「二陳湯」という名前を聞いたことがあるけれど、一体どんな効果があるのか、副作用は大丈夫なのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。二陳湯(にちんとう)は、体内の余分な水分や汚れである「痰湿(たんしつ)」を取り除く漢方薬の基本処方とされ、吐き気やめまい、痰の多い咳など、さまざまな不調に用いられます。
この記事では、二陳湯の効果や考えられる副作用、禁忌について、中医学の視点から分かりやすく解説します。ご自身の症状に合うのかどうか、ぜひ参考にしてください。
二陳湯とは?基本を解説
二陳湯は、主に消化器系の不調や、体内に余分な水分が溜まることで起こる症状を改善するために用いられる漢方薬です。特に、中医学でいう「痰湿」を取り除く作用に優れており、「去痰の基本方剤」とも呼ばれています。
二陳湯の出典と組成(材料)
二陳湯は、中国の宋代に編纂された医学書『和剤局方(わざいきょくほう)』に収載されている処方です。以下の5つの生薬から構成されています。
- 半夏(はんげ): 吐き気を鎮め、痰を取り除く中心的な役割を担います。
- 陳皮(ちんぴ): 気の巡りを良くし、痰の生成を防ぎます。ミカンの皮を乾燥させたものです。
- 茯苓(ぶくりょう): 体内の余分な水分を尿として排出し、脾(消化器系)の働きを助けます。
- 甘草(かんぞう): 各生薬の働きを調和させます。
- 生姜(しょうきょう): 半夏の毒性を和らげつつ、胃を温めて働きを助けます。
「二陳」という名前は、中心となる半夏と陳皮が、古いもの(陳旧品)ほど薬効が高いとされたことに由来します。
二陳湯の適応となる「痰湿(たんしつ)」とは?
中医学における「痰湿」とは、体の水分の巡りが滞り、体内に溜まってしまったネバネバ、ドロドロとした病理産物を指します。これは単に呼吸器から出る「痰」だけでなく、より広い概念です。
痰湿が引き起こす症状の例
- 体が重だるい、むくみやすい
- 胃がもたれる、吐き気がする
- フワフワするようなめまい
- 痰の多い咳や、喉の異物感
- 量が少なく、粘り気のあるおりもの
脂っこい食事や甘いもの、冷たいものの摂りすぎ、運動不足などで消化器系の働きが弱ると、食べたものがうまく消化・吸収されず、痰湿が溜まりやすくなると考えられています。
二陳湯の主な効果・効能
二陳湯は、体質や症状に合わせて用いられることで、様々な効果が期待できます。
痰湿を取り除く作用について
二陳湯の最も重要な働きは、「燥湿化痰(そうしつかたん)」と「理気和中(りきわちゅう)」です。
- 燥湿化痰: 半夏や茯苓の働きにより、体内の余分な湿気を取り除き、溜まった痰を解消します。
- 理気和中: 陳皮の働きにより、滞った「気」の流れをスムーズにし、消化器系(中)の働きを整えます。
これらの作用により、痰湿が原因で起こる様々な不調を根本から改善していきます。
具体的な症状への効果(嘔吐、悪心、めまい、動悸など)
二陳湯は、以下のような具体的な症状の改善に用いられます。
- 悪心・嘔吐: 胃に溜まった水分(痰飲)が原因で起こる吐き気や嘔吐を鎮めます。つわりや二日酔い、乗り物酔いなどにも応用されます。
- めまい・動悸: 痰湿が気の巡りを邪魔することで起こる、フワフワとした回転性のないめまいや、動悸の改善に効果が期待できます。
- 咳・痰: 色が白く、量が多くて切れやすい痰を伴う咳に適しています。
- 消化不良・食欲不振: 胃のもたれや胸のつかえ感があり、食欲がない場合に用いられます。
- 体の重だるさ: 湿気が体に溜まることで感じる、重だるさや倦怠感を軽減します。
二陳湯の副作用と禁忌
二陳湯は比較的安全な漢方薬とされていますが、体質に合わない場合や、まれに副作用が起こる可能性もあります。服用する前に必ず確認しましょう。
二陳湯で起こりうる副作用
頻度は稀ですが、以下のような副作用が報告されています。もし服用後にいつもと違う症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
- 偽アルドステロン症: 甘草の長期・大量服用により、血圧の上昇、むくみ、手足のだるさ、しびれ、筋肉痛、脱力感、血中のカリウム値低下などが現れることがあります。
- 皮膚症状: 発疹、発赤、かゆみなど。
- 消化器症状: 食欲不振、胃部不快感、下痢など。
二陳湯を服用してはいけない方(禁忌)
明確な禁忌は定められていませんが、以下のような方は服用に注意が必要、あるいは避けるべきとされています。
- 陰虚(いんきょ)体質の方: 体の潤いが不足し、空咳やのぼせ、寝汗などの症状がある方が服用すると、乾燥症状を悪化させる可能性があります。
- 熱症状が明らかな方: 黄色く粘り気の強い痰が出る、熱があるといった場合は、他の処方が適している場合があります。
二陳湯の服用上の注意点
以下に該当する方は、服用前に必ず医師、薬剤師、または登録販売者に相談してください。
- 現在、医師の治療を受けている方
- 妊婦または妊娠している可能性のある方
- 高齢者の方
- 今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある方
- 高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けた方
- むくみの症状がある方
二陳湯の服用方法と効果が出るまでの期間
漢方薬は、正しい方法で継続して服用することが大切です。
標準的な用法・用量
製品によって異なりますが、一般的には1日2〜3回、食前または食間(食事と食事の間)に水または白湯で服用します。必ず購入した製品の用法・用量を確認し、指示に従ってください。
自己判断で量を増やしたり、減らしたりすることは避けましょう。
二陳湯の効果が出るまでの目安
二陳湯の効果が出るまでの期間は、症状の種類や個人の体質によって大きく異なります。
- 急な症状(二日酔い、乗り物酔いなど): 比較的早く効果を感じる場合があります。
- 慢性的な症状(体質改善): 目安として1ヶ月程度服用を続けて効果の有無を判断することが多いですが、数週間から数ヶ月かかる場合もあります。
もし1ヶ月程度服用しても症状の改善が見られない場合は、処方が合っていない可能性もあるため、専門家に相談することをおすすめします。
二陳湯に関するよくある疑問
ここでは、二陳湯に関してよく寄せられる質問にお答えします。
糖尿病や高血圧への影響は?
二陳湯が直接的に血糖値や血圧を大きく変動させることは考えにくいですが、注意が必要です。
特に、生薬の甘草を含むため、長期で服用する場合は偽アルドステロン症による血圧上昇のリスクがゼロではありません。糖尿病や高血圧の持病がある方は、自己判断で服用せず、必ずかかりつけの医師に相談してください。
二陳湯はダイエット(減肥)に効果がある?
二陳湯は、体内の余分な水分や病的産物である「痰湿」を取り除く働きがあるため、水太りタイプ(むくみやすく、体が重だるい)の方のダイエットをサポートする目的で用いられることがあります。
ただし、二陳湯自体が脂肪を直接燃焼させるような「痩せ薬」ではありません。あくまでも、太りやすい体質を改善する一環として効果が期待できるものであり、バランスの取れた食事や適度な運動と組み合わせることが重要です。
他の漢方薬(温胆湯、定喘湯など)との違い
二陳湯は多くの漢方薬のベースとなる処方です。症状によって、他の生薬が加えられた処方が用いられます。
漢方薬名 | ベース処方 | 主な追加生薬 | 適応症状の特徴 |
---|---|---|---|
二陳湯 | – | – | 悪心、嘔吐、めまい、痰の多い咳など、痰湿の基本的な症状 |
温胆湯(うんたんとう) | 二陳湯 | 竹筎、枳実 | 痰湿に加え、不眠、不安感、胸苦しさなど精神的な症状が強い場合 |
定喘湯(ていぜんとう) | -(一部構成が類似) | 麻黄、杏仁など | 咳や喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)が激しい場合 |
導痰湯(どうたんとう) | 二陳湯 | 南星、枳実 | 痰が非常に多く、意識障害やめまい、手足のしびれなどを伴う場合 |
どの処方が適しているかは専門的な判断が必要です。自己判断せず、医師や薬剤師に相談しましょう。
二陳湯はどこで購入できる?
二陳湯は、以下の場所で購入できます。
- 医療機関(病院・クリニック): 医師の診察を受け、症状や体質に合っていると判断された場合に処方されます。健康保険が適用されるため、費用を抑えることができます。
- 漢方薬局・薬店: 専門の薬剤師や登録販売者に相談しながら購入できます。保険適用外ですが、市販薬にはない処方を選べる場合があります。
- ドラッグストア: 市販薬(OTC医薬品)として販売されている場合があります。手軽に購入できますが、選ぶ際は薬剤師や登録販売者に相談することをおすすめします。
二陳湯は、痰湿が原因で起こる様々な不調に効果的な漢方薬です。しかし、どんな薬にも言えることですが、誰にでも合う万能薬というわけではありません。本記事を参考に、ご自身の体質や症状を理解し、安全な服用を心がけてください。もし不安な点や気になる症状があれば、かかりつけの医師や薬剤師などの専門家に相談しましょう。
免責事項: この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を代行するものではありません。病状の診断や治療については、必ず医療機関にご相談ください。