吐き気や嘔吐は、日常生活に大きな支障をきたすつらい症状です。
そんな時、医師から「メトクロプラミド」というお薬が処方されることがあります。
メトクロプラミドは、吐き気や嘔吐を抑える効果に加え、胃の働きを助ける作用も持つお薬です。
この記事では、メトクロプラミドの効果や作用のメカニズム、服用方法、そして気になる副作用や使用上の注意点まで、詳しく解説します。
この情報が、メトクロプラミドについて正しく理解し、安心して治療を受けるための一助となれば幸いです。
ただし、この記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、自己判断せず、必ず医師や薬剤師の指示に従ってご使用ください。
メトクロプラミドは、医療現場で広く使われている消化器運動改善薬、および制吐薬です。
この薬の「一般名」がメトクロプラミドであり、多くの製薬会社から様々な名前で製造・販売されています。
その中でも代表的な「商品名」の一つが「プリンペラン」です。
プリンペランは、長年にわたり使用されている信頼性の高い薬であり、メトクロプラミドといえばプリンペランを思い浮かべる方も多いでしょう。
つまり、メトクロプラミドとプリンペランは、有効成分が同じであることを意味します。
プリンペラン錠5mg、プリンペラン注射液10mg、プリンペランシロップなど、様々な剤形が存在します。
メトクロプラミドは医師の処方が必要な医療用医薬品です。
薬局やドラッグストアなどで自由に購入できる一般用医薬品(OTC医薬品)とは異なり、必ず医師の診断に基づき処方され、薬剤師の説明を受けてから使用する必要があります。
これは、メトクロプラミドが持つ効果が高い一方で、注意すべき副作用や飲み合わせがあるためです。
メトクロプラミドの効果・効能
メトクロプラミドは、主に吐き気や嘔吐を抑える「制吐作用」と、胃や腸の動きを活発にする「消化管運動促進作用」を持っています。
これらの作用により、様々な消化器系の不調に使用されます。
吐き気・嘔吐など消化器症状への効果
メトクロプラミドが最も一般的に使用されるのは、吐き気や嘔吐を伴う様々な症状の緩和です。
具体的には、以下のような場合に効果を発揮します。
- 抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)投与時: 特定の抗がん剤は強い吐き気や嘔吐を誘発することがありますが、メトクロプラミドはこれらの症状を軽減する目的で用いられます。
- 放射線照射時: がん治療における放射線療法も、吐き気や嘔吐の原因となることがあります。
- 術後: 手術後に吐き気や嘔吐が起こることがあり、その予防や治療にメトクロプラミドが使用されます。
- 薬剤投与時: 抗がん剤以外にも、特定の薬剤の副作用として吐き気や嘔吐が生じる場合に有効です。
- L-dopa投与時: パーキンソン病治療薬であるL-dopaも吐き気を引き起こすことがあり、メトクロプラミドが併用されることがあります。
- 消化器疾患: 胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆嚢炎、胆石症、虫垂炎など、消化器系の病気によって引き起こされる吐き気や嘔吐にも効果があります。
これらの症状に対して、脳の嘔吐中枢に作用して吐き気を抑えるとともに、胃の動きを良くすることで、胃の内容物が速やかに腸へ送られるように働き、吐き気を和らげます。
X線検査時のバリウム通過促進
胃や十二指腸のX線検査では、バリウムという造影剤を飲みますが、このバリウムが胃や腸をスムーズに流れるようにするためにメトクロプラミドが使用されることがあります。
メトクロプラミドの消化管運動促進作用により、バリウムが胃から十二指腸へ排出されるのを助け、検査時間を短縮したり、より鮮明な画像を得たりするのに役立ちます。
その他の適応症
メトクロプラミドは、吐き気や嘔吐だけでなく、胃腸の動きの異常によって生じる様々な症状にも用いられます。
- 胃・十二指腸の機能性障害: 胃もたれ、早期満腹感、腹部膨満感など、器質的な病変がないにも関わらず胃腸の働きが悪いために起こる症状(機能性ディスペプシアなど)の改善に使われることがあります。胃の排出能力を高めることで、これらの不快な症状を和らげます。
- 逆流性食道炎: 胃の内容物が食道に逆流することで胸やけなどの症状を引き起こす病気です。メトクロプラミドは、胃の内容物の排出を促進し、食道への逆流を防ぐ効果が期待されます。
これらの幅広い適応症からも分かるように、メトクロプラミドは胃腸の様々なトラブルに対して有効な選択肢となる薬です。
ただし、どのような症状に使うか、どの剤形(錠剤、注射など)を選ぶかは、患者さんの状態や原因疾患によって医師が適切に判断します。
メトクロプラミドの作用機序
メトクロプラミドが吐き気や嘔吐を抑え、胃腸の動きを良くする効果は、主に二つの作用機序によって説明されます。
- 脳の化学受容器引き金帯(CTZ)におけるドパミンD₂受容体遮断作用:
吐き気や嘔吐は、脳幹にある「嘔吐中枢」が刺激されることで起こります。特に、血液中の有害物質や薬剤などが嘔吐中枢を刺激する際に重要な役割を果たすのが、脳の「化学受容器引き金帯(CTZ)」と呼ばれる部位です。CTZにはドパミンD₂受容体が多く存在しており、この受容体が刺激されると、嘔吐中枢へ信号が送られて吐き気が誘発されます。
メトクロプラミドは、このCTZにあるドパミンD₂受容体をブロックする(遮断する)働きがあります。これにより、有害物質や薬剤による刺激が嘔吐中枢に伝わりにくくなり、吐き気や嘔吐が抑えられます。特に、抗がん剤など血液を介してCTZを刺激するような吐き気に対して、この作用が強く働きます。 - 消化管におけるドパミンD₂受容体遮断作用およびアセチルコリン遊離促進作用:
メトクロプラミドは、脳だけでなく、胃や腸といった消化管にも作用します。消化管にもドパミンD₂受容体が存在しており、これを遮断することで、アセチルコリンという神経伝達物質の放出が増加します。
アセチルコリンは、消化管の筋肉を収縮させ、蠕動運動(食べ物を先に送る波打つような動き)を促進する働きがあります。メトクロプラミドによってアセチルコリンの働きが強まることで、胃の出口(幽門)が緩み、胃の蠕動運動が活発になり、胃の内容物が速やかに十二指腸へ排出されます。 また、食道の下部括約筋を引き締める作用もあり、胃酸の逆流を防ぐことにもつながります。
このように、メトクロプラミドは脳と消化管の両方に作用することで、強力な制吐効果と消化管運動促進効果を発揮します。
ただし、ドパミン受容体への作用は、後述する様々な副作用の原因ともなり得ます。
メトクロプラミドの用法・用量
メトクロプラミドの用法・用量は、患者さんの症状、年齢、体重、全身状態、そして使用する目的によって異なります。
必ず医師の指示された用法・用量を守って服用することが非常に重要です。
自己判断で量を増やしたり、減らしたり、服用を中止したりしないでください。
一般的な投与量(5mgなど)
成人の場合、一般的な投与量は以下のようになります。
ただし、これはあくまで標準的なものであり、個々の状況に応じて調整されます。
- 錠剤(プリンペラン錠5mgなど): 通常、成人にはメトクロプラミドとして1回5mg~10mgを1日2~3回、食前または食間に服用します。症状や年齢により適宜増減されます。例えば、吐き気が強い場合には1回10mgを服用することが一般的です。
- シロップ: 錠剤が飲めない場合や小児に用いられます。成分濃度を確認し、適切な量を計量して服用します。
- 注射液(プリンペラン注射液10mgなど): 吐き気が強く経口摂取が難しい場合や、X線検査時、術後などに用いられます。通常、成人にはメトクロプラミドとして1回10mgを静脈内または筋肉内に投与します。
特に、抗悪性腫瘍剤投与に伴う嘔吐の予防や緩和に使用される場合は、通常の用量よりも高用量で投与されることがあります。
この場合、投与方法や間隔も厳密に決められていますので、医師や看護師の指示に正確に従う必要があります。
小児への投与量
小児へのメトクロプラミドの投与は、成人よりもさらに慎重に行われます。
小児は特に錐体外路症状などの副作用が出やすいため、原則として小児用量は体重に基づいて厳密に計算されます。
添付文書では、小児の年齢に応じた標準的な投与量が示されていますが、最終的な判断は医師が行います。
例えば、乳幼児では体重1kgあたり0.1mg~0.2mgを1日数回に分けて投与するといった方法がとられます。
小児、特に乳幼児や低出生体重児への投与は、リスクとベネフィットを慎重に検討し、最小有効量を用いるべきとされています。
保護者の方は、処方された薬の量や飲ませ方をしっかり確認し、不明な点があれば必ず医師や薬剤師に質問しましょう。
メトクロプラミドの副作用
メトクロプラミドは効果的な薬ですが、残念ながら副作用がないわけではありません。
多くの副作用は軽度で一時的なものですが、中には注意が必要な、あるいは重篤な副作用も存在します。
副作用について正しく理解し、症状が現れた場合に冷静に対応することが大切です。
主な副作用の種類と頻度
比較的よく見られる主な副作用には以下のようなものがあります。
これらは必ずしもすべての人に起こるわけではありません。
- 眠気: 脳に作用するため、眠気を催すことがあります。特に服用開始時や日中に現れやすい傾向があります。車の運転や危険な機械の操作は控えるように注意が必要です。
- 錐体外路症状: これがメトクロプラミドの特に注意すべき副作用の一つです。ドパミン受容体への作用に関連して起こります。アカシジア(じっとしていられなくなる不快感、そわそわ感)、ジストニア(筋肉が勝手に収縮し、体がねじれたり硬直したりする異常運動)、パーキンソン症候群(手足の震え、動きが遅くなる、筋肉のこわばり)などが含まれます。特に若い人や小児、高齢者で起こりやすいとされています。
- 下痢、便秘: 消化管運動に影響を与えるため、便通の変化が起こることがあります。
- 口渇: 口が渇くことがあります。
- 倦怠感: 全身のだるさを感じることがあります。
- 頭痛、めまい: 脳への作用に関連して起こることがあります。
- 女性化乳房、乳汁分泌: 長期または高用量で使用した場合に、ホルモンバランスに影響して起こることがあります。
これらの主な副作用の頻度は、添付文書や臨床試験の結果によって異なりますが、比較的頻繁に報告されるものとして注意が必要です。
特に錐体外路症状は、患者さんにとって非常に苦痛を伴う場合があり、注意深く観察する必要があります。
重大な副作用とその症状(やばい副作用について)
「メトクロプラミド やばい」と検索する方がいるように、メトクロプラミドには特に注意が必要な、まれではあるが重篤な副作用が存在します。
これらを正しく認識しておくことが、早期発見・早期対応につながります。
- ショック、アナフィラキシー: まれに、じんましん、全身のかゆみ、呼吸困難、血圧低下、顔面蒼白などが急激に現れることがあります。これはアレルギー反応の一種であり、生命に関わる緊急性の高い状態です。このような症状が現れた場合は、直ちにメトクロプラミドの服用を中止し、救急医療機関を受診してください。
- 悪性症候群: 高熱、意識障害、高度の筋硬直(体がカチカチになる)、不随意運動、頻脈、血圧の変動、発汗などが現れることがあります。これもドパミン受容体への作用に関連して起こる、非常に重篤な副作用であり、速やかな治療が必要です。これらの症状が現れた場合も、直ちに服用を中止し、医師に連絡するか救急医療機関を受診してください。
- 遅発性ジスキネジア: 長期にわたってメトクロプラミドを使用した患者さん(特に高齢者)で、顔、舌、口、あご、手足などに勝手に起こる不規則な不随意運動が現れることがあります。口をもぐもぐさせる、舌を突き出す、手足が勝手に動く、といった症状です。この副作用は、薬の中止後も持続したり、回復しにくかったりする場合があるため、長期使用には特に慎重な判断が必要です。
- 意識障害、痙攣: まれに、意識がぼんやりしたり、けいれん発作を起こしたりすることがあります。
- 肝機能障害、黄疸: 肝臓の機能を示す数値(AST, ALT, γ-GTPなど)が異常値を示したり、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れたりすることがあります。
- 白血球減少、無顆粒球症、血小板減少: 血液中の白血球や血小板が減少し、感染しやすくなったり、出血しやすくなったりすることがあります。発熱、のどの痛み、鼻血、皮下出血などが現れた場合は注意が必要です。
これらの重大な副作用は頻度は低いものの、一旦発生すると重篤な結果を招く可能性があるため、「やばい」と感じられることがあります。
しかし、これらの副作用は早期に発見し、適切な処置を行えば回復する可能性があります。
メトクロプラミドを服用中に、いつもと違う体調の変化を感じたり、ここで挙げたような症状が現れたりした場合は、自己判断せず、速やかに医師や薬剤師に相談することが最も重要です。
副作用が出やすい人の特徴
メトクロプラミドの副作用はすべての人に同じように現れるわけではなく、特定の患者さんではより起こりやすい傾向があります。
- 小児: 特に錐体外路症状(異常な体の動き)が起こりやすいことが知られています。体重あたりの用量が同じでも、成人より神経系が未熟なため影響を受けやすいと考えられます。
- 高齢者: 腎機能や肝機能が低下していることが多く、薬の代謝や排泄が遅れるため、体内に薬が長く留まりやすく、副作用が出やすくなります。また、遅発性ジスキネジアのリスクも高齢者で高まります。
- 腎機能・肝機能障害のある人: 腎臓や肝臓は薬を体外に排出したり、分解したりする重要な臓器です。これらの機能が低下していると、薬が体内に蓄積しやすくなり、副作用のリスクが高まります。通常、これらの機能障害がある患者さんには、薬の量を減らしたり、投与間隔を空けたりするなどの調整が行われます。
- 特定の病気や状態のある人: 褐色細胞腫(血圧の急激な上昇を招く腫瘍)がある人、てんかんなど痙攣性の病気がある人、パーキンソン病の患者さんなどでは、メトクロプラミドの投与により症状が悪化したり、副作用が強く出たりするリスクがあります。
- 他の薬を服用している人: 飲み合わせによって、メトクロプラミドの効果や副作用が強まることがあります(後述)。
- 体質: 人によっては、薬に対する感受性が高く、少量でも副作用が出やすい体質である場合があります。
これらの特徴に当てはまる方は、メトクロプラミドを服用する際に特に注意が必要です。
医師や薬剤師に、ご自身の既往歴、現在服用中の薬、体質など、正確な情報を伝えることが、安全な治療を受ける上で非常に重要です。
メトクロプラミドを使用する上での注意点
メトクロプラミドを安全かつ効果的に使用するためには、いくつかの重要な注意点があります。
これらを理解し、守ることが、副作用のリスクを減らし、治療効果を最大化するために不可欠です。
服用してはいけない人(禁忌)
以下に該当する人は、原則としてメトクロプラミドを服用してはいけません。
- メトクロプラミドまたはその成分に対して過敏症(アレルギー反応)を起こしたことがある人: 過去にメトクロプラミドを服用して、じんましんやかゆみ、呼吸困難などのアレルギー症状が出たことがある人は、再度服用すると重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こす危険性があります。
- 褐色細胞腫またはパラガングリオーマのある人: これらの腫瘍はアドレナリンなどの物質を過剰に分泌し、血圧を急激に上昇させることがあります。メトクロプラミドはこれらの物質の放出を誘発し、重篤な高血圧発作を引き起こす危険性があるため、絶対に使用してはいけません。
- 消化管に出血、穿孔または器質的閉塞のある人: 胃や腸に穴が開いている、詰まっている、または出血している状態では、メトクロプラミドの消化管運動促進作用によって病状が悪化するおそれがあります。
- 本剤の投与により遅発性の運動障害(遅発性ジスキネジア)があらわれることがあるため、小児、特に乳幼児への投与は慎重に行い、原則として長期・反復投与は避けることとされています。 (後述の「特定の患者背景」でも詳述)
- プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)のある人: メトクロプラミドはプロラクチンというホルモンの分泌を促進するため、プロラクチノーマの症状を悪化させる可能性があります。
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性(特に妊娠初期3ヵ月以内および妊娠末期): 妊娠中の使用については十分な検討が必要であり、特に妊娠初期と末期には原則として使用を避けるべきとされています。
- リスペリドン(注射剤)を投与中の患者: 後述の「飲み合わせに注意が必要な薬」で詳述しますが、併用により錐体外路症状が強く現れるリスクが高まります。
これらの禁忌に該当するかどうかは、医師が問診などによって判断します。
必ずご自身の状態や既往歴を正確に医師に伝えるようにしてください。
飲み合わせに注意が必要な薬
メトクロプラミドは、他の薬と一緒に服用することで、お互いの効果や副作用に影響を及ぼすことがあります。
これを「薬の相互作用」といいます。
特に注意が必要な薬の例を挙げます。
飲み合わせに注意が必要な薬の種類 | 具体例 | 相互作用の内容 | 注意点 |
---|---|---|---|
ドパミン作動薬 | レボドパ(L-dopa、パーキンソン病治療薬) | メトクロプラミドはドパミン受容体を遮断するため、ドパミン作動薬の効果を減弱させることがあります。 | パーキンソン病の症状が悪化する可能性があります。併用する場合は医師の指示に従い、注意深く経過を観察する必要があります。 |
抗コリン作用を持つ薬 | ブチルスコポラミン(消化管の痙攣を抑える薬)、特定の抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬など | 抗コリン薬は消化管運動を抑制する作用があるため、メトクロプラミドの消化管運動促進作用と拮抗する可能性があります。 | メトクロプラミドの効果が十分に得られない可能性があります。 |
中枢神経抑制薬 | 催眠鎮静薬、抗不安薬、麻薬性鎮痛薬、アルコールなど | これらの薬とメトクロプラミドを併用すると、中枢神経系に対する作用(眠気、鎮静など)が増強される可能性があります。 | 過度の眠気やふらつき、呼吸抑制などが起こる危険性があります。これらの薬やアルコールとの併用は可能な限り避けるか、医師に相談してください。車の運転や危険な作業は絶対に避けてください。 |
ジギタリス製剤 | ジゴキシン(心臓の薬) | メトクロプラミドが胃の動きを良くすることで、ジギタリス製剤の吸収速度が変化し、血中濃度に影響を与える可能性があります。 | ジギタリス製剤の効果が変化したり、副作用が出やすくなったりする可能性があります。 |
特定の抗精神病薬 | フェノチアジン系薬剤、ブチロフェノン系薬剤(例: ハロペリドール)、リスペリドンなど | これらの薬剤もドパミン受容体に作用するため、メトクロプラミドと併用すると、錐体外路症状(不随意運動など)が強く現れるリスクが非常に高まります。特にリスペリドン注射剤との併用は禁忌とされています。 | 重篤な錐体外路症状(アカシジア、ジストニア、悪性症候群など)のリスクが高まります。抗精神病薬を服用している場合は、必ず医師に伝えてください。 |
CYP2D6で代謝される薬剤 | 特定の抗うつ薬(例: パロキセチン、フルボキサミン)、抗不整脈薬(例: プロパフェノン)など | メトクロプラミドはCYP2D6という酵素の働きを阻害する可能性があり、この酵素で代謝される他の薬剤の血中濃度を上昇させる可能性があります。 | これらの薬剤の副作用が強く現れる危険性があります。 |
セロトニン作動薬 | 特定の抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)、トリプタン系薬剤(片頭痛薬)など | セロトニン症候群という副作用のリスクが理論上考えられます(頻度は低い)。セロトニン症候群は、精神状態の変化、自律神経症状(頻脈、発汗、血圧変動)、神経筋症状(振戦、反射亢進、ミオクローヌス)などを起こす可能性があります。 | 症状が現れたら速やかに医師に相談してください。 |
経口避妊薬 | メトクロプラミドが消化管の動きを速めることで、経口避妊薬の吸収が低下し、避妊効果が弱まる可能性が指摘されています。 | 経口避妊薬の効果が不確実になる可能性があります。 | |
デキストロメトルファン含有製剤 | 特定の咳止め薬 | メトクロプラミドがCYP2D6を阻害することで、デキストロメトルファンの血中濃度が上昇し、眠気やめまいなどの副作用が出やすくなる可能性があります。 | 市販の咳止めなどにも含まれていることがあるため注意が必要です。 |
アセトアミノフェン、アスピリンなど | 解熱鎮痛薬 | メトクロプラミドが胃の排出を促進することで、これらの薬剤の吸収速度を速めることがあります。 | 薬の効果の発現が早まる可能性があります。 |
上記以外にも、飲み合わせに注意が必要な薬は多数存在します。
現在服用している薬(病院で処方された薬、市販薬、サプリメント、漢方薬なども含む)はすべて、医師や薬剤師に正確に伝えてください。
お薬手帳を活用すると便利です。
特定の患者背景(妊婦、授乳婦、高齢者、小児)
特定の患者さんに対するメトクロプラミドの投与は、特に慎重な検討が必要です。
- 妊婦: 妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。特に妊娠初期(妊娠12週まで)および妊娠末期(妊娠28週以降)の投与は原則として避けるべきとされています。動物実験で大量投与により胎児への影響が示唆された報告や、妊娠末期の投与により新生児に錐体外路症状が現れたとの報告があります。つわりに対する使用は適応外ですが、医師の判断で使用されることもありますが、メリットとデメリットを十分に理解し、医師とよく相談してください。
- 授乳婦: メトクロプラミドは母乳中に移行することが報告されています。授乳中の女性に投与する場合は、治療の必要性と母乳育児の継続の可否を検討し、授乳を中止させることが一般的です。母乳を介して乳児に影響(錐体外路症状など)が現れる可能性があるためです。
- 高齢者: 高齢者では、生理機能(腎機能、肝機能など)が低下していることが多く、薬の代謝や排泄が遅れて体内に蓄積しやすいため、副作用(特に錐体外路症状)が現れやすくなります。また、長期使用による遅発性ジスキネジアのリスクも高まります。このため、高齢者に投与する場合は、少量から開始し、必要に応じて増量するなど、より慎重な投与が求められます。また、定期的に副作用のチェックが必要です。
- 小児: 小児、特に乳幼児や低出生体重児では、中枢神経系が未熟であり、錐体外路症状(異常な体の動き)が成人よりも高い頻度で、かつ重篤に現れる可能性があります。このため、小児への投与は最小有効量を用い、原則として長期または繰り返し投与することは避けるべきとされています。特に1歳未満の乳児への投与については、リスクが高いため、極めて慎重な判断が必要です。体重に基づいた厳密な用量計算と、投与後の綿密な観察が不可欠です。
これらの特定の患者背景を持つ方がメトクロプラミドを使用する場合は、必ずその旨を医師に伝え、リスクとベネフィットを十分に理解した上で治療を受けてください。
メトクロプラミドに関するよくある質問
メトクロプラミドについて、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
メトクロプラミドは何に効きますか?
メトクロプラミドは、主に吐き気や嘔吐を抑える薬です。
抗がん剤や放射線による吐き気、術後の吐き気、消化器疾患に伴う吐き気などに使われます。
また、胃や腸の動きを良くする働きもあるため、胃もたれや早期満腹感、膨満感といった胃腸の機能性障害の症状や、逆流性食道炎の症状の改善にも使われることがあります。
胃のX線検査時にバリウムの通過を促進する目的で使用されることもあります。
メトクロプラミドはどんな時に使いますか?
メトクロプラミドは、以下のような様々な状況で、医師の判断により処方されます。
- がん治療(抗がん剤・放射線療法)による吐き気・嘔吐の予防・緩和
- 手術後の吐き気・嘔吐の予防・緩和
- 特定の薬剤による吐き気・嘔吐の治療
- 胃炎、胃潰瘍、胆石症など、消化器疾患に伴う吐き気・嘔吐の治療
- 機能性ディスペプシアなど、胃腸の機能低下による胃もたれや膨満感の治療
- 逆流性食道炎の症状緩和
- 胃のX線検査時のバリウムの流れを良くするため
ご自身の症状がメトクロプラミドの適応となるかは、必ず医師にご相談ください。
プリンペランはどんな時に飲みますか?
プリンペランはメトクロプラミドという有効成分を含む薬の代表的な商品名です。
したがって、プリンペランを飲むのは、上で述べたようなメトクロプラミドの適応となる症状がある場合です。
医師から「プリンペランを〇〇の症状がある時に飲んでください」「食前に飲んでください」といった具体的な指示がありますので、その指示に従って服用します。
自己判断で、他の人のプリンペランを飲んだり、指示された量や回数と異なる飲み方をしたりしないでください。
メトクロプラミドは嘔吐に効くの?
はい、メトクロプラミドは嘔吐に対して非常に効果があります。
脳の嘔吐中枢に作用して吐き気そのものを抑えるだけでなく、胃の動きを活発にすることで胃の内容物を速やかに移動させ、吐き気を誘発する刺激を減らすという二重の作用によって嘔吐を抑制します。
特に、血液中の成分が原因で起こる嘔吐(抗がん剤など)に対して効果が期待できます。
先発品(プリンペラン)とジェネリックの違い
先発品であるプリンペランと、メトクロプラミドを有効成分とするジェネリック医薬品(後発医薬品)の主な違いは、価格と添加物などです。
項目 | 先発品(プリンペラン) | ジェネリック医薬品(メトクロプラミド〇〇錠など) |
---|---|---|
有効成分 | メトクロプラミド | メトクロプラミド |
効果・効能 | 先発品と同等であることが科学的に証明されている | 先発品と同等であることが科学的に証明されている |
品質・安全性 | 厳しい規制のもと製造・管理されている | 厳しい規制のもと製造・管理されており、先発品と同等の品質・安全性が確保されている |
価格 | 一般的にジェネリック医薬品より高価 | 先発品より安価に設定されていることが多い |
添加物 | 先発品とは異なる場合がある | 先発品とは異なる場合がある |
色・形 | 先発品とは異なる場合がある | 先発品とは異なる場合がある |
ジェネリック医薬品は、先発医薬品の特許期間が満了した後に製造・販売される、先発品と同等の有効成分、効果、品質、安全性が保証された医薬品です。
開発費用がかからない分、価格を安く設定できるため、医療費の削減につながります。
ただし、添加物や製造工程が異なるため、まれに味や溶け方、アレルギー反応などが異なる可能性はゼロではありません。
しかし、有効成分そのものは同じであるため、効果や安全性は先発品と同等とみなされています。
どちらを使用するかは、医師や薬剤師と相談して決めることができます。
酔い止めとして使えますか?
メトクロプラミドは、乗り物酔いの「適応症」としては承認されていません。
したがって、一般的に「酔い止め」として処方されることはありません。
しかし、乗り物酔いの吐き気は、内耳からの刺激が脳の嘔吐中枢に伝わることで起こる部分があり、メトクロプラミドの制吐作用がこれらの刺激を抑える可能性はあります。
そのため、医師の判断で、乗り物酔いの吐き気に対して処方されるケースが全くないわけではありません。
ただし、酔い止め薬として一般的に使われる成分(抗ヒスタミン薬など)とは作用機序が異なり、特に小児では錐体外路症状などの副作用のリスクがあるため、自己判断で乗り物酔いのために使用することは避けてください。
酔い止めが必要な場合は、医師に相談して適切な薬を処方してもらうか、市販の酔い止め薬を使用しましょう。
食中毒による吐き気に効果はありますか?
食中毒による吐き気や嘔吐は、原因となる細菌やウイルス、またはその産生する毒素が消化管を刺激したり、血液を介してCTZを刺激したりすることで起こります。
メトクロプラミドはCTZへの作用と消化管運動促進作用の両方を持つため、食中毒による吐き気や嘔吐に対しても効果を示す可能性はあります。
しかし、食中毒で最も重要なのは、原因となっている病原体や毒素を体外に排出することです。
嘔吐は、体にとって有害なものを外に出そうとする防御反応でもあります。
メトクロプラミドで無理に嘔吐を止めてしまうと、病原体の排出が遅れ、かえって回復が遅れたり、症状が悪化したりする可能性も考えられます。
また、食中毒の原因によっては、消化管の動きを止めてしまう方が望ましい場合もあります。
したがって、食中毒による吐き気や嘔吐に対してメトクロプラミドを使用するかどうかは、原因や患者さんの全身状態を診断した医師が判断すべきです。
自己判断でメトクロプラミドを服用することはせず、必ず医療機関を受診して適切な診断と治療を受けてください。
つわりへの使用は可能ですか?
つわり(妊娠初期の吐き気や嘔吐)は多くの妊婦さんが経験する症状ですが、メトクロプラミドはつわりの「適応症」としては日本の添付文書には記載されていません。
しかし、海外ではつわりに対するメトクロプラミドの使用について一定の報告があり、有効性が示唆されています。
日本でも、医師の判断により、つわりが重症で他の治療法が効果がない場合に限り、リスクとベネフィットを十分に検討した上でメトクロプラミドが処方されるケースがまれにあります。
ただし、前述の通り、メトクロプラミドは妊娠初期および末期の使用には慎重な検討が必要であり、胎児への影響(特に高用量での動物実験での影響示唆や、新生児への錐体外路症状)の可能性が全くないわけではありません。
つらいつわりで困っている場合は、まず産婦人科医に相談してください。
医師は、つわりの程度、週数、他の治療法の選択肢(食事指導、ビタミン剤、他の制吐剤など)を考慮し、メトクロプラミドの使用が適切かどうかを慎重に判断します。
自己判断での使用は絶対に避けてください。
メトクロプラミドのまとめ:服用は専門家の指示に従いましょう
メトクロプラミド(代表的な商品名:プリンペラン)は、吐き気や嘔吐を抑え、胃腸の働きを助ける有効な医療用医薬品です。
抗がん剤治療、術後、消化器疾患、胃の機能性障害など、幅広い症状に対して効果を発揮します。
その作用は、脳の嘔吐中枢への作用と消化管運動促進作用によるものです。
しかし、メトクロプラミドは効果が高い一方で、注意すべき副作用も存在します。
特に、錐体外路症状(異常な体の動き)、ショック、悪性症候群、遅発性ジスキネジアといった重大な副作用は、まれではありますが起こる可能性があり、早期発見・早期対応が重要です。
また、小児、高齢者、腎機能・肝機能障害のある方、他の薬を服用している方など、特定の患者さんでは副作用のリスクが高まるため、より慎重な使用が求められます。
メトクロプラミドは医師の処方が必須の薬であり、薬局やドラッグストアでは購入できません。
ご自身の症状や体質、現在服用中の他の薬など、正確な情報を医師や薬剤師に伝えることが、安全で効果的な治療を受ける上で最も大切です。
この記事で得られた情報も参考にしつつ、メトクロプラミドの服用に関しては、必ず医師や薬剤師の専門的な指示に従うようにしてください。
免責事項: この記事はメトクロプラミドに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を推奨するものではありません。
個々の症状については、必ず医師の診察を受けてください。
服用方法、副作用、飲み合わせなどについても、必ず医師や薬剤師にご相談ください。