長引く咳や、なかなか切れない粘り気のある痰(たん)。そんなつらい呼吸器の症状に悩まされている方の中には、漢方薬の「清肺湯(せいはいとう)」を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
清肺湯は、気管支の汚れを取り除き、咳や痰を和らげる効果が期待される伝統的な漢方薬です。しかし、「本当に効果があるの?」「副作用はないの?」といった疑問や不安を感じる方も少なくないでしょう。
この記事では、清肺湯の具体的な効果や作用の仕組み、気になる副作用、正しい飲み方から購入方法まで、専門的な観点から詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、ぜひ最後までご覧ください。
清肺湯は、16種類もの生薬から構成される漢方薬です。その名の通り、「肺を清める」という働きに主眼が置かれています。
漢方医学では、長引く咳や色の濃い粘り気のある痰は、体内に「熱」がこもり、肺が「潤い」を失っている状態(燥熱)と捉えられます。清肺湯は、この肺の熱を冷まし、潤いを与えることで気道の炎症を鎮め、痰を出しやすくする作用があります。
現代では、長年の喫煙や大気汚染などによってダメージを受けた気管支の粘膜を正常化する働きがあると考えられており、慢性的な呼吸器疾患の治療に用いられることがあります。
清肺湯の主要な効果・効能
清肺湯は、特に「痰が絡む咳」に対してその力を発揮します。具体的にどのような仕組みで、どのような症状に効果があるのか見ていきましょう。
咳・痰への作用機序
清肺湯には、主に以下のような働きが期待できます。
- 去痰作用: 気道粘液の分泌を促進し、痰の粘り気を低下させることで、痰を切れやすくします。
- 線毛運動の活性化: 気管支の内側にある線毛の動きを活発にし、痰などの異物を体外へ排出しやすくします。
- 抗炎症作用: 気管支の炎症を抑え、咳の原因を根本から和らげます。
- 滋潤作用: 肺に潤いを与え、乾燥からくる咳を鎮めます。
これらの作用が複合的に働くことで、しつこい咳や痰を改善に導きます。
どのような症状に効果がある?適応症
添付文書によると、清肺湯は「体力中等度で、せきが続き、たんが多くて切れにくいものの次の諸症:たんの多く出るせき、気管支炎」に効果があるとされています。
具体的には、以下のような症状でお悩みの方に適していると言えるでしょう。
- 粘り気が強く、黄色や緑色っぽい痰が出る
- 痰がなかなか切れず、咳が長引いている
- 喫煙習慣があり、咳や痰が気になる
- 風邪をひいた後、咳だけが残ってしまった
清肺湯は効果ない?効果が出るまでの期間目安
「清肺湯を飲んでも効果ない」と感じる場合、いくつかの原因が考えられます。最も多いのは、漢方薬が体質や症状(証)に合っていないケースです。清肺湯は、肺に熱がこもっている状態に適した処方のため、体が冷えているタイプの咳には効果が期待しにくいことがあります。
また、効果を実感できるまでの期間には個人差があります。一般的に、漢方薬は体質をゆっくりと改善していくため、効果が出るまでにはある程度の時間が必要です。
目安としては、まずは2週間〜1ヶ月程度の服用を続けて様子を見るのが一般的です。もし1ヶ月服用しても症状の改善が見られない場合は、薬が合っていない可能性が高いため、服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
清肺湯の組成・全成分
清肺湯は、16種類の生薬が絶妙なバランスで配合されています。それぞれの生薬が持つ役割を理解することで、清肺湯の働きをより深く知ることができます。
各生薬の役割と働き
主な生薬とその働きを以下の表にまとめました。
生薬名(しょうやくめい) | 主な役割 |
---|---|
黄芩(オウゴン) | 肺の熱を冷まし、炎症を抑える(清熱) |
桔梗(キキョウ) | 痰を排出しやすくし、喉の腫れを鎮める(去痰・排膿) |
麦門冬(バクモンドウ) | 肺を潤し、乾いた咳を鎮める(滋潤) |
桑白皮(ソウハクヒ) | 肺の熱を冷まし、咳を止める(清肺止咳) |
杏仁(キョウニン) | 咳や喘息を鎮め、気道を滑らかにする(止咳平喘) |
山梔子(サンシシ) | 体の熱を冷まし、炎症を鎮める(清熱瀉火) |
天門冬(テンモンドウ) | 肺と腎を潤し、咳や痰を和らげる(滋陰潤肺) |
貝母(バイモ) | 痰を切りやすくし、咳を鎮める(化痰止咳) |
陳皮(チンピ) | 気の巡りを良くし、痰を取り除く(理気化痰) |
大棗(タイソウ) | 胃腸の働きを助け、他の生薬を調和させる(補気・緩和薬性) |
竹筎(チクジョ) | 痰を伴う熱を冷ます(清熱化痰) |
茯苓(ブクリョウ) | 体内の余分な水分を排出する(利水滲湿) |
当帰(トウキ) | 血行を促進し、体を潤す(補血活血) |
五味子(ゴミシ) | 咳を鎮め、肺の機能を高める(斂肺止咳) |
生姜(ショウキョウ) | 体を温め、他の生薬の働きを助ける |
甘草(カンゾウ) | 諸薬を調和させ、炎症を緩和する(調和薬性・緩和) |
これらの生薬が協力し合うことで、清肺湯特有の効果が生まれます。
清肺湯の副作用と注意点
漢方薬は自然由来で安全なイメージがありますが、医薬品である以上、副作用のリスクはゼロではありません。清肺湯を服用する際は、以下の点に十分注意してください。
報告されている主な副作用
特に注意すべき重大な副作用として「間質性肺炎」と「肝機能障害」が報告されています。
- 間質性肺炎:
- 初期症状:階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空咳が出る、発熱など。
- これらの症状が急に現れたり、持続したりした場合には、直ちに服用を中止し、医師の診療を受けてください。
- 肝機能障害:
- 初期症状:発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振など。
- このような症状が現れた場合も、すぐに服用を中止し、医師に相談が必要です。
その他、食欲不振、胃部不快感、下痢などの消化器系の副作用や、発疹・発赤、かゆみなどの皮膚症状が現れることがあります。
服用時の禁忌・併用注意
以下に該当する方は、服用前に必ず医師、薬剤師または登録販売者に相談してください。
- 妊婦または妊娠している可能性のある方
- 高齢者
- 医師の治療を受けている方
- 今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある方
- 胃腸が弱く、下痢をしやすい方
- むくみのある方、高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けた方
特に、甘草(カンゾウ)を含む他の漢方薬やグリチルリチン酸を含む製剤との併用は、偽アルドステロン症(手足のだるさ、しびれ、つっぱり感、血圧上昇など)のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
清肺湯の種類とメーカー
清肺湯は、医療用医薬品として処方されるものと、市販薬として薬局などで購入できるものがあります。
順天堂の清肺湯
医療機関で処方される清肺湯として、ツムラやクラシエと並び、順天堂のものも知られています。医師が患者の症状や体質(証)を診断した上で処方するため、より自身の状態に適した漢方治療が受けられるのが特徴です。
小林製薬の清肺湯
市販薬として最も有名なのが、小林製薬の「ダスモック」です。商品名が分かりやすく、CMなどでもおなじみのため、ドラッグストアで手軽に購入できます。「タバコや排気ガスなどで、せき・たんが続く方に」という明確なコンセプトで販売されています。
科學中藥としての清肺湯
「科學中藥(科学漢方)」とは、主に台湾で用いられる言葉で、伝統的な漢方薬を現代の科学技術を用いてエキス顆粒剤や錠剤にしたものです。日本の医療用漢方製剤(エキス剤)とほぼ同義と考えてよいでしょう。台湾のメーカーなどからも清肺湯が製造・販売されています。
清肺湯の正しい服用方法
効果を最大限に引き出し、安全に服用するためには、正しい用法・用量を守ることが重要です。
推奨される服用量とタイミング
一般的に、清肺湯は1日2〜3回、食前または食間(食事と食事の間、食後約2時間後)に服用します。空腹時に服用することで、生薬の成分が効率よく吸収されると考えられているためです。
ただし、製品によって用法・用量は異なりますので、必ず購入した製品のパッケージや説明文書を確認してください。
水で飲むべき?正しい飲み方
エキス顆粒剤の場合は、コップ一杯程度の水または白湯(さゆ)で服用するのが基本です。お茶やジュースなどで飲むと、成分の吸収が妨げられたり、予期せぬ相互作用が起こったりする可能性があるため避けましょう。
顆粒が飲みにくい場合は、少量のお湯で溶いてから飲むと、香りも立ち、飲みやすくなることがあります。
清肺湯の購入場所
清肺湯は、主に以下の3つの方法で購入できます。
薬局・ドラッグストアでの購入
小林製薬の「ダスモック」をはじめとする市販の清肺湯は、薬剤師や登録販売者がいる薬局・ドラッグストアで購入できます。購入時には、現在の症状や他に服用している薬について相談することをおすすめします。
オンライン通販での購入
Amazonや楽天などのオンラインストアでも購入可能です。ただし、第2類医薬品に分類されるため、薬剤師など専門家からの情報提供を受けた上での購入となります。手軽ですが、自身の判断だけでなく、購入前にチャットや電話で薬剤師に相談できるサービスを利用するとより安心です。
医療機関での処方
咳や痰の症状が長引く場合や、他の病気が隠れている可能性が心配な場合は、まず呼吸器内科などの医療機関を受診しましょう。医師の診断の結果、清肺湯が適していると判断されれば、医療用医薬品として処方されます。この場合、健康保険が適用されるため、自己負担額を抑えられるメリットがあります。
清肺湯に関するよくある質問
ここでは、清肺湯に関連してよく寄せられる質問にお答えします。
清肺におすすめの他の漢方薬や食べ物はある?
症状によっては、他の漢方薬が適している場合もあります。
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう): 痰が少なく、コンコンと乾いた咳が続く場合や、喉の乾燥感が強い場合に用いられます。
- 滋陰降火湯(じいんこうかとう): 体力がなく、のぼせや手足のほてりを伴う乾いた咳に使われます。
また、東洋医学では、肺を潤す食材として梨、大根、れんこん、白きくらげ、百合根などが良いとされています。普段の食事にこれらを取り入れるのもおすすめです。
清肺湯食譜とは?
「清肺湯食譜(せいはいとうしょくふ)」という言葉を検索で見かけることがありますが、これは主に中国や台湾で食される薬膳スープのレシピを指すことが多いようです。漢方薬の「清肺湯」とは構成生薬も異なり、別物と考えた方が良いでしょう。
肺の痰を効果的にクリアする方法は?
薬の服用と合わせて、セルフケアも重要です。
- こまめな水分補給: 水分をしっかり摂ることで、痰が柔らかくなり排出しやすくなります。
- 部屋の加湿: 空気が乾燥すると喉や気管支の粘膜も乾燥します。加湿器などを使って適切な湿度(50〜60%)を保ちましょう。
- 禁煙: 喫煙は気管支の炎症を悪化させる最大の要因です。禁煙することが根本的な改善につながります。
まとめ:清肺湯を検討されている方へ
清肺湯は、長引く咳や色のついた粘り気のある痰に対して、優れた効果が期待できる漢方薬です。特に、喫煙歴が長い方や、大気の影響が気になる方の呼吸器症状の改善に役立つ可能性があります。
しかし、体質や症状に合わなければ効果が得られず、まれに重篤な副作用を引き起こすこともあります。
専門家(医師・薬剤師)への相談推奨
市販薬を手軽に試すこともできますが、自己判断で服用を続けるのは禁物です。特に、症状が長引く場合や、息苦しさなどの気になる症状がある場合は、まず医療機関を受診し、適切な診断を受けることが何よりも大切です。
その上で、漢方薬の服用を検討する際は、医師や薬剤師に相談し、ご自身の体質や症状に合った薬を、安全な方法で利用するようにしてください。
免責事項:
この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を代替するものではありません。病状の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。