「恐怖症にはどんな症状があるの?」
「恐怖症の症状が出るから、プレゼンテーションが苦手で、うまく仕事ができない」
このように悩んでいる方は、多いかもしれません。恐怖症は、不安障害の一つであり、過度な恐怖が主な症状として表れます。大きく3つの分類に分けられ、広場恐怖症や社交恐怖症などがあります。学術用語になった恐怖症は200種類以上に及ぶとの説もあるほど、恐怖の対象は多岐にわたります。いずれかの恐怖症に該当し、悩む方もいるでしょう。
本記事では、恐怖症の分類や症状について説明します。また、診断テストや効果的な3つの治療法も紹介します。恐怖症を知りたい方や、恐怖症で仕事や日常生活に支障をきたして悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
恐怖症とは
恐怖症とは、ある特定の対象や状況に過度な恐怖を感じ、日常生活や精神状態に支障をきたす精神疾患です。
疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD、通称:国際疾病分類)第10版では、下記のように記載されています。
「現実には危険のない状況であるのに、一定の明確な状況においてだけ、又は主としてそういう状況で不安が誘発される一群の障害である」
高所や閉所、虫が怖いなど、恐怖を感じる対象は人それぞれです。人前に出るのが怖いと感じる方もいるでしょう。しかし恐怖症では恐怖の程度が過度であり、日常生活に影響を及ぼします。
また恐怖症は、一見すると恐怖症を患っていると分かりにくいため、周囲から理解されず性格や好悪の問題、単なるわがままと勘違いされる場合もあります。
恐怖症3つの分類と症状|国際疾病分類(ICD-10)
国際疾病分類(ICD-10)では、恐怖症を下記3つに分類しています。
- 広場恐怖症
- 社会恐怖症
- 特定の恐怖症
それぞれ特徴や症状が異なり悩むポイントも違うので、一つずつ説明していきます。また、よく耳にする恐怖症だけではなく、珍しい種類の恐怖症についても紹介します。
広場恐怖症|逃げ出せない状況への恐怖
広場恐怖症とは、逃げ出せないと感じる場所や状況に強い恐怖や不安を抱き、日常生活に支障をきたす疾患です。
バスや電車に乗っているとき、映画館や劇場にいるときなどは、自身にとって耐えがたい何かが起きたとしても、逃げられず、誰も助けてくれないのではないかと考える傾向があります。そのため、過度な不安や恐怖に襲われるのです。
最終的には、その場に行くことさえしなくなります。不安や恐怖の原因となる「逃げ出せない状況」を回避しようとするのです。恐怖を感じる状況の回避は、広場恐怖症の方に顕著に見られる行動です。
また、広場恐怖症の方は、約30~50%がパニック障害を併発しているといわれています。
社交恐怖症|苦手なシチュエーションへの恐怖
社交恐怖症とは、社会的状況や人前に出る状況に対して恐怖や不安を抱く疾患です。下記のような場面で、発症しやすいです。
- 人前で話す
- 人と食事する
- 知らない人と会う
- 会話する
他人の期待に添えないのではないか、拒絶されるのではないかと不安を感じます。苦手なシチュエーションが、恐怖や不安を引き起こすのです。身体的な症状として、赤面したり、手指の振戦や吐き気・尿意促迫がみられたりすることがあります。
特定の恐怖症|特定の対象や状況への恐怖
特定の恐怖症とは、特定の対象や状況に恐怖を感じる恐怖症のことです。たとえば、下記のような対象や状況に接近すると、過度な恐怖を感じます。
- 高所
- 動物(ヘビ、クモ、犬・猫など)
- 自然への恐怖(雷、嵐、大雨など)
- 先端
- 集合体
- くらやみ
- 閉所
- 公衆便所での排尿や排便
- 特定の食物を食べる
- 歯科受診または出血・負傷の光景
恐怖を誘発する対象・状況には個人差があります。高所恐怖症や閉所恐怖症などはよく聞きますが、ほかにも、公衆便所での排尿や排便、特定の食べ物に対してなど、さまざまな対象や状況に恐怖を感じる恐怖症があります。
また、下記のような珍しいものに強い恐怖をいだくこともあります。
- 虫
- 海洋
- ピエロ
- アルバニア
- 亀裂
- ロボット
- ぬいぐるみ
- 雑音
ほかにもボタンやLINEなど、挙げればきりがありません。世の中のありとあらゆる対象や状況が、恐怖を感じる対象となり得るのです。不安や恐怖を抱く対象が細かすぎて、恐怖症を患っていない方にとっては理解できないかもしれません。しかし、恐怖症の方にとっては、つらく悩ましい状況であるといえるでしょう。
恐怖症の診断テスト
恐怖症の診断テストとして、下記の2種類を紹介します。
- 広場恐怖症の診断テスト
- 社交恐怖症の診断テスト
それぞれの診断テストを実施し、自身が抱える不安や恐怖が恐怖症の可能性のあるものなのか、判断材料の一つにしましょう。
広場恐怖症の診断テスト
まずは、広場恐怖症の診断テストをみていきましょう。
- 公共交通機関を利用しているとき(列車、バス、船、飛行機など)
- 広い場所にいるとき(市場、駐車場など)
- 囲まれた場所にいるとき(店、劇場、映画館など)
- 列に並んだり、人混みの中にいるとき
- 家の外に一人でいるとき
5つのうち2つ以上の場面において強い恐怖や不安を感じるか、それが6カ月ほど発生しているかが診断の基準です。さらに、以下のすべてが認められる場合には、恐怖症の可能性はより高くなります。
- 同じような状況で、ほとんどの場合において恐怖や不安を引き起こす
- 同じような状況が起こらないようにと、積極的に回避してしまう(または同伴者を必要とする)
- 実際の脅威と釣り合わないほどの不安や恐怖を感じる
- 恐怖や不安、または回避行動により著しい苦痛を感じ、日常生活に支障をきたしている
これらの診断テストは、あくまで参考として活用してください。恐怖症かもしれないと不安を感じた方は、医療機関で受診しましょう。
社交恐怖症の診断テスト
次に、恐怖症の一つである社交恐怖症の診断テストを紹介します。
- 人前で質問に答えたり発表したりなど、多くの人に注目される状況が怖い
- グループ活動に参加する、または宴席や会議室などほかの人がすでにいる場所へ行くのが怖い
- 人前で恥ずかしいことをしてしまい、他人から否定的に評価されることが怖い
上記いずれかの項目に該当し、怖さが非常に強く生活に支障が出たり、6カ月以上ひどいつらさを感じたりする場合は、社交恐怖症の可能性があります。我慢せずに、専門の医師に相談してみましょう。
恐怖症の症状とは
恐怖症の最たる症状は、過度な恐怖があることです。加えて、過度の恐怖により下記の症状をきたす可能性があります。
- うつ状態
- 意欲や興味の低下
- 喜びなどプラス感情の喪失
- 不眠
- イライラ
- 集中力や判断力の低下
- 動悸
- 多汗、冷や汗
- 息が苦しくなる
- 頭に血がのぼる
- 吐き気
- 頭痛
- 腹痛
- めまい
- しびれ
過度な恐怖を感じることにより、精神的な症状だけではなく、身体的な症状が出現します。精神科領域以外の病気との区別が難しいため、精神的・身体的な症状が表れている場合は、医療機関での受診を検討しましょう。
治療が必要な恐怖症とは
治療が必要な恐怖症は、下記2つのいずれかに該当する場合です。
- 本人や周囲の人が非常に困っている
- 日常生活や仕事に大きな影響が出ている
誰しも、何らかの対象や状況に恐怖を感じることがあり、「自分は〇〇恐怖症かもしれない」と考えることもあるでしょう。その一方で、普通に生活ができている場合もあるでしょう。恐怖は目に見えず、身体的な症状が出ない場合も多いため、「通常の恐怖」と「治療を必要とする恐怖」との線引きは難しいです。
治療が必要であるかの判断は、日常生活に影響していないか、本人や周囲の人が症状に悩まされていないかを目安にしてみてください。
恐怖症3つの治療方法
恐怖症の治療方法は、下記の3つがあります。
- 曝露療法
- 認知行動療法
- 薬物療法
それぞれ症状に合わせた治療法を選択しましょう。
1.曝露療法
曝露療法は、エクスポージャー療法ともいわれており、恐怖の原因となる対象や状況に段階的に触れながら、恐怖を感じる度合いを軽減していくことを目的としています。精神療法(心理療法)の一つです。
恐怖や不安は、通常であれば永遠には続かず少しずつ軽減していきます。しかし、恐怖を感じる対象から回避し続けていると、恐怖症が悪化、または慢性化する要因となり得ます。
そのため曝露療法では、あえて恐怖の対象や状況に触れるという方法を用いているのです。きわめて高い効果を得られることが明らかになっています。
近年では、VRを用いて恐怖の対象となる映像を見ながら、治療がおこなわれています。
2.認知行動療法
認知行動療法は、CBT(Cognitive Behavioral Therapy)とも呼ばれ、恐怖や不安、ストレスなどで固まり狭くなった考えや行動を自身でほぐし、自由にコントロールできるようにします。これも、精神療法(心理療法)の一つです。
認知行動療法には、恐怖や不安を軽減する効果が期待できます。
「起こった出来事をどのようにとらえ、そしてどのように行動するのか」など、出来事への考え方や行動が、認知行動療法のターゲットです。1回1時間弱、合計数十回など、決められた課題をこなしながら治療に取り組みます。
医療機関によっては、デイケアやリワークなどで集団認知行動療法プログラムを独自に作り、グループで課題をこなすこともあります。
3.薬物療法
広場恐怖症や社交恐怖症などの多くは、基本的には精神療法(心理療法)を実施し、症状によって薬物療法が選択されます。薬物療法では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択となる場合が多いです。薬物療法を受ける際に気をつけたいのが、薬の効果はすぐには出てこないということです。効果がないからといって服用をやめたり、自己判断で増量したりせずに、用量用法をしっかり守って服用することが大切となります。
また、限局性恐怖症の場合は、曝露療法や認知行動療法と並行しベンゾジアゼピン系薬剤の使用や一時的なβ遮断薬を用いた薬物療法が選択されることがあります。
いずれにせよ専門医の診察を受けて、自身の症状に合っている治療を受けることが大切です。
恐怖症の症状に悩んだら医療機関で受診しよう
恐怖症とは、ある特定の対象や状況に過度な恐怖を感じ、日常生活や精神状態に支障をきたす疾患です。
広場恐怖症や社交恐怖症など3つに分類され、曝露療法や認知行動療法などの精神療法や薬物療法が実施されます。
恐怖症は、恐怖の度合いや深刻さが周囲に伝わりにくいため、理解されず悩んでいる方もいるでしょう。恐怖症の症状に悩んだら、精神科や心療内科などの医療機関で受診しましょう。
参考サイト・文献
・こころもメンテしよう – 不安障害|厚生労働省
・ICD-10 第Ⅴ章精神及び行動の障害(F00-F99)|厚生労働省
・こころの情報サイト – 不安症|国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
・e-ヘルスネット – エクスポージャー療法|厚生労働省
・①治療の基本 薬物療法 精神科 Resident Vol.3No.1 2022