歯の痛みや抜歯後の腫れは、経験した人にしか分からないつらいもの。そんな時、歯科医院などで処方される漢方薬の一つに立効散(りっこうさん)があります。
急な歯の痛み止めとして頓服で処方されることも多い立効散ですが、「本当に効くの?」「副作用はないの?」と不安に思う方もいるかもしれません。
この記事では、立効散の効果や副作用、正しい飲み方、市販の有無まで、気になるポイントを分かりやすく解説します。立効散について正しく理解し、安心して服用するための一助となれば幸いです。
立効散の読み方と概要
立効散は「りっこうさん」と読みます。その名の通り、「効き目が立つ(すぐに現れる)」という意味合いが込められており、主に急性の激しい痛みに対して用いられる漢方薬です。
中国の古典医学書『蘭室秘蔵(らんしつひぞう)』に収載されている処方が元になっており、特に歯痛や抜歯後の痛み、腫れといった口腔内のトラブルに優れた効果を発揮することで知られています。そのため、歯科領域で処方される機会が多いのが特徴です。
痛みや炎症を抑える作用があるため、頓服薬(症状があるときだけ服用する薬)として用いられることが一般的です。
立効散の構成生薬
立効散は、以下の8種類の生薬(しょうやく)から構成されています。
- 防風(ボウフウ): 発散作用があり、体の表面の邪気を取り除き、痛みを和らげる。
- 荊芥(ケイガイ): 防風と同様に発散作用があり、炎症を抑える働きも持つ。
- 細辛(サイシン): 体を温め、強い鎮痛作用を持つ。特に頭痛や歯痛に効果的。
- 升麻(ショウマ): 体の上部の炎症を鎮め、解毒作用がある。
- 白芷(ビャクシ): 鎮痛作用、排膿作用があり、特に顔面部の痛みや腫れに用いられる。
- 甘草(カンゾウ): 諸薬を調和させ、急迫性の痛みを緩和する。抗炎症作用もある。
- 竜胆(リュウタン): 炎症や熱を冷ます働きがある。
- 石膏(セッコウ): 強い清熱作用があり、体の熱を冷まし、炎症や腫れを強力に抑える。
これらの生薬が互いに作用し合うことで、痛みを抑え、炎症や腫れを鎮める効果を発揮します。
立効散の効果・効能
立効散は、添付文書によると「抜歯後などの歯痛、歯齦炎」に効果があるとされています。具体的にどのような症状に用いられるのか見ていきましょう。
歯痛・抜歯後の痛みに
立効散の最も代表的な適応症が、歯痛や抜歯後の痛み・腫れです。
親知らずの抜歯後や、虫歯、歯周病による急な歯の痛みに対して、鎮痛剤として処方されます。立効散に含まれる細辛や白芷などの生薬が持つ鎮痛作用と、石膏や竜胆が持つ清熱・消炎作用が、つらい痛みを和らげます。
口腔内(口内炎など)の痛みに
歯痛だけでなく、口内炎や歯肉炎(歯齦炎)など、口腔内の炎症や痛みを伴う症状にも用いられることがあります。炎症を鎮め、痛みを緩和する効果が期待できます。
頭痛・三叉神経痛に
立効散は、顔面部の血行を改善し、痛みを鎮める作用があるため、歯科領域以外でも頭痛や三叉神経痛(顔に電気が走るような激しい痛みが起こる病気)の治療に応用されることがあります。
ただし、これらの症状に対しては自己判断で服用せず、必ず医師の診断のもとで処方してもらう必要があります。
立効散の飲み方・服用方法
立効散の効果を最大限に引き出すためには、正しい飲み方を守ることが重要です。
標準的な服用量とタイミング
通常、成人は1日に2〜3回、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します。食間とは、食事と食事の間、つまり空腹時(食後約2時間)を指します。
- 頓服として服用する場合: 痛みがつらい時に1回分を服用します。次の服用までは、最低でも4〜6時間程度あけるように指示されることが一般的です。
必ず、処方した医師や歯科医師、薬剤師の指示に従って服用してください。
含嗽(うがい)による服用
立効散には特徴的な服用方法として、含嗽(がんそう)、つまり「うがいをしながら飲む」方法があります。
- 1回分の立効散を少量(50ml程度)のぬるま湯によく溶かします。
- その液で、痛む部分によく当てるように意識しながら、数回に分けてうがいをします。
- うがいをした後、その液をゆっくりと飲み込みます。
この方法により、患部に直接薬を作用させることができるため、局所的な鎮痛・消炎効果が高まるとされています。特に抜歯後の痛みや口内炎に対して有効な飲み方です。
効果が出るまでの期間(効果出るまで)
立効散は頓服薬として用いられることが多く、比較的効果の発現が早いのが特徴です。服用後、早い人では30分〜1時間程度で痛みの緩和を実感できることがあります。
ただし、効果が出るまでの時間や効き方には個人差があります。また、痛みの強さや原因によっても異なります。「効果出るまで」の時間はあくまで目安と考えましょう。
立効散の副作用と注意点
漢方薬は体にやさしいイメージがありますが、医薬品である以上、副作用のリスクはゼロではありません。立効散を服用する上での注意点を解説します。
起こりうる副作用
比較的副作用は少ないとされていますが、以下のような症状が現れることがあります。
- 消化器症状: 食欲不振、胃の不快感、吐き気、下痢など
- その他: 発疹、かゆみなど
これらの症状が出た場合は、服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
特に注意が必要な副作用
頻度はまれですが、以下の重篤な副作用が起こる可能性があります。初期症状を見逃さないようにしましょう。
- 偽アルドステロン症: 立効散に含まれる甘草(カンゾウ)の長期・大量服用により起こることがあります。
- 初期症状: 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感、こわばり、むくみ、血圧の上昇、頭痛など
- ミオパチー: 偽アルドステロン症の結果として、筋肉に障害が起こる状態です。
- 初期症状: 全身の倦怠感、脱力感、筋肉痛、尿が褐色になるなど
このような症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、速やかに医師の診察を受けてください。
服用上の注意点(飲み合わせ、服用できない人)
飲み合わせ
他の薬との飲み合わせには注意が必要です。特に、甘草やグリチルリチン酸を含む他の漢方薬や風邪薬などと一緒に服用すると、甘草の過剰摂取となり、偽アルドステロン症のリスクが高まります。他の薬を服用している場合は、必ず事前に医師や薬剤師に伝えてください。
服用できない・注意が必要な人
以下に該当する方は、服用前に必ず医師・薬剤師に相談してください。
- 高齢の方
- 高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けている方
- むくみのある方
- 妊婦または妊娠している可能性のある方、授乳中の方
- これまでに薬でアレルギー症状を起こしたことがある方
漢方薬と肝臓への影響
ごくまれに、漢方薬の服用によって薬物性肝障害が起こることが報告されています。倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などの症状が現れた場合は、すぐに医師に相談してください。
立効散が効かないと感じたら
処方された立効散を飲んでも痛みが改善しない場合、どうすればよいのでしょうか。
考えられる原因と対処法
立効散が効かない場合、以下のような原因が考えられます。
- 痛みの原因が立効散の適応と合っていない: 感染がひどい場合や、痛みの原因が他にある場合など。
- 体質に合っていない: 漢方薬は個人の体質(証)との相性が重要です。
- 痛みが非常に強い: 薬の効果を上回るほどの強い痛みがある。
自己判断で服用量を増やしたり、他の市販の痛み止めと併用したりするのは危険です。まずは、立効散を処方した医師または歯科医師に相談してください。痛みの原因を再評価し、別の治療法や他の薬剤への変更などを検討してもらえます。
服用を続ける目安と専門家への相談
頓服薬として数回服用しても痛みが全く改善しない、あるいは悪化するような場合は、漫然と服用を続けず、早めに専門家に相談しましょう。明確な基準はありませんが、1〜2日服用しても効果が見られない場合は、受診の目安と言えるでしょう。
立効散は市販されている?
急な歯痛に備えて、立効散を薬局で手に入れたいと考える方もいるかもしれません。
市販薬の現状
2024年現在、「立効散」という名称の漢方薬は、市販薬(OTC医薬品)としては販売されていません。
立効散は、医師の診断に基づいて処方される医療用医薬品です。
医療用との違い
医療用医薬品は、市販薬に比べて作用が強かったり、副作用に注意が必要だったりするため、専門家である医師や歯科医師の管理下で使用する必要があります。立効散も、その効果や副作用のリスクを考慮し、専門家の判断が必要な薬剤とされています。
立効散に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 立効散に眠くなる成分は入っていますか?
A1. いわゆる眠気を誘発する成分は含まれていません。しかし、体質や体調によっては、だるさを感じることがあるかもしれません。
Q2. どのくらいで効果が切れますか?
A2. 効果の持続時間には個人差がありますが、一般的に4〜6時間程度が目安です。痛みが再発した場合は、医師の指示に従って次の服用を検討してください。
Q3. 子供でも服用できますか?
A3. 小児への使用に関しては、安全性が確立していないため、医師が治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合にのみ処方されます。必ず医師の指示に従ってください。
Q4. 味はどのような感じですか?
A4. 生薬特有の苦味や辛味があります。特に細辛(サイシン)が含まれているため、舌が少しピリッと痺れるような感覚があるかもしれません。飲みにくい場合は、ぬるま湯に溶かす方法を試してみてください。
まとめ:立効散を理解し適切に服用するために
立効散は、特に抜歯後の痛みや急な歯痛に対して、迅速な効果が期待できる漢方薬です。その効果を安全に得るためには、以下の点が重要です。
- 医師・歯科医師の指示通りに正しく服用する
- うがいをしながら飲む「含嗽」も効果的な方法の一つ
- 副作用、特に「偽アルドステロン症」の初期症状に注意する
- 効かないと感じたら自己判断せず、処方した医師に相談する
- 市販はされておらず、医療機関での処方が必要
つらい痛みを和らげるための心強い味方である立効散。この記事で得た知識をもとに、ご自身の症状や体調と向き合い、適切に活用してください。もし服用中に不安な点や気になる症状があれば、遠慮なく医師や薬剤師に相談しましょう。
免責事項
本記事は立効散に関する情報提供を目的としており、医学的なアドバイスを提供するものではありません。治療や服薬に関しては、必ず医師、歯科医師、薬剤師の指導に従ってください。