「不安障害は薬を飲むと治るのだろうか」
「薬を飲んで治療したいけど、副作用が気になる」
「薬を飲み始めると、一生飲み続けないといけないのだろうか」
このような疑問はありませんか?
不安障害の治療には、抗不安薬と抗うつ薬が用いられます。それぞれに長所と短所があり、症状に合わせて薬の種類や量を調整していきます。
不安障害における薬物療法は、不安などの症状を抑える働きがあるものの、根本的な治療にはなりません。不安障害の治療は、薬で症状を抑えつつ、認知行動療法などの精神療法で根本解決を図るのが重要です。
本記事では、
- 不安障害に有効な2種類の薬について
- 認知行動療法について
詳しく解説します。
最後には、不安障害の薬物治療に関するよくある質問にも回答していますので、気になる方は参考にしてください。
不安障害に有効な薬は主に2種類ある
不安障害治療に有効な薬は、抗不安薬のベンゾジアゼピン系抗不安薬とうつ病治療で主に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の2種類があります。
うつ病の治療で使われている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、不安障害のほとんどの種類に有効であると明らかになりました。また副作用に関しても、抗うつ薬と比べると軽いため、不安障害の薬物治療では抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が広く使われるようになっています。
一方、抗不安薬は症状を一時的に抑える頓服薬として処方されることが多いのが特徴です。
抗不安薬と抗うつ薬のちがい
抗不安薬と抗うつ薬のちがいを、薬の作用や長所と短所の面から解説します。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)
抗不安薬の作用には、GABAという脳内にある物質が関連します。GABAは、不安を和らげたり睡眠を促したりする効果があるといわれています。GABAはベンゾジアゼピンと結びつくと、効果が増強する特性をもつため、不安や不眠症状が改善される効果が期待できるのです。
また抗不安薬には、筋肉の緊張を和らげる効果もあり、腰痛や頭痛の治療にも用いられる場合があります。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)の一覧表
主なベンゾジアゼピン系抗不安薬は以下の通りです。
作用時間 | 効力 | 商品名 |
短時間 (〜6時間) | 高い | デパス |
低い | グランダキシン | |
リーゼ | ||
コレミナール | ||
中時間 (12〜24時間) | 高い | ワイパックス |
エリスパン | ||
ソラナックス | ||
中くらい | レキソタン | |
長時間 (24時間〜) | 高い | メレックス |
リボトリール | ||
中くらい | ジアゼパム | |
セパゾン | ||
低い | コントール | |
レスミット | ||
セレナール | ||
超長時間 (90時間〜) | 高い | レスタス |
メイラックス |
抗不安薬の長所:即効性がある
抗不安薬は効き目が早いのが特徴です。作用時間が短い抗不安薬であれば、服用してから数十分程度で症状が和らぎます。そのため、すぐに不安症状を抑えたい場合には抗不安薬の服用が有効です。
抗不安薬の短所:副作用が強め
抗不安薬は眠気や記憶障害などの副作用が強めにでる傾向があります。服用する時間帯によっては、日常生活に影響が出てしまう可能性もあるかもしれません。
抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬【SSRI】)
抗うつ薬はその名の通り、主にうつ病の治療に用いる薬です。脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きに不調をきたすと、不安や意欲の低下などの症状が表れます。抗うつ薬は、セロトニンが正常に働く手助けをする作用があるため、不安症状の改善が期待できるのです。
抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬【SSRI】)の一覧
主な抗うつ薬は以下の通りです。
商品名 | 有効な不安障害の種類 |
ジェイゾロフト | パニック障害、外傷後ストレス障害 |
デプロメール | 強迫性障害、社会不安障害 |
パキシル | パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害 |
レクサプロ | 社会不安障害 |
抗うつ薬の種類によって効果が異なるため、不安障害の症状に合わせて処方されます。
抗うつ薬の長所:副作用が比較的少ない
抗うつ薬の長所は、比較的副作用が少ないことが挙げられます。吐き気や眠気などの副作用はありますが、抗不安薬と比較すると軽い症状ですんだり、しばらくすると消失したりします。ただし、服用を急に中止すると、頭痛やめまいなどが出現する場合があるため注意が必要です。
抗うつ薬の短所:効果を感じるまでに時間がかかる
抗うつ薬には、抗不安薬ほどの即効性はありません。副作用が少ないため長期間服用できますが、すぐに症状を緩和したい場合には不向きといえるでしょう。
薬以外の治療法「認知行動療法」
薬は、不安症状を抑えたり和らげたりするには有効ですが、薬だけで治療するのは難しい場合があります。そこで、薬物療法と併用すると効果的なのが「認知行動療法」です。
認知行動療法とは
認知行動療法とは、うつ病や統合失調症など、さまざまな心の疾患に効果的な精神療法で、全国各地にある専門の医療機関で治療を受けられます。
認知行動療法は、不安などの症状が患者さんの感情や行動によって引き起こされている点に着目し、治療する方法です。具体的には、実生活の中で偏った思い込みを修正したり、不安を和らげるためのリラクゼーション技法を学んだります。
認知行動療法のメリット5つ
認知行動療法のメリットは以下の5つです。
- 身体的な副作用がない
- モチベーションを保ちやすい
- QOL (生活の質)が向上しやすい
- 標準化された治療を受けられる
- 再発率が低い
それぞれ詳しく解説します。
1.身体的な副作用がない
抗不安薬や抗うつ薬には副作用が生じる可能性があります。しかし認知行動療法は、感情や行動の修正により不安症状の改善を図るため、副作用の心配がありません。
2.モチベーションを保ちやすい
認知行動療法は、生活のあらゆる場面を想定して治療をおこないます。そのため生活の中で効果が実感できれば、治療へのモチベーションを保ちやすい傾向にあります。
3.QOL(生活の質)を維持しやすい
薬の副作用がある場合、眠気や吐き気で日常生活に悪影響が出る可能性があります。しかし、認知行動療法では副作用がないため、QOL(生活の質)の維持がしやすいのです。また、治療により不安症状が改善されていくと、QOL(生活の質)が向上する可能性があるのもメリットといえるでしょう。
4.治療者の技術に左右されにくい
認知行動療法には、厚生労働省によって完備された不安障害のマニュアルがあります。マニュアルにより、標準化された治療が受けられるため、治療者の技術に左右されにくい点もメリットです。
5.再発率が低い
認知行動療法は、不安症状の原因となる感情や行動を把握し、問題点を少しずつ改善していきます。そのため物事に対して柔軟な考え方が身につきやすく、再発率を下げられるのが強みです。
認知行動療法のデメリット2つ
認知行動療法のデメリットは以下の5つです。
- 即効性が期待できない場合がある
- 課題が多いため治療が負担と感じる場合がある
それぞれ詳しく解説します。
1.効果を得るには時間がかかる場合がある
厚生労働省の「社会不安障害の認知行動マニュアル」によると、「週に1回50分、合計12〜16回が治療の基本構成」と記載されています。つまり、治療効果を得るには数カ月必要であり、薬物療法のような即効性は期待できない可能性があります。
2.課題が多いため治療が負担と感じる場合がある
認知行動療法は治療者により、課題が出されるケースがあります。治療をする上で必要な課題ですが、負担に感じる方もいます。時には途中で治療を断念するケースもあるため、課題の量には注意が必要です。
不安障害の薬物治療に関するよくある質問
不安障害の薬物治療(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)に関する、よくある質問を紹介します。
- 不安障害に効く市販薬について
- 不安障害のない人が不安薬を飲むとどうなるか
- 抗不安薬を飲みながら仕事することについて
- 妊娠や出産への影響について
それぞれ詳しく回答していきます。
質問1.不安障害に効くおすすめの市販薬はありますか?
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、国の法律により取り扱いが決められているため、ドラッグストアでは手に入りません。そのため不安症状に効くお薬が必要な場合は、専門の病院を受診する必要があります。
質問2.不安障害のない人が抗不安薬を飲むとどうなりますか?
不安症状のない方が抗不安薬を飲むのは、意味がないどころか抗不安薬の副作用により日常生活に影響が出る可能性があります。
抗不安薬は不安障害のある方が飲む薬であるため、不安症状のない方が服薬するのはおすすめしません。
質問3.抗不安薬を飲みながら仕事はできますか?
仕事内容によりますが、抗不安薬を服用していても仕事はできます。しかし、眠気やふらつき、めまいなどの副作用があるため事故につながる恐れがあります。薬を服用して仕事をする場合は、医師や上司に相談し、許可を得てから業務にあたるようにしましょう。
質問4.妊娠中でも抗不安薬を服用することはできますか?
妊娠中は抗不安薬の服用を控えたほうがよいですが、不安症状が強く治療が優先される場合は、医師の判断により抗不安薬が処方される場合があります。
不安障害の薬は、症状を緩和する目的で正しく服用しよう
不安障害の治療には、主に抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)と抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬【SSRI】)が用いられます。それぞれ長所と短所があるため、医師が症状や目的を総合的に判断し、処方されます。
しかし、薬は症状を抑えたり和らげたりする効果はあるものの、根本的な治療ではありません。薬でうまく症状を抑えつつ、認知行動療法などの精神療法(心理療法)を併用して症状の改善を図るとよいでしょう。
また、薬物治療や認知行動療法について不安や疑問のある方は、心療内科や精神科などのメンタルクリニックを受診して医師に相談してみましょう。
参考文献サイト
・井上猛|不安障害の薬物療法
・厚生労働省|女性の健康推進室|不安症群
・公益社団法人日本精神神経学会|井上猛先生に「抗うつ薬とうつ病の治療法」を訊く
・脳科学辞典|抗不安薬
・厚生労働省|重篤副作用疾患別対応マニュアル
・厚生労働省研究班(東京大学医学部藤井班)監修|女性の健康推進室ヘルスケアラボ|不安症群
・KOMPAS|慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト|不安障害(不安症)
・厚生労働省|認知行動療法
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧①
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧②
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧③
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧④
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧⑤
・厚生労働省|認知行動療法届出医療機関一覧⑥
・精神経誌(2012)|坂野雄二|不安障害に対する認知行動療法
・厚生労働省|心の健康|認知行動療法
・厚生労働省科学研究費補助金障害者対策総合研究事業|社会不安障害の認知行動療法マニュアル(治療用)
・厚生労働省|濫用等のおそれのある市販薬の適正使用について
・内閣府大臣官房政府公報室|知っておきたい薬のリスクと正しい使い方
・麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)