胃苓湯(いれいとう)は、古くから伝わる漢方薬の一つです。特に消化器系の不調、中でも「水湿」と呼ばれる体内の余分な水分が滞ることで起こる様々な症状に用いられてきました。
現代では、胃の不調や下痢、お腹の張りといった症状に悩む多くの方に選ばれています。
この記事では、胃苓湯がなぜこれらの症状に効果を発揮するのか、期待できる効果や副作用、そして正しい飲み方について、分かりやすく解説します。
胃苓湯について詳しく知りたい、自分の症状に合うか知りたいという方は、ぜひ最後までお読みください。
胃苓湯の効能・効果
胃苓湯の効能・効果は、添付文書に記載されている範囲で使用されます。主な効能としては、「腹痛を伴う胃炎、急性・慢性胃カタル、消化不良、食あたり、暑あたり」が挙げられます。これらの症状は、現代社会においても多くの人が経験する身近な不調と言えるでしょう。
胃苓湯がこれらの症状に効果を発揮するのは、前述した平胃散と五苓散の作用によるものです。胃腸の消化吸収能力が低下すると、飲食物がうまく処理されず、胃の中に停滞したり、腸で異常な発酵を起こしたりします。これにより、胃もたれ、お腹の張り、消化不良といった症状が現れます。さらに、体内の水分代謝が滞ると、余分な水分が胃腸に溜まりやすくなり、これが下痢や軟便の原因となります。胃苓湯は、平胃散の働きで胃腸の動きを活発にし、消化を助けるとともに、五苓散の働きで体内の余分な水分を排出し、水分バランスを整えることで、これらの症状を改善に導きます。
特に、食あたりや暑あたりなど、急性の胃腸の不調で下痢や嘔吐、だるさなどを伴う場合に用いられることもあります。これは、五苓散の利水作用が、食あたりなどで起こる急性の水分代謝異常や、暑さによる体液の偏り(暑あたり)に効果を示すためです。
ただし、胃苓湯はあくまで漢方薬であり、西洋医学的な特定の疾患(例えば、特定の細菌による感染性胃腸炎など)に対して特異的な効果を示すわけではありません。症状の原因を特定し、適切な治療法を選択することが重要です。
どのような症状に効果がある?
胃苓湯は、その配合されている生薬の働きから、特に「水湿」が関わる様々な消化器症状に効果が期待できます。具体的にどのような症状に効果があるのか、さらに詳しく見ていきましょう。
胃苓湯と胃痛
胃痛は非常に一般的な症状ですが、その原因は多岐にわたります。胃苓湯が効果を示す可能性のある胃痛は、主に消化不良や胃の停滞感に伴うものです。例えば、食べ過ぎや飲み過ぎ、あるいは冷たいものの摂りすぎなどによって胃腸の働きが弱まり、食べ物が胃の中に長く留まることで感じる重苦しい痛みや、胃の膨満感を伴う痛みに適していると考えられます。また、体内の水湿が胃に停滞することで生じる、水がチャポチャポするような感覚や、吐き気を伴う胃痛にも有効な場合があります。
漢方医学では、胃痛の原因を「寒」「熱」「気滞」「血瘀」「湿」「虚」など様々な角度から捉えます。胃苓湯は「湿」や「虚」(消化機能の虚弱)に起因する胃痛に特に強みを発揮します。冷えや湿気の多い環境、あるいは消化に負担のかかる食事が原因で胃の働きが鈍くなり、痛みや不快感が現れる場合に試す価値はあります。しかし、強い炎症を伴う胃潰瘍や十二指腸潰瘍による鋭い痛み、ストレスが主な原因で胃がキリキリ痛む場合など、胃苓湯が第一選択とならない胃痛もあります。ご自身の胃痛がどのような性質か、専門家に相談して判断することが大切です。
胃苓湯と胃食道逆流
胃食道逆流症は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)などの症状を引き起こす疾患です。胃苓湯は直接的に胃酸の分泌を抑えたり、食道と胃の間の逆流を防ぐ作用はありません。そのため、逆流性食道炎の主要な治療薬として用いられることは少ないです。
しかし、胃苓湯が間接的に症状の改善に役立つ可能性はあります。特に、胃の動きが鈍く、食べ物が長く胃に留まる「胃排出遅延」がある場合、胃の内容物が逆流しやすくなります。胃苓湯は平胃散の成分によって胃の消化・運動機能を助ける働きがあるため、胃の停滞感を改善し、結果として逆流の頻度を減らすことに繋がる可能性が考えられます。また、体内の余分な水分が胃に溜まることによる胃の膨満感や不快感が、逆流感を助長している場合にも、五苓散の利水作用が有効に働くかもしれません。
ただし、これはあくまで補助的な可能性であり、胃食道逆流症の根本治療としては、胃酸分泌抑制薬などが一般的です。胃食道逆流の症状がある場合は、まず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが最も重要です。胃苓湯の使用については、医師や薬剤師に相談し、症状によっては他の漢方薬や治療法が推奨されることもあります。
胃苓湯と便秘
胃苓湯は主に下痢や軟便に用いられることが多い漢方薬ですが、便秘に対して効果を示す場合も理論上は考えられます。漢方医学では、便秘の原因も様々です。「水湿の偏り」が原因で便秘が起こる場合、それは大腸に余分な水分が停滞し、腸の動きが妨げられるタイプや、逆に水分代謝が悪いために体に必要な水分が行き渡らず、便が乾燥して硬くなるタイプなどが考えられます。胃苓湯に含まれる五苓散の成分は、体内の水分バランスを調整する働きがあるため、水湿の停滞による腸の動きの悪さや、水分代謝の偏りを改善することで、便通を促す可能性がゼロではありません。
また、胃苓湯に含まれる大黄には、緩下作用(便通を促す作用)があります。この大黄の働きによって、便秘の改善に繋がる可能性も考えられます。
しかし、胃苓湯の主要なターゲットは「湿」による下痢や軟便であり、便秘に対しては他の漢方薬(例えば、大黄甘草湯や麻子仁丸など)の方がより専門的に用いられます。胃苓湯を便秘に対して使用する場合は、その便秘が「水湿」の偏りや消化不良と関連しているかどうかが重要なポイントとなります。また、大黄の量によっては下痢を誘発する可能性もあります。便秘の症状がある場合は、ご自身の体質や便秘のタイプに合わせて、専門家と相談の上、適切な漢方薬を選ぶことが重要です。安易に胃苓湯を便秘薬として使用することは推奨されません。
胃苓湯と下痢・軟便
下痢や軟便は、胃苓湯が最も得意とする症状の一つです。特に、水分を多く含んだ便が出る、泥状の便が出る、お腹がゴロゴロ鳴る、といった「水湿」が関与する下痢に効果を発揮します。
現代的な視点で見ると、消化不良による腸内環境の乱れや、冷たいものの摂りすぎ、あるいは食あたりなどによって、腸管での水分吸収がうまくいかずに起こる下痢に有効です。また、暑さによる体調不良(暑あたり)で起こる下痢にも用いられます。
漢方医学的には、脾(消化器)の機能が低下し、体内の水湿をうまく捌ききれない状態(脾虚湿盛)が下痢の原因と考えられます。胃苓湯は、五苓散の利水作用によって腸管に溜まった余分な水分を排出し、脾の働きを助けることで水分代謝を正常に戻します。同時に、平胃散の健脾作用によって胃腸の消化吸収能力を高め、根本的な原因である脾の機能低下を改善に導きます。
例えば、梅雨時期や夏場など湿度が高い季節に、体が重だるく、食欲不振を伴い、下痢や軟便になりやすい体質の人には、胃苓湯が合う可能性が高いです。また、外食などで消化に負担のかかるものを食べた後に、お腹が緩くなる傾向がある人にも良いでしょう。
ただし、血便を伴う下痢、発熱や強い腹痛を伴う激しい下痢など、感染症や炎症性の疾患が疑われる場合は、まず医療機関を受診することが最優先です。胃苓湯は、これらの重篤な疾患に対する治療薬ではありません。あくまで、体質的なものや軽度な消化不良、水分代謝の乱れによる下痢・軟便に対して用いられる漢方薬であることを理解しておく必要があります。
胃苓湯と脹氣(お腹の張り)
お腹の張り(脹氣)も、胃苓湯が効果を示すことのある症状です。お腹の張りは、ガスが溜まる、あるいは消化物が停滞するといった物理的な原因のほか、漢方医学的には「気」や「湿」の滞りによっても起こると考えられます。
胃苓湯に含まれる平胃散の成分(特に厚朴や陳皮)は、「気」の巡りを改善し、停滞した消化物を動かす作用があります。これにより、消化不良によって胃や腸に食べ物が溜まり、膨満感や張りを感じる症状に効果が期待できます。また、五苓散の利水作用によって、体内の余分な水分がお腹に溜まることによる重苦しい張りや、水っぽい感じのする張りを改善します。
例えば、食事の後にすぐにお腹が張る、ガスが溜まりやすい、お腹が鳴る、といった症状で、同時に胃もたれや軟便傾向がある人には、胃苓湯が合う可能性があります。これは、消化吸収能力の低下(脾虚)と水湿の停滞(湿盛)が同時に起こっている状態と考えられ、胃苓湯の得意とする病態だからです。
ただし、過敏性腸症候群(IBS)など、他の原因によるお腹の張りもあり、すべてのタイプのお腹の張りに胃苓湯が有効なわけではありません。ご自身の症状のパターンや、どのような時に張りやすいかなどを観察し、漢方の専門家と相談することで、胃苓湯が適切かどうかを判断することができます。
胃苓湯は効果が出るまでどれくらい?
漢方薬の効果が出るまでの時間は、症状の種類、重症度、個人の体質(証)、そして服用する漢方薬の種類によって大きく異なります。胃苓湯の場合も同様で、一概に「〇時間後に効く」「〇日で効く」と断言することは難しいです。
しかし、症状の性質によってある程度の目安はあります。
- 急性の症状(食あたり、暑あたりによる急な下痢や吐き気など): これらの急性症状に対しては、比較的早く効果を感じる場合があります。服用後、数時間から1日程度で症状が和らぎ始めることもあります。特に五苓散の利水作用が強く現れると、速やかに体内の余分な水分が排出され、下痢や吐き気が改善に向かうことがあります。頓服(症状が出た時に服用)として使用される場合もあります。
- 慢性の症状(慢性的な胃もたれ、お腹の張り、軟便傾向など): 体質改善や慢性的な不調に対して使用する場合は、ある程度の期間継続して服用する必要があります。効果を感じ始めるまでに数日かかることもあれば、数週間かかることもあります。胃腸の働きを根本的に整え、体内の水分代謝のバランスを立て直すには時間がかかるためです。漢方医学では、一般的に効果判定に数週間から1ヶ月程度を見ることが多いです。
- 体質改善: 胃苓湯が合う「脾虚湿盛」の体質を根本から改善していくには、さらに長期的な服用が必要となる場合もあります。数ヶ月単位で服用を続けることで、体質が変化し、症状が出にくい体になっていくことを目指します。
効果発現に関するポイント:
- 個人差が大きい: 同じ症状でも、個人の体質やその時の体調によって、効果の出方や速さは大きく異なります。
- 正しい「証」に合っているか: 胃苓湯がご自身の体質や症状の原因(漢方医学でいう「証」)に合っているかどうかが、効果を得る上で最も重要です。証が合っていない漢方薬を服用しても、効果が得られないばかりか、かえって体調を崩す可能性もあります。
- 服用の継続: 特に慢性の症状に対しては、効果を感じるまでに時間がかかっても、諦めずに指示された通りに継続して服用することが大切です。
- 生活習慣の見直し: 漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、同時に食生活や睡眠、ストレス管理といった生活習慣を見直すことも重要です。
もし数週間服用しても全く効果を感じない、あるいは症状が悪化するような場合は、胃苓湯がご自身の症状に合っていない、あるいは他の原因が考えられるため、服用を中止し、医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
胃苓湯の副作用
漢方薬は一般的に西洋薬に比べて副作用が少ないと言われることが多いですが、全くないわけではありません。胃苓湯も医薬品である以上、副作用のリスクはあります。
どのような副作用がある?
胃苓湯で報告されている主な副作用は、皮膚症状と消化器症状です。比較的まれですが、より注意が必要な重大な副作用も挙げられます。
主な副作用(比較的起こりやすい可能性のあるもの):
- 皮膚症状: 発疹、かゆみなど
これらの症状が出た場合は、アレルギー反応の可能性があります。 - 消化器症状: 食欲不振、胃部不快感、悪心(吐き気)、下痢など
胃苓湯は胃腸の薬ですが、体質に合わない場合や、生薬成分に対する反応として、かえって胃腸の不調を引き起こすことがあります。特に、胃苓湯の適応ではない便秘傾向の人が服用した場合、大黄の作用で下痢が強くなる可能性もゼロではありません。
まれに起こる重大な副作用(注意が必要なもの):
- 偽アルドステロン症: 甘草を多く含む漢方薬や、他の甘草を含む製剤と併用した場合に起こる可能性があります。これは、血圧が上昇したり、むくみがひどくなったり、手足の脱力やしびれ、こわばりといった症状が現れる病態です。胃苓湯に含まれる甘草の量は通常、他の漢方薬に比べて少ないことが多いですが、リスクがないわけではありません。特に、高齢者や心臓病、腎臓病などの持病がある方は注意が必要です。
- ミオパチー: 偽アルドステロン症の症状の一つとして、筋肉痛や脱力感などが現れることがあります。
- 肝機能障害、黄疸: 頻度は非常にまれですが、全身のだるさ、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などの症状が現れることがあります。
- 間質性肺炎: これも非常にまれですが、階段を上ったり少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空咳が出る、発熱するといった症状が現れることがあります。
上記の重大な副作用は非常にまれなケースですが、服用中にこのような症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師の診察を受けることが重要です。
副作用の発生は、個人の体質、持病、現在服用している他の薬との相互作用など、様々な要因によって異なります。漢方薬だから安全と過信せず、特に持病がある方や高齢者、アレルギー体質の方は、服用前に医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
副作用が出た場合の対処法
もし胃苓湯を服用中に何らかの副作用と思われる症状が現れた場合は、慌てずに以下の対処法をとることが重要です。
- 服用を中止する: まずは胃苓湯の服用を一旦中止してください。症状が軽度であっても、自己判断で服用を続けると、症状が悪化する可能性があります。
- 症状を観察する: どのような症状が、いつ頃から現れたのか、他に何か心当たりがあるかなどを記録しておくと、専門家に相談する際に役立ちます。
- 専門家に相談する: 服用を中止した後、症状が改善しない場合や、症状が重い場合は、速やかに医師や薬剤師に相談してください。市販薬として購入した場合も、購入した薬局の薬剤師や登録販売者、またはかかりつけの医師に相談しましょう。
特に、皮膚の発疹やかゆみがひどい場合、下痢が止まらない、かえって胃の調子が悪くなったといった症状や、重大な副作用の項目で挙げたような、血圧の上昇、むくみ、手足の脱力、黄疸、息切れなどの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。 - 情報を提供する: 相談する際には、服用している胃苓湯の製品名(メーカー名も含む)、用法・用量、服用期間、現れている症状、現在服用している他の薬(漢方薬、西洋薬、サプリメントなどを含む)、アレルギー歴、持病、これまでの病歴などを正確に伝えることが大切です。これにより、専門家が適切な判断を下すことができます。
副作用は怖いものですが、正しく対処すれば重篤化を防ぐことができます。漢方薬も医薬品であることを忘れず、何か気になる症状が出た場合は、ためらわずに専門家に相談しましょう。
胃苓湯の飲み方・注意点
胃苓湯の効果を適切に得るためには、正しい飲み方といくつかの注意点を守ることが大切です。
飲むタイミングと用量
漢方薬は、一般的に生薬成分が空腹時の方が吸収されやすいと考えられているため、「食前」または「食間」に服用することが推奨されています。
- 食前: 食事の約30分前に服用します。
- 食間: 食事と食事の間、つまり食後約2時間後に服用します。
胃苓湯も、添付文書に指示された通り、通常は1日2回または3回、これらのタイミングで服用します。服用回数や1回あたりの用量は、製品によって異なる場合や、年齢、体重、症状の程度によって医師や薬剤師が調整する場合があります。添付文書の指示や、処方・購入時に受けた説明を必ず守ってください。
服用する際は、水またはぬるま湯で飲むのが一般的です。お茶やジュース、牛乳などで飲んでも問題がないとされる場合もありますが、基本的には水で飲むのが最も無難です。
また、症状が改善してきたからといって自己判断で量を減らしたり、服用を中止したりせず、症状が落ち着くまで指示された期間、継続して服用することが推奨されます。ただし、急性の下痢などで用いられる場合は、症状が改善したら服用を中止することもあります。
併用注意・禁忌事項
胃苓湯を服用する際には、他の薬や特定の状態との飲み合わせや、服用してはいけない人がいるため、注意が必要です。
併用注意:
- 他の漢方薬: 特に甘草を多く含む他の漢方薬との併用は、偽アルドステロン症のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。複数の漢方薬を併用したい場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
- 大黄を含む他の製剤: 胃苓湯には大黄が含まれています。他の大黄を含む漢方薬や便秘薬などを併用すると、大黄の作用が強く出すぎて、激しい下痢や腹痛を引き起こす可能性があります。
- 特定の西洋薬: 一部の西洋薬との間に相互作用が生じる可能性もゼロではありません。現在、他の医療用医薬品や市販薬、サプリメントなどを服用している場合は、必ず医師や薬剤師に伝え、飲み合わせについて確認してください。
禁忌事項(原則として服用してはいけない人):
添付文書に明確な禁忌が記載されていない場合が多いですが、以下に該当する方は服用に注意が必要、あるいは医師の判断が必要となる場合があります。
- 胃苓湯に含まれる成分にアレルギー症状を起こしたことがある人: 過去に胃苓湯を服用して発疹やかゆみなどのアレルギー反応が出たことがある人は、再度服用すると重いアレルギー反応を起こす可能性があります。
- 特定の持病がある人:
- 心臓病、腎臓病: 特に偽アルドステロン症のリスクがあるため、これらの持病がある方は慎重な服用が必要です。
- 高血圧: 偽アルドステロン症により血圧がさらに上昇する可能性があります。
- 肝臓病: 肝機能障害のリスクがまれに報告されているため、慎重な服用が必要です。
- 高齢者: 高齢者は一般的に生理機能が低下しているため、副作用が出やすい可能性があります。特に偽アルドステロン症のリスクに注意が必要です。
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性、授乳婦: 妊娠中や授乳中の服用については、安全性が確立されていないため、必ず医師に相談し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ服用してください。大黄が含まれるため、妊娠中は特に慎重になる必要があります。
- 乳幼児、小児: 漢方薬の服用は、大人の用量を減らして用いるのが一般的ですが、製品によって対象年齢や用量が異なります。必ず添付文書の指示に従い、保護者の指導監督のもとに服用させてください。自己判断での服用は避けてください。
ご自身の健康状態や服用中の薬について、正確な情報を医師や薬剤師に伝え、相談の上、胃苓湯を安全に服用することが何よりも重要です。
胃苓湯に関するQ&A
胃苓湯について、よくある疑問にお答えします。
胃苓湯は市販や通販で購入できる?
はい、胃苓湯は医師の処方が必要な「医療用漢方製剤」として流通しているものと、薬局やドラッグストア、インターネット通販などで購入できる「一般用医薬品(市販薬)」として流通しているものの両方があります。
- 医療用漢方製剤: 病院やクリニックで医師の診察を受け、処方箋に基づいて薬局で受け取るものです。健康保険が適用される場合が多いです。成分量や剤形などが異なる場合もあります。
- 一般用医薬品(市販薬): 医師の処方箋なしで、薬局やドラッグストア、またはこれらの店舗が運営するインターネット通販サイトなどで購入できます。購入時には、薬剤師または登録販売者から説明を受けることが推奨されます。保険適用はありませんが、手軽に購入できるというメリットがあります。
どちらのタイプも、含まれている生薬の種類は基本的に同じ「胃苓湯」ですが、製品によって生薬の配合量や抽出方法、添加物などが異なる場合があります。また、市販薬の場合は、医療用よりも配合量が調整されていることもあります。
ご自身の症状や体質に合っているか不安な場合、または持病がある方、他の薬を服用している方は、医療用漢方製剤として医師に処方してもらうか、市販薬を購入する前に薬局の薬剤師や登録販売者に必ず相談することをおすすめします。インターネット通販で購入する場合も、情報提供や相談ができるサイトを選ぶと良いでしょう。
胃苓湯にジェネリックはある?
漢方薬において、西洋薬でいうところの「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」という概念は、厳密には当てはまりません。なぜなら、漢方薬は自然由来の生薬の組み合わせであり、有効成分が単一ではないため、特許が切れた化学合成物質を同じように製造するという概念とは異なるからです。
しかし、同じ「胃苓湯」という名称で、複数の製薬会社から製品が販売されています。これらは、同じ処方(構成生薬の種類と標準的な配合比率)に基づいて製造されていますが、製造方法、使用している生薬の品質(産地や収穫時期など)、抽出方法、添加物、剤形(顆粒、錠剤、エキスなど)などが異なる場合があります。
医療用漢方製剤としては、ツムラ、クラシエ、コタローなど様々なメーカーから「胃苓湯」が製造・販売されており、これらは同じ効能・効果に対して処方されます。市販薬としても、各メーカーから「胃苓湯」の名前や、それを元にした配合の製品が販売されています。
したがって、「ジェネリック」という言葉の代わりに、「同じ処方だがメーカーが異なる製品」や「後発メーカー品」と捉えるのが適切です。これらの製品間でも、原則として同じ効果が期待されますが、個人の体質によっては特定のメーカーの製品の方が合うと感じる人もいるかもしれません。これは、生薬の微妙な違いや製造工程の違いなどが影響している可能性があります。
どのメーカーの製品を選ぶかについては、医師や薬剤師に相談したり、実際に試してみたりして、ご自身に合うものを見つけるのが良いでしょう。
まとめ:胃苓湯について
胃苓湯は、「平胃散」と「五苓散」という二つの漢方処方を組み合わせた漢方製剤です。この組み合わせにより、胃腸の消化吸収機能を高める働きと、体内の余分な水分(水湿)を調整する働きを併せ持っています。
主な効能・効果としては、腹痛を伴う胃炎、急性・慢性胃カタル、消化不良、食あたり、暑あたりなどが挙げられます。特に、湿気や消化不良、水分代謝の乱れによって起こる胃もたれ、お腹の張り、そして下痢や軟便といった症状に効果が期待できます。
効果が出るまでの時間は、症状の性質によって異なります。急性の下痢などには比較的早く効果を感じる場合がある一方、慢性の症状や体質改善には数日~数週間、あるいはそれ以上の継続的な服用が必要となることもあります。効果の発現には個人差が大きく、ご自身の体質(証)に合っているかどうかが重要です。
副作用は比較的少ないとされますが、全くないわけではありません。まれに皮膚症状や消化器症状、そして非常にまれに偽アルドステロン症や肝機能障害、間質性肺炎といった重大な副作用が起こる可能性もあります。服用中に気になる症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
胃苓湯を服用する際は、添付文書に記載された用法・用量を守り、通常は食前または食間に水またはぬるま湯で服用します。他の漢方薬や特定の西洋薬との併用には注意が必要な場合があり、特に甘草や大黄を含む他の製剤との飲み合わせには注意が必要です。心臓病や腎臓病、高血圧、肝臓病などの持病がある方、高齢者、妊婦・授乳婦、アレルギー体質の方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談してください。
胃苓湯は、医師の処方による医療用漢方製剤としても、薬局などで手軽に購入できる市販薬としても流通しています。ご自身の症状や体質、ライフスタイルに合わせて適切な方法で購入できますが、自己判断せず、専門家の意見を参考にしながら使用することが、安全かつ効果的に胃苓湯を活用する上で非常に重要です。
消化器系の不調は、日々の生活の質に大きく関わります。もし胃の不調や下痢、お腹の張りといった症状でお悩みであれば、胃苓湯が選択肢の一つとなるかもしれません。ただし、症状の原因を正しく理解し、ご自身の体質に合った薬を選ぶためにも、まずは医療機関を受診したり、漢方薬に詳しい医師や薬剤師に相談したりすることをおすすめします。
免責事項: 本記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、個々の症状に対する診断や治療法を推奨するものではありません。胃苓湯の服用にあたっては、必ず医師や薬剤師にご相談の上、その指導に従ってください。