としていると、一つの職場で専門的なスキルや知識を深く習得する機会が失われます。キャリアの長期的な視点で見ると、専門性が身につかず、結果的に市場価値が上がりにくくなる可能性があります。
  3. 精神的な疲弊:
    頻繁な転職活動、新しい職場への適応、そしてミスマッチによる早期離職というサイクルは、精神的に大きな負担となります。「また転職活動から始めなければならない」という疲労感や自己肯定感の低下は、次の仕事探しにも悪影響を及ぼしかねません。
  4. 再就職手当受給後の早期離職:
    再就職手当を受給したにもかかわらず、その後の職場が合わずに早期離職してしまった場合、手当の「安定した職業への再就職」という目的から外れてしまいます。さらに、再離職時の給付金受給への影響も考えると、金銭的にもキャリア的にも大きな痛手となります。

再就職手当は、あくまでも「安定した職業」への再就職を支援するものです。目先の給付金に飛びつくのではなく、自身のキャリアにとって真に安定し、長期的に貢献できる職場を見つけることが何よりも重要です。そのためには、時間をかけてじっくりと企業研究や自己分析を行い、ミスマッチのない転職を目指すという選択も、決して「損」ではないどころか、むしろ「得」であると言えるでしょう。

将来の失業給付への影響

再就職手当を受給すると、その時点でそれまでの雇用保険の被保険者期間に基づく失業手当の受給資格はすべて消化されたと見なされます。つまり、雇用保険の受給資格がリセットされるという点が、将来への大きな影響となります。

もし再就職手当を受け取って再就職した後、何らかの理由で再度離職することになった場合、以下の点に注意が必要です。

  1. 次の失業手当の受給資格の再取得:
    再度失業手当を受け取るためには、再就職先の会社での雇用保険の被保険者期間が、離職日以前2年間に12ヶ月以上(特定理由離職者・特定受給資格者の一部は離職日以前1年間に6ヶ月以上)必要となります。短期間での離職の場合、この条件を満たせず、次の失業手当がもらえない可能性があります。

    【例】
    前の会社:5年間勤務
    失業手当受給中に再就職手当を受給し再就職
    新しい会社:8ヶ月勤務後に離職
    この場合、新しい会社での被保険者期間が12ヶ月に満たないため、原則として次の失業手当はもらえません。前の会社の5年間の期間は、再就職手当受給時に消化済みとされています。

  2. 所定給付日数の短縮:
    たとえ次の失業手当の受給資格を得られたとしても、再就職先での被保険者期間が短いと、それに応じて所定給付日数も短くなってしまいます。これにより、将来的に失業した際の経済的なセーフティネットが薄くなる可能性があります。
  3. 年齢による影響:
    一般的に、雇用保険の所定給付日数は、年齢が高くなるほど長くなる傾向があります。しかし、再就職手当の受給によって一度リセットされると、次の被保険者期間が短い場合は、その年齢の恩恵を十分に受けられない可能性も出てきます。

このように、再就職手当の受給は、その後のキャリアにおいて「保険」としての失業手当の役割を一時的に奪ってしまう側面があります。もし再就職先の安定性や長期的な就業に不安がある場合は、目先の再就職手当よりも、失業手当を満額受給しながらじっくりと次を見定める方が、将来のリスクヘッジにつながるという考え方もできます。

特に、リストラなど会社都合で離職し、失業手当の給付日数が多く残っている方や、自己都合退職でも給付制限期間後にじっくりと転職活動を行いたいと考えている方は、再就職手当のメリットと、将来の失業給付への影響を天秤にかけて慎重な判断をすることが肝要です。

再就職手当に関するよくある質問(PAA)

再就職手当について、多くの方が疑問に感じる点をQ&A形式でまとめました。疑問の解消にお役立てください。

再就職手当の申請期間は?

再就職手当の申請期間は、再就職した日の翌日から1ヶ月以内です。
この期間を過ぎてしまうと、原則として再就職手当は受け取れなくなります。再就職が決まったら、速やかにハローワークに必要書類を確認し、手続きを進めるようにしましょう。再就職先の会社から「採用証明書」を発行してもらう必要があるため、早めに依頼することが大切です。

再就職手当の受給条件は?

再就職手当を受給するためには、以下の主な条件をすべて満たす必要があります。

  • 失業手当の支給残日数が3分の1以上あること。
  • 1年以上の雇用見込みがある職業に就いたこと。
  • 雇用保険の被保険者となる職業に就いたこと。
  • 離職前の事業主(関連会社含む)に再雇用されたものでないこと。
  • 待期期間(7日間)が終了した後に再就職したこと。
  • 再就職の決定が、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によるものであるか、あるいは自己開拓であってもハローワークに求職の申し込みをした後に内定を得たものであること。
  • 過去3年以内に再就職手当や常用就職支度手当の支給を受けていないこと。

これらの条件は複雑に見えるかもしれませんが、一つでも満たさない場合は支給対象外となるため、再就職が決まった際は必ずハローワークで自身の状況を相談し、支給対象となるか確認することが重要です。

再就職手当の計算式は?

再就職手当の計算式は以下の通りです。

再就職手当支給額 = 基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率

  • 基本手当日額: 離職前の賃金に基づいて計算される1日あたりの失業手当の金額(上限あり)。
  • 支給残日数: 所定給付日数から、すでに失業手当を受給した日数を差し引いた残りの日数。
  • 給付率: 支給残日数に応じて以下のいずれかが適用されます。
    • 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合:70%
    • 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合:60%

ご自身の基本手当日額と、再就職時の支給残日数を把握していれば、ある程度の目安額を算出できます。ただし、正確な金額はハローワークでの確認が必要です。

再就職手当と就業手当、どちらが得?

2025年4月1日の制度改正により、就業手当は廃止されます。
そのため、原則として今後は再就職手当のみが関連する手当として存在することになります

【参考:2025年3月31日までの制度の場合】
2025年3月31日までは就業手当も存在しましたが、その目的と対象が異なります。

  • 再就職手当: 雇用保険の被保険者となる「安定した職業」に就職した場合に支給される一時金。
  • 就業手当: 失業手当の支給残日数があり、かつ雇用保険の被保険者とならない短時間のアルバイトなどで収入を得た場合に、その就職活動を奨励するために支給される手当。

したがって、どちらが得という単純な比較ではなく、「どのような働き方で再就職したか(あるいは失業期間中に働いたか)」によって、受給できる手当の種類が異なっていました。就業手当は、あくまでも本採用前のつなぎや、就職活動の一環としての短時間労働を支援するものであり、再就職手当のようなまとまった一時金ではありませんでした。

2025年4月以降は、就業手当がなくなるため、再就職手当の受給を検討する際は、「再就職手当をもらうべきか、それとも失業手当を満額受給すべきか」という二択で考えることになります。ご自身のキャリアプランや経済状況、再就職先の安定性などを総合的に判断して、最適な選択をすることが求められます。

まとめ:再就職手当をもらうべきか慎重に判断しよう

再就職手当は、早期の再就職を促進し、失業者の生活安定を支援するための素晴らしい制度です。しかし、「もらわない方がいい」という選択肢が存在することも、この記事を通じてご理解いただけたかと思います。

再就職手当の受給を検討する際は、以下の点を総合的に考慮し、ご自身の状況に合わせた慎重な判断が不可欠です。

  • 失業手当満額受給との比較: 再就職手当によって、本来受け取れるはずだった失業手当の総額がどの程度減少するのか。その減少額を、早期再就職による給与収入で補えるのか。
  • キャリアプランとの整合性: 目先の給付金に囚われず、自身の長期的なキャリア形成に合致する職場かどうか。焦って再就職することで、ミスマッチや早期離職のリスクはないか。
  • 将来のセーフティネットへの影響: 再就職手当受給によって、将来再度失業した場合の給付金受給資格や給付日数に影響はないか。
  • 2025年4月からの制度改正: 就業促進定着手当の支給上限額引き下げや、就業手当の廃止が、自身の経済状況や転職活動にどのような影響を与えるか。

再就職手当のメリットである「まとまった一時金の支給」や「精神的な安定」は確かに魅力的です。しかし、その裏には「総支給額の減少」「キャリアリスク」「将来の給付金への影響」といったデメリットや落とし穴も潜んでいます。

ご自身の状況や将来の展望をしっかりと見据え、場合によっては失業手当を受け取りながら、じっくりと理想の職場を探すという選択も、決して間違いではありません。むしろ、それが長期的なキャリア形成や経済的な安定につながる可能性もあります。

最終的な判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、ハローワークの担当者やキャリアアドバイザーなど、専門家への相談を検討することをおすすめします。客観的な視点からのアドバイスが、あなたの最善の選択を後押ししてくれるはずです。

【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の状況における個別の法的・経済的アドバイスを提供するものではありません。雇用保険制度は複雑であり、法改正や個々の状況によって適用される内容が異なります。再就職手当の申請や受給に関する最終的な判断は、必ず管轄のハローワークに直接確認し、最新の情報を参照の上、ご自身の責任において行ってください。本記事の情報を利用したことにより生じた損害について、当方は一切の責任を負いません。

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