アリピプラゾールは、非定型抗精神病薬と呼ばれる種類の薬です。
脳内で情報伝達を担うドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の働きを調整することで、精神疾患に伴う様々な症状を改善する効果が期待できます。
主に統合失調症、うつ病・うつ状態、双極性障害における躁症状などの治療に用いられます。
この記事では、アリピプラゾールの効果や副作用、正しい使い方などについて、医師監修のもと詳しく解説します。
アリピプラゾールを服用されている方や、これから服用を検討されている方の参考になれば幸いです。
アリピプラゾールの成分について
アリピプラゾールの有効成分は「アリピプラゾール」そのものです。
先発医薬品としては「エビリファイ」という商品名で広く知られています。
エビリファイの特許が切れた後は、様々な製薬会社からジェネリック医薬品として「アリピプラゾール錠〇mg」といった名称で製造・販売されています。
つまり、アリピプラゾールとエビリファイは、有効成分としては同じ薬です。
アリピプラゾールの作用機序(ドーパミン・セロトニン)
アリピプラゾールの主な作用は、脳内のドーパミンD2受容体およびセロトニン5-HT1A受容体に対する「部分アゴニスト作用」と、セロトニン5-HT2A受容体に対する「アンタゴニスト作用」です。
- ドーパミンD2受容体に対する部分アゴニスト作用: ドーパミンが過剰な状態(統合失調症の陽性症状など)ではドーパミンの働きを抑え、逆にドーパミンが不足している状態(統合失調症の陰性症状やうつ病など)ではドーパミンの働きを補うように作用します。
これにより、ドーパミンのバランスを整える働きが期待されます。 - セロトニン5-HT1A受容体に対する部分アゴニスト作用: この受容体への作用は、抗うつ作用や抗不安作用に関与すると考えられています。
- セロトニン5-HT2A受容体に対するアンタゴニスト作用: この受容体を遮断することで、セロトニンによる様々な影響を抑えます。
統合失調症の陽性症状の改善や、他の副作用(錐体外路症状など)の軽減に関与すると考えられています。
これらの作用機序により、アリピプラゾールは多様な精神症状に対して効果を発揮すると考えられています。
アリピプラゾールの効果・効能
アリピプラゾールは、様々な精神疾患に対して効果が期待される薬です。
脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、症状の改善を目指します。
アリピプラゾールが効く病気(統合失調症・うつ病・躁うつ病など)
日本国内でアリピプラゾール(エビリファイ)が承認されている効能・効果は以下の通りです。
- 統合失調症: 幻覚、妄想、思考障害といった陽性症状や、感情の平板化、意欲低下といった陰性症状の両方に対して効果が期待されます。
- 双極性障害における躁症状: 気分が高揚しすぎる、活動性が異常に高まる、衝動的な行動が増えるなどの躁症状を鎮める目的で使用されます。
- うつ病・うつ状態(既存治療で効果不十分な場合に限る): 抗うつ薬による治療で十分な効果が得られない場合に、既存の抗うつ薬にアリピプラゾールを追加して使用することで、うつ症状の改善を試みることがあります。
単独でうつ病の治療薬として使われるわけではありません。 - 小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性: 興奮しやすい、かんしゃくを起こしやすい、攻撃的になるといった、自閉スペクトラム症に伴う易刺激性を軽減する目的で、原則として5歳以上の小児に用いられます。
- 児童、思春期における精神疾患に伴う易刺激性及び攻撃性: 児童精神科領域において、様々な精神疾患に伴う易刺激性や攻撃性を改善する目的で用いられることがあります。(これは添付文書上の効能効果ではなく、実臨床での使用状況や海外での承認に基づいた情報である可能性があるため、正確には承認情報をご確認ください。
一般的な国内添付文書では上記5歳以上の自閉スペクトラム症伴う易刺激性として記載されていることが多いです。)
これらの病気以外にも、医師の判断により他の精神疾患の治療補助として使用される場合もありますが、上記が国内で正式に承認されている主な効能・効果です。
少量と多量での効果の違い(うつ病・統合失調症)
アリピプラゾールは、対象疾患や症状によって推奨される用量が異なります。
また、同じ病気であっても、用量によって期待される効果や現れやすい副作用に違いが見られることがあります。
- うつ病・うつ状態: うつ病治療においては、比較的少量(例: 1日3mg)から開始されることが多いです。
これは、抗うつ薬の効果を増強する目的で使用されるため、高用量が必要ない場合が多いためです。
少量のドーパミン部分アゴニスト作用が、意欲低下や気力のなさといった症状に働きかけると考えられています。 - 統合失調症: 統合失調症の治療では、うつ病治療よりも高用量で使用されることが一般的です(例: 1日6mg~24mg)。
陽性症状(幻覚、妄想)の改善にはある程度の用量が必要とされます。
しかし、高用量になるほど、ドーパミン受容体遮断作用が強まり、アカシジア(静座不能症)や錐体外路症状といった副作用が現れやすくなる可能性があります。
したがって、用量は個々の患者さんの症状や体質、併用薬などを考慮して、医師が慎重に調整します。
必ず医師の指示された用量を守って服用することが重要です。
アリピプラゾールは何に効く薬ですか?
簡潔に言えば、アリピプラゾールは脳内の神経伝達物質(特にドーパミンとセロトニン)のバランスの乱れを整えることで、統合失調症、双極性障害の躁症状、既存治療で効果不十分なうつ病・うつ状態、小児の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性といった様々な精神神経系の症状を改善する薬です。
単に「気持ちを落ち着かせる薬」というよりは、脳機能の調整を通して、思考や感情、行動の偏りを是正することを目指す薬と言えます。
アリピプラゾールの用法・用量
アリピプラゾールの用法・用量は、服用する患者さんの状態、年齢、対象疾患によって異なります。
必ず医師の指示に従って服用してください。
自己判断での増減や中止は危険です。
成人への用法・用量
主な対象疾患に対する成人の一般的な用法・用量は以下の通りです(これは一般的な目安であり、患者さんごとに医師が決定します)。
対象疾患 | 開始用量(1日) | 維持用量(1日) | 最大用量(1日) | 服用方法 |
---|---|---|---|---|
統合失調症 | 6mg | 6mg ~ 24mg | 30mg | 1日1回、水などで服用。年齢・症状により適宜増減。 |
双極性障害における躁症状 | 24mg | 6mg ~ 30mg | 30mg | 1日1回、水などで服用。年齢・症状により適宜増減。 |
うつ病・うつ状態(既存治療で効果不十分な場合) | 3mg | 3mg ~ 15mg | 15mg | 1日1回、既存の抗うつ薬に追加して服用。 |
統合失調症や双極性障害では、少量から開始し、徐々に増量して効果を見ながら維持量を決定することが多いです。
うつ病の場合は、通常3mgから開始し、効果や副作用を見ながら最大15mgまで増量することがあります。
小児への用法・用量
5歳以上の小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対して使用される場合の用法・用量は以下の通りです。
- 小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性: 通常、1日1回1mgから開始します。
維持用量は1日1回1mg~15mgの範囲で、患者さんの状態に応じて適宜増減します。
増量する場合は1週間以上の間隔をあけて行い、1日最大15mgまでとします。
小児に服用させる場合は、保護者の方が適切に管理し、医師の指示を厳守することが非常に重要です。
増量・減量・中止時の注意点
アリピプラゾールの用量変更や中止は、必ず医師の指示のもとで行ってください。
自己判断で急に薬を増やしたり減らしたり、中止したりすると、以下のリスクがあります。
- 症状の悪化: 病気の症状が再び現れたり、悪化したりする可能性があります。
- 離脱症状: めまい、吐き気、頭痛、不眠、不安感、焦燥感、錐体外路症状などが現れることがあります。
特に長期にわたって服用していた場合や高用量で服用していた場合に、急な中止によって起こりやすいです。 - 副作用の発現・増悪: 用量を増やしすぎると副作用のリスクが高まります。
医師は、患者さんの症状の経過、副作用の発現状況、体調などを総合的に判断して、最適な用量調整や中止のタイミングを決定します。
減量や中止を行う場合も、通常は数週間かけて段階的に行うことが多いです。
アリピプラゾールの副作用
どのような薬にも副作用の可能性があります。
アリピプラゾールにもいくつかの副作用が報告されており、特に使用開始時や用量変更時に現れやすい傾向があります。
ユーザーが関心を持つ「やばい」という点については、重大な副作用として後述します。
アリピプラゾールの主な副作用(眠気・アカシジア・体重増加など)
比較的頻繁に見られる可能性のある副作用は以下の通りです。
ただし、これらの副作用は個人差が大きく、全く感じない方もいれば強く感じる方もいます。
- 眠気: 日中の眠気を感じることがあります。
車の運転や危険を伴う機械の操作などは避けるようにしましょう。 - アカシジア(静座不能症): これはアリピプラゾールの比較的特徴的な副作用の一つです。
じっとしていられなくなり、脚を動かしたくなったり、そわそわして落ち着かなくなったりします。
特に服用初期や増量時に現れやすい傾向があります。
症状が辛い場合は、我慢せずに医師に相談しましょう。
他の薬剤で症状を抑えることができる場合があります。 - 吐き気・嘔吐: 服用開始初期に見られることがあります。
- 便秘: 消化器系の運動が抑制されることで起こる可能性があります。
- 口の渇き: 唾液の分泌が減少して口が渇くことがあります。
- 振戦(手足の震え): 特に指先などが細かく震えることがあります。
- 倦怠感: だるさや疲れやすさを感じることがあります。
- 不眠: 眠気とは逆に、寝付きが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることがあります。
- 頭痛: 頭痛を訴える方もいます。
- めまい: 立ちくらみやふらつきを感じることがあります。
特に立ち上がる際に注意が必要です。
これらの副作用の多くは、体の慣れとともに軽減することが多いですが、症状が続く場合や辛い場合は必ず医師に相談してください。
アリピプラゾールの重大な副作用は?
頻度は非常に低いものの、注意が必要な重大な副作用がいくつか報告されています。
「やばい」と感じるリスクとしては、これらの重大な副作用が挙げられます。
しかし、これらの副作用は稀であり、すべての患者さんに起こるわけではありません。
症状を早期に発見し、適切に対処することが重要です。
アリピプラゾールの重大な副作用について(悪性症候群・遅発性ジスキネジアなど)
添付文書に記載されている重大な副作用の一部を以下に挙げます。
- 悪性症候群: 高熱、筋肉のこわばり(筋強剛)、意識障害、発汗、頻脈などの症状が急激に現れる、非常に稀ですが生命に関わる可能性のある副作用です。
原因は不明ですが、ドーパミン系の薬剤に関連して起こることがあります。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、救急医療機関を受診するか医師に連絡してください。 - 遅発性ジスキネジア: 長期にわたって抗精神病薬を服用している場合に、口の周りや舌、手足などが不随意に(自分の意思とは関係なく)動き続ける症状です。
服薬を中止しても症状が改善しない場合があるため、早期発見が重要です。
不随意運動に気づいたら医師に相談してください。 - 麻痺性イレウス: 腸の動きが悪くなり、お腹の張り、激しい便秘、腹痛、吐き気・嘔吐などの症状が現れます。
腸閉塞につながる可能性もあります。 - 横紋筋融解症: 筋肉が破壊され、筋肉痛、脱力感、手足のしびれ、赤褐色尿(ミオグロビン尿)などの症状が現れます。
腎臓に障害を与える可能性があります。 - 痙攣: てんかん様の発作などが起こることがあります。
- 高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡: 血糖値が異常に上昇し、口の渇き、多飲、多尿、全身倦怠感などの症状が現れます。
重症化すると意識障害に至ることもあります。
糖尿病やそのリスクがある方は注意が必要です。 - 肝機能障害: 肝臓の機能を示す数値(AST, ALT, γ-GTPなど)が上昇することがあります。
まれに黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)が現れることもあります。 - 白血球減少: 血液中の白血球が減少し、感染症にかかりやすくなることがあります。
発熱や喉の痛みなどに注意が必要です。 - 肺塞栓症、深部静脈血栓症: 足の血管などに血栓(血の塊)ができ、それが肺に詰まることで呼吸困難などを引き起こすことがあります。
特に、長期臥床や手術後など、血栓ができるリスクが高い状態の方は注意が必要です。
足の痛みや腫れ、突然の息切れ、胸の痛みなどの症状に注意してください。
これらの重大な副作用は非常に稀ですが、初期症状を見逃さず、異変を感じたらすぐに医師に相談することが、安全な薬物療法において極めて重要です。
アリピプラゾールと体重増加の関係
抗精神病薬の中には体重が増加しやすいものがありますが、アリピプラゾールは他の多くの非定型抗精神病薬と比較すると、比較的体重増加しにくい薬とされています。
しかし、全く体重が増加しないわけではありません。
体重増加の原因としては、食欲が増進したり、体の代謝が変化したりすることが考えられています。
また、薬の効果によって精神状態が安定し、活動量が変化したり食生活が変わったりすることも影響する可能性があります。
体重増加が気になる場合は、医師に相談してみましょう。
食事や運動に関するアドバイスを受けたり、場合によっては他の薬への変更を検討したりすることもあります。
アリピプラゾール服用後の顔つきの変化について
アリピプラゾールを服用した後に「顔つきが変わった」と感じる方もいるようですが、これは医学的に認められている直接的な副作用ではありません。
しかし、いくつかの間接的な要因が影響している可能性は考えられます。
- 体重増加: 副作用として体重が増加した場合、顔にも脂肪がついてむくんだように見えたり、顔つきが変わったように感じられたりすることがあります。
- むくみ: まれにむくみの副作用が出ることがあり、顔が腫れぼったく見える原因になるかもしれません。
- 精神状態の変化: 病気の症状が改善したり、あるいは副作用によって表情筋の動きに影響が出たりすることで、顔の表情や印象が変わって感じられる可能性はあります。
もし顔つきの変化が気になる場合は、医師に相談して、他の副作用(体重増加、むくみなど)の有無や、精神状態の変化について確認してもらうと良いでしょう。
多くの場合は、特定の病的な変化ではなく、複合的な要因によるものと考えられます。
アリピプラゾールと関連薬との比較
アリピプラゾールと同様に精神疾患の治療に使われる薬はいくつかあり、それぞれ特徴が異なります。
ここでは、混同しやすい名称の薬や、同じ非定型抗精神病薬の仲間である薬との違いを簡単に比較します。
アリピプラゾール(エビリファイ)とエビリファイは同じですか?
はい、アリピプラゾールとエビリファイは同じ薬です。
正確には、アリピプラゾールが薬の有効成分の名前であり、エビリファイは最初に開発・販売された先発医薬品の商品名です。
車の「プリウス」が商品名で、「ハイブリッドシステム」が技術名であるように、薬にも成分名と商品名があります。
エビリファイの特許期間が満了した後は、他の製薬会社が同じ有効成分(アリピプラゾール)を使用して製造・販売するジェネリック医薬品が登場しました。
ジェネリック医薬品は、「アリピプラゾール錠〇mg [△△]」のように、成分名に販売会社名などが付加された名称になります。
ジェネリック医薬品は、先発品と同等の有効性・安全性が確認されており、一般的に価格が安価であることが特徴です。
アリピプラゾール(エビリファイ)とレキサルティの違い
レキサルティの有効成分はブレクスピプラゾールです。
ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールと同じくドーパミンD2受容体部分アゴニスト作用を持つ非定型抗精神病薬であり、しばしば「エビリファイの後継薬」と呼ばれることがあります。
両者とも似た作用機序を持ちますが、ドーパミンやセロトニン受容体への親和性や作用の強さが微妙に異なります。
これにより、期待される効果や現れやすい副作用のプロファイルに違いが見られます。
特徴 | アリピプラゾール(エビリファイ) | ブレクスピプラゾール(レキサルティ) |
---|---|---|
有効成分 | アリピプラゾール | ブレクスピプラゾール |
主な効能 | 統合失調症、双極性障害の躁症状、うつ病補助など | 統合失調症、うつ病補助 |
D2受容体 | 部分アゴニスト(内活性が比較的高い) | 部分アゴニスト(内活性がアリピプラゾールより低い) |
副作用 | アカシジアが比較的出やすい傾向 | アカシジアが出にくい傾向があるとされる |
体重増加 | 他剤と比較して比較的少ないとされる | 他剤と比較して比較的少ないとされる |
ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールよりもドーパミンD2受容体に対する部分アゴニスト作用が穏やかであるため、アカシジアのような賦活系の副作用が出にくい可能性があると考えられています。
どちらの薬が適しているかは、患者さんの症状や体質、これまでの治療経過などを考慮して医師が判断します。
アリピプラゾールとリスペリドンの違い
リスペリドンの有効成分はリスペリドンであり、アリピプラゾールとは異なる作用機序を持つ非定型抗精神病薬です。
リスペリドンは、主にドーパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体に対する強い遮断作用(アンタゴニスト作用)によって効果を発揮します。
特徴 | アリピプラゾール(エビリファイ) | リスペリドン |
---|---|---|
有効成分 | アリピプラゾール | リスペリドン |
主な効能 | 統合失調症、双極性障害の躁症状、うつ病補助など | 統合失調症、双極性障害の躁病、小児の易刺激性など |
D2受容体 | 部分アゴニスト | アンタゴニスト(遮断) |
副作用 | アカシジア、眠気、吐き気など | 錐体外路症状、高プロラクチン血症、体重増加など |
高プロラクチン血症 | 出にくい | 出やすい傾向がある |
体重増加 | 他剤と比較して比較的少ないとされる | 他剤と比較して出やすい傾向がある |
リスペリドンはドーパミン受容体を強く遮断するため、アカシジアのような賦活系の副作用は少ないですが、ドーパミン遮断による錐体外路症状(手足のこわばり、歩行困難など)や、プロラクチンというホルモンが増加する高プロラクチン血症(生理不順、乳汁分泌など)が現れやすいという特徴があります。
体重増加もリスペリドンの方が起こりやすい傾向があります。
アリピプラゾールとブレクスピプラゾールの違い
これは前述の「アリピプラゾール(エビリファイ)とレキサルティの違い」と同じ内容です。
ブレクスピプラゾールが成分名であり、レキサルティが商品名です。
両者の違いについては、上記の比較表をご参照ください。
アリピプラゾールは鬱に効く薬ですか?
はい、アリピプラゾールは「うつ病・うつ状態(既存治療で効果不十分な場合に限る)」という効能・効果が承認されています。
ただし、うつ病に対する治療の第一選択薬(最初に使うべき薬)として単独で使用されるわけではありません。
既存の抗うつ薬を適切に使用しても十分な効果が得られない場合に、その抗うつ薬にアリピプラゾールを少量(通常3mg、最大15mg)追加して服用することがあります。
これを「augmentation(増強療法)」と呼びます。
アリピプラゾールがうつ病に効果を示すメカニズムとしては、ドーパミンD2受容体やセロトニン5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用が、意欲低下や気分の落ち込みといった症状に働きかけると考えられています。
抗うつ薬とは異なる角度から脳内の神経伝達物質に作用することで、うつ症状の改善を促すことを目指します。
したがって、「鬱に効く薬」ではありますが、すべてのうつ病患者さんに単独で使われる薬ではないという点を理解しておくことが重要です。
アリピプラゾールの注意点・禁忌
アリピプラゾールを安全かつ効果的に使用するためには、いくつかの注意点や、服用してはいけない方(禁忌)が定められています。
必ず医師や薬剤師の指示、そして添付文書の内容を確認してください。
併用注意・併用禁忌の薬剤
アリピプラゾールは、他の薬と一緒に服用することで、お互いの薬の作用を強めたり弱めたりすることがあります。
特に注意が必要な薬剤があります。
- 併用禁忌薬: 現在、日本国内のアリピプラゾール添付文書には、併用が禁忌とされている薬剤はありません。
- 併用注意薬: 多くの併用注意薬があります。
特に以下の薬剤との併用には注意が必要です。- 他の精神神経用薬: 中枢神経抑制作用が増強される可能性があります(例: ベンゾジアゼピン系薬剤、他の抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ薬など)。
- 降圧薬: 相互に作用を増強し、起立性低血圧(立ちくらみ)などを起こす可能性があります。
- CYP3A4阻害薬(例: イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビルなど): これらの薬と一緒に服用すると、アリピプラゾールの代謝が阻害され、血中濃度が上昇して副作用が出やすくなる可能性があります。
アリピプラゾールの減量が必要になることがあります。 - CYP2D6阻害薬(例: キニジン、パロキセチン、フルオキセチンなど): これらの薬と一緒に服用すると、アリピプラゾールの主要な代謝経路が阻害され、血中濃度が上昇して副作用が出やすくなる可能性があります。
アリピプラゾールの減量が必要になることがあります。 - CYP3A4誘導薬(例: カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシンなど): これらの薬と一緒に服用すると、アリピプラゾールの代謝が促進され、血中濃度が低下して効果が弱まる可能性があります。
アリピプラゾールの増量が必要になることがあります。 - QT延長を起こすことが知られている薬剤: アリピプラゾール自体もQT延長(心電図の変化)を起こす可能性があるため、同様のリスクを持つ薬剤(例: 一部の抗不整脈薬、抗精神病薬、抗菌薬など)との併用は慎重に行う必要があります。
服用中の薬やサプリメント、健康食品などがある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。
服用中の注意点(運転・アルコールなど)
アリピプラゾールを服用中は、日常生活においていくつか注意すべき点があります。
- 自動車の運転、危険な機械の操作: 眠気、注意力・集中力の低下、運動能力の低下などを引き起こす可能性があります。
これらの症状が現れている間は、自動車の運転や危険を伴う機械の操作は避けてください。 - アルコール: アルコールは中枢神経抑制作用を持ちます。
アリピプラゾールと一緒に摂取すると、互いに作用を強め合い、眠気やふらつき、判断力の低下などが強く現れる可能性があります。服用中の飲酒は控えるべきです。 - 高温環境: アリピプラゾールは体温調節を困難にすることがあります。
特に夏場の高温環境下での作業や運動、入浴などでは、脱水や熱中症に注意が必要です。 - 糖尿病の方: 重大な副作用として高血糖が報告されています。
糖尿病の方や糖尿病のリスクがある方(家族に糖尿病患者がいる、肥満など)は、服用中に血糖値の管理に十分注意し、異常がみられたらすぐに医師に相談してください。
服用してはいけない人
以下に該当する方は、原則としてアリピプラゾールを服用することができません(禁忌)。
- アリピプラゾールの成分に対し過敏症の既往歴のある患者: 過去にアリピプラゾールを服用して、アレルギー反応(発疹、かゆみ、息苦しさなど)を起こしたことがある方。
- QT延長のある患者(先天性QT延長症候群等): 心電図のQT間隔が延長している方、またはその既往がある方。
重篤な不整脈(torsades de pointes)を引き起こすリスクを高める可能性があります。 - 高齢者: 高齢者では生理機能(肝臓や腎臓の機能など)が低下していることが多く、薬の排泄が遅れて血中濃度が高くなりやすく、副作用が現れやすい傾向があります。
少量から開始するなど、慎重な投与が必要です。 - 妊娠中または授乳中の女性: 妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。
動物実験で胎児への影響が報告されています。
授乳中の女性が服用する場合、母乳中に移行する可能性があるため、授乳を避けることが推奨されます。
ここに挙げた以外にも、特定の持病がある方などは注意が必要な場合があります。
必ず医師に、ご自身の既往歴、現在治療中の病気、服用中の薬などを正確に伝えてください。
アリピプラゾールの薬価
アリピプラゾールの薬価(薬の公定価格)は、剤形(錠剤、OD錠、内服液、筋注など)や用量によって異なります。
また、先発医薬品であるエビリファイと、ジェネリック医薬品であるアリピプラゾールでは薬価が異なります。
ジェネリック医薬品の方が安価に設定されています。
具体的な薬価は厚生労働省によって定められており、定期的に改定されます。
以下に一般的な薬価の例(2024年6月時点の官報公示価格から抜粋)を示しますが、これは薬剤費のみの価格であり、これに診察料や調剤料などが加算されます。
また、薬局によって請求額が異なる場合があります。
剤形・用量 | 薬価(1単位あたり) | 備考 |
---|---|---|
エビリファイ錠 3mg | 150.9円 | 先発医薬品 |
エビリファイ錠 6mg | 266.5円 | 先発医薬品 |
エビリファイ錠 12mg | 473.8円 | 先発医薬品 |
エビリファイ錠 24mg | 842.2円 | 先発医薬品 |
エビリファイOD錠 3mg | 150.9円 | 先発医薬品(口腔内崩壊錠) |
アリピプラゾール錠 3mg 「△△」 | 64.1円 | ジェネリック医薬品 |
アリピプラゾール錠 6mg 「△△」 | 113.3円 | ジェネリック医薬品 |
アリピプラゾール錠 12mg 「△△」 | 201.1円 | ジェネリック医薬品 |
アリピプラゾール内服液 0.1% | 87.0円/mL | 先発医薬品 |
(※「△△」は製薬会社名が入ります。
ジェネリック医薬品の薬価は各社で多少異なる場合があります。)
精神疾患の治療には、公的な医療費助成制度である自立支援医療(精神通院医療)を利用できる場合があります。
この制度を利用すると、精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担割合が通常3割から原則1割に軽減されます。
アリピプラゾールもこの制度の対象となる薬剤ですので、医療費の負担が大きい場合は、市区町村の窓口や医療機関の相談員に相談してみることをお勧めします。
アリピプラゾールの添付文書情報
アリピプラゾールに関する最も正確で詳細な情報は、医薬品の製造販売元が作成し、厚生労働大臣の承認を得た添付文書に記載されています。
添付文書には、効能・効果、用法・用量、禁忌、副作用、薬物相互作用、薬理作用、使用上の注意などが網羅されています。
医療関係者だけでなく、患者さん自身やご家族も添付文書の一部(患者さん向け情報)や医薬品インタビューフォームなどを参照することで、薬に対する理解を深めることができます。
添付文書や関連情報は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトで公開されています。
「アリピプラゾール」または「エビリファイ」で検索することで、最新の添付文書情報を確認できます。
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA): https://www.pmda.go.jp/
ただし、添付文書は専門的な内容を含むため、記載されている内容で不明な点や不安な点がある場合は、自己判断せず必ず医師や薬剤師に確認するようにしてください。
監修者情報
【免責事項】
本記事は、アリピプラゾールに関する一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや治療法の推奨を行うものではありません。
個々の病状や治療については、必ず医師の診断を受け、医師の指示に従ってください。
本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。
薬の服用に関しては、必ず医療機関にご相談ください。