「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)」は、漢方の古典である『傷寒論(しょうかんろん)』や『金匱要略(きんきようりゃく)』に収載されている歴史のある漢方薬です。
主に、体力があまりなく、めまいや立ちくらみ、動悸、息切れといった症状を抱える方に用いられます。
これらの不調は、自律神経の乱れや体内の水分バランスの崩れ(水滞)と関連が深いと考えられており、苓桂朮甘湯はこれらのバランスを整えることで症状の改善を目指します。
しかし、「一体いつから効果を感じられるのだろうか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
漢方薬の効果が現れる時期には個人差があり、西洋薬のようにすぐに劇的な変化を感じるわけではない場合もあります。
この記事では、苓桂朮甘湯の効果が出始めるまでの期間の目安や、症状別の詳しい解説、作用の仕組み、服用上の注意点などを、SEOライターの視点から分かりやすく解説していきます。
苓桂朮甘湯の効果が出始める期間の目安
漢方薬の効果がいつから感じられるかについては、一概に断言することは難しいですが、一般的には数日から数週間、あるいはそれ以上の期間を要することが多いとされています。
苓桂朮甘湯についても同様で、服用を始めてすぐに劇的な変化を感じる人もいれば、じわじわと時間をかけて効果を実感する人、しばらく経ってからようやく変化に気づく人もいます。
効果が現れるまでの期間に差が出る主な要因としては、服用する人の体質(証)、抱えている症状の種類や程度、症状が出始めてからの期間(急性か慢性か)、他の病気の有無、日々の生活習慣、そして正確な服用方法などが挙げられます。
例えば、比較的軽度な症状であれば比較的早く効果を感じやすい傾向がありますが、長年続く慢性的な症状や、複数の要因が絡み合っているような症状の場合には、より時間がかかることがあります。
また、効果の感じ方も人それぞれです。
めまいの頻度が少し減った、動悸が少し和らいだ、といった小さな変化から気づくこともあれば、なんとなく体調が良いと感じるようになった、以前より心持ちが楽になった、といった漠然とした体調の変化として現れることもあります。
そのため、「効果が出たかどうか」を判断する際には、具体的な症状の変化だけでなく、全体的な心身の状態にも注意を払うことが大切です。
苓桂朮甘湯に即効性はある?
「即効性」という言葉が指す意味合いは様々ですが、例えば頭痛薬を飲んだら数十分で痛みが和らぐ、といったような劇的で素早い効果を苓桂朮甘湯に期待することは一般的には難しいでしょう。
漢方薬は、体のバランスを根本から整えることで症状の改善を目指すものが多く、西洋薬のように特定の原因物質を直接的に抑えたり、症状を速やかに抑制したりする作用とは性質が異なります。
苓桂朮甘湯も例外ではなく、その作用は比較的穏やかで、体の内側から体質を改善していくようなイメージです。
そのため、服用して数時間後や翌日には症状が完全に消えている、といった即効性は通常期待されません。
しかし、全く効果がすぐに現れないかというと、そうとも限りません。
体質や症状の種類によっては、服用を開始して数日以内に症状の軽減や体調の変化を感じ始める方もいらっしゃいます。
特に、体内の水分バランスの乱れや気の巡りの停滞といった、苓桂朮甘湯が得意とする「証」にぴったり合っている場合には、比較的早期に変化を実感しやすい可能性もあります。
重要なのは、「即効性がないから効かない」と早計に判断せず、ある程度の期間、指示された通りに継続して服用してみることです。
多くの漢方薬の効果は、ある程度の期間継続して服用することでじっくりと現れてくるものです。
症状ごとの効果と現れるまでの期間
苓桂朮甘湯は様々な症状に用いられますが、それぞれの症状に対して効果が期待できるメカニズムや、効果が現れるまでの期間の目安は異なります。
ここでは、代表的な症状について詳しく見ていきましょう。
めまい・立ちくらみ
めまいや立ちくらみは、苓桂朮甘湯が最も頻繁に用いられる症状の一つです。
これらの症状は、体内の水分が滞る「水滞(すいたい)」や、気の巡りが乱れて逆流する「気逆(きぎゃく)」といった東洋医学的な病態が関わっていると考えられています。
苓桂朮甘湯は、配合されている生薬の働きによって、体内の水分代謝を改善し、滞った水分を排出するのを助け、気の巡りをスムーズにすることで、めまいや立ちくらみの原因となるこれらの病態を改善に導きます。
効果が現れるまでの期間には個人差がありますが、比較的早期に効果を感じ始める方もいらっしゃる症状です。
数日から1週間程度で、めまいの頻度が減った、程度が軽くなった、立ちくらみが起こりにくくなった、といった変化を実感するケースもあります。
しかし、症状の重さや慢性化している期間によっては、効果を実感するまでに数週間かかることもあります。
めまいや立ちくらみが頻繁に起こる、日常生活に支障が出ているといった場合には、根気強く服用を続けることが大切です。
動悸・息切れ
動悸や息切れも、苓桂朮甘湯の重要な適応症状です。
これらの症状は、精神的な緊張や不安、あるいは体内の水分バランスの乱れが心臓に負担をかけることによって生じると考えられる場合があります。
苓桂朮甘湯は、心の緊張を和らげたり、体内の余分な水分を取り除くことで心臓への負担を軽減したりといった作用が期待されます。
また、気の巡りを整えることで、心身のバランスを回復させることにもつながります。
動悸や息切れに対する効果が現れるまでの期間も個人差がありますが、精神的な要因が強い場合には、比較的早く心の落ち着きを感じることで動悸が軽減するといった変化が現れることもあります。
一方で、体質的な問題が根底にある場合には、効果を実感するまでに数週間を要することもあります。
特に、少し動くだけで息切れする、安静時にも動悸するというような症状の場合には、じっくりと体質改善に取り組む姿勢が必要です。
頭痛
苓桂朮甘湯は、全ての頭痛に効果があるわけではありません。
主に、体内の水分代謝の異常や気の巡りの停滞によって引き起こされるタイプの頭痛、例えば雨の日や湿気の多い日に悪化する頭痛、頭が重く感じられる頭痛、めまいや吐き気を伴う頭痛などに用いられることがあります。
これは、苓桂朮甘湯が水滞や気逆を改善する作用を持つためです。
頭痛に対する効果が現れるまでの期間は、頭痛の原因や体質によって大きく異なります。
比較的早く効果を感じる場合もあれば、他の症状(めまいなど)よりも時間がかかる場合もあります。
数週間から1ヶ月程度服用を続けてみて、頭痛の頻度や程度に変化があるかを確認することが一つの目安となるでしょう。
効果がない場合は、頭痛の原因が苓桂朮甘湯の適応外である可能性も考えられるため、医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
自律神経の乱れ・神経質
苓桂朮甘湯は、「神経症」という効能・効果も持っています。
これは、自律神経の乱れによって生じる様々な心身の不調や、精神的な緊張、不安、イライラといった神経過敏な状態にも効果が期待できることを示しています。
苓桂朮甘湯に含まれる生薬には、精神を安定させたり、気の滞りを解消したりする働きがあると考えられています。
自律神経の乱れや神経質といった症状は、体質や環境要因など様々な要素が複雑に絡み合っていることが多いため、効果を実感するまでに比較的時間がかかる傾向があります。
効果が現れるまでの目安としては、数週間から1ヶ月、あるいはそれ以上の期間を要することが一般的です。
すぐに劇的な変化が見られなくても、根気強く服用を続けることで、徐々に精神的な落ち着きが得られたり、体調が安定してきたりする可能性があります。
起立性調節障害
起立性調節障害は、立ち上がったときにめまいや立ちくらみ、動悸、吐き気、倦怠感などの症状が現れる自律神経の機能障害の一つです。
特に思春期の子どもに多く見られます。
苓桂朮甘湯は、起立性調節障害の主要な症状であるめまいや立ちくらみ、動悸などに対応するため、治療薬の一つとして検討されることがあります。
これは、苓桂朮甘湯が体内の水分バランスや気の巡りを整え、自律神経の働きを調整する作用が期待されるためです。
起立性調節障害に対する効果が現れるまでの期間は、個人差が大きい症状です。
数週間で効果を感じ始めるお子さんもいれば、数ヶ月単位での継続的な服用が必要になる場合もあります。
西洋薬と併用されることもあり、漢方薬だけで症状が完全に消失しなくても、他の治療法と組み合わせることで相乗効果が期待できる場合もあります。
長期的な視点で、じっくりと体質改善を目指していくことが重要です。
苓桂朮甘湯の主な効能・効果とは
厚生労働省が承認している苓桂朮甘湯の効能又は効果は以下の通りです。
「体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、神経症」
この記載からわかるように、苓桂朮甘湯は、比較的体力がなく(体力中等度以下)、特定の症状(めまい、ふらつき、のぼせ、動悸)を伴う場合に用いられる漢方薬です。
ここでいう「体力中等度以下」とは、体力が極端にある人やない人というよりは、全体的な体力が標準よりやや低い、あるいは普通程度の人を指すことが多いです。
主な効能・効果をさらに詳しく見てみると、以下の点が挙げられます。
- めまい・立ちくらみ・ふらつきの改善: 体内の余分な水分を取り除き、水分バランスを整えることで、内耳のリンパ液の異常や脳への血流不足などによるめまいや立ちくらみを和らげます。また、気の巡りを改善することで、頭部の不調を軽減します。
- 動悸・息切れの軽減: 精神的な緊張を和らげたり、心臓への負担を軽減したりすることで、動悸や息切れを落ち着かせます。
- 神経症への対応: 自律神経の乱れや精神的な不安、緊張を和らげ、心身のバランスを整えることで、神経症に伴う様々な症状(イライラ、不眠、ゆううつ感など)の改善を目指します。
これらの症状は単独で現れることもありますが、複合的に生じることが多いため、苓桂朮甘湯はこれらの関連症状をまとめて改善するのに役立つと考えられています。
どのような人が苓桂朮甘湯に向いている?
苓桂朮甘湯は、誰にでも合う漢方薬ではありません。
漢方薬を選ぶ際には、その人の体質や症状の状態(これを「証(しょう)」といいます)に合っているかどうかが非常に重要です。
苓桂朮甘湯が向いている人の特徴は、前述の効能・効果の項目にも記載されている通り、「体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸がある」という「証」に当てはまる人です。
具体的には、以下のような特徴を持つ方に適していると考えられます。
- 体力がそれほどない、または普通程度の人: 体力が極端に充実しているというよりは、疲れやすい、病気からの回復に時間がかかる、といった傾向がある人に向いています。
- めまいや立ちくらみを頻繁に感じる人: 特に、ふわふわするようなめまい、立ち上がったときにクラッとする立ちくらみ、船に乗っているような浮動性のめまいなどに悩まされている人に適しています。
- 動悸や息切れを感じやすい人: 少しの労作で動悸がする、あるいは安静時にも動悸を感じやすいといった人に用いられます。精神的な緊張や不安からくる動悸にも使われることがあります。
- 頭が重い、すっきりしないと感じることが多い人: 頭部の血液や水分の巡りが滞っていることによる、重圧感のある頭痛や頭重感に効果が期待できます。
- 神経質で不安を感じやすい人: ちょっとしたことで動揺しやすい、緊張しやすい、眠りが浅いといった精神的な不安定さを抱えている人にも適応となることがあります。
- 体内に余分な水分が溜まっている傾向がある人(水滞の傾向): むくみやすい、舌に白い苔が多くつく、体が重く感じるといった水滞の兆候が見られる人に合うことが多いです。
これらの特徴に複数当てはまる場合、苓桂朮甘湯が体質や症状に合っている可能性が高いと考えられます。
ただし、自己判断で決めつけず、医師や薬剤師などの専門家に相談し、「証」を見極めてもらうことが最も重要です。
苓桂朮甘湯の作用機序(なぜ効くのか)
苓桂朮甘湯がなぜめまいや動悸、神経症といった症状に効果を発揮するのか、そのメカニズムは配合されている4つの生薬の働きにあります。
- 茯苓(ブクリョウ): マツホドというキノコの菌核を乾燥させた生薬です。利水滲湿(りすいしんしつ)という働きがあり、体内の余分な水分を尿として排出し、水分代謝を改善する作用があります。また、健脾(けんぴ)といって胃腸の働きを助けたり、寧心安神(ねいしんあんしん)といって精神を落ち着かせたりする作用も持つとされています。めまいやむくみ、動悸、不眠などに関わります。
- 桂枝(ケイシ): シナモンの仲間であるケイの若枝を乾燥させた生薬です。温経通絡(うんけいつうらく)といって体を温めて血行や気の巡りを良くする作用や、解表散寒(げひょうさんかん)といって体の表面の冷えを発散させる作用があります。また、気の逆流(気逆)を鎮める働きも持ちます。のぼせや動悸、頭痛、気の滞りなどに関わります。
- 白朮(ビャクジュツ): オオバナオケラなどの根茎を乾燥させた生薬です。健脾益気(けんぴえっき)といって胃腸の働きを高めて消化吸収を助け、全身のエネルギー(気)を補う作用があります。また、燥湿利水(そうしつりすい)といって体内の余分な水分を取り除く作用もあります。消化不良や食欲不振、倦怠感、むくみ、めまいなどに関わります。
- 甘草(カンゾウ): マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させた生薬です。補気健脾(ほきけんぴ)といって気を補い胃腸を助ける作用や、潤肺止咳(じゅんぱいしがい)といって肺を潤して咳を鎮める作用、緩急止痛(かんきゅうしつう)といって筋肉の緊張を和らげ痛みを鎮める作用など、幅広い薬効を持ちます。また、他の生薬の働きを調和させる作用(調和諸薬:ちょうわしょやく)もあります。胃腸の不調や痛みの緩和、精神的な安定などに関わります。
これらの生薬が組み合わさることで、苓桂朮甘湯は主に以下のメカニズムで効果を発揮すると考えられています。
- 体内の水分バランスの調整: 茯苓と白朮の働きにより、体内の余分な水分を排出し、むくみやめまい、頭重感の原因となる「水滞」を改善します。
- 気の巡りの改善と鎮静: 桂枝が気の滞りや逆流を改善し、茯苓や甘草が精神を安定させることで、動悸や息切れ、神経過敏といった症状を和らげます。
- 胃腸機能の向上: 白朮や甘草が胃腸の働きを助けることで、消化吸収を促進し、全身の状態を整えます。
これらの複合的な作用によって、体質的なアンバランスを改善し、めまいや動悸、神経症といった不調を根本から和らげることを目指すのが苓桂朮甘湯の作用機序です。
苓桂朮甘湯と似た漢方薬(五苓散など)との違い
苓桂朮甘湯と同じく、体内の水分代謝を改善する目的で用いられる漢方薬に「五苓散(ごれいさん)」があります。
どちらも「水滞」を改善する薬ですが、その適応や得意とする症状には違いがあります。
漢方薬名 | 主な構成生薬 | 主な効能・効果 | 適応となる「証」の特徴 |
---|---|---|---|
苓桂朮甘湯 | 茯苓、桂枝、白朮、甘草 | めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、神経症 | 体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるもの。慢性的なめまいや精神的な不調に用いられることが多い。 |
五苓散 | 茯苓、沢瀉、猪苓、白朮、桂皮(または桂枝) | 口渇、尿量減少、むくみ、めまい、頭痛、吐き気、二日酔い、水様性下痢、嘔吐、急性胃腸炎、暑気あたり、浮腫、ネフローゼ、湿疹 | 体力に関わらず使用でき、口渇があり、尿量が少ないもの。急性の水滞による症状(下痢、嘔吐、むくみなど)や、二日酔い、暑気あたりなど、比較的急性の症状に用いられることが多い。 |
このように、苓桂朮甘湯と五苓散はどちらも茯苓と白朮を含み水分代謝を改善する作用を持ちますが、他の構成生薬が異なります。
五苓散に含まれる沢瀉(たくしゃ)と猪苓(ちょれい)は、茯苓と同様に強力な利水作用を持ち、桂皮(または桂枝)がこれを助けます。
このため五苓散は、急性の水滞による症状、例えば水様性の下痢や嘔吐、二日酔いによる吐き気や頭痛、急性のむくみなどに用いられることが多いです。
口が渇くのに尿量が少ない、といった特徴的な症状によく合います。
一方、苓桂朮甘湯は、茯苓、白朮に加え、桂枝と甘草を含みます。
桂枝は気を巡らせ、精神を安定させる作用も持ち、甘草は全体の調和や精神的な安定に寄与します。
このため、苓桂朮甘湯は、慢性的なめまいや動悸、そして神経症といった精神的な不調を伴う症状に用いられることが多いのが特徴です。
体力がそれほどない人に向いている点も五苓散との違いです。
したがって、めまい一つをとっても、急性の水分過剰が原因で吐き気などを強く伴う場合には五苓散が適している可能性がありますが、慢性的なめまいやふらつきがあり、精神的な不安や動悸を伴う場合には苓桂朮甘湯がより適していると考えられます。
どちらの漢方薬が適しているかは、専門家が「証」を詳しく判断して決定します。
自己判断で選ばず、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
苓桂朮甘湯の副作用と注意点
漢方薬は一般的に副作用が少ないとされていますが、全くないわけではありません。
苓桂朮甘湯にも副作用や服用上の注意点があります。
主な副作用:
比較的起こりやすい副作用としては、以下のようなものが挙げられます。
- 消化器系の不調: 胃部不快感、食欲不振、吐き気、下痢などが起こることがあります。これは体質に合わない場合や、胃腸が弱い方に起こりやすい傾向があります。
注意が必要な副作用(まれに起こる可能性):
まれではありますが、以下のような重篤な副作用が起こる可能性もゼロではありません。
異変を感じたらすぐに服用を中止し、医師の診察を受けてください。
- 偽アルドステロン症: 甘草という生薬の大量摂取や長期服用によって起こる可能性のある副作用です。体内にナトリウムと水分が溜まりやすくなり、カリウムが排出されやすくなることで、以下のような症状が現れます。
- むくみ(特に手足や顔)
- 血圧の上昇
- 手足のだるさ、しびれ
- こむら返り
- 脱力感
- 頭痛
これらの症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師に相談が必要です。
- ミオパチー: 偽アルドステロン症が進行すると、筋肉の障害であるミオパチー(横紋筋融解症)に移行することがあります。手足の脱力感、筋肉痛などがより顕著になります。
- 肝機能障害、黄疸: だるさ、食欲不振、発熱、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などの症状が現れることがあります。
- 間質性肺炎: 息切れ、息苦しさ、から咳、発熱などの症状が現れることがあります。
服用上の注意点:
- 医師や薬剤師への相談: 持病がある方、現在他の薬(特に甘草を含む他の漢方薬や、降圧剤など)を服用している方、アレルギー体質の方、高齢者、妊婦または妊娠している可能性のある方、授乳中の方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談してください。
- 用法・用量を守る: 指示された用法・用量を正しく守って服用することが重要です。自己判断で量を増やしたり、頻繁に服用したりしないでください。
- 効果が出ない場合: 1ヶ月程度服用しても症状の改善が見られない場合は、体質や症状に合っていない、あるいは他の病気が隠れている可能性が考えられます。漫然と服用を続けず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
- アレルギー症状: 発疹やかゆみなどのアレルギー症状が出た場合は、すぐに服用を中止してください。
漢方薬は自然由来の生薬からできていますが、薬であることに変わりはありません。
安全性のためにも、必ず専門家のアドバイスを受けて正しく使用しましょう。
苓桂朮甘湯を飲み続けることについて
苓桂朮甘湯は、慢性的なめまいや動悸、自律神経の乱れに伴う症状に対して用いられることが多いため、効果を維持するためにはある程度の期間、継続して服用が必要になる場合があります。
特に、体質改善を目指す場合には、数ヶ月単位での服用が必要になることも珍しくありません。
継続して服用すること自体は、症状が改善に向かい、体質が安定する上で重要なプロセスです。
しかし、漫然と長期間服用し続けるのではなく、定期的に医師の診察を受けることが推奨されます。
長期服用する際の主なポイントは以下の通りです。
- 効果の確認: 定期的に医師や薬剤師と相談し、症状の改善状況を確認しましょう。効果が十分に得られているか、あるいは変化がないかなどを共有することで、今後の治療方針を検討することができます。
- 副作用のモニタリング: 特に甘草による偽アルドステロン症などの副作用が現れていないか、注意深く観察が必要です。むくみや血圧の変化、手足のだるさなどに気づいたら、すぐに医療機関に連絡しましょう。定期的な診察時には、これらの点について医師から確認がある場合もあります。
- 減量や中止の検討: 症状が十分に改善し、体質が安定してきたと判断された場合は、医師の指示のもと、徐々に服用量を減らしたり、中止したりすることを検討します。自己判断で急に中止すると、症状が再発する可能性もあります。
- 他の治療法との組み合わせ: 症状によっては、苓桂朮甘湯だけでなく、他の治療法(運動療法、生活習慣の改善、他の薬など)と組み合わせて行うことで、より効果的な場合もあります。
苓桂朮甘湯の継続服用は、体質改善という長期的な視点で行われます。
ご自身の判断だけでなく、必ず専門家と相談しながら、適切に進めていくことが重要です。
1ヶ月程度服用しても効果がない場合は?
苓桂朮甘湯を1ヶ月程度、指示された通りに服用しても、症状の改善が全く見られない、あるいは悪化していると感じる場合は、いくつかの可能性が考えられます。
このような状況では、漫然と服用を続けるのではなく、必ず医師や薬剤師に相談することが非常に重要です。
効果が見られない場合に考えられる可能性としては、以下のような点が挙げられます。
- 「証」が合っていない: 漢方薬は、その人の体質や症状の状態である「証」に合っていないと、十分な効果が得られません。苓桂朮甘湯の適応である「体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸がある」という「証」に、実際には合っていない可能性があります。例えば、めまいが他の全く異なる原因(例えば脳の病気や耳の病気など)によるものであったり、体力が非常に充実している「実証」タイプであったりする場合には、苓桂朮甘湯は適さないと考えられます。
- 症状の原因が漢方薬の適応外である: 苓桂朮甘湯で対応できる症状の範囲を超えた、他の深刻な病気が原因で症状が出ている可能性があります。例えば、めまいが脳腫瘍や脳梗塞の初期症状である場合、動悸が重い心臓病によるものである場合などです。
- 服用方法が間違っている: 用法・用量を守れていない、食前や食間といった指示通りのタイミングで服用できていないなど、服用方法が適切でないために効果が得られていない可能性も考えられます。
- 他の薬やサプリメントとの相互作用: 併用している他の薬やサプリメントが、苓桂朮甘湯の効果を妨げている可能性があります。
- 生活習慣の問題: 睡眠不足、過度なストレス、不規則な食生活など、日々の生活習慣の乱れが症状を悪化させ、薬の効果を打ち消してしまっている可能性もあります。
効果がないと感じた場合は、まずは服用方法を再確認し、医師や薬剤師に正確に伝えましょう。
その上で、専門家は「証」の再確認、他の漢方薬への変更、西洋薬による治療への切り替え、あるいは症状の根本原因を特定するための精密検査(血液検査、画像検査など)の必要性などを検討します。
自己判断で服用量を増やしたり、他の漢方薬を試したりすることは危険ですので絶対に避けましょう。
苓桂朮甘湯に関するよくある質問
苓桂朮甘湯について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
体力がない人でも大丈夫?
はい、体力がない人でも大丈夫です。
むしろ、苓桂朮甘湯は「体力中等度以下」の人が適応となる漢方薬です。
これは、体力が極端にある人よりも、全体的な体力が標準よりやや低い、あるいは普通程度の人に向いているという意味です。
疲れやすい、病気からの回復が遅いといった傾向がある人でも安心して服用できる場合があります。
ただし、極端に衰弱しているなど、体力があまりにもない場合には別の漢方薬が適していることもありますので、必ず医師や薬剤師に相談してください。
朝起きれない症状に効く?
朝起きれない症状は、様々な原因(睡眠障害、精神的な問題、起立性調節障害など)が考えられます。
もし朝起きれない原因が、起立性調節障害や自律神経の乱れ、あるいはそれに伴うめまい、立ちくらみ、倦怠感などと関連がある場合には、苓桂朮甘湯が効果を発揮する可能性があります。
特に、朝起き上がろうとするとめまいや立ちくらみがひどく、体がだるくて起きられない、といった症状には有効な場合があります。
しかし、全ての朝起きれない症状に効くわけではありません。
原因によっては他の治療法が必要になることもありますので、まずは医療機関を受診して正確な診断を受けることが重要です。
セロトニンとの関連性は?
セロトニンは脳内の神経伝達物質の一つで、気分や精神状態、睡眠、食欲など様々な生理機能に関与しており、「幸せホルモン」とも呼ばれます。
うつ病や不安障害などの精神疾患との関連が指摘されています。
苓桂朮甘湯が直接的にセロトニンの分泌を促進したり、セロトニンの働きを直接的に調整したりするという明確な科学的根拠や臨床データは、現時点では十分に確立されていません。
漢方医学の考え方は、特定の神経伝達物質に着目するというよりは、全身の「気・血・水」のバランスや臓腑の働きを整えるという全体論的なアプローチをとります。
しかし、苓桂朮甘湯が精神的な緊張や不安を和らげ、自律神経のバランスを整える作用を持つことは、間接的に脳内の神経伝達物質のバランスに良い影響を与える可能性は考えられます。
心身の状態が安定することで、セロトニンを含む様々な神経伝達物質の働きがスムーズになるという側面はあるかもしれません。
現時点では、苓桂朮甘湯がセロトニンに直接作用するとは断言できませんが、精神的な不調に対して漢方薬が有効な場合があることは広く認識されています。
【まとめ】
苓桂朮甘湯は、体力中等度以下で、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、神経症といった症状を持つ方に広く用いられる漢方薬です。
これらの症状は、体内の水分バランスの乱れや気の巡りの滞り、自律神経の不調などが原因で生じると考えられており、苓桂朮甘湯はこれらの体質的なアンバランスを整えることで、症状の改善を目指します。
苓桂朮甘湯の効果がいつから感じられるかについては、服用する人の体質や症状の程度、症状の慢性化の度合いなどによって個人差が大きく、一概に断言することはできません。
西洋薬のような劇的な即効性は通常期待できませんが、数日から数週間、あるいはそれ以上の期間をかけて、徐々に効果を実感していくことが多いです。
めまいなどの症状によっては比較的早く変化を感じる場合もありますが、自律神経の乱れに伴う精神的な不調などには、より長期的な服用が必要となる傾向があります。
もし1ヶ月程度服用を続けても効果が見られない場合は、体質や症状に合っていない可能性、あるいは他の病気が隠れている可能性も考えられます。
このような場合には、漫然と服用を続けるのではなく、必ず医師や薬剤師に相談し、改めて診断を受けることが重要です。
苓桂朮甘湯には偽アルドステロン症などの副作用がまれに起こる可能性もあります。
安全に正しく服用するためにも、必ず医師や薬剤師の診断のもと、ご自身の「証」に合った漢方薬を、指示された用法・用量を守って服用することが大切です。
専門家のアドバイスを受けながら、根気強く体質改善に取り組むことで、つらい症状の緩和が期待できるでしょう。
【免責事項】
この記事は情報提供を目的としており、医療行為や医師の診断に代わるものではありません。
ご自身の症状や健康状態については、必ず医師や薬剤師などの専門家にご相談ください。
この記事の情報に基づいて自己判断で治療を行うことはおやめください。