芍薬甘草附子とは?効果・副作用・いつから効く?服用前に知るべきこと

芍薬甘草附子湯は、古くから痛みの緩和に用いられてきた漢方薬です。
慢性的な痛みや関節の不調に悩む方にとって、選択肢の一つとなる可能性があります。
しかし、全ての痛みに万能というわけではなく、その効果や注意点、服用方法には適切な理解が必要です。
特に、他の漢方薬である芍薬甘草湯との違いや、含まれる生薬による副作用のリスクについても、十分に把握しておくことが重要です。
この記事では、芍薬甘草附子湯について、その基本情報から効果、芍薬甘草湯との違い、服用方法、副作用まで、詳しく解説します。

目次

芍薬甘草附子湯とは?基本情報と構成生薬

芍薬甘草附子湯(シャクヤクカンゾウブシトウ)は、中国の古典医学書「金匱要略(きんきようりゃく)」に収載されている方剤です。
体を温めて痛みを和らげる効果が期待されることから、特に冷えを伴う痛みやしびれに対して用いられてきました。
その名前の通り、芍薬、甘草、附子という3つの生薬から構成されています。
これらの生薬が組み合わさることで、それぞれの薬効が相乗的に働き、特有の効果を発揮すると考えられています。

漢方医学において、痛みは「気(生命エネルギー)」や「血(血液)」の流れの滞り、または「寒(冷え)」や「湿(余分な水分)」といった外部要因が体内に侵入することなど、様々な原因によって引き起こされると考えられています。
芍薬甘草附子湯は、これらの原因のうち、特に「寒」による痛みや、気の滞りによって生じる痛みに対応することを目指した処方と言えます。

芍薬甘草附子湯の構成生薬

芍薬甘草附子湯は、以下の3つの生薬から成り立っています。

  • 芍薬(シャクヤク): ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させたものです。主に筋肉の緊張を和らげ、痛みを鎮める作用(鎮痙作用、鎮痛作用)があるとされます。また、血の巡りを良くする働きも期待されます。漢方では、腹痛や手足のひきつり、こむら返りなど、筋肉の異常な緊張による痛みに広く用いられます。
  • 甘草(カンゾウ): マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させたものです。様々な漢方薬に配合され、他の生薬の働きを調和させたり、炎症を抑えたり、痛みを和らげたりする作用があるとされます。また、胃腸の調子を整える作用も持ちます。しかし、甘草に含まれるグリチルリチン酸は、後述する偽性アルドステロン症などの副作用の原因となる可能性があるため、注意が必要です。
  • 附子(ブシ): キンポウゲ科のトリカブトの塊根を加工したものです。非常に体を温める力が強く、冷えによる痛み、しびれ、麻痺などに効果があるとされます。強力な鎮痛作用や強心作用も持ちますが、強い毒性があるため、必ず適切な減毒加工(炮附子など)が施されたものが用いられ、厳格な用量管理が必要です。漢方では、寒邪(体を冷やす邪気)が原因で起こる激しい痛みや、体の機能が著しく低下した状態などに用いられることがあります。

芍薬甘草附子湯の作用メカニズム

芍薬甘草附子湯の作用メカニズムは、構成生薬それぞれの薬効が複雑に絡み合って発揮されると考えられています。

まず、芍薬甘草の組み合わせは、「芍薬甘草湯」として知られるように、筋肉の緊張を緩め、急激な痛みを鎮める効果があります。特に、筋肉の痙攣や引きつりによる痛みに即効性が期待されることがあります。これは、芍薬に含まれるペオニフロリンと甘草に含まれるグリチルリチン酸が、細胞内のカルシウムイオンの調節などに作用すると考えられています。

そこに附子が加わることで、芍薬甘草湯にはない強力な「温める力」と「鎮痛力」が付加されます。附子は、体を内側から温め、冷えによって滞った気血の流れを改善する作用があります。これにより、特に冷えや寒さで悪化するような、慢性的な痛みやしびれに対して、根本的な改善を目指すことができます。附子の温め作用は、血管を拡張させて血行を促進し、痛みの原因物質の蓄積を防いだり、神経の過敏性を鎮めたりすることにも繋がると考えられています。

したがって、芍薬甘草附子湯は、芍薬と甘草による急な痛みの緩和作用に加え、附子による温め作用と血行促進作用、さらに強力な鎮痛作用が加わることで、慢性的な、特に冷えを伴う痛みに効果を発揮すると考えられます。この3つの生薬の組み合わせが、痛みの種類や原因に応じて多角的にアプローチすることで、特有の治療効果を生み出すのです。

芍薬甘草附子湯の効能・効果

芍薬甘草附子湯は、日本の医療用漢方製剤としては、主に特定の痛みを伴う症状に対して効能・効果が認められています。これらの症状は、多くの場合、冷えや気血の滞りが原因となっていると考えられています。

どのような症状に用いられるか(適応症)

芍薬甘草附子湯の日本の添付文書に記載されている主な効能・効果は以下の通りです。

  • 慢性神経痛
  • 慢性関節炎
  • 関節リウマチ
  • 筋肉リウマチ
  • 五十肩
  • 肩こり
  • 坐骨神経痛

これらの症状に共通するのは、持続的な痛みや運動制限であり、しばしば冷えや湿気によって症状が悪化する傾向が見られます。
芍薬甘草附子湯は、これらの慢性的な痛みを、体を温め、血行を促進し、痛みを和らげる作用によって改善することを目指します。

慢性神経痛への効果

慢性神経痛は、神経に沿って長期間続く痛みを指します。
原因は様々ですが、冷えや血行不良が痛みを悪化させるケースが多く見られます。
芍薬甘草附子湯に含まれる附子は、体を温めることで血行を改善し、神経周囲の環境を整えることが期待されます。
また、芍薬と甘草の組み合わせは、筋肉の緊張を和らげることで、神経への圧迫や刺激を軽減する可能性もあります。
これらの作用により、特に冷えを感じやすい神経痛(例:坐骨神経痛など)に対して効果を発揮することがあります。

慢性関節炎への効果

慢性関節炎は、関節の炎症が長期間にわたって続く状態です。
痛み、腫れ、こわばりなどが主な症状で、特に朝方に症状が強く出やすいことがあります。
漢方医学では、関節の痛みは「痺証(ひしょう)」と呼ばれ、冷え、湿気、風邪(ふうじゃ)といった外邪が関節に侵入し、気血の流れを妨げることが原因と考えられます。
芍薬甘草附子湯は、附子の温め作用で関節を温め、甘草が炎症を抑え、芍薬が痛みを和らげることで、慢性関節炎による痛みの軽減や関節機能の改善に寄与することが期待されます。
特に、冷えると痛みが増すタイプの関節炎に適しています。

関節リウマチ・筋肉リウマチへの効果

関節リウマチや筋肉リウマチは、自己免疫の異常によって関節や筋肉に炎症が生じる病気です。
激しい痛み、腫れ、こわばり、運動制限などが特徴です。
芍薬甘草附子湯は、これらの病気自体を完治させるものではありませんが、炎症による痛みの緩和や、冷えによって悪化する関節・筋肉のこわばりを和らげる目的で用いられることがあります。
特に、病状が比較的安定しており、冷えを伴う痛みが強い場合に選択肢となります。
ただし、西洋医学的な治療と並行して使用されることが一般的であり、自己判断で漢方薬のみに頼るべきではありません。

五十肩・肩こりへの効果

五十肩(肩関節周囲炎)は、肩関節の炎症や拘縮によって、腕を上げたり回したりするのが困難になり、激しい痛みを伴う状態です。
肩こりは、首や肩周りの筋肉の緊張や血行不良によって生じる不快な症状です。
これらもまた、冷えや気血の滞りが原因となることがあります。
芍薬甘草附子湯は、附子の温め作用で肩周りの血行を促進し、芍薬が筋肉の緊張を和らげることで、五十肩の痛みや肩こりの軽減に効果を発揮することが期待されます。
特に、冷えると肩の痛みが強くなる場合や、肩周りがいつも冷たいと感じる場合に有効なことがあります。

坐骨神経痛への効果

坐骨神経痛は、腰からお尻、太ももの裏側、ふくらはぎにかけて、坐骨神経に沿って生じる痛みやしびれです。
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、様々な原因によって神経が圧迫されたり刺激されたりすることで起こります。
坐骨神経痛の中には、特に冷えによって症状が悪化するタイプがあり、漢方医学では「痺証」の一つと考えられます。
芍薬甘草附子湯は、附子の強力な温め作用と血行促進作用により、坐骨神経周辺の冷えを取り除き、気血の流れを改善することで、痛みの緩和やしびれの軽減に効果を発揮することが期待されます。
芍薬と甘草の鎮痙・鎮痛作用も、坐骨神経周囲の筋肉の緊張を和らげることで、神経への刺激を軽減するのに役立つと考えられます。

芍薬甘草湯との違いを比較解説

芍薬甘草附子湯と名前が似ており、混同されやすい漢方薬に「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」があります。
どちらも痛みの緩和に用いられますが、構成生薬が一つ異なるだけで、その効果や適応症には明確な違いがあります。
この違いを理解することは、適切な漢方薬を選択するために非常に重要です。

構成生薬の決定的な違い

最も決定的な違いは、芍薬甘草附子湯には「附子」が含まれているのに対し、芍薬甘草湯には附子が含まれていない点です。

  • 芍薬甘草湯: 芍薬、甘草の2つの生薬で構成。
  • 芍薬甘草附子湯: 芍薬、甘草、附子の3つの生薬で構成。

附子の有無が、両者の性質や効果に大きな違いをもたらします。

効能・効果における違い

芍薬甘草湯は、主に急激に起こる筋肉の痙攣や引きつり、それによる激しい痛みに用いられます。
「足のつり(こむら返り)」や、胃の差し込むような痛み、胆石仙痛、尿管結石仙痛など、急性の、発作的な痛みに即効性を示すことが多いのが特徴です。
特に筋肉の弛緩作用が強く、急激な筋収縮による痛みに優れています。

一方、芍薬甘草附子湯は、芍薬甘草湯の作用に加えて、附子の持つ「温め作用」と「強力な鎮痛作用」が加わります。
そのため、急性の激しい痛みよりも、冷えを伴う慢性的な痛み、特に神経痛や関節痛、筋肉痛などに適しています。
体を温めて血行を改善し、じわじわと痛みを和らげていくタイプの漢方薬と言えます。
即効性よりも、継続服用による体質改善や慢性症状の緩和を目指す場合に用いられることが多いです。

以下に、両者の違いを分かりやすく表にまとめます。

特徴 芍薬甘草湯(芍薬、甘草) 芍薬甘草附子湯(芍薬、甘草、附子)
構成生薬 芍薬、甘草 芍薬、甘草、附子
主な効果 筋肉の痙攣や急激な痛みの緩和(鎮痙、鎮痛) 体を温め、冷えを伴う慢性痛の緩和(温経、鎮痛)
得意な痛み 急性の筋肉のひきつり、差し込むような痛み 冷えを伴う慢性的な神経痛、関節痛、筋肉痛
即効性 比較的即効性が期待される 比較的緩やか(継続服用で効果を実感しやすい)
体の温め 温める作用はほとんどない 体を強力に温める作用がある
代表的な症状 こむら返り、胃痛(差し込み)、胆石仙痛など 慢性神経痛、慢性関節炎、五十肩、坐骨神経痛(冷えを伴う)

症状による使い分けのポイント

芍薬甘草湯と芍薬甘草附子湯の使い分けは、主に痛みの性質と原因によって判断されます。

  • 芍薬甘草湯を選ぶ場合:
    • 急に起こった筋肉の引きつりや痙攣が主な症状である。
    • 痛みが非常に強く、差し込むような性質である。
    • 足のつり(こむら返り)が頻繁に起こる。
    • 冷えとは直接関係なく、痛みが突然発生する。
    • 応急処置的に、一時的な痛みをすぐに止めたい。
  • 芍薬甘草附子湯を選ぶ場合:
    • 痛みが慢性的に続いている。
    • 痛みが冷えや寒さで悪化する傾向がある。
    • 痛みとともに、手足の冷えやしびれを伴う。
    • 関節や筋肉の痛み、神経痛が主な症状である。
    • 体を内側から温めて、痛みの根本的な改善を目指したい。

ただし、これらの使い分けはあくまで一般的な目安です。
漢方薬の選択は、個々の体質(証)や病状を総合的に判断して行う必要があります。
自己判断せずに、必ず医師や薬剤師といった専門家と相談した上で、どちらの漢方薬が適切か判断してもらいましょう。
特に附子を含む芍薬甘草附子湯は、取り扱いに注意が必要な漢方薬であるため、専門家の指導のもとで服用することが不可欠です。

芍薬甘草附子湯の正しい服用方法と注意点

漢方薬は、西洋薬とは異なり、その効果を最大限に引き出し、安全に服用するためには、いくつかの注意点があります。
芍薬甘草附子湯も例外ではありません。
特に附子が含まれているため、用法・用量を守り、体調の変化に注意を払うことが重要です。

用法・用量について

芍薬甘草附子湯の一般的な服用方法は、製品によって異なりますが、通常は成人1日あたり、規定量の顆粒や錠剤を2〜3回に分けて、食前または食間に水またはぬるま湯で服用します。

  • 食前: 食事の約30分前
  • 食間: 食事と食事の間、例えば食事の約2時間後

漢方薬は、胃に食べ物が入っていない空腹時のほうが吸収が良いとされることが多いため、食前や食間の服用が推奨されることが多いです。
ただし、胃腸が弱い方や、空腹時に服用すると胃部不快感が生じる場合は、食後に変更するなど、体調に合わせて調整が必要な場合もあります。
この場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。

服用量は、年齢や体重、体質、症状の程度によって調整されることがあります。
必ず医師や薬剤師の指示に従い、勝手に量を増やしたり減らしたりしないようにしましょう。

効果が出るまでの期間(目安)

芍薬甘草附子湯は、芍薬甘草湯のように急性の痛みに即効性を示すというよりは、比較的緩やかに効果が現れることが多い漢方薬です。
体を温めて、冷えや血行不良を改善しながら慢性的な痛みにアプローチするため、効果を実感できるまでにはある程度の期間がかかることがあります。

効果が出るまでの期間は、個人の体質や症状の重さ、原因によって大きく異なりますが、一般的には数日から数週間、あるいは1ヶ月以上かかることもあります。
すぐに効果が出なくても、指示された期間は継続して服用してみることが大切です。
ただし、漫然と長期服用を続けるのではなく、一定期間服用しても症状の改善が見られない場合は、他の治療法を検討する必要があるため、必ず医師に相談してください。

効果が出ない場合の検討事項

芍薬甘草附子湯をしばらく服用しても効果が感じられない、あるいは症状が悪化する場合は、いくつかの可能性が考えられます。

  1. 体質(証)に合っていない: 芍薬甘草附子湯は、主に冷えを伴う痛みに適した漢方薬です。もし痛みの原因が冷えではなく、炎症が強い場合や、他の原因によるものである場合、効果が得られないことがあります。
  2. 症状の原因が異なる: 痛みの原因が、漢方薬では対応が難しい疾患(例えば、進行した変形性関節症や重度の神経障害など)である可能性も考えられます。
  3. 服用方法が適切でない: 用法・用量が間違っている、あるいは他の薬との飲み合わせに問題がある可能性もゼロではありません。
  4. 加工附子の量の問題: 製品によって、あるいは個人の体質によって、附子の量が十分に作用しない、あるいは多すぎる可能性も考えられます。

効果が見られない場合は、自己判断で服用を中止したり、他の漢方薬や市販薬に切り替えたりせず、必ず処方した医師や漢方医、薬剤師に相談しましょう。
改めて症状や体質を詳しく診察してもらい、適切な漢方薬への変更や、他の治療法の検討を行うことが重要です。

服用時の一般的な注意点

芍薬甘草附子湯を服用する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 指示された用法・用量を厳守する: 特に附子が含まれているため、過量服用は危険です。
  • 他の薬との飲み合わせに注意する: 特に、甘草を含む他の漢方薬や西洋薬との併用は、甘草の成分であるグリチルリチン酸の過剰摂取につながり、偽性アルドステロン症などの副作用リスクを高める可能性があります。また、附子は他の薬との相互作用を起こす可能性も考えられます。現在服用中の全ての薬(処方薬、市販薬、サプリメントなど)について、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
  • アレルギー体質の人は注意: 生薬に対してアレルギー反応(発疹、かゆみなど)を起こす可能性があります。過去に漢方薬や特定の生薬でアレルギー反応が出たことがある場合は、事前に医師や薬剤師に相談してください。
  • 妊娠中・授乳中の服用: 妊娠中または授乳中の女性は、服用前に必ず医師に相談してください。漢方薬の中には、妊娠に影響を及ぼす可能性のある生薬を含むものがあります。
  • 高齢者の服用: 高齢者は生理機能が低下していることが多く、副作用が出やすい場合があります。少量から開始するなど、慎重な服用が必要です。
  • 小児への服用: 小児への服用は、医師の指導のもと、適切な用量で行う必要があります。
  • 症状の変化に注意: 服用中にいつもと違う症状が現れたり、既存の症状が悪化したりした場合は、すぐに服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。特に、手足のしびれや痛み、脱力感、むくみ、血圧上昇などの症状には注意が必要です。

芍薬甘草附子湯の副作用とリスク

漢方薬は自然の生薬から作られていますが、医薬品である以上、副作用のリスクはゼロではありません。
特に芍薬甘草附子湯は、甘草と附子という、それぞれ特有の副作用リスクを持つ生薬を含んでいるため、そのリスクについて正しく理解しておくことが非常に重要です。

発生しうる主な副作用

芍薬甘草附子湯の服用によって発生する可能性のある主な副作用は、比較的軽度なものが多いですが、体質や体調によっては起こることがあります。

  • 消化器症状: 胃部不快感、吐き気、食欲不振、下痢、腹痛など。特に胃腸が弱い方が空腹時に服用すると起こりやすいことがあります。
  • 皮膚症状: 発疹、かゆみなど。アレルギー反応として現れることがあります。
  • その他: 動悸、ほてりなど。附子の作用によるものと考えられます。

これらの症状が出た場合は、一旦服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
服用量を調整したり、服用タイミングを変更したりすることで改善することもあります。

重大な副作用について

芍薬甘草附子湯に含まれる生薬は、まれに重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
特に注意が必要なのは、甘草による偽性アルドステロン症やミオパチー、そして附子による副作用です。

偽性アルドステロン症のリスク

甘草を多量に、あるいは長期間服用することによって起こる可能性のある副作用です。
甘草に含まれるグリチルリチン酸が、体内のミネラルバランスを調節するホルモン(アルドステロン)に似た働きをすることで、体内にナトリウムと水分が貯留しやすくなり、カリウムが排泄されやすくなります。

その結果、以下のような症状が現れることがあります。

  • むくみ(浮腫)
  • 血圧上昇
  • 頭痛
  • 脱力感
  • 手足のしびれ
  • 筋肉痛

これらの症状は、偽性アルドステロン症の初期症状である可能性があり、放置すると重篤な状態(特に心臓や腎臓への負担)につながることもあります。
複数の漢方薬や、甘草を含む他の薬(風邪薬や胃腸薬など)を併用している場合は、グリチルリチン酸の合計摂取量が増えるため、リスクが高まります。

ミオパチー・低カリウム血症について

偽性アルドステロン症が進行すると、体内のカリウムが著しく低下した状態(低カリウム血症)になり、筋肉の障害(ミオパチー)を引き起こすことがあります。

ミオパチーの症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 筋肉のけいれんや引きつり
  • 筋肉の痛み
  • 筋力の低下、脱力感(特に手足)
  • 体の麻痺
  • こむら返り

芍薬甘草湯や芍薬甘草附子湯は、もともと筋肉のけいれんや痛みに用いられる薬ですが、副作用としてのミオパチーによる筋肉痛やけいれんとの区別が難しい場合もあります。
いつもと違う筋肉の症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医療機関を受診してください。
特に、手足に力が入らない、立ち上がれないといった重度の脱力感は、低カリウム血症によるミオパチーの可能性が高いサインです。

服用してはいけない人(禁忌)

安全のため、以下に該当する方は、原則として芍薬甘草附子湯を服用してはいけません。

  • 本剤に含まれる生薬に対して、過去に過敏症(アレルギー)を起こしたことがある人
  • 偽性アルドステロン症、低カリウム血症の既往がある人
  • 重度の高血圧、心臓病、腎臓病のある人:偽性アルドステロン症によるむくみや血圧上昇が病状を悪化させる可能性があるため。
  • カリウム製剤やグリチルリチン酸またはその塩類を含有する医薬品(他の漢方薬、甘草を含む胃腸薬・風邪薬など)を服用中の人:偽性アルドステロン症のリスクが高まるため。
  • 妊娠中の人:附子や他の生薬が妊娠に影響を及ぼす可能性が考えられるため。
  • 授乳中の人:授乳婦への安全性は確立されていないため。

慎重な服用が必要な人

以下に該当する方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談し、慎重に服用する必要があります。

  • 医師の治療を受けている人
  • 高齢者:生理機能が低下しているため、副作用が出やすい可能性があります。
  • 高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けている人(重度でない場合も注意が必要)
  • むくみのある人
  • 体が極度に衰弱している人
  • 胃腸が弱い人
  • アレルギー体質の人
  • 他の薬を服用中の人

これらの状態にある方は、副作用のリスクが高まる可能性や、病状によっては漢方薬が適さない場合があるため、専門家の判断が必要です。

長期服用によるリスク

芍薬甘草附子湯を長期間(数週間〜数ヶ月以上)にわたって服用する場合、特に甘草による副作用(偽性アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症など)のリスクが高まります。
症状が改善したにも関わらず漫然と服用を続けたり、自己判断で長期服用したりすることは避けてください。

また、附子の影響により、体調が過剰に温まりすぎる、興奮する、動悸がするなどの症状が現れる可能性も考えられます。

長期服用が必要な場合は、定期的に医師の診察を受け、症状や副作用の有無を確認してもらいながら、安全に服用を継続することが重要です。
血液検査でカリウム値などをチェックすることもあります。

副作用が出た場合の対応

服用中に何らかの副作用が疑われる症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、処方した医師または薬剤師に相談してください。

特に、むくみ、血圧上昇、脱力感、手足のしびれ、筋肉痛、筋肉のけいれん、麻痺といった症状が出た場合は、重大な副作用である偽性アルドステロン症やミオパチー、低カリウム血症の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。

副作用の多くは、服用を中止することで改善しますが、重症化する前に適切な対応をとることが重要です。

芍薬甘草附子湯の製品情報(三和、ツムラ、市販)

芍薬甘草附子湯は、医療用漢方製剤として、いくつかの製薬会社から提供されています。
ここでは、代表的なメーカーの製品や、市販での購入可能性について解説します。

三和芍薬甘草附子湯エキス細粒について

株式会社三和生薬は、医療用漢方製剤として「三和芍薬甘草附子湯エキス細粒」を提供しています。
この製品は、医療機関で医師の処方箋に基づいて使用されるものです。
通常、乾燥エキスを顆粒状にしたもので、水に溶かして飲むか、そのまま水で服用します。
用法・用量は、添付文書に記載されている通りですが、個々の患者さんの状態に合わせて医師が調整します。
医療用医薬品であるため、医師の診断なしに薬局で購入することはできません。

ツムラからの製剤供給状況

国内で最も多くの医療用漢方製剤を提供している株式会社ツムラからは、2024年現在、「ツムラ芍薬甘草附子湯」という製品は供給されていません。
ツムラは多くの漢方処方を提供していますが、全ての古典処方を網羅しているわけではなく、また供給状況は変更される可能性があります。
医療機関で芍薬甘草附子湯が処方される場合、多くは三和生薬などの他社製品が用いられます。

芍薬甘草附子湯は市販で購入できるか?

結論から言うと、2024年現在、日本国内の薬局やドラッグストアで、「芍薬甘草附子湯」という名称の市販薬を購入することは、原則としてできません。
芍薬甘草附子湯は、含まれる附子の毒性や、甘草による副作用リスクが高いため、医師の診断のもと、慎重な管理下で使用されるべき「医療用漢方製剤」としてのみ承認されています。

ただし、「芍薬甘草湯」であれば、足のつり(こむら返り)などの適応症を持つ市販薬(第2類医薬品など)が広く流通しています。
名称が似ているため間違えやすいですが、これは附子を含まない別の漢方薬です。

医療用と市販薬の違い

医療用漢方製剤と市販の漢方薬には、いくつかの違いがあります。

特徴 医療用漢方製剤(例:三和芍薬甘草附子湯) 市販の漢方薬(例:市販の芍薬甘草湯)
入手方法 医師の処方箋が必要 薬局・ドラッグストアなどで購入可能
目的 医師の診断に基づく治療 比較的軽度な症状に対するセルフメディケーション
成分量 比較的多いことが多い 医療用に比べて少ないことがある(規格による)
剤形 顆粒、細粒、錠剤など 顆粒、錠剤、液体、丸剤など様々
価格 保険適用されるため自己負担が少ない 全額自己負担
専門家 医師による診断と処方、薬剤師による指導 薬剤師や登録販売者への相談は推奨されるが必須ではない

芍薬甘草附子湯が医療用のみであるのは、特に附子の取り扱いの難しさや、甘草による重篤な副作用リスクを考慮し、医師の専門的な診断と継続的な管理のもとで使用する必要があるためです。

入手方法について

したがって、芍薬甘草附子湯を入手したい場合は、以下の方法をとる必要があります。

  1. 医療機関を受診する: 痛みや症状について医師の診察を受け、芍薬甘草附子湯が適切であると判断されれば、処方箋が出されます。
  2. 処方箋に基づき薬局で受け取る: 処方箋を持って保険調剤薬局に行き、薬剤師からの説明を受けた上で薬を受け取ります。この際、現在服用中の他の薬やアレルギーについて正確に伝えることが重要です。

漢方専門医や、漢方薬に詳しい医師に相談すると、より的確な診断と処方が期待できるかもしれません。
また、最近ではオンライン診療で漢方薬の相談・処方を行っているクリニックもありますが、芍薬甘草附子湯のように附子を含む特殊な漢方薬については、対面診療が必要となる場合や、オンライン診療での処方を行っていない場合もあります。
事前に確認が必要です。

いずれの場合も、医師や薬剤師の指導のもと、安全かつ適切に服用することが最も大切です。

芍薬甘草附子湯に関するよくある質問(FAQ)

芍薬甘草附子湯について、よくある疑問とその回答をまとめました。

芍薬甘草附子湯の効能は?

芍薬甘草附子湯の主な効能は、体を温め、冷えを伴う慢性的な痛みやしびれを和らげることです。
日本の医療用漢方製剤としては、慢性神経痛、慢性関節炎、関節リウマチ、筋肉リウマチ、五十肩、肩こり、坐骨神経痛といった症状に対して効能・効果が認められています。
特に、これらの症状が冷えによって悪化する場合に効果が期待されます。

芍薬甘草湯を飲んではいけない人は?

質問は「芍薬甘草湯を飲んではいけない人」となっていますが、ここでは芍薬甘草附子湯を飲んではいけない人について解説します。
芍薬甘草附子湯は、本剤の成分に過敏症の既往がある人、偽性アルドステロン症や低カリウム血症の既往がある人、重度の高血圧・心臓病・腎臓病のある人、カリウム製剤やグリチルリチン酸含有製剤を服用中の人、妊娠中・授乳中の人は原則として服用してはいけません。
詳しくは「服用してはいけない人(禁忌)」のセクションを参照してください。
芍薬甘草湯についても、高血圧、心臓病、腎臓病のある人などは慎重な服用が必要です。

芍薬甘草を長期服用するとどうなる?

質問は「芍薬甘草」となっていますが、これは芍薬と甘草の両方を指していると考えられます。
特に甘草を長期にわたって多量に摂取すると、前述の「偽性アルドステロン症」や「ミオパチー」といった重篤な副作用を引き起こすリスクがあります。
これらの副作用は、体内のナトリウム・水分の貯留によるむくみや血圧上昇、カリウム低下による脱力感や筋肉痛などが主な症状です。
芍薬甘草附子湯においても、含まれる甘草によってこれらのリスクがあるため、医師や薬剤師の指示なく長期服用することは避けるべきです。

漢方薬68番(芍薬甘草湯)は毎日飲んでも大丈夫?

漢方薬の番号68番は「芍薬甘草湯」を指します。
芍薬甘草湯は、足のつりなど急性の痛みに頓服(痛い時にだけ飲む)で用いられることが多い漢方薬ですが、慢性的な症状に対して毎日継続して服用する場合もあります。
毎日服用する場合は、特に含まれる甘草による偽性アルドステロン症のリスクに注意が必要です。
医師や薬剤師の指示のもと、適切な期間と用量で毎日服用するのであれば問題ありませんが、自己判断で長期間継続することは避けるべきです。
毎日服用する必要があるかどうかは、医師の診断に基づいて判断されるべきです。

まとめ:芍薬甘草附子湯を服用する前に知っておくべきこと

芍薬甘草附子湯は、芍薬、甘草、附子の3つの生薬から構成される漢方薬であり、特に冷えを伴う慢性的な痛み(慢性神経痛、慢性関節炎、五十肩、坐骨神経痛など)に効果が期待される薬です。
体を内側から温め、血行を改善し、痛みを和らげる作用があります。

同じく痛みに用いられる芍薬甘草湯とは異なり、芍薬甘草附子湯には強力な温め作用を持つ附子が含まれている点が大きな特徴であり、この違いが適応症や効果の性質に影響します。
芍薬甘草湯が急性の筋肉の痙攣や痛みに用いられることが多いのに対し、芍薬甘草附子湯は慢性的な、特に冷えが悪化要因となる痛みに適しています。

芍薬甘草附子湯を服用する上で最も重要なのは、その副作用リスクを正しく理解し、安全に服用することです。
含まれる甘草は偽性アルドステロン症やミオパチー、低カリウム血症といった重篤な副作用を引き起こす可能性があり、附子も適切な加工・用量管理が必要な生薬です。
そのため、芍薬甘草附子湯は原則として医師の処方箋が必要な医療用漢方製剤としてのみ流通しており、市販薬としては入手できません。

痛みや不調がある場合は、まずは医療機関を受診し、原因を特定してもらうことが大切です。
その上で、医師や漢方医と相談し、体質や症状に芍薬甘草附子湯が適していると判断されれば、処方を受けることができます。
服用に際しては、医師や薬剤師から用法・用量、注意点、副作用について十分に説明を受け、正しく理解した上で服用を開始してください。
現在服用中の他の薬がある場合は、必ず全て伝えるようにしましょう。

漫然と服用を続けたり、自己判断で服用量を変更したりすることは危険です。
症状の改善が見られない場合や、副作用が疑われる症状が現れた場合は、すぐに専門家に相談してください。
芍薬甘草附子湯は、適切に使用すれば慢性的な痛みの緩和に有効な選択肢となり得ますが、そのためには専門家の指導のもと、安全に注意して服用することが不可欠です。


免責事項:

本記事は、芍薬甘草附子湯に関する一般的な情報を提供するものであり、個々の病状の診断や治療法を推奨するものではありません。
漢方薬の服用に関しては、必ず医師や薬剤師などの専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づくいかなる結果についても、筆者および運営者は責任を負いません。

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