「食べた後、吐きたくないのに吐いてしまう。私ってもしかして摂食障害?」
「食べ過ぎてしまうのをやめられない。これって病気?」
このように悩まれている方もいるのではないでしょうか。
摂食障害とは、精神疾患の1つで食事の量や食に関する行動などに重篤な障害が表れるのが特徴です。いわゆる拒食症や過食症といわれるものであり、神経性やせ症と神経性過食症のに分類されます。いずれも、やせ願望や肥満への恐怖を持ち、自分の体重や見た目に敏感になっているのです。
この記事では、摂食障害の定義や診断、治療について解説します。ダイエットや大食いとの違いも説明します。「もしかして摂食障害かも?」と不安に感じている方は、ぜひ参考にしてください。
摂食障害とは
摂食障害とは、食事の量や食に関する行動などの重篤な障害をきたす精神疾患です。男性よりも女性の割合が高く、10〜20代に発症することが多いとされていますが、年齢や性別、社会的背景問わず誰もがかかる可能性のある疾患です。
摂食障害を発症していても、治療を受けていない方や途中で治療を辞めている方が約4割いるといわれており、治療を必要とする患者数は40万人いると推定されています。ここでは、以下の2つを解説します。
- 摂食障害の原因
- 摂食障害の症状
それぞれ詳しくみていきましょう。
摂食障害の原因
摂食障害の原因ははっきりとは分かっていません。
しかし、脳の異常や心理的な要因、社会的な要因が複雑にからみあい、関係しているといった研究結果もあります。つまり、さまざまなことにストレスを感じ食べ過ぎたり、「やせていることが美しい」とする社会的な背景があったりなどが摂食障害につながってしまっている可能性があるのです。
そのほかにも、ダイエットや胃腸の症状、食欲不振などがきっかけになって発症するケースがあります。
摂食障害の症状
摂食障害の症状は、以下の通りです。
食に関する症状 |
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自分の見た目に関する不安 |
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こころの症状 |
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身体の症状 |
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このような症状がある方は、摂食障害が疑われます。少しでも気になる症状がある場合には、精神科や心療内科の受診をおすすめします。
摂食障害の主な2つの分類
摂食障害は、主に2つに分類されますが、下記に該当しないパターンもあります。その場合は、特定不能の摂食障害と分類されます。
- 神経性やせ症(神経性食欲不振症)
- 神経性過食症
それぞれ詳しく解説します。
1.神経性やせ症(神経性食欲不振症)
摂食障害のひとつは、神経性やせ症(AN:anorexia nervosaの略称)です。神経性食欲不振症とも呼ばれます。
神経性やせ症は、極端なやせ願望と肥満への恐怖が強く、極端な食事制限をしたり著しいやせを生じていたりするのが特徴です。10代の女性に多く、40歳以上での発症はまれです。
肥満への恐怖が強く、体重や体型の認知が歪んでいるため、食べる量や回数を減らしたり、太りやすいものを避けたりします。いくら周りが「痩せている」と思っていても、本人は「太っている」と感じてしまうのです。
ただ一方で約半数の方は、極度の空腹に耐えられなくなり無茶食いを始めてしまいます。無茶食いをしても体重増加に対する恐怖はあるため、意図的に嘔吐したり、下剤や利尿剤を乱用したりするのです。
こういった神経性やせ症の方は、抑うつ気分や不安、こだわりが強くなり、自身を認められないといった傾向にあります。
2.神経性過食症
もう一つは、神経性過食症(BN:bulimia nervosaの略称)です。
神経性過食症は、無茶食いといわれる過食が特徴的です。食べる量が非常に多く、量のコントロールができません。ただ一方で体重増加への恐怖のため、食べたものを意図的に嘔吐したり下剤ややせ薬を乱用するといった行動を繰り返します。20代女性に多いのが特徴です。
「無茶食いと代償行動(意図的に嘔吐したり下剤ややせ薬を乱用したりなど)の頻度が少なくとも3カ月間にわたり週2回以上続く」と神経性過食症と診断されます。
少しでも体重が増えると気分が落ち込み生きる価値がないとさえ思ってしまうといった精神面での症状が表れることもあります。過食による疲労感で学校や仕事に行けなくなったり、食費が大幅に増えたりと日常生活に支障をきたしてしまうことも珍しくありません。
摂食障害の治療
摂食障害は、心身両方に症状が表れます。そのため、精神面と身体面、両方への介入が必要です。いずれの治療においても、治療者との関係を構築したうえで実施しなければなりません。ここでは、神経性やせ症と神経性過食症それぞれの治療について詳しく解説します。
神経性やせ症(神経性食欲不振症)の治療
神経性やせ症に対する治療には、明確なエビデンスはありませんが、以下の治療をおこなっていることが多いです。
- 入院栄養療法
- オペラント条件づけによる入院行動療法
- 認知行動療法
- 対人関係療法
著しい体重減少(体重30kg未満、標準体重の55%未満)が見られる場合には、経管栄養や中心静脈カテーテルによる栄養療法がおこなわれます。
オペラント条件づけとは、自発的な行動を促すための条件づけのことです。
オペラント条件づけによる入院行動療法では、入院時にプログラムと目標を決め、目標体重をクリアするまで退院できないといった約束をします。退院という目標に向かって自発的に行動できるように医療者は手助けをおこなっていきます。
また、摂食障害の方への認知行動療法は、うつ病や不安障害の方に対するプログラムと内容が異なります。現在は、フェアバーン(Fairburn)らが開発したた摂食障害用強化型認知行動療法、(Enhanced Cognitive Behavior Therapy;CBT-E)が主流となっています。
神経性過食症の治療
神経性過食症は、原則外来治療です。一方で、食に関する行動を正すために短期入院をおこなうケースもあります。
以下の目標のもと非薬物療法をメインに治療がおこなわれます。
- 適正体重を保つこと
- 過食をコントロールすること
- 代償行動の衝動をコントロールすること
非薬物療法では、認知行動療法や対人関係療法、心理教育をおこなっていきます。うつ病や不安障害が併存している場合には、薬物療法として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が使用されることもあります。
摂食障害は治る?
摂食障害は、基本的には治る疾患です。しかし中には、再発したり、長期化したりする方もいます。
神経性やせ症の方の経過年数別の回復率は以下の通りです。
神経性やせ症の方の回復率 | |
受診後の経過年数 | 回復率 |
4年未満 | 約30% |
4~10年 | 約50% |
10年以上 | 約70% |
一方の神経性過食症は、回復する方も多くいる反面、再発率も高いのが特徴です。神経性過食症の5〜10年経過後の状態は以下の通りです。
摂食障害は、基本的に多くの方が回復に向かいますが、再発を繰り返したり症状の改善がみられなかったりするのも現状です。
摂食障害に関するよくある質問
ここでは、摂食障害に関するよくある質問を3つ紹介し解説します。
- 摂食障害は生命の危険性もある?
- 神経性やせ症とダイエットの違いは?
- 神経性過食症と大食いの違いは?
それぞれ詳しく回答していきます。
摂食障害は生命の危険性もある?
摂食障害は、ときに生命の危険性が及ぶこともあります。
神経性やせ症の方は10年経過すると約70%の方が回復する一方、10%近くは死に至るという報告があります。また、神経性過食症の方の死亡率は、0.3%とされています。
死因はさまざまで、電解質の異常による不整脈や結核などの感染症、自殺などです。
過度な食事制限で身体面に不調をきたすことはもちろん、精神面でのバランスも崩れ自殺に至ってしまうケースも珍しくありません。
神経性やせ症とダイエットの違いは?
神経性やせ症とダイエットの違いは「体重への意識の強さ」と「やめようとしたときにやめられるか」です。
ダイエットでも神経性やせ症、いずれの場合でも食事の量を減らしたり、運動したりするなどの行動は同じです。
ところが、神経性やせ症の方は体重への意識が強すぎるため、一日中食事や体重に関することを考えてしまい、学業や仕事に集中できなくなります。結果、日常生活へ大きな影響をもたらしてしまいます。
神経性過食症と大食いの違いは?
神経性過食症と大食いの違いは、食べ過ぎることをコントロールできるかどうかです。
食べ過ぎを感じることは誰にでもあることです。食べた後に「食べ過ぎ」の罪悪感にとらわれることはあっても、体重や体型を気にして吐くことはないでしょう。
一方で、神経性過食症の方は、食べ過ぎることへのコントロールが働かず、一度過食が始まると苦しくても食べ続けてしまいます。過食後は、食べ過ぎたことへの嫌悪感にとらわれ吐く、下剤を乱用するなどの行動を伴うのが特徴です。
摂食障害を理解し、適切な治療を受けよう
摂食障害とは、食事の量や食に関する行動の重篤な障害が特徴の精神疾患です。
やせ願望や肥満への恐怖が強く、こころと身体に大きな影響をおよぼします。
食に関する症状にお悩みの方は、もしかしたら摂食障害が潜んでいる可能性があります。
この記事で紹介した症状で悩んでいる方、少しでも気になる症状がある方は、早めに精神科や心療内科などの医療機関で受診することをおすすめします。
参考サイト・文献
・e-ヘルスネット 摂食障害|厚生労働省
・摂食障害|日大医誌 80 (4): 195–198 (2021)
・こころの情報サイト|国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
・摂食障害はどんな病気?|摂食障害ポータルサイト
・精神科領域における摂食障害の連携指診|日本医療研究開発機構(AMED)研究
・摂食障害の再発についての研究
・神経性過食症患者に対する認知行動療法|佐藤 康弘 、福土 審 東北大学病院 東北大学大学院医学系研究科心療内科学分野