高血圧は、自覚症状がないまま進行し、脳卒中や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こすリスクを高める「サイレントキラー」と呼ばれています。
その治療の中心となるのが、血圧を下げる降圧薬です。
数ある降圧薬の中でも、広く使われているのが「バルサルタン」です。
バルサルタンは、アンジオテンシンIIという体内で血圧を上げる物質の働きを抑えることで、効果的に血圧をコントロールします。
しかし、インターネット上では「バルサルタンはやばい」といった情報も見かけられ、安全性について不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、バルサルタンの効果や作用機序、副作用、ジェネリック医薬品、そして服用上の注意点などを詳しく解説し、皆様が安心してバルサルタンによる治療に臨めるよう、正確な情報を提供します。
バルサルタンとは?効果と作用機序
高血圧は、心臓から送り出される血液の量が多かったり、血管が狭まったり硬くなったりすることで、血管にかかる圧力が慢性的に高くなった状態を指します。
この状態が続くと、血管や臓器に大きな負担がかかり、様々な合併症を引き起こす原因となります。
バルサルタンは、この高くなった血圧を適切にコントロールするために使用されるお薬です。
有効成分は「バルサルタン」で、主に高血圧症の治療に用いられます。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)としての特徴
バルサルタンは、「アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)」という種類の薬剤に分類されます。
体の中には「レニン・アンジオテンシン系」と呼ばれる血圧を調節するシステムがあります。
このシステムの中で、「アンジオテンシンI」から変化してできる「アンジオテンシンII」という物質が、血圧を上げる主要な役割を果たしています。
アンジオテンシンIIは、以下の二つの主な働きで血圧を上昇させます。
- 血管を収縮させる作用: 血管の壁にある特定の受容体(アンジオテンシンII受容体)に結合することで、血管をキュッと締め付け、血圧を上昇させます。
- アルドステロンの分泌を促す作用: 副腎皮質からのアルドステロンというホルモンの分泌を増やします。
アルドステロンは体内の水分や塩分を保持する働きがあり、これにより血液量が増加し、結果として血圧が上昇します。
バルサルタンは、このアンジオテンシンIIが血管などの受容体に結合するのをブロックする働きを持っています。
例えるなら、鍵穴(受容体)に間違った鍵(バルサルタン)を差し込むことで、正しい鍵(アンジオテンシンII)が差し込めなくなり、ドア(血管収縮やアルドステロン分泌)が開かなくなる、といったイメージです。
アンジオテンシンIIの働きが抑えられると、血管は拡張し、体内の余分な水分や塩分が排泄されやすくなります。
これにより、血圧が穏やかに低下していくのです。
ARBは、レニン・アンジオテンシン系の比較的下流で作用するため、他の系統への影響が少なく、副作用が比較的少ないとされています。
また、アンジオテンシンIIが関わる心臓や腎臓の線維化(硬くなること)を抑制する効果も期待されており、長期的な臓器保護作用も注目されています。
バルサルタンの主な効果:高血圧治療
バルサルタンの最も主要な適応症は「高血圧症」です。
様々な原因で高くなった血圧を、上記の作用機序によって効果的に低下させます。
高血圧は放置すると、心臓病、脳卒中、腎臓病などの重篤な疾患のリスクを高めるため、バルサルタンによる適切な血圧管理は、これらの合併症を予防するために非常に重要です。
バルサルタンによる降圧効果は、通常、服用を開始してから数日~数週間で現れ始め、安定した効果が得られるまでには数週間を要することが多いです。
一般的には1日1回の服用で24時間効果が持続するため、血圧を安定した状態に保ちやすいというメリットがあります。
効果の発現には個人差があり、目標血圧に達するまでには医師との相談の下、用量調整が必要となる場合があります。
心不全、腎臓病への効果(適応がある場合)
バルサルタンは、高血圧治療薬としてだけでなく、特定の心疾患や腎臓病に対しても有効性が確認され、適応を持つ場合があります。
- 心不全: 心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる状態です。
心不全では、レニン・アンジオテンシン系が過剰に活性化し、血管が収縮したり体液が貯留したりして、心臓にさらに負担をかけてしまいます。
バルサルタンは、アンジオテンシンIIの働きを抑えることで、血管抵抗を減らし、心臓の負荷を軽減する効果が期待できます。
これにより、心不全の症状(息切れ、むくみなど)の改善や、病状の進行抑制に貢献する可能性があります。
バルサルタンは、心不全の治療ガイドラインにおいても重要な薬剤の一つとされています。
特に、左心室の機能が低下した心不全患者さんに対して、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の抑制効果や予後改善効果が報告されています。 - 腎臓病: 高血圧は腎臓病の大きな原因の一つであり、また腎臓病は高血圧を悪化させるという悪循環を生むことがあります。
バルサルタンは、腎臓内の血管(特に輸出細動脈)を拡張させる作用があり、これにより腎臓への血流を改善し、腎臓にかかる圧力を低下させる効果が期待できます。
特に、糖尿病性腎症など、タンパク尿を伴う腎臓病において、タンパク尿を減少させ、腎機能の低下を遅らせる効果が報告されています。
これは、バルサルタンが腎臓にかかる物理的な負担(糸球体過剰濾過圧)を軽減する作用によるものと考えられています。
バルサルタンによる適切な血圧管理と腎臓への負担軽減は、腎臓病の進行を抑制する上で重要な役割を果たします。
これらの疾患に対するバルサルタンの使用は、高血圧治療の場合と同様に、必ず医師の診断に基づき、患者さんの病状や他の治療との兼ね合いを考慮して決定されます。
自己判断でこれらの目的でバルサルタンを服用することはできません。
バルサルタンの副作用と安全性
どのようなお薬にも、効果がある一方で副作用のリスクはつきものです。
バルサルタンも例外ではありません。
インターネット上で「バルサルタンはやばい」といった情報を見かけることがあり、服用に不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これらの情報の真偽を正しく理解し、過度に恐れる必要はありません。
バルサルタンの副作用は、比較的起こりやすい軽度なものから、まれではあるものの注意が必要な重大なものまで様々です。
ここでは、バルサルタンの副作用について詳しく解説します。
発生しやすい副作用
バルサルタンを服用した際に比較的多く見られる副作用には、以下のようなものがあります。
これらは一般的に軽度であり、多くの場合、体が薬に慣れてくるにつれて軽減したり、消失したりします。
- めまい、ふらつき: 血圧が低下することによって起こりやすくなります。
特に服用初期や立ち上がる際に感じることがあります。
急激な動作を避け、ゆっくりと立ち上がるように心がけましょう。
車の運転や高所での作業など、危険を伴う作業を行う際は十分な注意が必要です。 - 頭痛: 血圧の変化に伴って頭痛が生じることがあります。
市販の頭痛薬との飲み合わせについては医師や薬剤師に相談してください。 - 倦怠感: 体がだるく感じることがあります。
- 発疹、かゆみ: アレルギー反応として皮膚症状が出ることがあります。
もし症状が続く場合は、医師に相談してください。 - 咳: ACE阻害薬に比べてバルサルタンを含むARBでは明らかに少ない頻度ですが、まれに乾いた咳(痰を伴わないコンコンという咳)が出ることがあります。
- 胃部不快感、吐き気: 消化器系の不調を感じることがあります。
これらの副作用が現れた場合でも、多くは心配のないものですが、症状が重い場合や長く続く場合は、自己判断せずに必ず医師や薬剤師に相談してください。
症状によっては、用量調整や他の薬剤への変更が検討されます。
知っておくべき重大な副作用「やばい?」の真偽
「バルサルタンはやばい」という情報が流れる背景には、バルサルタンの服用によって、まれに重篤な副作用が発生する可能性があることが関係しています。
しかし、「やばい」という表現は非常に曖昧であり、その発生頻度や対処法を正しく理解することが重要です。
確かに重篤な副作用は起こり得ますが、その頻度は極めて低く、適切に管理すれば過度に恐れる必要はありません。
以下に、バルサルタンで報告されている、特に注意が必要な重大な副作用について説明します。
これらの副作用は添付文書に記載されており、医療従事者はその可能性を認識して患者さんの状態を観察しています。
間質性肺炎
肺の組織(間質)に炎症が起こる病気です。
バルサルタンによる間質性肺炎の発生頻度は不明(非常にまれ)とされていますが、他のARBクラスでも報告されています。
- 症状: 乾いた咳(痰を伴わない)、息切れ(労作時や安静時)、呼吸困難、発熱など。
進行すると呼吸不全に至る可能性があります。 - 注意点: これらの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診し、医師にバルサルタンを服用していることを伝えてください。
胸部X線検査やCT検査などで診断されます。
早期発見、早期治療(薬剤の中止やステロイド療法など)が重要です。
血管浮腫
顔面、唇、舌、のど、手足などが突然腫れ上がる症状です。
特に、のどの奥や舌が腫れると、気道を閉塞し、呼吸が困難になる危険性があるため、緊急性の高い副作用です。
バルサルタンにおける血管浮腫の発生頻度はまれ(0.1%未満)ですが、ACE阻害薬を服用したことがある人ではリスクが高まる可能性があります。
- 症状: 顔や唇の急な腫れ、まぶたの腫れ、舌やのどの違和感や腫れ、声枯れ、息苦しさなど。
- 注意点: 血管浮腫の症状が現れた場合は、直ちに薬の服用を中止し、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診してください。
過去にACE阻害薬で血管浮腫を起こしたことがある人は、バルサルタンでも起こる可能性があるため、必ず医師にその旨を伝えてください。
高カリウム血症
血液中のカリウム濃度が高くなる状態です。
バルサルタンは、アルドステロンの分泌を抑制する作用により、体外へのカリウム排泄を減少させる傾向があるため、高カリウム血症を引き起こす可能性があります。
健康な人では問題になりにくいですが、腎機能が低下している方や、カリウムを多く含む薬剤(カリウム保持性利尿薬など)を併用している場合に起こりやすくなります。
頻度はまれ(0.1%未満)です。
- 症状: 手足のしびれ、筋力低下、全身倦怠感、不整脈(動悸、息切れ)、吐き気など。
初期には自覚症状がないことも多く、健康診断などで偶然発見されることもあります。 - 注意点: 重症化すると生命に関わる重篤な不整脈(致死性不整脈)を引き起こすことがあります。
腎機能障害がある方や特定の薬剤を併用している方は、定期的な血液検査でカリウム値をチェックすることが重要です。
症状が出た場合は、速やかに医師に相談してください。
腎機能障害
バルサルタンは特定の腎臓病に有効な一方で、腎機能が低下している方や、腎動脈狭窄症など特定の腎疾患がある方では、腎機能がさらに悪化する、あるいは急性腎不全を引き起こす可能性があります。
頻度はまれ(0.1%未満)です。
- 症状: むくみ、尿量の減少、だるさ、食欲不振など。
初期には自覚症状がないこともあります。 - 注意点: 定期的な血液検査で腎機能(血清クレアチニン値、eGFRなど)をチェックすることが重要です。
腎機能障害がある方や、両側の腎動脈が狭くなっている方などは、服用に際して医師が患者さんの状態を注意深く観察します。
腎機能の悪化を示す検査値の変動が見られた場合は、減量や中止が検討されます。
肝機能障害
肝臓の働きが悪くなる、あるいは既存の肝機能障害が悪化することがあります。
頻度はまれ(0.1%未満)です。
- 症状: 全身の倦怠感、食欲不振、吐き気、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、尿の色が濃くなる、かゆみなど。
- 注意点: 定期的な血液検査で肝機能値(AST, ALT, ALP, γ-GTPなど)をチェックすることが重要です。
特に肝臓病の既往がある方や、他の肝毒性を持つ薬剤を服用している方は注意が必要です。
肝機能値に異常が見られた場合は、医師に相談してください。
低血圧、めまい、失神
バルサルタンの降圧効果が強く現れすぎると、血圧が下がりすぎて低血圧になることがあります。
特に服用初期や、脱水状態(発熱、嘔吐、下痢など)にある場合、厳格な減塩療法中、利尿薬を併用している場合、高齢者などで起こりやすくなります。
重度になると、脳への血流が一時的に減少し、めまいや意識を失う「失神」を引き起こす可能性があります。
頻度は0.1%未満とされていますが、注意が必要です。
- 症状: 立ちくらみ、めまい、ふらつき、全身倦怠感、冷や汗、視界が狭くなる、意識の低下、失神など。
- 注意点: 急激な血圧低下を防ぐため、特に服用開始時や用量変更時には注意が必要です。
めまいやふらつきを感じやすい場合は、急な立ち上がりを避け、座る・横になるなどの対応をしてください。
症状が重い場合や失神した場合は、医師に連絡するか医療機関を受診してください。
これらの重大な副作用は確かに存在し、その可能性を知ることは重要です。
しかし、これらの発生頻度は非常に低いものです。
「バルサルタンはやばい」という表現は、こうしたまれな重篤な副作用を指している可能性がありますが、正しく理解すれば過度に恐れる必要はありません。
多くの患者さんはバルサルタンを安全に服用し、血圧を良好にコントロールできています。
重要なのは、副作用のリスクがあることを認識し、初期症状に気づいたら速やかに医療機関に連絡することです。
そして、定期的な診察や検査を受け、医師や薬剤師の指示通りに服用することで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。
副作用の早期発見と適切な対応が、重症化を防ぐ鍵となります。
バルサルタン服用上の注意点「服薬指導」の重要性
バルサルタンによる治療を安全かつ効果的に行うためには、医師や薬剤師による「服薬指導」をしっかりと受けることが非常に重要です。
服薬指導では、お薬の効果や正しい飲み方だけでなく、起こりうる副作用や注意すべき点について、患者さんの状態に合わせて具体的に説明を受けられます。
疑問点や不安な点があれば、遠慮なく質問しましょう。
飲んではいけない人(禁忌)
以下のいずれかに該当する方は、バルサルタンを服用することができません。
これは、バルサルタンによる重篤な副作用や胎児への影響のリスクが非常に高いためです。
- バルサルタンの成分に対し過敏症の既往歴がある方: 過去にバルサルタンを服用して、発疹、かゆみ、呼吸困難、血管浮腫などのアレルギー反応や重い過敏反応を起こしたことがある方。
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人: 妊娠中にバルサルタンを服用すると、胎児に重篤な影響(腎機能障害、羊水過少症、胎児・新生児の成長遅延、骨化不全、さらには死亡など)を及ぼす可能性があります。
妊娠が分かった場合、あるいは妊娠を計画している場合は、すぐに医師に相談し、バルサルタンの服用を中止するか、他の薬に変更する必要があります。 - アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧が適切にコントロールされない場合の併用を除く): アリスキレン(商品名:ラジレスなど)は、レニン阻害薬という別の種類の降圧薬です。
アリスキレンとバルサルタンを併用すると、特に糖尿病患者において、腎機能障害、高カリウム血症、低血圧などのリスクが著しく高まることが知られています。
慎重な投与が必要なケース
以下のような状態や疾患がある方は、バルサルタンを服用する際に特に注意が必要であり、医師が患者さんの状態を慎重に観察しながら、投与の可否や用量を決定します。
必要に応じて、投与量を減らしたり、定期的な検査(腎機能、カリウム値など)をより頻繁に行ったりします。
- 両側性腎動脈狭窄症のある患者または片腎で腎動脈狭窄症のある患者: 腎臓への血流が低下しているため、バルサルタンによってさらに腎機能が悪化し、重篤な腎不全を引き起こすリスクがあります。
- 高カリウム血症の患者: バルサルタンによってカリウム値がさらに上昇し、重篤な不整脈のリスクが高まります。
- 重篤な腎機能障害のある患者: バルサルタンの体外への排泄が遅れ、体内に薬が蓄積することで、副作用が出やすくなる可能性があります。
- 重篤な肝機能障害、胆汁性肝硬変及び胆汁うっ滞のある患者: バルサルタンの体外への排泄が遅れる可能性があります。
- 脳血管障害のある患者(特に脳梗塞患者): 急激な血圧低下により、脳血流が悪化し、症状が悪化する可能性があります。
血圧の急激な低下を避けるため、少量から開始するなど慎重な投与が必要です。 - 高齢者: 一般的に生理機能(腎機能、肝機能など)が低下していることが多く、副作用が出やすいため、少量から開始するなど慎重な投与が必要です。
- 減塩療法中の患者、体液量減少(利尿薬服用、透析、嘔吐、下痢などによる)のある患者: 血圧が下がりすぎる(低血圧になる)リスクが高まります。
投与開始前に、体液量や電解質の異常を補正する必要がある場合があります。
これらのケースに該当するかどうかは、正確な診断と判断が必要です。
現在持病がある方や、治療中の病気がある方、高齢者の方は、必ず医師に全ての情報を正確に伝えてください。
飲み合わせに注意が必要な薬(併用注意)
バルサルタンと他の薬剤を一緒に服用する際に、お互いの作用に影響を及ぼしたり、副作用のリスクを高めたりする組み合わせがあります。
代表的なものには以下のようなものがあります。
- カリウム保持性利尿薬(例: スピロノラクトン、トリアムテレン)、カリウム製剤(例: 塩化カリウム、アスパラギン酸カリウム): これらの薬剤とバルサルタンを併用すると、高カリウム血症のリスクが著しく高まります。
血液中のカリウム値が異常に上昇すると、不整脈などの重篤な症状を引き起こす可能性があります。 - 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)(例: インドメタシン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど): NSAIDsは体内のプロスタグランジンという物質の働きを抑えることで炎症や痛みを和らげますが、腎血流量を低下させたり、ナトリウムや水分を貯留させたりする作用があるため、バルサルタンの降圧効果を弱める可能性があります。
また、腎機能が低下している方では、NSAIDsとバルサルタンの併用により腎機能がさらに悪化するリスクが高まります。 - リチウム製剤(躁うつ病などの治療薬): バルサルタンとの併用により、リチウムの体外への排泄が減少することで、リチウムの血中濃度が上昇し、リチウム中毒(震え、吐き気、意識障害など)を起こす可能性があります。
併用する場合は、リチウム血中濃度を綿密にモニターする必要があります。 - アリスキレン: 特に糖尿病患者以外の場合でも、腎機能障害、高カリウム血症、低血圧のリスクが増大する可能性があります。
- アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬: バルサルタンと同じレニン・アンジオテンシン系に作用する降圧薬ですが、作用機序が一部異なります。
これらを併用すると、降圧効果は若干増強される可能性がありますが、副作用(特に腎機能障害、高カリウム血症、低血圧)のリスクがACE阻害薬またはバルサルタン単独での使用よりも著しく高まるため、原則として併用は避けます。
これらの他にも、飲み合わせに注意が必要な薬剤や食品(カリウムを多く含む食品など)は多数存在します。
現在服用している全てのお薬(病院で処方された薬だけでなく、市販薬、漢方薬、サプリメントなども含む)について、必ず医師や薬剤師に正確に伝えてください。「お薬手帳」を活用することが推奨されます。
妊娠中・授乳中の服用について
前述の通り、妊娠中のバルサルタンの服用は、胎児に重篤な影響を及ぼす可能性があるため、禁忌とされています。
妊娠を希望する女性や、妊娠の可能性がある女性は、バルサルタンを服用する前に必ず医師に相談し、妊娠した場合の対応についても確認しておく必要があります。
服用中に妊娠が判明した場合は、直ちにバルサルタンの服用を中止し、速やかに医師の診察を受けてください。
授乳中の女性についても、バルサルタンが母乳中に移行するかどうかは十分に分かっていませんが、新生児・乳児に影響を及ぼす可能性が否定できないため、授乳中は服用しないことが推奨されています。
バルサルタンによる治療の必要性と授乳の継続の可否を考慮し、医師と相談の上、治療が必要な場合は授乳を中止する必要があります。
服用を忘れたら?
バルサルタンは、通常1日1回決まった時間に服用する薬剤です。
毎日同じ時間に服用することで、血圧を安定した状態に保ちやすくなります。
もし服用時間を忘れてしまった場合は、気づいた時にできるだけ早く1回分を服用してください。
ただし、次の服用時間が非常に近い場合(例えば、次の服用時間が12時間以内など)は、忘れた分は飲まずに、次の通常の服用時間から1回分を服用してください。
一度に2回分をまとめて服用することは絶対に避けてください。
血圧が急激に下がりすぎて、めまいや失神などの副作用を引き起こすリスクが高まります。
服用忘れが続くと、血圧が不安定になり、バルサルタンの効果が十分に得られなくなる可能性があります。
高血圧の治療は継続することが非常に重要です。
もし服用を忘れることが多い場合は、医師や薬剤師に相談し、飲み忘れを防ぐための工夫(服用カレンダー、アラーム、一包化調剤など)についてアドバイスをもらいましょう。
バルサルタンのジェネリック医薬品
バルサルタンの先発医薬品は「ディオバン」という商品名で、かつて日本のノバルティスファーマ社から販売されていました。
ディオバンの特許期間満了に伴い、現在では様々な日本の製薬会社からバルサルタンを主成分とするジェネリック医薬品が製造・販売されています。
ジェネリック医薬品を選ぶメリット・デメリット
ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、先発医薬品(新薬)の特許期間が切れた後に製造・販売される、先発医薬品と主成分や効果、安全性が同等と厚生労働省によって認められたお薬です。
バルサルタンのジェネリック医薬品を選ぶことには、いくつかのメリットとデメリットがあります。
メリット:
- 価格が安い: これが最大のメリットです。
ジェネリック医薬品は、新薬の開発にかかる巨額な費用(研究開発費、臨床試験費用など)がかかっていないため、先発医薬品に比べて薬価が安く設定されています。
高血圧治療は長期にわたることが多く、薬代の負担が大きくなることも少なくありません。
ジェネリックを選択することで、医療費負担を大幅に軽減できます。 - 品質、効果、安全性は先発品と同等: ジェネリック医薬品は、有効成分の種類や量が先発医薬品と全く同じであり、溶け方や吸収速度なども先発医薬品と同等であることが、生物学的同等性試験などによって厳しくチェックされ、国の承認を受けています。
そのため、治療効果や安全性については、基本的には先発医薬品と同等と考えて問題ありません。 - 多様な剤形や規格: 製薬会社によっては、先発品にはない剤形(例:口腔内崩壊錠など、水なしで飲めるタイプ)や、同じ有効成分量でも異なる色や形、刻印をした錠剤が提供されることがあります。
これにより、飲みやすさや識別しやすさが向上する場合があり、特に高齢者や複数の薬を服用している患者さんにとってメリットとなることがあります。
デメリット:
- 添加物が異なる: ジェネリック医薬品は、主成分は先発医薬品と同一ですが、薬を固めたり、安定性を保ったり、味を調整したりするための「添加物」が異なる場合があります。
添加物の違いによって、薬の色、形、大きさ、味、匂いが異なったり、ごくまれに添加物に対するアレルギー反応が出たりする可能性はゼロではありません。 - 外観が異なる: 錠剤の色、形、サイズ、刻印などが先発医薬品と異なるため、服用している薬の外観が変わることに戸惑いを感じたり、複数の薬を服用している場合に間違えやすくなったりする可能性があります。
- 患者さんの心理的な懸念: 「ジェネリックは効果が弱いのではないか」「品質が劣るのではないか」といった誤解や不安を持つ患者さんがいらっしゃることも事実です。
しかし、前述の通り、日本のジェネリック医薬品は厳しい基準をクリアして承認されていますので、基本的には安心して服用できます。
ジェネリック医薬品を選択するかどうかは、患者さんの希望と医師・薬剤師の判断によって決定されます。
経済的な負担を減らしたい場合は、遠慮なく医師や薬剤師にジェネリック医薬品への変更が可能かどうか相談してみましょう。
薬剤師は、ジェネリック医薬品に関する正確な情報を提供し、患者さんの疑問や不安に対応してくれます。
バルサルタンのジェネリック医薬品リスト
バルサルタンのジェネリック医薬品は、多くの日本の製薬会社から「バルサルタン錠 [製薬会社名]」といった名称で販売されています。
- 主な製薬会社名(例):
- バルサルタン錠「トーワ」(東和薬品株式会社)
- バルサルタン錠「サワイ」(沢井製薬株式会社)
- バルサルタン錠「日医工」(日医工株式会社)
- バルサルタン錠「ケミファ」(日本化薬株式会社)
- バルサルタン錠「YD」(株式会社陽進堂)
- バルサルタン錠「オーツカ」(大塚製薬工場)
- バルサルタン錠「武田テバ」(武田テバ薬品株式会社)
- バルサルタン錠「明治」(Meiji Seika ファルマ株式会社)
- バルサルタン錠「ファイザー」(ファイザー株式会社)
これらの他にも、多数の製薬会社からバルサルタンのジェネリック医薬品が販売されています。
実際にどの会社のジェネリック医薬品を取り扱っているかは、調剤を受ける薬局によって異なります。
ジェネリック医薬品について詳しく知りたい場合や、現在服用している薬のジェネリック医薬品があるか知りたい場合は、かかりつけの薬局で薬剤師に尋ねてみてください。
バルサルタンの用法・用量「バルサルタン80mg」など
バルサルタンは、患者さんの症状、年齢、体重、他の病気の有無、併用薬などを総合的に考慮して、医師が最も適切で安全な用法・用量を決定します。
自己判断で用量を変更したり、服用を中止したりすることは、血圧コントロールが不良となり、病状が悪化したり、副作用のリスクを高めたりする可能性があるため、絶対に行わないでください。
通常の開始用量と維持用量
バルサルタンの用法・用量は、主に高血圧症の治療の場合、以下のようになります。
これは一般的なものであり、個々の患者さんによって異なる場合があります。
- 成人:
- 通常、1日1回40mgから服用を開始します。
これは、少量から開始することで、体が薬に慣れるのを助け、急激な血圧低下を防ぐためです。 - 服用を開始後、効果を見ながら定期的に血圧を測定し、必要に応じて増量されます。
- 多くの患者さんで効果と安全性のバランスが良いとされ、維持用量として最も多く用いられるのは1日1回80mgです。
バルサルタン80mgで目標血圧に達する患者さんも多くいます。 - バルサルタン80mgでも血圧コントロールが不十分な場合は、1日1回160mgまで増量されることがあります。
ただし、添付文書に記載されている成人における1日の最大投与量は160mgです。
これ以上の用量での安全性や有効性は十分に確認されていません。
- 通常、1日1回40mgから服用を開始します。
- 小児(生後1歳以上18歳未満):
- 小児の高血圧症に対しても使用される場合がありますが、用量は体重や年齢に応じて細かく調整されます。
一般的には、体重35kg未満の小児では1日1回20mg、体重35kg以上の小児では1日1回40mgから開始し、効果を見ながら増量されます。
小児における最大投与量は、体重1kgあたり4mgまで、かつ1日160mgまでと設定されています。
- 小児の高血圧症に対しても使用される場合がありますが、用量は体重や年齢に応じて細かく調整されます。
心不全や特定の腎臓病に対して使用される場合も、開始用量や維持用量は異なります。
これらの疾患では、より慎重に少量から開始されることが一般的です。
いずれの場合も、必ず医師の指示通りの用量を守って服用することが最も重要です。
用量による効果の違い
バルサルタンの用量が増えるにつれて、一般的に降圧効果は強くなる傾向があります。
例えば、40mgで効果が不十分な場合に80mgに増量すると、より血圧が下がる可能性が高まります。
さらに160mgに増量することで、さらに降圧効果が得られる場合があります。
しかし、用量を増やせば増やすほど効果が直線的に強くなるわけではなく、ある一定量(多くの場合は80mgや160mg)を超えると、効果の増加は緩やかになる一方で、副作用の発現頻度や重症度が増加する可能性があります。
これは、薬の効果が飽和したり、レニン・アンジオテンシン系以外の血圧上昇メカニズムが関与してきたりするためと考えられます。
医師は、患者さんの血圧値だけでなく、年齢、全身状態、合併症、腎機能、肝機能、併用薬などを総合的に評価し、最も効果的かつ安全な用量を判断します。
定期的な診察や血圧測定、血液検査は、この最適な用量を見つけるために非常に重要です。
自己判断で「血圧が高いからもっと飲もう」「血圧が下がったから減らそう」といった用量変更は、かえって危険な場合がありますので絶対に避けてください。
また、バルサルタン単独で目標血圧に達しない場合は、用量を増量する代わりに、他の種類の降圧薬(Ca拮抗薬、利尿薬など)と組み合わせて服用する併用療法が行われることもあります。
これは、異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで、より効果的に血圧をコントロールし、かつ各薬剤の用量を抑えることで副作用のリスクを減らす目的で行われます。
併用療法によって、バルサルタンの用量を増やさなくても、十分な降圧効果が得られることがあります。
バルサルタンと他の降圧薬の比較
高血圧の治療に使われる薬には、バルサルタン(ARB)以外にも様々な作用機序を持つ種類があります。
患者さんの状態、合併症、年齢、体質などによって、どの薬が適しているかは異なります。
ここでは、バルサルタンが他の代表的な降圧薬とどのように違うのかを比較してみましょう。
アムロジピンとの比較:どちらが強い?
アムロジピンは、「カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)」という種類の代表的な降圧薬です。
日本で最も広く使われている降圧薬の一つであり、バルサルタンと同じく高血圧治療の第一選択薬としてよく用いられます。
特徴 | バルサルタン(ARB) | アムロジピン(Ca拮抗薬) |
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作用機序 | アンジオテンシンIIが血管や副腎皮質などの受容体(AT1受容体)に結合するのをブロックし、血管を拡張させ、水分・塩分の排泄を促す。 | 血管平滑筋細胞へのカルシウムイオンの流入を抑制し、血管を弛緩・拡張させることで血圧を下げる。 |
血圧下降効果 | 穏やかで持続的。レニン・アンジオテンシン系を抑制するため、長期的な心臓・腎臓の保護効果も期待。収縮期・拡張期血圧の両方に作用。 | 比較的速効性があり、血管拡張作用が強い。特に収縮期血圧(上の血圧)に対する効果が高い傾向がある。血管の抵抗が高いタイプの高血圧に有効。 |
得意な患者 | 腎臓病(特に糖尿病性腎症)や心不全を合併している患者に推奨されることが多い。蛋白尿を伴う腎臓病にも有効。 | 血管収縮性の高血圧、高齢者の孤立性収縮期高血圧(上の血圧だけが高い)に有効なことが多い。狭心症の合併にも用いられる。 |
主な副作用 | めまい、頭痛、高カリウム血症(まれ)、血管浮腫(まれ)、腎機能悪化(特定の患者で) | 足のむくみ(最も一般的)、顔のほてり、頭痛、動悸、歯肉肥厚 |
その他 | 空咳の副作用はACE阻害薬より少ない。 | 空咳はほとんど出ない。 |
「どちらの薬が強いか」は単純に比較できません。
アムロジピンは血管を直接強力に広げる作用があるため、特に血管が硬くなっているタイプの高血圧には効果が出やすいことがあります。
一方、バルサルタンはアンジオテンシンII系の抑制を通じて、血管だけでなく心臓や腎臓への負担も軽減する効果が期待できるため、これらの臓器に合併症がある場合に優先されることがあります。
多くの患者さんでは、バルサルタンとアムロジピンのどちらか単独で治療を開始し、効果が不十分な場合は用量を増量するか、あるいは両方を併用する(合剤も利用可能)ことで、目標血圧を達成しています。
どちらの薬を選択するかは、患者さんの血圧のタイプ、合併症、年齢、他の薬との飲み合わせ、副作用の出やすさ、生活スタイルなどを総合的に考慮して医師が判断します。
他のARBとの比較:イルベサルタン、テルミサルタンなど
バルサルタン以外にも、ロサルタン(ニューロタン)、カンデサルタン(ブロプレス)、オルメサルタン(オルメテック)、イルベサルタン(アバプロ、イルベタン)、テルミサルタン(ミカルディス)、アジルサルタン(アジルバ)など、様々な種類のARBがあります。
これらは全てアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)をブロックするという共通の作用機序を持ちますが、それぞれに薬理学的な特徴(受容体との結合の強さや外しにくさ、半減期、脂溶性など)が異なります。
ARBの種類 | 代表的な商品名 | 半減期(体内から半分の量が消失する時間) | 特徴 |
---|---|---|---|
バルサルタン | ディオバン | 約9時間 | 心不全や腎臓病(特に糖尿病性腎症)への適応も持つ。比較的穏やかな降圧効果。 |
ロサルタン | ニューロタン | 約2時間(活性代謝物は6-9時間) | ARBとして最初に開発された薬。代謝物によって効果を発揮するプロドラッグ。尿酸値をわずかに下げる効果も期待されることがある。 |
カンデサルタン | ブロプレス | 約9時間 | 日本で広く使用されており、有効性・安全性に関するエビデンスが豊富。安定した降圧効果が期待できる。 |
オルメサルタン | オルメテック | 約12時間 | 比較的強力な降圧効果を持つとされる。ごくまれに重篤な下痢(スプルー様下痢)の副作用が報告されているため、注意が必要な場合がある。 |
イルベサルタン | アバプロ、イルベタン | 約11-15時間 | 24時間効果が持続しやすい。腎保護効果に関する大規模な臨床試験の結果が報告されている。 |
テルミサルタン | ミカルディス | 約24時間 | ARBの中で最も半減期が長く、安定した降圧効果が期待できる。PPARγを活性化する作用も持ち、糖・脂質代謝への良い影響も一部期待される。 |
アジルサルタン | アジルバ | 約11時間 | 比較的新しいARBで、強力な降圧効果を持つとされる。 |
半減期が長いARBほど、1日1回の服用で血中濃度が安定しやすく、より安定した24時間の血圧コントロールが期待できます。
また、それぞれの薬剤で心血管イベント抑制や腎保護効果に関する臨床試験の結果が異なります。
どのARBを選択するかは、医師が患者さんの血圧値、合併症(心不全、腎臓病、糖尿病など)、年齢、体質、他の薬との飲み合わせ、腎機能、肝機能などを総合的に考慮して決定します。
あるARBで効果が不十分でも、別のARBに変更することで効果が得られる場合や、副作用が出にくくなる場合もあります。
他クラスの薬との比較:ニフェジピン、カルベジロールなど
高血圧治療には、バルサルタン(ARB)やCa拮抗薬以外にも、様々な作用機序を持つ薬剤が用いられます。
患者さんの病態や合併症に応じて、これらの異なるクラスの薬剤が選択されたり、バルサルタンと組み合わせて使用されたりします。
- 利尿薬(例: サイアザイド系利尿薬:ヒドロクロロチアジド、インダパミドなど、ループ利尿薬:フロセミドなど、カリウム保持性利尿薬:スピロノラクトンなど): 体内の余分な水分や塩分を尿として排泄することで、循環血液量を減らし血圧を下げます。
特に高齢者の収縮期高血圧や、むくみを伴う高血圧に有効なことが多いです。
ただし、カリウム喪失や高尿酸血症、血糖値上昇などの副作用に注意が必要です(カリウム保持性利尿薬を除く)。 - β遮断薬(例: アテノロール、ビソプロロール、カルベジロール、プロプラノロールなど): 心臓のβ1受容体をブロックすることで、心臓の拍動数や心臓から送り出される血液量を減らし、血圧を下げます。
狭心症、心筋梗塞後、心不全、頻脈を伴う高血圧などに用いられます。
カルベジロールはβ作用だけでなく血管拡張作用を持つα作用も併せ持ちます。
副作用として、徐脈、倦怠感、手足の冷えなどがあります。 - ACE阻害薬(例: エナラプリル、リシノプリル、ラミプリルなど): バルサルタンと同様にレニン・アンジオテンシン系に作用しますが、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換酵素(ACE)を阻害します。
バルサルタンと同様に血管拡張作用や腎保護効果が期待できますが、乾いた咳(空咳)の副作用が出やすいのが特徴です。
また、血管浮腫のリスクもバルサルタンより高い傾向があります。
作用機序が似ているため、バルサルタンとACE阻害薬は原則として併用しません。 - α遮断薬(例: プラゾシン、ドキサゾシンなど): 血管を収縮させるα1受容体をブロックして、血管を拡張させ血圧を下げます。
前立腺肥大症に伴う排尿障害がある男性の高血圧にも用いられることがあります。
立ちくらみ(起立性低血圧)の副作用に注意が必要です。
バルサルタン(ARB)は、これらの薬剤の中でも比較的副作用が少なく、腎臓や心臓を保護する効果も期待できることから、高血圧治療の第一選択薬として広く推奨されています。
しかし、単独で効果が不十分な場合や、合併症がある場合は、他のクラスの薬剤と組み合わせて使用されることが一般的です。
例えば、バルサルタンとアムロジピン(Ca拮抗薬)や利尿薬との併用療法は、多くの患者さんで有効性が確認されています。
最も適切な治療法は、個々の患者さんの状態を医師が評価した上で、その患者さんに最も適した薬剤や組み合わせが選択されます。
バルサルタンについてよくある質問
バルサルタンについて、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
治療に関する疑問や不安を解消するための参考にしてください。
- Q1: バルサルタンは一生飲み続けないといけないの?
- A1: 高血圧は多くの場合、遺伝的な要因や生活習慣が複雑に関与して発症する慢性的な病気です。
バルサルタンを服用することで血圧が安定しても、それは薬の効果によるものであり、高血圧自体が完全に治癒したわけではありません。
自己判断で中止すると、再び血圧が上昇し、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な合併症のリスクが高まる可能性があります。
高血圧治療の目的は、単に血圧を下げるだけでなく、その状態を維持し、将来的な血管障害を防ぐことにあります。
そのため、多くの場合、医師の指示のもと、バルサルタンを含む降圧薬治療を継続する必要があります。
ただし、集中的な生活習慣の改善(大幅な減量、厳格な減塩、継続的な運動など)が奏功し、医師の慎重な判断により、薬の減量や中止が可能となるケースもまれにあります。
必ず医師と相談しながら治療を進めてください。
- A1: 高血圧は多くの場合、遺伝的な要因や生活習慣が複雑に関与して発症する慢性的な病気です。
- Q2: バルサルタンを飲む以外に血圧を下げる方法はありますか?
- A2: はい、あります。
高血圧治療の基本は、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も非常に重要です。
これらはバルサルタンの効果を助け、場合によっては薬の量を減らせる可能性もあります。- 減塩: 日本人は塩分摂取量が多い傾向にあります。
1日の目標塩分量は6g未満とされています。
加工食品や外食を控え、薄味を心がけましょう。 - 適正体重の維持: 肥満は血圧を上昇させる大きな要因です。
標準体重(BMI 22)を目指し、必要に応じて減量に取り組みましょう。 - 適度な運動: ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動を、毎日30分以上、または週に数回行うことが推奨されます。
運動は血圧を下げるだけでなく、心臓や血管の健康にも良い影響を与えます。 - 節酒・禁煙: 過度な飲酒は血圧を上昇させます。
飲酒する場合は、適量を守りましょう。
喫煙は血管を傷つけ、血圧を上げるため、禁煙は必須です。 - バランスの取れた食事: 野菜、果物、魚などを積極的に摂り、動物性脂肪やコレステロールの多い食品を控えましょう。
DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)などが推奨されています。 - ストレスの管理: ストレスは血圧を一時的に上昇させることがあります。
十分な睡眠、趣味、リラクゼーションなどを通じてストレスを適切に管理することが大切です。
バルサルタンによる薬物療法とこれらの生活習慣改善を組み合わせることで、より効果的に血圧をコントロールし、将来の健康リスクを低減することができます。
- 減塩: 日本人は塩分摂取量が多い傾向にあります。
- A2: はい、あります。
- Q3: バルサルタンを飲み始めてから咳が出ます。副作用でしょうか?
- A3: バルサルタンは、他の降圧薬であるACE阻害薬に比べて、乾いた咳(痰を伴わないコンコンという咳)の副作用は出にくいとされています。
しかし、まれに咳が出ることが報告されています。
咳の原因は、バルサルタン以外にも様々な可能性(風邪、気管支炎、喘息、胃食道逆流症など)が考えられます。
咳が続く場合は、自己判断でバルサルタンの服用を中止せず、必ず医師に相談してください。
医師が診察を行い、咳の原因がバルサルタンであると診断された場合は、他の種類の降圧薬への変更が検討されます。
- A3: バルサルタンは、他の降圧薬であるACE阻害薬に比べて、乾いた咳(痰を伴わないコンコンという咳)の副作用は出にくいとされています。
- Q4: バルサルタンを飲むと腎臓が悪くなると聞きましたが、本当ですか?
- A4: これは複雑な問題です。
バルサルタンを含むARBは、アンジオテンシンIIの働きを抑えることで、腎臓にかかる物理的な負担(糸球体過剰濾過圧)を軽減する作用があり、特に糖尿病性腎症など蛋白尿を伴う腎臓病においては、腎機能の低下を遅らせる効果が期待できます。
しかし、一方で、腎機能がすでに高度に低下している方や、腎動脈狭窄症など特定の腎疾患がある方では、バルサルタンによって腎血流量がさらに減少するなどして、腎機能が一時的に悪化したり、重篤な腎不全を引き起こすリスクがあります。
したがって、「バルサルタンを飲むと一律に腎臓が悪くなる」というのは誤解です。
患者さんの腎臓の状態によって、腎臓を保護する薬にもなれば、腎機能悪化のリスク因子にもなり得ます。
医師は、バルサルタンを処方する前や服用中、定期的な血液検査で腎機能の状態(血清クレアチニン値、eGFR、カリウム値など)を綿密に確認し、安全性を評価しながら治療を進めます。
腎臓病に関する不安がある場合は、必ず医師に相談し、ご自身の腎臓の状態やバルサルタンの必要性について説明を受けてください。
- A4: これは複雑な問題です。
- Q5: バルサルタンの飲み忘れが心配です。どうすれば良いですか?
- A5: 飲み忘れは、血圧コントロールを不安定にする原因となります。
飲み忘れを防ぐためには、以下のような工夫が有効です。- 毎日決まった時間(朝食後など、習慣となっている時間)に服用する。
- お薬カレンダーやピルケースを活用し、飲んだかどうかを確認する。
- スマートフォンのアラーム機能を利用する。
- 家族に協力してもらう。
もし飲み忘れてしまった場合の対処法については、記事本文の「服用を忘れたら?」の項目を参照いただくか、医師や薬剤師に相談してください。
また、飲み忘れが多い場合は、薬局で1回分ずつパックしてくれる「一包化調剤」を依頼することも可能です。
遠慮なく薬剤師に相談してみてください。
- A5: 飲み忘れは、血圧コントロールを不安定にする原因となります。
- Q6: バルサルタンを飲んでいても血圧が高いままです。どうすれば良いですか?
- A6: バルサルタンを服用しても目標血圧に達しない場合、いくつかの原因が考えられます。
- 用量が適切でない: 患者さんに合った最適な用量になっていない可能性があります。
医師と相談し、用量を増量するか検討します。 - 他の降圧薬が必要: バルサルタン単独では血圧が十分に下がらないタイプの高血圧かもしれません。
バルサルタンに加えて、他の作用機序を持つ降圧薬(アムロジピンなどのCa拮抗薬、利尿薬など)を併用することで、より効果的に血圧を下げられることがあります。 - 生活習慣の問題: 減塩や運動などの生活習慣改善が十分でない場合、薬の効果だけでは血圧が下がりにくいことがあります。
生活習慣を再度見直しましょう。 - 他の病気が原因: 血圧が下がりにくい高血圧(二次性高血圧)の原因となる病気(例えば、腎臓病、ホルモンの異常、睡眠時無呼吸症候群など)が隠れている可能性もあります。
- 正しく服用できていない: 飲み忘れが多い、自己判断で減量しているなど、指示通りに服用できていない場合も血圧は下がりにくいです。
バルサルタンを飲んでいても血圧が高い状態が続く場合は、必ず医師に相談してください。
医師が原因を特定し、最適な治療法を検討してくれます。 - 用量が適切でない: 患者さんに合った最適な用量になっていない可能性があります。
- A6: バルサルタンを服用しても目標血圧に達しない場合、いくつかの原因が考えられます。
【まとめ】バルサルタンによる高血圧治療を正しく理解しましょう
バルサルタンは、アンジオテンシンIIという血圧上昇物質の働きを抑えることで、血圧を効果的に下げ、高血圧症の治療に広く用いられているお薬です。
高血圧だけでなく、心不全や特定の腎臓病に対しても効果が期待できる、重要な薬剤です。
確かに、バルサルタンにはめまいや頭痛といった一般的な副作用から、間質性肺炎や血管浮腫のようなまれではあるものの注意が必要な重大な副作用まで、様々な副作用のリスクが存在します。
インターネット上で見かける「バルサルタンはやばい」といった情報は、こうした重大な副作用を指している可能性がありますが、その発生頻度は非常に低いものです。
重要なことは、副作用の初期症状を理解し、異変を感じたらすぐに医療機関に相談することです。
多くの患者さんはバルサルタンを安全に服用し、良好な血圧コントロールを実現しています。
バルサルタンによる治療を安全かつ効果的に進めるためには、医師や薬剤師の指示を正確に守り、定期的な診察や検査を受けることが不可欠です。
特に、服用上の注意点(飲んではいけない人、飲み合わせ、妊娠・授乳中のリスクなど)については、自己判断せず、必ず専門家から正確な情報を得てください。
お薬手帳を活用し、服用中の全てのお薬を医師や薬剤師に伝えることも大切です。
また、先発医薬品のディオバンだけでなく、安価なジェネリック医薬品も多数存在します。
ジェネリック医薬品についても、品質・効果・安全性は先発品と同等と国が認めており、経済的なメリットが大きい選択肢です。
メリット・デメリットを理解した上で、医師や薬剤師に相談し、ご自身の希望や状況に合ったものを選ぶことができます。
高血圧は、適切な治療によってコントロール可能な病気です。
バルサルタンを含む薬物療法と、減塩や運動といった生活習慣の改善を組み合わせることで、血圧を適切に管理し、将来の脳卒中や心筋梗塞、腎臓病などの深刻な病気を予防し、健康寿命を延ばすことにつながります。
バルサルタンによる治療に臨むにあたり、この記事が、お薬について正しく理解し、安心して治療を進めるための一助となれば幸いです。
ご自身の病気やお薬について疑問や不安があれば、いつでも医師や薬剤師に相談してください。
免責事項:
本記事は、バルサルタンに関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、医師による診断や治療を代替するものではありません。
個々の病状や治療法については、必ず医療機関を受診し、医師の判断に従ってください。
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